第94話 勇気を出すための
12月20日(光)曇り
城塞都市ヴェニアルを占領したプロメテウス連合軍は、ソルレート騎士団の動きを探るため偵察隊を出していた。その結果次第で今後の作戦行動が決まる。
作戦司令部には、連合軍総司令官の俺と総参謀長フリュ、プロメテウス騎士団からは騎士団長ロエルと銃装騎兵隊隊長サー少佐、サルファー騎士団司令官のサルファー、フェルーム家当主ダリウスが陣取り、セレーネたちも議論の様子を聞いていた。
「穀物はやはり使い物にならないか」
「はっ! 確認しましたが、備蓄の兵糧にも全てに毒が撒かれておりました」
「焦土作戦だな。廃棄するしかあるまい」
ダリウスが諦め顔でそういった。
「捨てるなら俺がもらってもいいですか」
「構わんが、何に使うんだアゾート」
「罠に使えないか考えているところです。あとでちょっとネオンを借ります」
「かまわん。好きにこき使ってくれ」
「嫌だっ! どうせまた変なものを作らせようとしてるでしょ」
ネオンは抗議の目を俺に向けるが、とりあえず無視する。
「ワシらが壊した西側城壁の補修工事はどうなってる」
「はっ! 亡命職人たちを動員して急ピッチで作業を進めているところです。本格的な改修には長期間かかりますが、簡単な応急処置だと3、4日あればなんとか」
「わかった」
「セレーネのエクスプロージョンは凄かったが、やはり城壁を破壊するには至らなかったか」
ダリウスの言うとおり、城壁にいた兵士や武器は根こそぎ倒すことができたが、城壁自体には致命的なダメージを与えることはできなかった。それについて俺は、
「エクスプロージョンは熱を発生させる魔法だから、そのままでは石造りの頑丈な建物は壊せないことが今回ハッキリした。やはり爆発の威力を弾丸に乗せないと攻城戦には効果がないんだ」
俺の分析にフリュが補足する。
「ですが全く効果がなかったわけでもありません。ヴェニアル騎士団が早々と降伏したのはセレーネさんのエクスプロージョンに恐怖を感じたからです。想定外の遠方からあれだけの威力の魔法を撃たれるということは、軍用魔法防御シールドを常に展開し続けなければなりません。そしてヴェニアル要塞という最強の城塞に守られていた彼らは魔法に対する備えが薄く、心が折れるのも早かったのだと思います」
「なるほど。結果論だがそれで少ない犠牲者で勝つことができたのか」
そこへ偵察隊からの報告が入ってきた。
「ソルレート連合軍は2方向からこちらへ進軍中。北から推定3500騎、南から推定5000騎規模の騎士団が確認されましたが、歩兵が多く進軍速度はそれほど早くありません。ここ城塞都市ヴェニアル東側城門まで、南からの騎士団はあと2日、北からの騎士団は3日、到着に時間がかかる予想です」
「総勢8500騎、我が軍の3.5倍か・・・」
父上が渋い顔で唸っているが、ダリウスはその戦力を冷静に分析している。
「城塞都市ヴェニアルの東には巨大な湖が広がっている。湖の北側はロレッチオ男爵の領地、南側にはベルモール子爵の領地で、湖の反対側がソルレート伯爵領でさらにその向こう側には1子爵と2男爵の所領がある。その8500騎はこの6つの家門の騎士団を2個に再編したもの」
「なるほどな。おい偵察兵、ソルレート伯爵が南北どちらにいるのかわからぬか」
「はっ! 残念ながらそこまでは分かっておりません」
「そうか。では下がって良いぞ」
偵察兵を下がらせたダリウスは、さてどうしたものかと一人ゴチながら状況の整理を始めた。
・ここ城塞都市ヴェニアルに先に到達するのが南方の5000でこれをベルモール軍と呼ぶことにする。その一日後にはロレッチオ軍3500が到達する。
・ソルレート伯爵を捕らえれば戦争は終わるので最優先で狙っていきたいが、どちらの軍にいるのか、それともどちらにもいないのか、今はまだ情報がない。
