第59話 この愚かな貴族にチェックメイト
走りながら聞いた父上の話をまとめるとこうだ。
ゴダード男爵も降伏し、アウレウス騎士団を主体とするフォスファー軍がフェルーム領を包囲したのが昨日のこと。
直ちに攻撃が始まると思われたが、結局何もないままその日は終わった。
そしてつい先ほどフォスファー軍から停戦の申し入れがあり、アウレウス騎士団の指揮官ザッパー男爵との会談が急遽セットされた。
そこで分かったのは、フォスファー騎士団が数日前から戦場を離れて消息が分からなくなり、そこにフリュオリーネも同行しているらしいとのこと。
この内戦の主導者が二人とも姿を消してしまったため、残された騎士団は戦いを継続することができず、いったん停戦を申し入れたのだ。
また、噂の域はでないもののフリュオリーネがどこかに監禁されているという情報もあり、彼女の安全を考えたアウレウス騎士団はフリュオリーネの捜索を最優先にしたいという事情もあった。
「仮にフォスファーがフリュオリーネをどこかに監禁しているとすれば、それを我々が先に助け出してアウレウス伯爵との交渉カードにできるのではと考えている。ということでお前も捜索を手伝ってくれ」
その話を聞いた瞬間、俺の頭にあの出来事が思い浮かんだ。
「プロメテウス城だ! 一昨日の夕方、フォスファーの姿をそこで見た」
「なんだとっ!」
俺がその時の状況を詳しく話すと、
「こうしてはおれん! 直ちにプロメテウス城に精鋭部隊を向かわせるぞ」
「いや父上、誰でもいいのでとにかく魔力保有者をかき集めて、冒険者ギルドの転移陣を使って城下町プロメテウスに跳躍させてくれ。俺たちフェルーム家なら魔力押しで制圧した方が早い。俺はネオンと先に行ってる」
「わ、分かった! だがフォスファーは魔力だけならサルファーよりも上。くれぐれも気をつけろよ」
◇
城下町プロメテウスの冒険者ギルドに跳躍した俺とネオンは、さっそく城に向かって走り出した。
途中、警備兵らしい騎士の姿を何度か目にしたが、プロメテウス城に詰めている騎士の数はそれほど多くはなさそうで、敵に気づかれることなく城に接近できた。
「ネオン、もう少し近づいてみよう」
城門正面には屈強な護衛騎士が10数名ほど警備に当たっており、俺たちは彼らに見つからないよう裏口にまわる。
城の通用口には荷物の搬入をしている兵士が数名いたが、俺たちはその兵士たちを倒して通用口から中に侵入した。
「・・・カビ臭くて汚い城だなあ」
ネオンがブツブツ文句をいいながら、俺の後を付いてくる。
「この城は元々サルファーが住んでいたらしいが、父のボロンブラーク伯爵が倒れたため領都ボロンブラークに移り住んだんだって。だから掃除なんかしてないんじゃないか」
しかし数年ほったらかすだけで、城はここまで汚くなるのか。
俺たちは物陰に隠れながら城内を探索する。
「でもダンジョンみたいで、逆に面白いよね」
「だな。夏休みに入ってからまだどこにも行けてないしな、俺たち」
「ダンが面白いダンジョンを見つけたって言ってたし、この戦争が終わったら二人で行ってみようよ」
「こらネオン! それは死亡フラグと言って、決して口にしてはいけない呪いの言葉なんだ。「この戦争が終わったら」というフレーズだけは絶対に使うな」
「はあい」
使用人たちが働くエリアをしばらく歩くと上へ続く階段が見つかった。
「もしフォスファーがいるとすれば城主の部屋だろうな。そういうのは上階にあるはずなので後回し。フリュオリーネの捜索が優先だから下へ続く階段を探そう」
俺たちは階段には上らず、そのまま1階の探索を続けた。そして通路の行き止まりの扉をゆっくり開けると、
「ここは?」
「どうやら城の大広間に出たみたいだ」
さっき厨房もあったし、この扉は使用人が料理を運ぶための通路らしいが、その大広間から男の声が聞こえた。
「そこにいるのは誰だ!」
俺たちはすばやく剣を抜いて声のした方に構えると、玉座から立ち上がったフォスファーとバッタリ目が合ってしまった。
「しまった、こっちにいたのか」
俺がそう口にすると、フォスファーが忌々しげな目を俺に向けた。
「貴様はあの時いたアゾートだな・・・」
まだ満身創痍で剣は使えなさそうなフォスファーだったが、魔法は使えるのか杖を構えて呪文の詠唱を始めた。
フォスファーとの戦いはやはり避けられないのか。
「ネオン。ここでフォスファーを倒すぞ」
「おう!」
俺はフォスファーの詠唱を邪魔するために速攻でファイアーを放ったが、マジックバリアーに跳ね返された。やはりフォスファーには俺の魔法攻撃が通用しない。
さてどうするか・・・。
「ネオン、剣で奴を攻撃してみてくれ」
「分かった」
知覚魔法で加速したネオンが全力で物理攻撃を当てていくが、剣でもダメージが通らない。今の俺たちでは、魔法でも剣でもフォスファーを倒すことができない。
他に攻略法がないか利用できそうなもの見渡したが、何も見つからないまま俺の頭上に魔法陣が展開した。
「この魔法陣はまずい!」
【無属性固有魔法・超高速知覚解放】
【風属性固有魔法・インプロージョン】
一瞬早く俺の魔法が発動し、世界がスローモーションに変化する。
そこで俺が見たものは、刹那の時間に周りの空気が圧縮されて形成された球状の衝撃波だった。
逃げるんだ・・・。
両足を力いっぱい踏みしめて、後方に思いっきりジャンプする。
シュボッ!!
