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Subjects Runes【完全版/累計800万PV】~高速詠唱×現代知識で貴族社会を成り上がる戦記ファンタジー~  作者: くまひこ
第3章 古代魔法都市ジオエルビム

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第84話 秋の叙勲式

 フィッシャー辺境伯領、領都エーデル。


 その冒険者ギルドから転移陣を使って、途中寄り道をしながら王都アージェントに到着した俺たち。


 王都のギルドを出たダンは、街の大きさに目を輝かして大騒ぎを始める。


「ここが王都アージェントか! 街がとてつもなくデカイ! うわあ何だの建物、ちょっと近くに行ってみようぜアゾート!」


 俺の腕を引っ張って今にも駆け出しそうなダンだったが、俺たちが田舎者だってバレるから少しは大人しくしてほしい。


「悪いが観光は後回しだ。今からアウレウス伯爵に挨拶に行かなくちゃ。それから王都にいる間は俺の護衛騎士として行動を共にしてもらう。よろしく頼むぞ」


「「「了解!」」」


「セレーネはフェルーム家次期当主として出席するから俺たちとは別行動になるが、フェルーム騎士団と合流するまで俺たちと一緒にいようぜ。ネオンは・・・好きにしていいぞ」


 そもそもネオンは叙勲式に招待されていないため、居ても居なくてもどちらでもいいとダリウスは言っていた。


「そうね。それまではよろしくねアゾート」


「好きにしていいなら、僕の居場所は最初から決まってるけどね。ニシシシ」


「分かった! それ以上は何も言うな! 頼むから王都では大人しくしてくれ」


 そんな俺の言葉も空しく、ネオンが得意のドヤ顔でセレーネを挑発すると、カンカンに怒ったセレーネがその挑発に乗って魔力を爆発させている。


 王都の往来で真っ赤なオーラを天まで立ち上らせるのもどうかと思うが、なんでこの姉妹はこんなにも仲が悪いのか。


 たまには仲良くしてほしいものだ。




 街の繁華街から王城の方角に歩き出した俺たちは、貴族街にあるアウレウス伯爵邸に到着した。


 他のみんなには別室で待機していてもらって、俺とフリュが応接室で伯爵と面会する。


 最初にフリュから例のお願いをすると、


「分かった。明日はアウレウス騎士団を貸してやるから何も心配しなくていいぞ」


「ありがとうございます、お父様」


 貴族の見栄を張るためだけの騎士団をアウレウス伯爵から借り受けること成功した俺。


 たくさん用意したプロメテウス騎士団の旗は父上がフェルーム騎士団に運ばせると言っていたし、これで金も時間もかけずに最低限の見栄を張ることができた。ウシシシ。


 当初はこれだけが目的だったが、俺はもう一つの相談ごとを始める。魔法協会の件だ。


 俺は先日の話をして、魔法協会が古代の遺跡を壊してしまったことを非難した。


 だが俺が話せば話すほど伯爵の表情は厳しいものになっていき、説明を終えてもしばらくは沈黙が続いた。


 そして伯爵は、


「残念ながらそなたの要望に応えられない」


 やはり難しいか・・・。


 そんな伯爵は俺を納得させるためだろうか、魔法協会について教えてくれた。


「そなたはなぜ、魔法協会がクレイドルの森の遺跡にこだわっているか知っているか?」


「いえ、古代魔法文明の研究目的としか」


「だろうな。だがそれはあくまで表向きの理由で、本当の狙いは遺物の中にある魔導結晶を取り出すこと」


「魔導結晶って?」


「普通の魔石と異なり使用者の魔力をも増幅させる魔石で、主に軍事用として利用される。魔法協会は遺物からこの魔導結晶を回収して有力貴族に横流ししており、魔法協会にとっては大事な収入源だし、有力貴族にとっても勢力争いに不可欠だから喉から手が出るほど欲しがっている」