・敵はおそらく合流後にこの城塞都市の攻略を開始するはずで、我らが籠城をしようものなら一部部隊が山越えをしてプロメテウス領を強襲する可能性もある。
・プロメテウス領が手薄な我々に、ここでの籠城戦の選択肢はない。
「これを踏まえて参謀長殿の意見を伺いたい」
フリュは先ほどから一言も発せずただ地図を見つめていたが、ダリウスから問いかけられた彼女は愛用の扇子で地図を指し示しながら説明を始めた。
「ダリウス様のおっしゃるとおり籠城戦に意味はありません。我々は積極的に打って出るしかなく、その際この城塞都市ヴェニアルを拠点にできることにかなり大きなメリットがあります」
その上でフリュが示した基本方針は以下の通り。
・敵の合流を待たず、先に到達するベルモール軍5000に全戦力をぶつける。ただし2倍の戦力なので、攻略には時間を要する。
・ロレッチオ軍の足止めをしたいが、戦力がほとんど割けないため少数兵力による遊撃戦しか選択肢がない。そのためアゾートには銃装騎兵隊を率いてその任に当たってもらいたい。
・兵力の少ない我が軍の犠牲者をなるべく少なくするため、伯爵の確保もしくは殺害が最優先。
・それができない場合は、大魔法を派手に見せつけ敵の平民兵に恐怖を与えて心を折り、降伏させるような戦い方を心がける。勝つためにはとにかく容赦しないこと。
「どれぐらい足止めをすればいい」
「最低でも1日、できれば2日以上足止めいただければ、かなりの余裕ができます」
「わかった。足止めなら俺にいい作戦がある。マールとダン、パーラ、アネットの4人は俺と一緒に来てくれ。では本隊の指揮はフリュに任せるぞ」
「アゾート、私たちは?」
セレーネとネオンがこちらを見ている。
「セレーネはわが連合軍の主砲。負担をかけることになるがフリュと一緒に敵主力5000をなんとかしてほしい。そしてネオンは俺の分身。ベルモール軍と戦えない俺に代わって、そちらの戦場をお前に託す。任せたぞ!」
「アゾート・・・うん分かった!」
寂しそうだったネオンの表情も、今はやる気に満ちている。
「ただし、だ。今から罠を作るからちょっと手を貸してほしい。この打ち合わせが終わったら俺と出発するぞ」
「え? ・・・なんかすごく嫌な予感がするんだけど」
ネオンの顔が青ざめていくが、フリュは気にせず会議を締めた。
「では準備ができ次第、全軍出撃しましょう。我々主力部隊も歩兵が中心であり進軍速度は敵と同じ。ですのでここから中間地点のベゼル平原を決戦場所と定めます。ネオンさんはアゾート様のお手伝いがお済になったら、こちらに合流してくださいね」
◇
「アゾート、少しだけ時間いい?」
出撃準備が整いロレッチオ軍に向かおうとする俺にセレーネが話しかけてきた。俺はみんなを待たせて、人影のない城壁の裏にセレーネを連れていった。
「アゾートに聞いてほしいことがあるって、前に私が言ったことを覚えてる」
「ああ、生徒会長戦の握手会の時の話だよな。今話せることなのか」
「ううん。まだ言えないんだけど、この戦争が終わったら話すわ」
「そのフレーズはっ!」
「わかってる。どうせ死亡フラグだって言いたいんでしょ。これはそういうのじゃなくて、自分が勇気を出すためのケジメのようなもの」
「セレーネ・・・」
「私は今の関係が壊れることがとても恐いの。もしアゾートに拒絶されたら、私はもう戦えないから」
「何を言われても、俺がセレーネを拒絶するなんてありえないが」
「それでも恐いの。こういう時はほんとネオンがうらやましい。あの子みたいに言いたいことを何でも言えれば、私もこんなに悩まなかったのに。私はいつもウジウジしてて自分でも嫌になる」
「・・・わかった。じゃあ後で必ず話を聞かせて」
「ええ。アゾートにはちゃんと話しておきたいから、それまでに私も勇気をつけてくる。アゾートも覚悟しておいてね」




