第80話 ネオンの見た真実
私の顔を見て震え上がるみんなに、先ほどの神父さんとのやり取りや地下に逃げ延びた人々の話をした。
だが誰も私の話を信じない。
「そんなはずない。俺が聞いた話だとこの教会には200年以上誰も住んでないそうだ。さっき地下室も覗いてきたけど、人っ子一人いないただの廃墟だったぞ」
「え? じゃあ神父さんから渡されたこのリストは・・・」
だがさっきまで手に持っていたリストが跡形もなく消えている。
「やべえ、ネオンが何かに取り憑かれた。とにかくこの街はヤバい。早くここから逃げ出さないと!」
真っ青な顔のダンがそう言うと、怖くなった私たちは一目散に走り出した。
「そんな・・・」
みんなは城門の外に出られるのに、私だけが街から出られなくなってしまった。
外に出ようとすると魔法障壁が展開されて、私だけが街に引き戻されてしまうのだ。
「こいつはマジでやべえ・・・俺にはどうしようもないし、こうなったらアゾートに助けて貰うしか」
魔力の高いアネットとパーラの2人に自力でプロメテウス城まで飛んでもらい、私たちはこの街の宿屋で救援を待つことにした。
その宿屋でも何者かから私を守るために、セレン姉様とダンが宿の外を、親衛隊のみんなも私の部屋の内と外を、徹夜で警戒することになった。
◇
いつの間にか眠っていた私は、妙な気配を感じて目を覚ました。
ベッドから起き上がろうとしたその時、私の枕元に一人の男が立っているのが目に入った。
全身怪我と火傷だらけのその男は、燃えるような瞳で私のことを見下ろしていた。
とっさにマジックバリアーを展開したが、男は余裕でそれをすり抜けると、私の腕を掴んだ。
「くっ!」
親衛隊に助けを呼ぼうとしたが、彼女たちは全員ベッドの周りに倒れていた。
ヤバい、殺される!
私は男に向かってプラズマ弾を放とうとしたが、その男は私を制止して、
「待ってくれ! 彼女たちはただ眠っているだけだ。私に攻撃の意思はないし、君に話があるのでついてきて欲しいだけだ」
そう訴える男は、確かに殺気など発していなかった。
そしてよく見ると、男はあの教会のベッドに横たわっていた傷だらけの騎士だった。
だったら私にかけられたこの呪いと関係があるはずだし、解除方法も含めて話を聞いた方がよさそうだ。
私は魔力を全身に巡らせると、最大限の警戒をしながらこの男の後をついて行った。
宿屋の廊下や階段にも親衛隊のみんなが点々と倒れており、外ではセレン姉様とダンだけでなく、街の住人たちまでがその場にうずくまるように眠らされていた。
全てが眠りについた街を、男と二人で教会へと歩いていく。
だが教会の地下へと降りる扉の前で、私は後ろから呼び止められた。
「待ってネオン! 行っちゃダメ!」
「そこから先に進むのはやめろ!」
セレン姉様とダンが眠りから覚めたのか、フラつきながらも私を追いかけて来たのだ。
その地下への扉には私の額と同じ不気味な紋章が浮かび上がっており、男がその扉を開くとさっきの地下室ではなく魔法障壁が展開されていた。
目を凝らしても中の様子が分からず、ここを通るのが本当に恐い。
そんな私の気持ちに気がついたのか、
「私を信じてついてきて欲しい。この通りだ」
そう言って懇願する男の目は、嘘をついている者のそれではなかった。
それにこの男の顔、どうもどこかで見たことがあるような気がする。
男を信じて、私は魔法障壁を越えた。
「行かないでネオン!!」
◇
熱い・・・街が燃えている。
ここは教会の外なの?
教会の地下へと降りたつもりが、気がつくと私は教会の入り口に立っていた。
「王都の軍勢が攻めてきたのだ」
そう口にしたのは私の隣には立つ先ほどの男で、逃げ惑う街の住民たちは助けを求めて教会の中へと次々と逃げ込んでいく。
「セレン姉様やみんなは?」
私が尋ねると男は、
「みんな無事だ。それよりも私に付いて来てほしい」
男は教会ではなく城門の方へと歩いて行き、私も男の後ろをついて歩く。
その巨大な城門には城壁へ登る階段が付いており、さらにその上に登ると監視台から街の外を一望することができる。
そして今まさに2つの軍勢がぶつかって、激しい戦いが繰り広げられている最中だった。
この街を守る軍勢の数が明らかに少なく、圧倒的な数の敵に包囲されてそれほど時間がかからず全滅してしまいそうに見える。
だがよく見ると、守勢の魔導騎士から放たれるその強力な魔法が、敵の軍勢をまとめてなぎ倒していった。
あの魔法は!
