第73話 古代からのメッセージ
魔獣を倒した俺たちは、その先にある洞窟に足を踏み入れた。
それほど深くない洞窟の最奥には扉があり、そこを開けると中はエッシャー古代遺跡と同じような石室になっていて、壁には祭壇が置かれている。
祭壇のすぐ近くには次の層へ続くと思われる細い通路があって、そこにモヤがかかったような魔法障壁が展開されていた。
その近くには下半身のみの遺体が異臭を放っており、クランリーダーに頼んで石室の外に埋葬してもらった。
「これでようやく祭壇の調査が始められる」
俺とマールが祭壇を調査をする間、最低限の護衛としてネオンとセレーネ、フリュオリーネの3人だけを残して、他の全員は石室の外で待機してもらった。
そして前回同様、二人で祭壇の中に上半身を突っ込むと、備え付けてあったレンズを目に当てマールのライトニングで照射してもらった。すると、
「なんだこれは・・・」
祭壇奥の黒く塗りつぶされた壁面がコンピューターのスクリーンに変わると、そこに写し出されたのは見覚えのない3種類のマーク。
それが縦一列に並んでおり、その右側には四角が多数並んでいる。
画面の一番下には楕円形のアイコンがあり、配置的に何となく「確定」ボタンのような気がする。
上の四角を指でクリックするとそこに別のマークが表示されるが、クリックするごとに切り替わるどのマークも俺が初めて見るものばかり。
おそらくこれがキーワードになっているのだろうが、正しく入力すればこの魔法障壁が消えるのかもしれない。
その後祭壇の中を色々と調べてみたが、それ以上のヒントは見つからなかった。
「これだけじゃさっぱりわからん」
お手上げ状態の俺が祭壇から離れると、護衛に当たっていたネオンたちも俺の傍に集まってくる。
俺はモニターから得られた情報を彼女たちに伝えた。
その後、石室を埋め尽くす壁画からもヒントを得ようとレンズを通して隈なく調べていくが、これと言ったものが見当たらない。
「ちょっと貸して」
ネオンが俺からレンズを奪い取ると、周りの立体画像に目を丸くしていた。
「すごい何これ! 何で壁画が立体に見えるの?」
「私も初めて見たときはすごく驚いたの」
マールとネオンが「キャッキャ」とはしゃぎながら二人で立体画像を楽しんでいる。
それに興味を持ったセレーネとフリュオリーネも順番で立体画像を楽しみ始めた。
しばらく考え込んでいた俺だったが、ふいにフリュが話しかけて来た。
「アゾート様。一つだけ立体にならない壁画があるのですが、何か意味があるのでしょうか」
立体にならない壁画?
そんなものなかったはずだが・・・。
「フリュ、どの壁画のことを言っている?」
「あの一番上です」
「一番上? 壁画なんかどこにもないが」
「天井と壁面を隔てるように描かれた、縁取りの図柄です」
「縁取り・・・」
よく見ると確かに天井ギリギリの位置に石室をぐるりと一周するように縁取りがされている。
ただこれは縁取りであって壁画ではない。だが次のフリュの言葉に俺はハッとする。
「白と黒の模様が無作為に並んでいて、何か意味を持っているように思われましたので」
「・・・無作為だとっ!」
よく見ると確かに白と黒のドットが一列かつランダム並んでいる。俺はこれがキーワードのヒントであるとすぐに確信した。
「ありがとうフリュ! ネオン、あの模様を紙に写しとっていこうぜ」
「分かった!」
俺とネオンが正確に縁取りを模写し終わると、
「ネオン、白と黒のドットは全部でいくつあった」
「1679個」
「俺も同じだ」
1679。
この数字、間違いない。
「これが謎を解く鍵で間違いないと思う。同時に、外の冒険者たちにはこのダンジョンの攻略が絶対に不可能なのも確信した。今日はこのままプロメテウス城に帰ってもいいだろう」
