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Subjects Runes【完全版/累計800万PV】~高速詠唱×現代知識で貴族社会を成り上がる戦記ファンタジー~  作者: くまひこ
第3章 古代魔法都市ジオエルビム

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第83話 第3のキーワード

「ネオン、気がついたか」


 クエストを再開して4日目の朝、眠り続けていたネオンがようやく目を覚ました。


「・・・アゾート、ここは?」


「俺んちのお前の部屋だ」


 プロメテウス城3階にネオンがまんまとせしめたその部屋には、看病のために付き添っていた母上を含めた全員が見舞いに来ていた。


「目を覚まして良かった」


 ネオン親衛隊のみんなもホッとした表情で喜んでいる。


「まずは飯でも食って、ゆっくり休んでろ」


 まだどこかボーッとしているネオンは、ボンヤリと窓の外を眺めている。


 だが徐々に意識がハッキリして来たのか、突然ガバッと起き上がった。


「ねえ聞いてよアゾート! すごいことがあったんだよ」



          ◇



「つまりお前は過去にタイムスリップして、俺たちのご先祖様を助けてフェルーム家の礎を築いたと・・・」


 俺がそう話をまとめると、ネオンがコクコクとうなずく。


 だが時間を超越する魔法が存在するなど俺は聞いたことがないし、仮にあったとしても物理法則が成り立つとは到底思えない。


 なぜなら、転移魔法も厳密には瞬間移動ではないため、光の速度は超えていないし相対性理論もちゃんと成立している。


 それに、


「タイムパラドックスはお前も知ってるよな」

 

「過去を改変したことで、未来の出来事が大きく変わってしまう矛盾でしょ」


「そうだ。ほんの少しでも過去に影響を与えると、バタフライ効果によって全く異なる未来になる可能性だってある。仮に過去にタイムスリップしたことが本当なら、お前が帰る未来は俺達のいるこの世界とはまるで異なる並行世界だということだ」


「そんなことアゾートに言われなくても分かってるよ。でも実際に起きた事だし、こんなことでウソを言っても仕方ないでしょ」


「それはそうだが・・・例えば夢や幻覚を見ていたとか」


 俺がそう言うと、セレーネが思い出したように言った。


「あの夜、何者かに連れられネオンが部屋を出ていった時、警戒に当たっていた私たちは強制的に眠らされていたの。だからその時、何らかの魔法があのあたり一帯に作用していたのは間違いないと思う」


「なるほど。幻覚魔法であれば可能性はある。後は鍵をどこで手に入れたかだが・・・」


「だから過去のご先祖様から、私が託されたんだって!」


「いや、だから時間跳躍は物理的に不可能な訳で・・・」


「じゃあなんであの鍵はフェルーム家の私たちにしか使えないの! なんで遠く離れたフィッシャー領の神殿が、フェルーム家の血筋と関係があるの!」


 ネオンがまくしたてる。


「それは分からない。母上はウチのご先祖様について何か知ってる?」


「いいえ何も。私たちのご祖先様がどこからきたのかは分からないし、記録が残っているのはボロンブラーク伯爵の元に突然現れて騎士爵位を賜ったことぐらい」


「突然現れた・・・」


「その初代当主が、フェルーム家の血筋を絶さないよう魔力と血統を特に重んじるよう掟を作ったことぐらいね。あなたとセレーネが早くから婚約させられたのもその掟に従ったからなの」


