第92話 冬休み、俺は再び戦場へ
選挙演説が終わり学園が冬休みに入った。
俺たちはこの後、ボロンブラーク城の転移陣で帰省することになるため、友人たちとはここでお別れだ。
ただしカインは実家に帰るものの、ダンとマールはこの戦争がサブクエストだという理由で、俺たちとともにプロメテウス領について来てくれることになった。
「ちょっと事情があって俺だけ帰ることになった。悪いなアゾート。それからダンとマール、お前らも十分気をつけるんだぞ」
「わかってるよカイン。俺もマールも危険な真似はしないよ」
「ダーシュとアレンはどうするんだ」
「俺たちは当然アゾート側で参戦だ。実家の騎士団を率いてシュトレイマン派への牽制を行う」
「そうか。二人とも頼んだぞ」
「わたくしもサーシャお姉様と実家に戻って、アゾートの側面支援を行いますわ」
「助かるユーリ。アネットとパーラはアウレウス派ではないので、流石に協力は頼めないがな」
俺がそう言うとパーラが、
「いいえ。もしよろしければ私もプロメテウス領についていきたいと存じます」
それを聞いたアネットが慌てて止めた。
「何を言ってるのパーラ! あなたの実家はシュトレイマン派でしょ。おとなしく家に帰りなさい!」
「嫌よ。私はダン様をお守りしたいの」
「ダンからも言って。パーラを止めてあげて」
「アネットのいう通りだ。お前を危険にさらしたくないし、実家を裏切らせるような真似はさせられない。クエストが再開したらまた呼ぶから、今回だけは止めておけ」
「・・・わかりましたわ」
肩を落とすパーラを、アネットが慰めながらダンから引き離した。
街の方へと去っていく彼女の寂しそうな後ろ姿を見ていられず、俺はダンに言った。
「パーラを止めるのは当前のことだが、彼女には彼女の言い分がある。冬休みで当分会えなくなるし、今すぐ彼女の元に行ってちゃんとフォローをしとけよ」
「パーラ・・・そうだな、分かった」
◇
アネットはパーラを連れて冒険者ギルドにやって来た。もちろん転移陣を使うためだが、冒険者たちは今日も昼間から酒を飲んで騒いでいる。
「パーラ、元気を出して」
「アネット・・・」
「あなたがダンを好きなのは知ってるけど、彼とは身分も違うし結婚はできないの。学園を卒業したら彼とはお別れだし、一緒にクエストをするぐらいはいいけど、絶対に本気になってはダメ」
「そんなこと分かってますわ。でも・・・」
「念のために言っておくけど、女騎士を目指す私と違って、あなたは生粋のお嬢様なの」
「アネット・・・」
「そんなあなたが実家を出て騎士爵家に嫁ぐと苦労するのが目に見えてる。あなたは他の上位貴族の嫁になるか、ウェストランド家に留まって婿をとるのが一番。ダンにはあなたの騎士団に入ってもらえばいいじゃない。そしたら近くにはいられるし」
「・・・そうね。ダン様にとってもその方がいいのよね」
「パーラ・・・」
そしてアネットとパーラが転移陣に魔力を注入しようとしたその時、
「待ってくれパーラ!」
「ダン様!」
「その・・・もしよければ俺と一緒についてきてほしいんだ」
「ダン! あなた何を言ってるの!」
「悪い、今の話を聞いちまった。アネットのいうことは正論だし、俺は将来のことを真面目に考えたこともない。ただパーラの考えも聞かずに一方的に何かを押し付けるのも違うと思うし、もっと時間をかけて色んなことを話してみたい」
「私と色んなことを?」
「ああ。もし俺たちに付いて来るのならこれだけは約束してくれ。俺は中立派だし、ただ単に俺とクエストをしているだけという立場を絶対に崩さないこと。もちろん絶対に敵を攻撃しないこと。・・・それと俺のそばから絶対に離れないこと。この3つを守ってくれれば、何があっても俺がお前を守って・・・って、うわあっ!」
パーラがダンの胸に飛び込むと、そのままギュッとダンを抱きしめた。
冒険者ギルドで始まった突然の青春劇に、酒を飲みながらずっと様子を見ていた冒険者たちから、口笛やらヤジやら冷やかしの声やらが乱れ飛んだ。
そんなオッサンたちを気にも留めず、幸せそうに彼の胸に顔を埋めるパーラと、顔を真っ赤にして照れ臭そうに頭を掻くダン。
そして大きなため息をついたアネットは、ダンの出した条件を遵守することを条件に同行を願い出た。
「全く仕方のないわね。あなたを一人にしておくのは心配だし、私もついて行ってあげる」
