第95話 火力バカ一族
12月21日(闇)晴れ
ロレッチオ軍の予想進行ルートに罠を仕掛けるため、俺たちは一日かけて毒入穀物を運搬して袋ごと地面に敷き詰めた。かなり大量だったが人手が150人もいたため何とか間に合った。
その間俺とネオンは、穀物袋をズタズタに引き裂けるように鋭利な刃物を仕込んだ罠をゴーレム魔法でたくさん作ったが、これを穀物袋の上に乗せて罠の上を騎士団が通過すれば中の小麦粉が舞い上がる仕組みで、偽装用の芝生もみんなで敷いて周りの草原と区別がつかなくした。
「もう魔力が空っぽだよ。もう勘弁してよアゾート」
「ああ、よく頑張ったネオン。後は俺たちで何とかするから、マジックポーションでも飲んで今すぐ向こうの戦場に戻った方がいい」
「この鬼畜っ!」
かなりのブラック企業であることは認めるが、こんな複雑な罠を作れるのは俺とネオンの二人しかいない。
ネオン親衛隊に護衛されながら次の戦場に向かうネオンを見送り、銃装騎兵隊と俺たちは敵の進軍が見やすいよう高台に野営地を設営した。
◇
ベゼル平原まで北上したベルモール軍は、だが行く手を阻むように展開している敵軍に驚愕していた。
その数およそ2000。
「どういうことだ! なぜプロメテウス軍がここに!」
「まさかヴェニアル要塞が陥落したのか・・・」
「バカな。有史以来これまで一度も陥落したことのない難攻不落の要塞だぞ。それをこの短時間で落とせるわけないじゃないか!」
「ただ敵が眼前にいるのは事実です。ご命令を」
「そうだった・・・よし、予定どおりロレッチオ軍との合流を優先する。目の前の敵は歩兵ばかりの2000。一気に蹴散らして前進だ!」
◇
当初の想定通り、ベゼル平原でベルモール軍と会敵した我が軍。
その先頭を堂々と行く魔導騎士がおそらくベルモール子爵。その周りにいるのが子爵一族と臣下の騎士爵当主たちで、その後方で隊列を組む歩兵主体のベルモール軍5000。
貴族が先頭に立つ堂々たる布陣だが、彼らが展開するマジックバリアーの強度も尋常なく高い。
「敵軍は魔導結晶を惜しげもなく使用しています。魔力が通常よりも高くなっているので注意してください」
わたくしが注意を促すとお義父様はガハハと笑い、
「それじゃあセオリー通り、魔導騎士同士の魔法戦を始めるか。フリュちゃんには通常戦力を任せるから、そっちを頼むな」
「お気を付けくださいませ、お義父さま」
「おう任せとけ! よーし喰らえ、わし渾身のエクスプロージョン!」
わたくしの前にフェルーム家分家筋の皆様が躍り出ると、お義父様のエクスプロージョンを皮切りにファイアー、フレアーなど大小さまざまな火属性魔法が分家筋の者達から容赦なく発射された。
だが、
「うおおっ! ま、魔法が弾かれたぞ? あれが魔導結晶の力か・・・」
お義父様がたじろぐとダリウスさんが笑って、
「おいロエル! プロメテウス城に引っ越してからすっかり衰えたな。息子が当主になったし、お前はもうご隠居か?」
「ちっ、ダリウスか。今のはただの準備運動でまだ本気を出してなかっただけだ。次はわしの50%の力で放つエクスプロージョンを見せてやる!」
「何が50%だ。150%の間違いだろ? みんなよく見ておけ、これがフェルーム家当主ダリウス様のエクスプロージョンだ。うおりゃーーー!」
だがダリウスさんの放った特大のエクスプロージョンもやはりマジックバリアーに跳ね返されてしまった。
でもそれを見ても悲観する人は一人もおらず、悔しそうに歯ぎしりするフェルーム子爵をみんなが腹を抱えて笑っている。
そんな様子を妻エリーネさんも微笑ましそうに見ており、
「ほんとバカね、ウチの人も分家筋のみんなも。セレーネの火力バカは、きっとあの人たちの遺伝なのよ」
「私はあんな火力バカじゃないわよ! 失礼でしょお母様っ!」
◇
「ご無事ですか、ベルモール子爵!」
「・・・ああ。ソルレート伯爵から頂いた魔導結晶のおかげで助かったが、一体何なんだあいつらは」
「敵軍の前面に出ている魔導騎士の大半がフェルーム子爵家の者たちのようですが、彼らの火属性魔法は脅威ですね」
「全く信じられん。あれが本当につい最近まで騎士爵家だった奴らなのか? しかも魔導結晶も使わず、子爵家である我らと互角なんだぞ! しかもその全員が笑いながら、実に楽しそうに戦ってやがる・・・」
「ベルモール子爵、特大のエクスプロージョンが来ます! 魔法防御シールド展開!」
「あんなドデカイ魔法陣、言われなくても見えてるよ! くそっ、どいつもこいつも上級魔法をポンポンポンポン打ちやがって! ソルレート伯爵め、何が運だけで成り上がった弱小貴族だよ。メチャクチャ武闘派じゃねぇかっ!」
◇
「敵魔導騎士が一旦後退しました。プロメテウス・フェルーム両騎士団の歩兵部隊は前進開始! サルファー騎士団はその機動性を活かして、敵左翼に圧力をかけてください」
「わかったよ、フリュオリーネ」
サルファー騎士団が敵左翼に向けて転進していくのを見守りつつ、わたくしは敵が再び攻勢に出てくるタイミングを計る。
魔導結晶は複数同時に使用すると共鳴して暴走する。だから予備の結晶は後方の補給部隊に保管しなければならない。
消耗した魔導結晶を取り替える間隔、補給部隊の位置、それと・・・。
「敵魔導騎士が再び前進してくるまでは、まだ少し余裕があるわね。今のうちに次の作戦をダリウスさんたちに伝えておきましょう」
わたくしは、前線で戦っている魔導騎士たちに向けて馬を走らせた。
◇
「ベルモール子爵、魔導結晶の消耗が激しすぎます! 結晶は魔法防御にのみ使用して、通常戦力主体に兵力で押し切りましょう」
「そうだな。これ以上の消耗はワリに合わん。貴族は全員後退して兵士たちの進撃を開始させろ。敵を踏みつぶせっ!」
「はっ!」
◇
「全軍、ベルモール軍の前進に合わせて後退してください。一度兵を引き態勢を整えます」
「分かった! 全軍後退!」
フリュオリーネとサルファーの号令により、プロメテウス軍は後退を開始。
敵軍との距離を一定に保ちつつ、戦場が少しずつ北へ上がっていく。
やがて日没になり、両軍とも戦闘を翌日に持ち越すため互いに距離を離した。
「フリュちゃん、お疲れ。大丈夫だった?」
野営地の設営を行っていたマミーは、殿を務めて帰還したフリュオリーネを労った。
「ありがとうございます、お義母さま。フェルーム家のみなさまのおかげで、敵の魔導結晶をかなり消耗させられたみたいです」
「あらそう? 私にはよくわからないけど、フリュちゃんがそう言うのなら間違いないわね」
「明日も同じ作戦で行きますので、またフェルーム家のお力をお借りしすることになります。今日は早くお休みください」