ダンジョン攻略の鍵を見つけた俺は、逸る心を抑えて平常心を装い、石室の外で待つクランリーダーに告げた。
「何か分かるかもと思ったのですが、どうやらすぐには難しそうです。俺たちは明日学校があるので今日はもう帰ります」
「え、学校?」
ポカンとする冒険者たちを置いて石室を後にした俺達は、第13層入り口の転移陣からこのダンジョンを脱出した。
◇
深夜、4階の当主部屋にコッソリ集まったのは、俺、ネオン、マール、ダン、カイン、セレーネ、フリュオリーネの7人だ。
「あんなにあっさりと帰って来ちまって本当に大丈夫なのか。あいつらが先に攻略するかもしれないぞ」
ダンが心配そうに俺を見ているが、
「大丈夫、あいつらには絶対攻略できない。その理由もちゃんとあるんだ」
「どんな理由だよ」
「まあ聞いてくれ。あの魔法障壁は力業では絶対に攻略できないってこと。そもそもこのクエスト自体、最初からランクAではなかったはずだろ?」
「ああ。夏休みに俺が見つけた時点ではランクBだったし、最初Cだったものがランクアップしたと聞いていた。それに依頼内容も魔獣討伐ではなく調査団の護衛だったし、魔法障壁の突破方法の解明でもよかったからな」
「魔獣の強さが目立っていてつい勘違いしそうだけど、遺跡調査の専門家でも分からない魔法障壁の突破方法が腕っぷしだけの冒険者に解明できるはずがないんだ」
「それもそうか。あいつらバカっぽいしな」
「それに第13層の魔獣を倒したパーティーはこれまでにもいたんだろ?」
「ランクAの武闘派パーティーをはじめ、何組かはいたはず」
「それでも誰もクリアーできていないのは、魔法障壁を突破する方法が少なくとも力業ではないからだ」
「なるほど・・・」
「ちなみにあの魔法障壁は、行き先の異なる転移陣が同時に展開されたもので、そのまま通ると上半身と下半身が別々の場所に転移されたり、下半身だけが石室に残されたりする」
「マジかよ・・・でもどうしてそれが分かったんだ」
「ゴーレムを使って色々試してみたんだ。戻って来なかったり下半身だけ戻ってきたりで、まともな状態で帰還できたのは一体もなかった」
「うげっ・・・」
「ところでこのクエストの依頼者は王国魔法協会だ。彼らはなぜここが古代魔法文明の遺跡だと分かったか。それは彼らがこの第13層まで来てあの石室も調査したからだ。魔法協会所属の魔導騎士ならあの魔獣どもを突破することは十分可能だし、俺と同じような方法で魔法障壁の正体が転移陣であることも遺跡の本体があの転移陣の向こうにあることも承知しているはず」
「なるほど・・・そして彼らは自力で魔法障壁が解除できなかったから、手当たり次第に各町の冒険者ギルドにクエストを出したと」
「そういうこと。つまり王国魔法協会の魔導騎士を含めて第13層の魔獣を倒した強豪パーティーの戦闘力をもってしても魔法障壁の突破はできていない。だから戦闘力以外の何かがダンジョン攻略の鍵となる」
「それを聞いて安心したぜ。でも万が一にも奴らが突破方法を見つけたらどうする? 世の中に絶対という言葉はないんだぜ」
「それはそうだが、あの石室で俺たちが描いた縁取りの模写が万に一つもないことを教えてくれている。1679。ダンにはこの数字の意味が分かるか?」
「・・・いや、分からん」
「これは古代魔法文明から俺たちへ宛てられたメッセージ。若しくはテストと言ってもいいだろう」
「テスト・・・だと?」
「それを今から説明する。ネオン、白と黒の石を用意してくれたか」
「大丈夫、ちゃんと持ってきたよ」
「よし。ではいまからその謎解きをしよう」