「うーん母上の話も、ネオンの話を裏付けることも否定することもできないな」


「だったら信じてよ!」


「そうだな、タイムスリップの話はさておきフェルーム家のご先祖様とフィッシャー領の神殿には何か繋がりがあることは分かった」


 そう結論付けるとセレーネが、


「そう言えばあの街って、フィッシャー領の旧領都でバートリーというそうよ」


「バートリーだと? それってカインの家名じゃないか」


 そういえば今回カインは参加を見送ると言っていたが、バートリー騎士爵家も何か関係するのだろうか。


「今日はゆっくり休んで、ネオンの体調が良ければ明日その神殿に向かうことにしよう」



          ◇



 翌日、体調が回復したネオンを連れて俺たちは再びフィッシャー領の神殿にやって来た。


「じゃじゃーん。ここがワレの見つけし地下神殿だ。どやっ!」


 ネオンのドヤ顔がうざい。


 今は寂れた旧領都バートリーの中心にそびえ立つ廃墟のような古い教会。


 その地下深くに隠された古代魔法文明の神殿は、フェルーム家のみが使える赤い金属の鍵でのみ入ることが許される。


 フリュもマールも使えなかったこの鍵を、俺が使って神殿への扉を今開いた。




 中は他の神殿と同じ構造で、一番奥に例の祭壇がある。


 異なることといえば、セレーネ言う通り祭壇の隣の台座で赤いオーブが怪しく輝いていることだけ。


「ではワレの祭壇を調べようぞ。さあアゾート君こちらへ」


「じゃあ祭壇を調べるか。マール行くぞ」


「うん!」


「こらアゾート。ワレを無視するな!」



         ◇



「やったぞマール! ここはマーク3の祭壇だ、助かったあ・・・」


「よかったね、アゾート」


「ああ。だがこの問題の意味が分からん」


 祭壇のスクリーンには、ただ数字が並んでいるだけ。



1 0 1 2 2 2 3 4 3 

4 5 4 5 6 5 6 6 6

8 ◻️ 8 14 ◻️ 14 13 ◻️ 13

26 ◻️ 26 20 ◻️ 20 11 ◻️ 11



 これは数列の問題だ。


 徐々に数字が大きくなっているが、単純に増加しているわけではらしい。


 階差数列? 群数列? 一体なんだろう。


 この四角の部分の数字を答えればいいのだろうが、単なる数列の問題であるはずがない。


 なぜならこれは異なる文明同士のコミュニケーション。


 この答えには本質的な何かを問うメッセージが必ず隠されている。


 はずなのだが・・・。


 俺にはその答えがさっぱり分からないし、いったん祭壇から出てみんなと相談することにした。





「なあネオン。この問題の答えがわかるか?」


 さっきからドヤ顔を絶やさないネオンの鼻を折ってやろうとした俺だったが、


「こんなの簡単だよ」


「なんだとっ! お前、本当に分かるのか」


 なんでコイツ、これが一瞬でわかるんだよ。


「これ、クラーク数だよ」


「クラーク数だと? ・・・なるほど、言われてみれば確かに」


 なんとこれは、数学ではなく物理の問題だった。


「ネオン、どういうことか私にも分かるように説明なさい」


 ドヤ顔が止まらないネオンに、イラッとしたセレーネが尋ねる。


「ふっふ〜ん! じゃあセレン姉様でも分かるように順を追って説明するね」


「分からなかったら承知しないわよ!」




1.まず上段2行がこの問題を僕たちに解いてもらうためのヒントで、下段2行が僕たちの知識レベルを試す問題になっている。


2.下段2行に注目すると◻️の両端はどれも同じ数字。つまり3つの数字で何かを表しているとひとまず仮定する


3.上段2行は1~6まで順番に並んだ何かを表しているが、異なるのは真ん中の数字だけ。だからこれが何なのかを考える。


4.下段2行はバラバラだけど、その数字を並べると8、14、13、26、20、11


5.これはクラーク数の大きいものから順に並べた元素の原子番号。つまり酸素、ケイ素、アルミニウム、鉄、カルシウム、ナトリウムの6つだ。


6.ここまでくると3つの数字が何かはすぐに分かる。上段1行目の1は水素で、陽子が1つ、中性子は0、電子が1つ。つまり真ん中の数字は中性子の数。


7.第3のキーワードは、さっきの6つの元素の中性子数を答えればいいだけなので、最も安定している同位体の中性子数は8 14 14 30 20 12。


「僕はクラーク数で気づいたけど、もちろん他の方法でも解ける。この問題を作った古代文明の誰かさんは、後世の僕たちが元素について正しく理解できているかを確認したかったんじゃないかな」


 ネオンのドヤ顔にさらに磨きがかかって正直むかつくが、セレーネはぐうの音も出ないらしく口を閉ざしてしまった。


「今回は俺の負けだネオン。だが中性子の数なんかよく覚えてたな」


「そんなの覚えてるわけないじゃん。クラーク数上位の元素なら原子量を覚えてるし、そこから暗算で求めただけだよ」


「お、おう・・・」


 何だコイツ。先生であるこの俺様をいつの間にか超えてないか?