おそらく何も耳に入っていないパーラの代わりに、ダンが尋ねる。
「いいのか、アネット」
「全然よくはないけど、中立派上位貴族の私がパーラの弁明をしてあげないとダメでしょ。あなたのせいでこうなったんだから、ちゃんと責任をとりなさいよ」
アネットはもう一度大きなため息をつくと、二人を連れてアゾートの元に引き返した。
◇
プロメテウス領に帰還した俺たち。
領内は開戦当日とあってさすがに重苦しい雰囲気で、街の住人たちもあわただしく駆け回ってもしもの時に備えている。
そういう俺自身、じっくりクエストを楽しもうと指折り数えた冬休みも吹き飛び、夏休みと同じように戦争が始まってしまった。
なのでここからは、時系列を丹念になぞりながらその戦いを綴ることとしよう。
ちなみにこの世界の暦は、1年を12月(星の名前)、1月を4週間(神の名前)、1週間を7日(火水風土雷光闇)となっている。
12月18日(土) 雪
我々の最初の戦略目標は、城塞都市ヴェニアル。
プロメテウス領の東側に広がるソルレート伯爵支配エリア。その西端には城塞都市ヴェニアルという大きな街があり、王都へと続く街道もあることから商人たちの物流拠点となっている。
もちろんロディアン商会の倉庫もここにあって、今回購入した穀物などが大量に保管されている。
ちなみに街の名前のとおりここはヴェニアル子爵が城を構えており、現在ロディアン商会の倉庫は子爵によって占拠されている。
つまり俺たちの目的は、今回の管理戦争で指定資産とされたこれら物資の奪取にある。
また指定資産ではないものの、この城塞都市を俺たちの拠点にできれば、その東側に広がるソルレート伯爵支配エリアでの戦いが有利になることは間違いない。
雪がちらつく中、俺たちプロメテウス騎士団が城塞都市プロメテウスを出発した。
「全軍出撃! 目指すは城塞都市ヴェニアル!」
こうして勇ましく出陣した俺たちの陣容は以下の通りだ。
プロメテウス騎士団 900騎
フェルーム騎士団 500騎
サルファー騎士団 1000騎
フェルーム騎士団はダリウス自らが率い、サルファー騎士団(ボロンブラーク騎士団と各家からの義勇軍の総称)もサルファー自らが陣頭指揮を執る。
これら3つの騎士団の総司令官は戦争の当事者である俺が務め、総参謀長としてフリュが全軍の作戦を立案する。
度重なる内戦で各家とも十分な戦力が整わない中、何とか集めることができた歩兵中心の総勢2400人の軍隊だが、フリュの智謀によって精鋭部隊へと化した彼らが、ソルレート伯爵支配エリアを縦横無尽に駆け抜けていく未来を期待したい。
◇
ソルレート伯爵は、王国商法に基づく清算手続の一時中断を裁判所に求めて、代わりに王国決闘法に基づく清算手続に切り替えた。
これは貴族だけに許された特権であり、紛争相手とそれを庇護する貴族家(今回はロディアン商会と彼を庇護するメルクリウス男爵)との戦争の勝敗により、債務を放棄させるというものだ。
つまりソルレート伯爵が戦争に勝てば、その勝利の度合いによって債務の一部もしくは全部が減免される。
もちろんソルレート伯爵が負ければ、差し押さえ資産を失うのはもちろんのこと領地や爵位も全て失うため、伯爵は貴族であることを担保にした最後の大博打に打って出たのである。
いや、そうせざるを得なかった彼は現在そこまで追い詰められており、そしてアゾート・メルクリウス男爵は決闘法に基づく宣戦布告を受けて立った。
「生意気なガキだが、宣戦布告を受けた度胸だけは褒めてやる。それがお前の命取りになるがな」
伯爵は臣下たちに戦争協力を要請。その褒賞として、取り戻した差し押さえ資産やプロメテウス領が保有する財産を提示。
とにかく戦力をかき集めた結果、以下の陣容でこの戦争を戦うこととなった。
ソルレート騎士団(伯爵)2500
ヴェニアル騎士団(子爵)1500
ロレッチオ騎士団(男爵)1500
ベルモール騎士団(子爵)1500
また騎士団としては参加しないが、支配エリア東部に領地を持つ3家からも1000騎ずつ、計3000の兵力が加わった。
合計にして10000の兵力をもってプロメテウス連合軍に相対する。
「全騎進軍せよ! 狙うはプロメテウス領の保有財産と当主アゾート・メルクリウス男爵及びロディアン会頭の首だ!」




