第70話 プロメテウス城の晩餐会
プロメテウスギルドに全員が帰還に成功したことを確認した俺は、リーダーとしてねぎらいの言葉を掛けた。
「みんなダンジョン攻略お疲れさま。今日は俺んちに泊まってゆっくり疲れを癒してくれ」
結局クレイドルの森ダンジョンを第8層まで一気に攻略した俺たちは、全員怪我もなく第1回目のトライを終えた。
ギルドを出ると外は夜空になっており、俺たちは街明かりが輝く城下町の中心部に向かって歩き出した。
「なあアゾート、本当に俺たちもお前んちに泊まっていいのかよ」
心配そうに俺に尋ねるオッサンたちに俺は、
「もちろん構わないさ。晩飯も用意してあるし風呂で疲れを癒してくれ」
「さすがはお貴族様だ。それじゃ遠慮なく」
だが家の前まで到着すると、オッサンたちが唖然とした。
「お前んちって、まさかプロメテウス城じゃないだろうな。ここはボロンブラーク伯爵家が所有する要塞城だろ?」
「よく知ってるな。でもここはサルファーから俺が貰ったんだ。メチャクチャ汚い城だが、遠慮なく入ってくれ」
「・・・ただの貴族と思っていたら、まさかここの領主だったとは」
尻込みするオッサンたちに対し、クラスメイトはみんな楽しそうだ。
城門を潜り抜けて広い庭園を城まで歩くと、使用人をズラリと引き連れた母上が俺たちを出迎えてくれた。
「みんないらっしゃい。部屋を用意したので服を着替えたら食堂にいらっしゃい。お風呂は部屋の外にもあるから仲良く順番に使ってね」
そんな母上がテキパキと客間をみんなに割り振っていく。
「おいお前ら、酔っぱらってお嬢さんたちに手を出すんじゃねえぞ」
サー少佐が念のために釘を刺すと、
「誰が出すかアホ! 早死にする趣味は俺にはねえ!」
そう、第8層まで全く出番のなかったオッサンたちは、彼女たちの恐るべき戦闘力を十分すぎるほど理解しているのだ。
「心配いらないわよ少佐。部屋は鍵がかけられるし、みんなも安心してね」
そう言って母上は、部屋の鍵をみんなに手渡していった。
「しかし、随分とキレイになったな・・・」
一週間ぶりに帰ってきた我が家は、以前と比べてホコリやカビ臭さがなくなっており、汚れもあまり目立ってない。
「これでもかなりがんばって掃除したのよ。アゾートの部屋はまだ終わってないけど」
4階の当主部屋はベッドの交換など必要な改修と清掃がまだ終わっておらず、俺は3階の家族部屋の一室を使っている。
その部屋に戻ろうとすると、なぜかネオンが俺の後ろについてきた。
「お前には2階の客間を貸してやっただろ。早く行って着替えてこいよ」
「だって私はアゾートの弟という設定だよ。なのに2階に泊まるのはおかしいと思う」
「あそっか、確かにそうだ! お前にも3階の部屋を用意しないとウソがばれる」
俺はキリキリと痛み出した胃を押さえながら、母上に3階の部屋の鍵を貰いに行こうとして、ハタと止まった。
「いや、ちょっと待てよ。そもそもウチの両親は、お前が俺の弟として騎士学園に通ってることを知らないんじゃないのか?」
俺がそうつぶやくと、ネオンもハッとした顔で俺を見た。
「お義母様からはセレン姉様と同じ2階の客間の鍵を渡されたから、ひょっとすると知らないのかも・・・」
「危なっ! 晩餐会の前にこのことに気づいてよかったぜ。おいネオン、今すぐ説明に行くぞ。それから母上のことは『お義母様』じゃなく『母上』と呼べよ。さもないとみんなにウソがばれる!」
「うん、わかった!」
結論から言おう。
俺たちは両親からメチャクチャ怒られた。
「ばかもん!」
「「ひーーーっ!」」
どうやらウチの両親はネオンをただの「変な子」としか認識しておらず、ネオンのすることはいつも意味不明なのであまり深く考えないようにしているらしい。
そして男装をしてるのも当主命令だから仕方ないぐらいの認識しかなく、まさか騎士学園の男子寮に兄弟として一緒に住んでいるなど夢にも思わなかったそうだ。
つまり完全にやぶ蛇。
父上は俺にクドクドと説教をした上で「年頃の娘と何か月も男子寮で同居していたなんてとんでもない」と、ネオンのせいなのにまるで俺が悪いみたいに怒られてしまった。
しかも「こうなったらちゃんと責任を取れ」とか、「ネオンを嫁に貰うからダリウスに挨拶に行くぞ」とか言われ、完全に巻き込み事故なのにとんでもない話の流れになってしまった。
そしてネオンも母上から「はしたない」だの「傷物になった」だの「もう嫁の貰い手が見つからない」だのガミガミ叱られていたが、当の本人は全く堪えておらず、むしろニヤリとほくそえんでいる。
コイツ、本当に憎たらしい。
そして両親から一通りのお説教をもらった後、ネオンは3階の家族部屋の一つをまんまと借り受けることになった。
◇
2階の食堂で晩餐会が始まった。
30人ほどの少人数の会食のため、広い食堂にはまだまだ余裕がある。
シャンデリアの灯りに照らされたテーブルには豪華な食事がズラリと並べられ、ダンジョン探索で空っぽになった胃袋を満たしたみんなは、今日のダンジョンの話や学園生活の話などで盛り上がった。
そしてネオンは俺の父上と楽しそうに話している。
「じゃあこの娘たちはみんな、お前の護衛騎士なのか」
「その通り。彼女たちはみんな僕の親衛隊なんですよ父上。ハッハハハ」
俺と父上の間にまんまと座って領主家ヅラで調子にのるネオン。俺は耳元で注意する。
「おいネオン。あまり調子に乗ってベラベラ喋ると、そのうちボロが出て全部バレるぞ。少しは口を慎め」
「心配性だなアゾートは。大丈夫、大丈夫」
コイツのせいで、せっかくの豪華な夕食なのに胃がキリキリして食事が喉を通らない。
そして母上を挟んで反対隣りに座るセレーネが、ナイフとフォークを握りしめてプルプルと小刻みに震えている。
ネオンに対して完全にブチ切れたご様子で、この後は恒例の姉妹ゲンカが待っている。
そんな俺の予想が当たり、プロメテウス城の庭園を舞台に始まった姉妹ゲンカは、エクスプロージョンの応酬という形で深夜の城に爆裂音が響き渡った。




