第72話 第13層の攻略
ダンジョン攻略もさすがに第10層からは簡単に行かなくなった。魔力の強い魔獣が多数出現して、単純な力押しが通用しなくなったからだ。
それでも死力を尽くして第12層まではなんとか攻略。第13層に到着したのは2日目の昼過ぎだった。
予定ではとっくに帰る時間でみんなの疲れもたまっている。弾薬は使い果たし魔力も心許ない。
「今回はここまでとしよう。無理することはないしプロメテウス城に戻ろうぜ。もちろん今夜もご馳走するしウチに泊って行ってくれ」
そんな俺の言葉にメンバーたちはみんなホッとした様子。
そして第13層入り口の転移陣に向かって歩き出したその時、背後から俺達を呼び止める声が聞こえた。
「ちょっと待てよ、兄ちゃんたち」
振り返るとそこにはあの『蒼バリ』のひげオヤジたちがいた。
またコイツらかよ・・・。
「やはりお前らもここまで来ちまったか。俺達は先に着いてたんだけど3日前からずっとここで戦ってててかなり苦戦を強いられている。お前らのことは気に入らないが攻略を手伝ってくれないか」
「えええ・・・」
蒼バリだけならそのまま見捨てて帰るとこだったが、その背後には別のパーティーメンバーもいてどうやら複数パーティーでクランを結成しているようだ。
・・・話だけでも聞いておくか。
「状況を教えてくれ」
俺が尋ねると、クランのリーダーらしき男が説明を始める。
聞くと、目下の敵は水属性の大型龍を中心に風属性の中型龍が5体、火属性の炎鳥もまだまだたくさんいる。
3日かけて半数以上を削ったらしいが、メンバーの損耗も激しく態勢を整えるために一旦休息を取りに来たらしい。
・・・残り半数以下。彼らを助けるかは微妙なところだな。
俺たちにはもう時間がないし、できれば攻略は来週にしたい。
だが第12層にいた他のパーティーがこのクランに合流すれば3日かからずクリアーしてしまうだろう。
その後の魔法障壁が簡単に越えられるとは思わないが、この冒険者の数を見ると先を越されるのはあまり嬉しくない。
今だと残り半数以下の敵を倒せばこの先にあるはずの祭壇まで到達することができるし、味方になるクランの手勢もざっと40名程度いるから、そこにウチの戦力が加われば今日中に攻略できるかもしれない。
例え無理だったとしても来週に向けた情報収集ができるので、戦って損はない。
クエスト報酬は半分以下になるが、そもそも俺の目的は新魔法の入手だからそこはどうでもいい。
だったら一時的に共闘するのもありか。
「なあみんな。これからもう一戦やる力は残っているか?」
そう尋ねると、セレーネとフリュ、ネオンの3人は特に問題がなさそう。
そしてダンたち前衛盾職はまだ体力が残っているみたいだ。
一方他の女子たちは魔力が底を尽きかけており「前面には出ず後ろでサポートに徹するなら何とか・・・」という感じだった。
「協力してもいいですが、条件があります」
「分かった、何でも言ってくれ」
「古代魔法文明の祭壇調査は、先に我々にやらせてください」
「祭壇調査? それなら全然構わないぞ。なんたって俺たちの目的は調査団の護衛ではなく、あくまで魔法障壁の突破だからだ」
「あれ? もしかして調査団はここに来てないのですか」
「ああ。第13層の魔獣が強すぎて、ある程度駆除されるまでは近づかない方針だと聞いている」
「なるほど・・・」
俺たちと彼らの目的はまるで違っている。
「では協力しましょう」
◇
彼らに案内されて魔獣討伐の現場にいくと、巨大な水龍を囲んで5体の風龍がこちらに睨みをきかせており、その上空を100体以上の炎鳥が旋回飛行を見せていた。
その魔獣たちから放たれる魔力が禍々しく肌に突き刺さるようだ。
本能でわかる。魔力は遥かに相手が上。
つまり単純な力押しではこちらの魔法攻撃が全く通用しない可能性が高い。
「ダン、カイン、少佐、オッサンたち。俺達の魔法は当てにせずに、地道に削っていってくれないか」
