第79話 3つのキーワードを求めて
秋の叙勲式出席のための公欠届を学園に提出した俺たちは、第13層の祭壇のキーワードを求めて3か所の古代遺跡の探索をスタートさせた。
領都プロメテウスと王都アージェントは片道7日、往復で計14日かかるため、この期間中に3つのキーワードを全て集めて、魔法障壁の向こう側、つまり第14層以下の探索も行けるとこまで進めたい。
その前半戦として俺とマール、フリュの3人のチームとそれ以外全員のチームの2つに分けて攻略を開始。3日後に一度プロメテウス城で合流してお互いの状況を確認することになった。
さあ、クエスト再開だ。
◇
ということで、俺はマールと2人でエッシャー洞窟に来ていた。
「新入生歓迎ダンジョンで来たこの洞窟に、再び来ることになるとはな」
「半年前なのに何か懐かしいね。あの時はサーシャ先輩やサー少佐、キース先輩もいたけど今日は二人っきり」
そう言えばキース先輩たちとは夏休みが明けてからあまり話をしていないが、みんな他のクエストを楽しんでいるのだろう。
俺もこうして古代遺跡へとやって来た訳だし、さあ冒険の始まりだ!
「何かデートみたいね」
「デートって・・・」
俺の出鼻をくじくようにマールが楽しそうに笑っているが、確かに今回の目的地は洞窟入口にある祭壇だし、この前みたいな魔獣の出るエリアには入らない。あの毒虫の沼も通らないのだ。
しかも完全に観光地化しているエッシャー洞窟は、デートスポットとしても人気。マールの言っていることはあながち間違ってはいないのだ。
「洞窟の入口とは言えあの祭壇のある石室は立ち入り禁止エリアにあるし、まずは魔法協会に行って許可を得よう」
「協会ならあっちの建物ね」
マールが俺の腕を組むと、エッシャー洞窟に隣接する魔法協会の建物に向かった。
「あの時は君たちのお陰で助かったよ」
前回のクエストで顔馴染みになった研究者が対応してくれたおかげで、彼の随行での祭壇調査許可があっさりおりた。
その彼によると、この前通った洞窟内は既に整備が終わっており、毒虫の沼も埋め立てられ今は安全に通り抜ける事ができるようになったらしい。
「ここだ」
研究者と雑談しているうちに気がつくと祭壇のある石室に到着していた。
俺は石室の中をじっくり見渡す。
最初に天井付近に目線を移したが、ここには縁取りのような装飾はない。
偏光グラスを使って他に怪しい壁画がないかも入念にチェックしたが、特に目につく壁画もなかった。
「何もないか。よし祭壇をチェックするぞマール」
「うん!」
高さ3メートル近くある祭壇。
その中央部分に設けられた神棚。
ここに様々な神具が並べられたとされる直方体の空洞に、俺はマールと二人で上半身を突っ込んだ。
【光属性初級魔法ライトニング】
すぐにマールが魔法を発動させて狭い空洞内を照らすと、奥の真っ黒な壁面がスクリーンへと変化した。
「あ、アゾート見て見て! このマークってクレイドルの森ダンジョンの祭壇にあったのと一緒ね。縦に並んだ上から2番目のやつ」
「本当だ・・・あの縦に並んだ3つのマークはそれぞれの祭壇を示すものだったんだ。ここは2番目の祭壇で・・・あ、画面が切り替わってなんか数学の問題っぽいのが出てきたぞ」
スクリーンには一切の説明文が表示されていないが、縦横に直線が交差した平面座標上に原点を中心とした円が一つ描かれている。
円と2直線の交点にも記号が記されており、X軸の記号が「1」であることは分かっているがY軸の記号の「?」はまだ分からない。
そのグラフの右側には記号がズラリと並んでいるが、この記号の一部は0〜9までの数字を表すことが既に分かっているため、手元に用意したメモに数字に置き換えたものを書いてみる。
7◻️4○3
5◻️5△1
8◻️2☆3
