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Subjects Runes【完全版/累計800万PV】~高速詠唱×現代知識で貴族社会を成り上がる戦記ファンタジー~  作者: くまひこ
第3章 古代魔法都市ジオエルビム

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第91話 前哨戦

 王国決闘法に基づくソルレート伯爵からの宣戦布告を俺は受諾。その旨を王国裁判所に通知し、裁判所からは戦争を監視するための調査官が派遣されてきた。


 そして開戦日時が決まった。


 12月18日(土)正午、つまり学園の終業式が終わり、俺たちがプロメテウス城に帰還した時点から戦争が始まる。




 開戦の日時が決まれば後は戦争の準備をするのみ。


 まずはプロメテウス騎士団に歩兵を中心とした人員の拡充と、武器弾薬や兵糧等の物資の補充。


 その結果、騎士250騎、歩兵520名、銃装騎兵隊130騎の総勢900名規模の騎士団を結成するに至った。大半が歩兵かつ新兵の寄せ集めだが、数は力なりだ。


 そして領主の俺に代わって作戦指示が出せるように、フリュをプロメテウス騎士団参謀長に任命して指揮権も与えた。


 もちろん騎士団長である父上が歩兵を含めた770騎を、銃装騎兵隊130騎はサー少佐が現場指揮を受け持つこととなる。


 ボロンブラーク伯爵の臣下各家にも協力を依頼し、サルファーの元に集まった騎士団が合計1000騎、フェルーム子爵家も独自に500騎の出撃が計画された。


 アウレウス派閥の各家は、シュトレイマン派の動きを牽制しつつ、派閥間戦争に拡大させないように対応してくれている。





 そして運命の12月18日がやってきた。


 終業式後の講堂では、年明けの生徒会長選の投票に向けた候補者演説が始まっている。


 これは管理戦争の前哨戦。ここでニコラを蹴散らして、ソルレート伯爵との戦争に向けて勢いに乗りたいところだ。


 実はこの選挙戦、中立派上位貴族や下級貴族有志による候補者擁立の動きもあったが、最終的には立候補が見送られて当初の予想どおりセレーネとニコラの一騎打ちとなった。


 投票権を持つ1年生、2年生の全生徒を前に、まずはセレーネが生徒会長としての公約を話し始める。俺とフリュも支援者代表として一緒に登壇してセレーネの後ろで控えていた。



「学園を分断する階級闘争を早期に終結させ、もとの楽しい学園に戻したいと思います。そのため上位貴族の下級貴族への不当な命令を禁止し、その違反者を取り締まるための組織「風紀委員会」を新たに設置することを公約といたします」



 下級貴族たちからは大きな拍手が沸き起こり、上位貴族たちからは激しいブーイングが講堂に鳴り響いた。


 そして質問者として登壇したのはシュトレイマン派の上位貴族令嬢だ。


「セレーネ様は子爵家令嬢になられてまだ日も浅く、わたくしたち伝統ある名門貴族があなたの命令に従うことはできません。つまり生徒会長の資格がございませんので直ちに辞退なさい」


 かなり辛辣な言い方だが、セレーネも負けてない。


「生徒会には、歴史ある名家の令息・令嬢が多数参加し、私を支えてくれます。だから安心して私の命令に従い、貴族としての正しいふるまい方を身に着けてからこの学園をご卒業くださいませ」


 苛立ちを隠せない令嬢も、すぐに言い返す。


「上位貴族を動かせるのは言葉ではなく家柄です。成り上がり風情のあなたには生徒会長の資格はないと、はっきり申し上げないと分からないのかしら」


 その言葉に、フリュが一歩前に出て氷のようなまなざしでその令嬢を睨みつける。


 講堂の温度が急速に冷えて、全員が固唾を飲んで次の言葉を待った。


「爵位を授けるのは国王でありそなたではありません。セレーネ様のフェルーム家はその功績が認められ、秋の叙勲式で国王自らが子爵位に叙したばかり。フェルーム子爵家を認めない今のご発言は、国王への反逆と見なしますがよろしいですか」