「ちなみに魔導結晶を回収された後の遺物はどうなるのですか」


「さあな。そもそも遺物が何の役に立つのかまだ解明されておらんし、無用の長物なら中の魔導結晶を利用した方がいい」


「ウソだろ・・・だったら今すぐ魔導結晶の回収をやめるべきだ!」


 俺は古代魔法文明が今より遥かに高度な文明であること、遺物には今の人々には想像もつかない秘められた力があること、魔導結晶を取り出すとそれらが全て失われてしまうことなどを必死に伝えた。


 すると俺の熱意に根負けしたのか、


「もういい、分かった分かった。だがそこまで言うからには、そなたは遺物の能力とやらを引き出すことができたのではないか?」


「ええ。実は一つだけ遺物から引き出せた古代魔法があります」


「それは本当か!」


「無属性固有魔法・超高速知覚解放と名付けましたが、無詠唱で瞬時に発動して人間の脳や肉体の反応速度を飛躍的に上昇させる常時展開型の古代魔法です」


 俺がそういうと、アウレウス伯爵の目の色が変わった。


「その話はもう誰かにしたか」


「俺の仲間以外、誰にも言ってません」


「ではこれからも人に話してはならん。特にシュトレイマン公爵派のヤツらには絶対に伏せておきたい」


「わかりました」


「実はその魔法協会を牛耳っているのはシュトレイマン公爵派なのだよ。しかも魔導結晶を自派閥優先に横流ししていて、王国内の軍事バランスが傾きかけていたところだ。だが相手が反対派閥ゆえに今すぐ魔法協会を止めることはできんし、少し時間をくれ」


「もちろんです。魔導結晶の回収が阻止できるのなら是非お願いします」



          ◇



 王都に到着したソルレート伯爵は、シュトレイマン公爵の館に挨拶に来ていた。


「おお遅かったな、待ちかねたぞ」


 来賓室のソファーに腰掛けていた老齢のシュトレイマン公爵は、ソルレート伯爵の来訪を歓迎して早く座るよう促した。


「お久しぶりです公爵閣下。それにジルバリンク侯爵閣下もいらっしゃってましたか」


 伯爵はその大きなおなかを揺らしながら、二人と挨拶を交わした。


「ところで、今日は大事な話があるとのことでしたが」


 ソファーに腰かけた伯爵は、挨拶もそこそこにすぐに本題に入った。すると公爵は、


「王国魔法協会のことで少し相談がある」


「ジルバリンク侯爵閣下が会長をされているあの」


「そうだ。侯爵、話を聞かせてくれないか」


 公爵から促された侯爵は、クレイドルの森にある古代遺跡の話を始めた。


「かなり大規模な古代遺跡につながっている可能性のある神殿を発見したのだが、魔法障壁に阻まれてどうしても中に入ることができないのだ」


「はあ・・・それで?」


「冒険者ギルドに依頼を出して、王国中の冒険者たちにその突破方法を探らせているのだが、半年たった今も一向に進展が見られない」


「まさか、それをワシにやれと?」


「そうではない。そのクエストを受けた冒険者の中に、ボロンブラーク騎士学園の生徒たちで結成されたパーティーがいて、第13層まで軽々とクリアーした挙げ句に魔法障壁を突破方法を探っているところらしい」


「それは良かったじゃないですか。貴族のガキどもなら、親に話をつければ報奨金を渡す必要すらなく、魔導結晶は全て我らシュトレイマン派のもの」


「そうならないから困っているのだ」


「というと?」


「その生徒たちのリーダーが、あのアゾート・メルクリウス男爵なのだ」


「アゾート・メルクリウスですとっ! アイツはそんなことにまで手を出しているのか」


「どうした? ヤツと何かあったのか」


「実はアイツの領地を混乱させてやろうと、嫌がらせをしている最中でして」


「なら好都合じゃないか。そなたへの頼みというのはまさにアゾート・メルクリウスの妨害。知っての通りヤツは、アウレウス公爵派に入った新参者のくせに、公爵の実弟のアウレウス伯爵が愛娘をくれてやるほど大のお気に入り。そんな男にあの古代遺跡を嗅ぎまわられるのは非常にマズいのだよ」