0◻️(マーク2)☆?(マーク1)○1
(マーク2)はエッシャー洞窟を示し、(マーク1)はまだ何処なのか分からない。
ただここまで書くとこれが数式であることはすぐに分かるし、手元のメモをさらに分かりやすく書き直してみる。
7=4+3
5=5✕1
8=2∧3
0=(マーク2)∧?(マーク1)+1
やはり古代魔法文明は、数学の問題を通して我々に自分達の遺産を受けとる価値があるかをテストしているようだ。
「マール、ここはもう終わりだ」
「えっ、もう終わり?」
「ああ。ただ時間が余ったので、魔力回復ついでにどこか遊びに行くか」
「やったあ! じぁあ何かおいしいものを食べに行こうよ」
「いいね! マールは何が食べたい?」
「アゾートが好きなものなら何でもいいよ」
「マールって確か肉料理が好きだったよね。そこにするか?」
「うん!」
そんな2人の様子を後ろで見ていた研究者は心の中で思った。
ボロンブラークからわざわざ何しに来たのかと思ったら、前と同じように祭壇の中に頭を突っ込んでイチャついているだけ。
何かをピカピカ光らせて遊んだり、そうかと思えばデートの予定を話し合う二人に、彼女いない歴=年齢の研究者は思わず毒づいた。
(何しに来たんだこのバカップル! 俺の前でイチャつくんじゃねえ!)
◇
私、ネオンが率いる別動隊はフィッシャー辺境泊領にあるとされる古代魔法遺跡を探すために領都エーデルの冒険者ギルドに来ていた。
今日はクレイドルの森ダンジョンではないため冒険者のオッサンたちは来ておらず、カインとサーシャ、ユーリの3人も都合が合わないらしく今回の王都の秋の叙勲式も不参加となる。
泥棒ネコ1号・・・もといフリュオリーネは王都アージェントの祭壇の調査許可を得るため魔法協会とシリウス教大聖堂の根回しに向かっているし、泥棒ネコ2号もといマールは、私のダーリンと二人でエッシャー洞窟に向かってしまった。
サー少佐はプロメテウス領の銃装騎兵隊を率いて引き続き盗賊の討伐作戦の任にあたっているので、今日のメンバーは私とセレン姉様、親衛隊のみんな、ダン、パーラ、アネットである。
ほぼ全員が女のパーティーにあって、唯一の男であるダンがギルドの受付嬢との会話を終えて戻って来た。
「ネオン、ギルドで調べてもらったがこの辺りには古代魔法文明に関係しそうなダンジョンや神殿はまだ見つかっていないそうだ」
「だとすると、まだ未到達エリアが残っているこの2つのダンジョンが怪しい」
「どれどれ?」
さっき入手したばかりのフィッシャー辺境伯領の地図をテーブルに広げると、みんながそれを覗き込んだ。
酒場でたむろっている冒険者から聞いたダンジョンの場所にXを入れておいたが、あのドット絵の地図の場所からは少し外れている気がする。
私はドット絵が示す付近を大きく丸で囲む。
「この辺りでそれっぽい場所ないかな?」
「街が一つあるだけで他は何もない場所みたいだな。やっぱり未踏破のダンジョンが怪しいと思うけど、念のため見に行ってみるか」
「ついた。この街だ」
私たちが到着したのは、しっかりした城壁に守られた大きな街だ。だが中に入ると街の建物はどこか古びており、人影も疎らであまり活気がない。
そんな中、街の中心に一際目立つ大きな建物があった。
「あの建物は?」
「街の教会かな・・・かなり古いけど」
「行ってみよう」
かなりボロボロの教会だが中は広い礼拝堂になっていて、奥の祭壇にはこの宗教の神であるシリウス神の石像が祭られている。
祭壇には花が飾られていて街の住人が毎日ここで祈りを捧げているのが分かる。
「完全に廃墟という訳ではないみたいだな」
さすがにそれは言い過ぎだと思うが、祭壇には古びた神具がいくつも並べられており、価値がないと思われているのか長い年月を経た今でも誰にも盗まれずに残っている。