「ねえアゾート。元素って火、水、風、土、雷、光、闇の7つだよね」


「いやマール、その7つは魔法属性を分類する上での設定であって、実際の元素は100種類以上あるんだよ」


「そんなにたくさんあったら、もう元素とは言わないよね」


「いやだから・・・あれ、このやり取り前にしたことがあったな」


 そう、マールとのこの議論は無限ループに入るやつだ。やめよう。


「まぁいいじゃないか。それより答えが分かったんだし、これで魔法障壁の向こう側に行けるかもよ」


「そうよ。理系バカのネオンのおかげで魔法障壁の先に進めるんだし、バカとハサミは使いようね」


 だがセレーネの言葉に、ネオンがカチンと来たらしい。


「火力バカのセレン姉様に、理系バカ呼ばわりされる云われはないんですけど?」


「バカにバカって言って何が悪いのよ!」


「セレン姉様なんか、この問題を解けなかったくせに!」


「アゾートも解けなかったでしょ! ていうかクラーク数なんてマニアックな知識、長い人生で必要になることなんかないし!」


「そんなことありません~。土魔法ウォールでメチャメチャ使いますぅ。・・・あ、セレン姉様は火属性魔法しか使えない火力バカ女でした。メンゴメンゴ」


「言ったわねネオン! 今すぐ外に出なさい! 火力で勝負よ!」


「望むところよ! クラーク数の力を思い知るがいい!」


「やめとけネオン! 今のセレーネは無敵! せめて赤いオーブに触れてからにしろ!」


 だが俺の忠告が耳に入らず、魔力をみなぎらせたネオンがセレーネを連れて外に出て行ってしまった。


「あのバカ、どうなっても知らないぞ」


 だが最後の問題は一体どういうことだ?


 クラーク数は地球の地殻に存在する元素の量であって、この異世界の古代魔法文明がなぜクラーク数をヒントに使う必要があるんだ?