「アウレウス伯爵が自分の愛娘を・・・わかりました。アゾート・メルクリウスの妨害はこのワシがお引き受けしましょう」



          ◇



 翌日。秋の叙勲式が盛大に開かれた。


 今回の叙勲対象者が王宮前庭に一堂に勢ぞろいしたが、爵位授与の栄誉に授かった者は今回全部で11名。


 その中にはダリウスとアゾートの二人も含まれており、11名が当主を務めるそれぞれの家門の騎士団長が自らの騎士団を率いて王宮前庭に入城するセレモニーが、今まさに執り行われている。


 国王から爵位を授与されるのは男爵以上の上位貴族に限られ、そんな彼らが自らの爵位にふさわしい権勢を示すために選りすぐりの騎士たちを行進させる姿は実に壮観。


 ブロマイン帝国との戦争が劣勢続きであるとはいえ、アージェント王国の威信を奮い起こさせるには十分な威容であった。


 そんな中にあって、前庭を埋め尽くす観衆の度肝を抜いたのがアゾート率いるプロメテウス騎士団の入城だった。


 男爵家なら普通は100騎程度、300騎もいれば相当気合が入っているところを、アゾートはなんと総勢1000騎もの騎士団を率いて入城したのである。


「おい見ろよあの男爵。まだ学生なのに1000騎も騎士団を率いて来たぞ」


「しかもあの騎士団旗を見ろ。男爵家の紋章に混じってアウレウス公爵家の紋章まである。一体何者なんだアイツ・・・」


「ていうか見ろよあれ。男爵の隣にいる令嬢は確か、アウレウス公爵家自慢の才女フリュオリーネ様じゃないのか?」


「本当だ・・・まさかアイツ、あのアウレウス伯爵の愛娘を嫁にもらったのか! 全く信じられん・・・」



          ◇



 俺たちの入城により王都の貴族たちの歓声が一段と大きくなり、それと反比例するように俺と父上は完全に委縮した。


「アゾート、いくら何でもやりすぎだ! ワシは100騎でいいとちゃんと教えたのに、なんで1000騎も借りてくるんだよ!」


「俺もさっき見てびっくりしたんだ。この騎士団を借りて来てくれたのはフリュだし、文句があるなら彼女に言ってくれ」


「フリュちゃんがやったのかこれ・・・」


「申し訳ございません。ですがお父様に相談したら、これくらいで丁度いいと申しておりましたので」


「アウレウス伯爵がか。ま、まあフリュちゃんが頑張ってくれたことならワシは全然文句はないけど、ちょっと悪目立ちしている気がして、ほんのちょっぴり心配になっただけで」


 父上はフリュに徹底的に甘く、彼女がすることは全て受け入れるイエスマンだ。


 かく言う俺もフリュに文句を言うつもりは1ミリもないが、さすがにこの状況には参っていた。


「秋の叙勲式がこんなド派手なセレモニーだとは思わなかった。父上のいうとおり自分の騎士団を率いてくるんだったよ。トホホ」


「そうだぞ。お前が学園をサボってクエストなんか進めているから、こんなことになったんだ。ちゃんと反省しろ」


「言われなくても反省してるよ。それよりネオン、お前はやっぱりフェルーム家に列席した方がいいんじゃないか? ここは学園じゃないし、あとでバレたら大変なことになるぞ」