 ブリザードが吹きすさぶような講堂の空気。


 周りからは「もうやめろよ」と囁やく声も聞こえてきたが、貴族のプライドが邪魔をするのかその令嬢も引くに引けなくなった。


「婚約破棄された傷物令嬢が生意気ですこと。平民は早くこの学園から立ち去り、修道院にでもお行きなさい」


 そんな心無い言葉にもフリュは全く動じず、氷の女王のオーラ全開で令嬢を睨みつける。


 全校生徒は凍りつき、その威圧感にさすがの令嬢もたじろいでいたが、今の発言はさすがに放置することができず、俺はフリュを背中に庇うと子爵令嬢に事情を説明した。


「フリュの絶縁はアウレウス公爵家の名誉を守るためで、アウレウス伯爵もこんなことは望んでいなかった。だから伯爵は俺を後見人に指名し、フリュはいずれこの俺が貴族の身分に戻すことになっている。だから形式上は平民でも実質的には貴族のままだ」


 俺の説明に令嬢は顔を真っ赤にさせると、


「まあっ! あなたはよくも全校生徒の前でそんなことが言えますわね。はしたない!」


「何がはしたないものか。伯爵の前でそう言ったら、娘をよろしく頼むと頼まれたぞ」


 そう言うと今度はフリュが慌てだした。


 先ほどまでの氷の女王のオーラが完全に消え去り、顔を真っ赤にしてあたふたしている。


「もしかしてそのお話、お父様にもされたのですか?」


「ああ。あの内戦終結の話し合いの時にな」


「だからお父様はいつもアゾート様のことを・・・あ、あの、改めまして、不束者ですが末永くよろしくお願いします」


「はしたないっ! そういうことは家に帰られてから二人だけでやってくださいまし!」


 令嬢は怒って講堂から出ていってしまい、フリュも顔を真っ赤にしたまま舞台裏に下がってしまった。


 生徒のほとんどが今何が起きたのか分からず頭上にはてなマークを浮かべているが、上位貴族の令嬢たちからは黄色い悲鳴が上った。


(この話になると、前もこんな反応があったよな気がする。もしかすると上位貴族にしか分からない何かの言い回しなのだろうか)





 妙な空気に包まれて他に質問が出なかったため、次の二コラの演説の番になった。


 ニコラは二人の支援者を後ろに控えさせると、さっそく演説を始める。


「僕が生徒会長になった暁には、この学園をアイドル学園にしてセレーネ様以外にもたくさんのアイドルを育・・・」


「・・・失礼しました。我々の公約は『王国の伝統を尊び、模範的な貴族社会の学習をこの学園で行えるよう、より厳格な身分制度を確立して下級貴族の暴走を阻止するための組織「懲罰委員会」の設置をしたい』でございます」


 あわててニコラの支援者が公約を訂正する。


 あっちはあっちで大変そうだが、このニコラを見て分かったことは、フリュが生徒会の実権を握っていたのは、彼女が氷の女王だからではなくニコラが無能だからだ。


 二コラの支援者による演説が終わると、質問者として登壇したのはモテない同盟だった。


「ニコラ候補に質問ですが、アイドルユニットは何名ぐらいを想定していますか」


 やはりそっちに食いついたか。


「まずは3名からはじめて、最終的には9名まで拡充しようと考えています。各学年3名ずつだと、きっとバランスがいいでしょう」


「今のは『懲罰委員会のメンバー数』として、訂正いたします」


「アイドルの原石はもう見つかりましたか」


「さきほど恥ずかしそうに舞台裏に隠れてしまいましたが、可愛い一面を覗かせた超絶美少女フリュオリーネ様を筆頭に、1年生騎士クラスBのオタサーの姫であるマール殿あたりを第一候補に考えております」


「懲罰委員会のメンバーは上位貴族で構成されるため、その二人は対象外であると訂正いたします」


「ありがとうございました」


 モテない同盟からの質問が終わり、主に男子生徒たちから盛大な拍手が鳴り響いた。




 だがこれは非常にまずい流れだ。


 今のニコラの演説で下級貴族の男子生徒票を根こそぎ奪われてた感がある。


 ニコラを甘く見てたっ!


 フリュは舞台裏に下がったまま出てこないし、セレーネは今のニコラの発言に完全に動揺している。


 ここは俺が何とかするしかない!




「言い忘れていたので補足します。先ほど提案させていただいた「風紀委員会」ですが、メンバーは全て美少女を予定しております。違反者は美少女たちに取り締まってもらえますので、是非楽しみにしてください」


 俺のこの発言により、上位貴族の男子生徒どもが熱気を帯びてきた。


 これはかなりの好感触!


 下級貴族の男子生徒も「俺らもワンチャン取り締まってもらえないだろうか」と言う期待のこもった目を俺に向けている。


 よし、これでなんとか五分に戻したか。戦争本番でも相手を舐めてかからず、決して油断しないようにしないとな。


 こうして、生徒会長選の演説会は幕を閉じて冬休みに入った。

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