私はそんな神具を一つ一つ、何か仕掛けがないか調べていった。
「ああっ! ね、ネオン様の手から血が・・・」
いつの間にか神具で指を切ってしまったみたいで、親衛隊のみんなが丁寧に手当てしてくれた。
その後礼拝堂の中をくまなく見て回ったが、怪しい所は特になかった。
「何処かに隠し通路とかなかったか?」
「祭壇の裏も見てみたけど、特に何もない」
その後この教会を待ち合わせ場所にして、私たちは手分けをして街の住民への聞き取り調査を行ったが、再び教会に集まってみんなで話し合ったものの手がかりになりそうな情報はなかった。
「どうやらこの街じゃなさそうね。未踏破ダンジョンの攻略に行きましょう!」
どうせ魔獣と戦いたいだけのセレン姉様が、ウキウキとした様子で教会から出て行った。
私もついて行こうと立ち上がると、だが後ろから私たちを呼び止める声が聞こえた。
神父さんだ。
みんなは礼拝堂から出て行ってしまったが、私は念のために古代魔法遺跡に関わる情報がないか神父さんにも尋ねてみた。
結論から言えば、手がかりはなかった。
そもそもこのシリウス教は一神教であり、古代魔法文明の女神を祀る祭壇がここにあるはずがない。
だが興味深かったのは、この場所が古くから聖地として崇められ、魔力に満たされた豊かな土地だったらしい。
今も多くの信者がこの教会に滞在し、病気や怪我を癒すために教会の地下で暮らしているとのことだ。
私は神父さんに案内され、地下を見せて貰った。
「すごい・・・街のようですね」
そこは地下街と呼べるほど多くの部屋が並んでおり、大広間では子供たちが元気に走り回っている。
「ここにいるのは王都アージェントで弾圧を受けた者たちです」
「弾圧・・・」
「先の政変で王様が変わり、古いしきたりを尊ぶ信者たちを弾圧して、新しいしきたりに従わせようとしています。だが古いしきたりを捨て切れない者たちはみな処刑されるため、この教会に逃げてきたのです」
「シリウス教の信者を処刑って・・・王都では今そんなことになってたんですか!」
「はい。ここは辺境伯領ですので王国から一定の自治が認められていますし、だからそういった者たちが逃げ込んで来るんですよ」
私は神父さんに連れられ、医務室のような部屋に入った。
「この人は?」
ベッドには全身怪我と火傷だらけの男が横たわっていた。
「我ら街の住人を王都の軍勢から守ってくれている騎士様です。もしよければ医薬品を分けて頂けないかと思い、ここにお連れしました」
その騎士は私に気がつくと、震える手を伸ばして私に助けを求めてきた。
私はマールと違って治癒魔法が使えないので、騎士の手を握ると怪我がよくなるよう神に祈った。
「あいにく手持ちはないので、必要なものがあれば今から購入して来ます」
私がそう言うと神父さんは大喜びし、不足している医薬品のリストを紙に書きとめるとそれを私に手渡した。
神父さんが教会の外まで見送りに来てくれたので、外で待っていたみんなに神父さんを引き合わる。だが、
「さっきからなに独り言を言ってるんだネオン。気持ち悪いな」
ダンが怪訝な顔で私のことを見る。
「独り言って、神父さんが見送りに来てくれたから挨拶を・・・」
「神父? そんなのどこにもいねえぞ。街の住人も言ってたけど、この教会には長い間誰も住んでいないらしいし」
「ダンこそ何言ってんだよ。神父さんはここに・・・」
後ろを振り返るとそこには誰もおらず、だが次の瞬間、みんなが叫び声を上げた。
「きゃあっ、ネオン様!」
「うわあっ! ななな何だよそれ!」
みんなが私を見て騒ぎ出したのだ。
「どうしたの?」
「どうしたのじゃないよ! お前の額に不気味な紋章が浮かび上がってるぞ!」
「え?」