間一髪、俺の制服の胸元が見えない何かに削られた。
あぶねえ・・・。
その次の瞬間に襲ってきたのは、前方からの突風。
衝撃波の中心にできた超高圧の気体が一気に解放され、俺は身体ごと後ろに吹っ飛ばされたのだ。
「うわあっ!」
「クックック! いやあ惜しかったなあ。ようし、今度こそ当ててやるぞ。ウヒ、ウヒヒヒヒヒ」
バランスを崩して後ずさりする俺に下卑た笑いを見せつけるフォスファー。
魔力だけはサルファーより上という話は伊達じゃなく、魔法の才能だけでいえば間違いなく天才の域に入っている。
「ウヒヒヒ! 魔法もだめなら、剣もだめ。フェルームと言っても所詮は騎士爵。伯爵家である僕に反抗するのがそもそも間違っているのだ」
そう言って高圧的な態度を取るフォスファーだったが、奴の魔力は本物だしインプロージョンを撃たれるのはやはり危険だ。
もう少しいろいろ試してみたかったが、遊んでいる余裕はない。
「仕方ない、あれをやるか・・・」
「俺」の魔力では確かにフォスファーに攻撃が通らない。
だが「俺たち」の魔力なら話は別。
俺はネオンに叫んだ。
「俺の攻撃のタイミングに完璧に合わせてくれ」
「そう言うと思った。任せてよアゾート」
「行くぞネオン!」
俺たちは同時に左右に散開。まずは様子見の一発。
【【焼き尽くせ】】
左右から同時に放たれたプラズマ弾は、鏡面に移された写像のように完璧なタイミングでフォスファーに着弾した。
「ぐわあああっ! なぜだ・・・なぜ俺はダメージを受けた」
やはり攻撃が通った。
「次は剣で行くぞ! コンビネーションA」
「おう!」
これまでネオンとは何百回、何千回と組み手を繰り返してきた。
これはその時に練習した剣術のコンビネーションの一つで、身体に刻み込まれたその動きは目をつぶっていても身体が勝手に動いてくれる。
その鍛錬の成果を、今ここでフォスファーにぶつける。
「「うおおおおおおっ!」」
完全に同じ動き。
俺たちだからできる2倍攻撃。
一瞬のズレもない俺たち二人の剣戟が、フォスファーの防御力を大きく超えた。
「うぐうっ・・・こいつらまるで同じ動き。何なんだこの攻撃は!」
仮に二人の容姿が同じならば、鏡に映った写像といっても疑う者がいないほどの、正確無比な同時攻撃。
それが無数に繰り出され、フォスファーのダメージをみるみる蓄積させていった。
「「とどめだ!」」
ネオンにもう何も言う必要はない。
「やめろおおおっ!」
俺たちは言葉なんか使わなくても、互いに次の行動が手に取るように分かるのだから。
【【煉獄の業火をもって 焼き尽くせ:火属性初級魔法ファイアー】】
現在判明している全ての日本語詠唱呪文を使用して、俺たちが作れる最大級の高速プラズマ弾を左右同時に叩きつけた。
「ぎゃああああああっ!」
全身を炎に包まれ、力なく床に崩れ落ちるフォスファー。
「俺たちの勝ちだ」
今後の交渉のカードに使うため、コイツにはまだ利用価値がある。だからギリギリに状態で生かしてやった。
「おいバカ貴族。フリュオリーネをどこに監禁しているか言え」
「・・・僕はしらない」
「お前は俺たちに負けたんだ。言わなければ今ここで殺してもいいんだぞ」
「・・・・・」
「お前はどうせ処刑される。だったら腕や足をここで全て切り落としても、誰も文句を言わないだろう」
「ひ、ひいいいいいっ!」
「それが嫌なら、早く言え」
「し、処刑なんて嫌だ。僕はまだ死にたくない。た、助けてくれ・・・」
「アホか。それ決めるの俺じゃねえし自分で引き起こした戦争の責任ぐらい自分で取れ」
「無理だ。頼む・・・お前から口添えを」
「そんなの知らねえよ。それよりフリュオリーネはどこだ!」
「こ、この城の地下牢だ・・・だから頼む、俺を助けてくれ」
「だったらサルファーにでも命乞いしろ」
「うあああああ・・・」
いとも簡単に白状したが、ここに来て命乞いとはダリウスが言うように、コイツは腰抜けで正解だったようだ。
「もしフリュオリーネが居なかったら、この場でお前を始末するからな。おいネオン、ここでコイツを見張っておいてくれ」
「分かった。アゾートは早く交渉カードを助けに行って!」