 さて、あの姉妹は放っておいて、怪しく光るオーブの方に向かった俺。


「みんな順番にこのオーブに触れて、何が起きたか教えてほしい。まずは俺からだ」


 俺はそっとオーブに触れてみる。



  ZA,ZAZA---ZA, ZA



 この頭の中で響く雑音は、真の呪文が得られる時に聞こえるやつだ。


 いつもはこの後、頭の中に詠唱呪文の一節が浮かび上がってくるが、今回はセレーネが言ってた通り火属性魔法の呪文が直接頭の中に流れ込んできた。


 しかも驚いたのは、鮮明な日本語の音声が頭の中で繰り返し再生されるのだ。


 これが古代魔法文明のテクノロジーか。


 おそらくこの声の主こそが太古の昔に転生して魔法文明の礎を築いた日本人なのだろうが、まるで某公共放送の女性アナウンサーのような人だったらしい。





 全員がオーブに手を触れて分かったことは、火属性を持っている3人のネオン親衛隊も音声が聞こえたこと。


 つまりフェルーム家の血筋とは関係なく、火属性の魔力保有者には音声は聞こえるようで、ただしネオン以外の三人はあまり上手く聞き取れなかったらしい。


 そのネオンだが、やはりセレーネに完敗してボロ雑巾のように倒れている。


 そしてうわ言のように「私の神殿なのに先に秘密を調べてずるい。セレン姉様のバカ」とブツブツ文句を言っているように聞こえる。


 ていうかネオン。何回やってもセレーネには勝てないし、姉妹ゲンカなんか最初からしなければいいのに、本当にバカな奴。





 教会近くの宿屋で夕食をとった後、みんなで集まって今後の方針を立てた。


「明後日はいよいよ叙勲式なので、続きはその後にしようと思う。明日は観光でもしながら王都アージェントを目指そうぜ」


「賛成~!」


 この緩い感じが俺たちのパーティーだ。


 それに今からクレイドルの森に行って魔法障壁を開いたとしても、放置したまま叙勲式に出るのは嫌なのだ。


「ところで他の2つのキーワードは何だったんだ、アゾート」


 ダンにはまだ答えを言ってなかったっけ。


「円周率と自然対数の底だよ」


「なんだそれ?」


「聞きたいか? まあ真面目に説明すると話が長くなるので簡単に言うけど、世界で最も美しい式として知られるオイラーの公式というのがあって、この式の凄いところは・・・」


「わかった! もう分かったからそれ以上何も言うな。いいかアゾート、絶対に説明を始めるんじゃないぞ!」


「ええぇ・・・ここからが面白いのに残念だな。ところでネオン、俺は自然対数の底を覚えてないので後で計算しておいてくれ。たかが6ケタ、頼むぞ人間計算機」


「それ人間という言葉がついてるけど、全く人間扱いしてないやつだよね。でもアゾートの頼みじゃ仕方ない。えーっと・・・2.71828、これでいい?」


「サンキュ~。でもお前って本当に便利なやつだな」


「えへへ。泥棒ネコ2匹よりも使えるでしょ」


「なんなんだこの兄弟の会話は。話の内容が俺には1ミリも理解できねえ・・・」


「ところでフリュ」


「はい、アゾート様」


「魔法障壁の向こう側に何があるのかは分からないが、古代魔法文明の遺物を魔法協会に渡さずに済む方法はないかな」


「魔法協会に渡さない方法・・・そういうお話はお父様に相談してみるのが一番だと存じます。叙勲式の時にでも相談されてみてはいかがかしら」


「それだ! 早速アポを取ってくれフリュ」



          ◇



 ちょうどその頃。


 王都へ向かう馬上のソルレート伯爵は、部下の報告にその丸顔をほころばせていた。


「ロディアン商会からまた穀物の持ち込みがあったのか! よくやってるじゃないか、あの男は」


 アウレウス公爵家とボロンブラーク伯爵家の政略結婚により、敵対派閥への鞍替えが時間の問題だったお隣さんを牽制するため、これまで硬軟織り交ぜて様々な策を講じてきたこのワシ。


 だがこの夏、突然勃発した第二次ボロンブラーク内戦とそのあっという間の終結により、堅牢な要塞であるプロメテウス城がなぜか独立して、そこの新領主がアウレウス伯爵に忠誠を誓ってしまった。


 しかもボロンブラーク伯爵家が全ての臣下を引き連れてアウレウス派に入ることになった動きは、まさに電撃的だった。


 アウレウス伯爵に完全にしてやられた形のワシだったが、それを逆転するために採った秘策が、プロメテウス領に対する関税の引き上げと穀物をロディアン商会に買い占めさせることだった。


 この二つで彼の領地に食糧危機を引き起こし、領民の反乱を煽ってあわよくば領主の首を領民に取らせようという目論見。


 だが内戦の混乱も重なり、穀物の取引自体が激減したためプロメテウス領の商人たちが蔵に穀物を抱え込んでしまい、さすがのロディアン商会もその買い付けには苦労していたようだ。


 この状態で新領主が蔵を解放するよう商人に命じればワシの作戦はとん挫していたかも知れなかったが、何がどうなったのか分からんがここに来てようやくロディアン商会が大量の穀物を我が領内に運び始めた。


 つまり当初の目論見通りに、事が上手く運びだしたのだ。


「そろそろ次の作戦に移るか」




 アゾート・メルクリウスといったか、プロメテウス領の新領主は。


 アウレウス伯爵のお気に入りで若くして男爵位を賜るようだが、まさかメルクリウス姓を名乗るとはとんだお調子者のガキだ。


 叙勲式の場でそのバカ面を見るのが本当に楽しみだ、ククククク。

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