「よっしゃ、任せておけ!」
クランメンバーに混じって剣を抜くダンたちを尻目に、俺はセレーネ、フリュオリーネ、ネオンを呼ぶ。
「担当を決めよう。属性的には水龍はセレーネ、風龍は俺とネオン、炎鳥はフリュだが、炎鳥はともかく龍に魔法が通用するかはわからない。何か策はあるか」
「今のところは何も・・・まずは一戦交えて情報を集めましょう」
フリュがそう提案すると、セレーネが「任せて」と言ってすっと前に出た。
【焼き尽くせ、無限の炎を、万物を悉く爆砕せよ:火属性上級魔法エクスプロージョン】
「総員伏せろ!」
俺の声とほぼ同時に、セレーネの全力の爆裂魔法が水龍に炸裂。強烈な閃光と爆発の衝撃波がクラン全体を巻き込む。
俺はネオンとフリュとで張った3重の全体バリアーに魔力を込めながら、エクスプロージョンの効果をじっくりと観察した。
「やっぱり効いてない・・・水龍は無傷だ」
多少のダメージは期待したが、水龍はその周りを覆うように水属性のバリアーを展開して爆発から身を守っている。他の魔獣たちもその恩恵を受け、爆発に巻き込まれることなく風龍、炎鳥ともに健在である。
「フリュはどう思う」
「あの水龍を倒さない限り、一切の魔法攻撃は通じないと思った方が良さそうですね。そしてもし効果があるとすれば物理ダメージが主体の魔法攻撃。例えばアゾート様のウォールのような・・・」
「分かった。では今度は俺とネオンでウォールの効果を確かめてくる。できるだけ接近するからセレーネはバリアーで俺達を守ってくれ」
「「わかった!」」
龍の周りはエクスプロージョンによって大量の水蒸気が発生しており、それでも余った水龍の水バリアーがその役目を終えて地面に降り注いで濁流となった。
俺達は向かってくる濁流に逆らって水龍に向けて走り出すと、それを阻止しようと前方2体の風龍が致死性の暴風を巻き起こす。
だがセレーネの展開する強力なバリアーでそれを受け流すと、2体の間をすり抜けて水龍に肉薄した。そこで立ち止まると、
「今だネオン! できるだけ広範囲にまき散らすぞ!」
【永遠の安住地:土属性初級魔法ウォール】
【永遠の安住地:土属性初級魔法ウォール】
水龍を中心に広範囲の地面が銀色の金属で埋め尽くされると、それに怒った水龍の魔力が再び上昇を始める。
「よし全力で逃げろっ!」
水龍が再び水バリアーを発生させるとすぐにアルカリ金属との化学反応が始まった。
背中にスパーク音が鳴り響く中、セレーネのバリアーに守られた俺たちは無事安全圏に脱出した。
魔力によらない化学の爆裂魔法。
純粋な物理ダメージの連鎖反応に龍達が包み込まれて行く・・・。
「これでダメージが蓄積されていくはずだが、その効果が分かるまでは時間がかかりそうだ。決定打には程遠いだろうがな」
次の手をどう打つか考えながら自陣に戻ると、フリュの隣にマールが立っていた。
「マール様のパルスレーザーを使います」
「あの水龍にか? あの魔法は確かに純粋な物理ダメージではあるが、水龍の分厚い皮は貫けないぞ」
「アゾート様に水龍を足止めしていただいたおかげで、いい作戦を思いついたのです」
そう言ってフリュが詠唱を始めたので、俺は彼女を信じて二人の護衛に回った。
上空から襲い来る炎鳥にダンたち盾職を含むクランメンバーが防いでくれているが、とにかく数が多いために苦戦を強いられている。
まとめて薙ぎ払いたいところだが炎鳥に火属性魔法は効かないので、俺たちも剣を抜いて敵を追い払う。
そしてしばらくすると、フリュの魔法が完成した。
「この魔法陣は!」
【水属性固有魔法・絶対零度の監獄】
フリュの放ったその魔法は、連鎖反応に苦しめられていた水龍を絶対零度の氷の監獄に閉じ込め、その動きを完全に停止させた。
そしてマールも既に詠唱を終えており、いつでも魔法を撃てる状態にあった。
「水龍の目を正確に狙ってください。撃てっ!」
パーン!