「あれは我らメルクリウス騎士団が得意とする爆裂魔法、エクスプロージョンだ」
「メルクリウス騎士団・・・」
男が口にした騎士団の名前に私は驚いたが、それよりも戦慄が走ったのは戦場に立つ騎士の一人一人がまるでセレン姉様のような強力な魔法を撃ち放っていたのだ。
「何なのこの騎士団・・・強すぎる!」
それでもやはり多勢に無勢。
人間なので魔力もいつかは尽きる。
そしてその時彼らは、人生の最後を迎える。
「君に頼みがある。この二人を逃がしてやってはくれないか」
監視台の柱の陰に隠れていた若い男女が、私の前に姿を現した。
女の方は私と同じ白銀の髪に赤い目をしていて、お腹が大きく膨らんでいる。
「わかった。私に任せて」
「すまない。できれば王都の奴らの目に触れないどこかの辺境の地に送り届けて欲しい。この二人は我が一族の最後の希望なのだ」
私はコクリと頷く。
「そしてこれは教会の地下室のさらに奥底に眠る、誰も知らない神殿へとつながる鍵」
「教会の下に神殿?」
「そうだ。我らメルクリウス家が先祖代々守って来たその神殿を、この鍵とともに君に託す。後のことを頼む・・・我が子孫よ」
私は鍵を大事に握りしめると、二人を連れてここから脱出した。
「ここは?」
セレン姉様にそっくりなその女は、不安そうにキョロキョロと辺りを見渡している。
「ここは街の冒険者ギルド。いまから転移陣を使ってあなたたちを逃がしてあげる」
「無駄よ! この王国のどこに逃げても、必ず探し出されて私たちは殺される」
女は悲しそうにうつむいた。
だけど私は知っている。
この若い夫婦が必ず助かる世界でただ一つの場所を。
「いいから私を信じて付いて来て」
私は二人を説得して、転移陣に魔力を込めた。
「行きましょう。安住の地プロメテウスへ」
「ここから先が中立地ボロンブラーク伯爵支配エリアになっていて、その最果ての地に伯爵の住まう領都ボロンブラークがあるの。そこの領主に事情を話せば、きっとあなたたちをかくまってくれるはず」
最初は怯えて何も信じられないといった二人だったが、私の必死の説得が通じたのか、西へ向かうと約束してくれた。
「色々とありがとう。おかげで生きる望みができました。そう言えば、あなたの名前をまだ聞いていなかったわね」
「私の名前・・・」
この若い夫婦が平和な人生を全うできるように、私は自分の名前をハッキリと伝えた。
「私はネオン。ネオン・フェルームです」
「フェルーム・・・」
何度も何度も私にお礼を言った二人。
そんな彼らが去っていく後ろ姿を見送りながら、いつしか私は意識を失っていた。
◇
「ネオン! ネオン! しっかりして、ネオン!」
セレン姉様の声が聞こえる。
目を開けると、教会の地下へと続く扉の前に私は横たわっていた。
「ネオン! 本当によかった無事で・・・」
セレン姉様が私を抱きしめて泣いている。
「額の模様も消えたようだし、無事で何よりだ。しかし驚いたぞネオン。さっきまで誰もいなかったのに、気がついたらお前がそこに倒れていたんだからな」
ダンが心配そうに私を覗き込んでいるし、その後ろには親衛隊のみんなが涙を浮かべていた。
そうだ鍵!
「みんな聞いて! この教会の地下深くにメルクリウス家が代々守る古代の神殿が隠されているの!」
「メルクリウス家だと? てことはアゾートの奴が何か隠しているのか?」
「そうじゃなくて本物のメルクリウス家! それよりこの鍵を見て!」
私は懐に大切に仕舞ってあった鍵をみんなに見せた。
ズシリと重いその金属の鍵は、赤く怪しげに光っている。
「何だそりゃ・・・それが地下神殿へと続く鍵なのか?」
私は大きく頷いた。
「これはすごい・・・」
教会のさらに地下深くに、本当にその神殿は隠されていた。
しかもその最奥には古代魔法文明のものと思われるあの祭壇があったのだ。
「やったなネオン!」
「よっし!」
私が見つけた私の神殿。
ご先祖様から私に託された、先祖代々の大切な神殿とその鍵。
そこにある祭壇は私の力では起動することができないが、ここにどんな秘密が隠されているのか、早くアゾートに解明してほしい。
「じゃあ、一度プロメテウスに戻ろう。アゾートたちと合流しないとここの調査ができないからな」