「アゾートは心配症だなあ。私はいずれは嫁としてメルクリウス家の一員になるんだし、ウソはついてないよね」


「どこがだ! 完全に真っ赤なウソだろが! もういいからせめて後ろの護衛騎士の中に紛れ込んでいてくれ。これ以上は俺の胃がもたない、イテテテテ」


「もう仕方がないなアゾートは。これは貸しだからね」


「盗人猛々しいわ!」




 入城行進が終わって、前庭に整列した騎士団がその場で待機すると、俺たち叙勲対象者は王宮の中へと案内された。


 メルクリウス男爵家の場合、爵位を授与される俺がまだ未成年のため、後見人として父上も同席。さらにアウレウス伯爵の指示でフリュも同伴させている。


 フェルーム子爵家の場合は、騎士爵位からの昇爵となるダリウス夫妻に加えて、次期当主となることが決まっているセレーネを国王に面通しするために同席している。


 ところが、


「おいネオン! なんでお前が王宮の中まで入ってきてるんだよ。護衛騎士なんだから早く騎士団のところに戻れ!」


「王宮の中に入っちゃったし、もう遅いよ」


 儀式はすでに進行中であり、ここで場を乱すわけにはいかない。


「ぐぬぬぬぬ」


 ネオンの奴め! さっきの貸しはこれで帳消しだからな!


 王宮の廊下をしばし歩いた後、広い謁見の間に通された俺たち4人。


 少し離れた場所にはセレーネが居るが、赤い瞳をさらに真っ赤に光らせて、ネオンのことを睨みつけている。


 恐っ!




「アゾート・メルクリウス男爵、ここへ」


 王国宰相から名前を呼ばれた俺は、王様の前へと歩み出る。


 初めて見るその王様は60代ぐらいの細身の男で、とても穏やかな表情をしている。


 一方、列席の王宮貴族たちは、俺の新たな家名を聞いて何やらヒソヒソ話を始めた。



「プッ! メルクリウス男爵だってさ。そんな家名を名乗るなんて、さすが子供男爵」


「今は満足しているかもしれないが、大人になったら恥ずかしくて絶対後悔するぞ」


「経験者は語るか? 実は僕も14歳ごろの自分を思い出して、たまにベッドでもだえることがある。若気の至りって奴だ」




 俺の背後からそんな陰口が聞こえてくるが、一体どういうことなんだ?


 どうやらメルクリウスという家名は王都ではかなり有名らしく、しかも何か特別な意味を持っているらしい。


 しかし余計なことに気を取られている暇はない。


 俺は今まさに王様から勲章を受け取り、静かに膝をついて臣下の礼をとっている所だ。


 王様はニッコリと微笑みながら軽くうなずくと、俺の隣にいるフリュにも声をかけた。


「久しいのフリュオリーネ。息災であるか」


 フリュと王様は顔見知りのようだ。


「はい。陛下もご壮健でいらっしゃるようで、これほどの喜びはございません」


 フリュも令嬢らしく優美に一礼し、俺たちは王様の前から下がった。



            ◇



 列席したほとんどの貴族は俺たちを好奇の目で見つめていたが、ただ一人だけ心穏やかではない者がいた。


 シュトレイマン公爵だ。




 やられた!


 メルクリウスなどとふざけた名前を付けておって、ただのお調子者かと思っていたらまさかの本物じゃないか!


 この200年もの長きに渡って、一体どこに隠れていたんだ。


 あんな家名を耳にしなければうっかり見逃すところだったが、男爵のすぐ後ろに控える男装の娘は、メルクリウス一族の特徴を色濃く受け継いでいる。


 男爵の出身家門であるフェルーム子爵家の母娘も含めて3人とも判でついたように白銀の髪と燃えるような真っ赤な瞳。


 ぐぬぬぬぬ・・・。


 しかも国王の隣で涼しい顔で突っ立っている王国宰相には、本当に腹が立つ。


 まるで「王国の剣」は自分のものだと言わんばかりに、弟の愛娘フリュオリーネを随伴させて、この私に対する明らかな挑発。


 くそっ!


 どうにかしてメルクリウス家を我がシュトレイマン派に引き込む手立てはないものか。あるいは力をつける前に潰すか・・・。

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