フリュの号令を合図に放たれたマールのジャイアントパルスレーザーが、氷の監獄をすり抜けて水龍の右眼球を吹き飛ばし、脳髄に直接のダメージを与えた。
「エグっ・・・マールはスナイパーかよ」
「マール様、もう一度お願いします」
フリュがさらに魔力を込めて氷の監獄を必死に維持する。その隣ではマールの詠唱が再び始まる。
【ぱぷりか ぽぷりか ぴかるんるん ミラクルライトで きらめき ときめき チャームアップ:光属性固有魔法パルスレーザー】
乾いた破裂音とともに水龍のもう片方の目を見事に吹き飛ばしたマール。
それを見たフリュが魔法を解くと、氷の監獄がすーっと消えて水龍が解放された。
だがその両目から大量の血と脳髄が流れ出すと、水龍のその巨体が力なく地面に崩れ落ちた。
「やったのか・・・」
水龍がまとっていた禍々しい魔力のオーラが霧散していくと、炎鳥を加護していたオーラも急速に小さくなっていった。
水龍は絶命したのだ。
「ではアゾート様たちは風龍をお願いします。わたくしは残りの魔力を使って炎鳥を全て倒しますので」
「了解した!」
再び駆け出した俺たちが風龍を3方から取り囲むと、これまでの鬱憤を晴らすかのようにファイアーを連射。
3人の高速プラズマ弾を一身に浴びた5体の風龍がやがて力尽きると、今だ連鎖反応を続けているアルカリ沼へと沈んでいった。
残るは炎鳥。
だが後ろを振り返ると、残り全員の魔力で作られたマジックバリアーの中で、天を衝くような膨大な青いオーラを発したフリュが魔法の杖を掲げている。
そんな彼女が作り出したウィンドカッターの暴風が、上空の炎鳥をまるで紙屑のように切り裂いていた。
◇
魔獣討伐を終えた俺は、魔力も体力も底が尽きて大の字で地面に横たわった。
「はあ・・・はあ・・・きっつう・・・」
すぐには動けそうにない俺の周りに、クランメンバーたちがぞろぞろと集まってきた。
「・・・冗談だろ、こいつら」
「まさかこんな短時間で魔獣どもを倒すなんて・・・」
「一体何者だよコイツ・・・」
「魔法の威力が凄まじすぎる。化け物かよ」
「だが本当に助かった。俺達だけでは攻略できたかどうか」
口々に驚嘆を漏らす冒険者たちに答える元気のない俺に代わって、ダンとサーシャの二人が対応してくれた。
「おいお前ら。約束どおり古代遺跡の祭壇は俺達が先に調査するからな」
「も、もちろんだ・・・それよりアンタら強いな。魔法障壁の向こうにも何が潜んでいるか分からないし、俺達のクランに加わって一緒に冒険をしないか。もちろん分け前は多めに渡す」
「申し訳ありませんが結構です。私たちは報酬目的でクエストをしているわけではありませんし、そもそもあなた方とはスケジュールが合いませんので勝手にやらせていただきます」
「・・・そうか残念だ。まあもし俺達の力が必要になればいつでも言ってくれ。協力は惜しまないぞ」
「ありがとうございます。ではその時が来ればお願い致しますわ」
ポーションを飲んでしばらく体力回復に努めると、なんとか歩けるぐらいには回復した。
今回は本当にギリギリの戦いだった。それが証拠にあのセレーネとフリュまで足がふらついている。
「今回はフリュの作戦勝ちだな。さすがは軍師殿だ」
「どういたしまして、アゾート様」
「ねえアゾート、私にも何か言葉はないの?」
「セレーネ、ナイス火力!」
「どうせ私は火力だけの女ですよ」
俺たちフェルーム一族にとって「ナイス火力」は最高の誉め言葉だが、どうやらセレーネのお気には召さなかったようだ。
だが頬を膨らませて拗ねるセレーネがかわい過ぎる。
「ねえアゾート、私には?」
ネオンか・・・。
「お前には特に何もない」
「なんでよ! せっかく頑張ったのに」
「頑張ったのは分かる。だがお前は俺の分身だから、お前を誉めると自画自賛になってこの俺が恥ずかしい」
「なっ!」
その途端ネオンの頬が真っ赤に染まった。
俺は知る由もないが、その言葉はネオンにとって一番欲しい言葉だった。




