第54話 アゾートvsスキュー男爵
中央広場を埋め尽くした両軍が見守る中、そのド真ん中で対峙する俺とスキュー男爵。
この男爵は水属性魔法の使い手で火属性の俺とは相性が悪い上に、当主でしかも成人男性であるためその魔力は決して侮れるものではない。
安い挑発に簡単にのるアホ貴族ではあるが、学園の生徒たちと同列に考えては痛い目に会うし、まずは様子見だ。
【焼き尽くせ 無限の炎を:火属性中級魔法フレアー】
男爵の頭上に出現した魔法陣から範囲魔法フレアーが発動し、灼熱の業火が彼を蹂躙する。
「効いてない・・・」
だがフレアーの炎の中で仁王立ちするスキュー男爵は全くダメージを受けていない様子。
つまり男爵の魔力が想定よりも高く、俺のフレアーでは魔法防御を突破できなかったということだ。
【焼き尽くせ】
次は初級魔法ファイアーとなるが、俺の放った超高速プラズマ弾が男爵にヒットする。
「グッ!」
こちらはダメージが通った。
その理由だが、おそらく最初のフレアーで相手のバリアーを削ることはできていたらしく、さらにこのファイアーは通常のものと異なり、熱エネルギーと運動エネルギーを直接ぶつけているので、男爵の物理防御を突破できたということ。
つまり戦い方を工夫すれば、俺の魔力でも十分に戦えるということだ。
「よし、ここからが本番だ」
俺の言葉に、スキュー男爵はその表情をこわばらせる。
(あり得ない・・・これが騎士学園に入学したばかりの下級貴族だと? エース級の魔導騎士じゃないか! それに魔法の発動が異常に速すぎる。本気でかからないとヤバい!)
「ヤツを撃て!」
スキュー男爵は突然、背後に控えていた護衛騎士に矢を射るよう命令した。
「ちょっと待て、汚いぞ!」
一斉に放たれた対魔力保有者用の特製の矢が俺のマジックバリアーをどんどん削っていくが、スキュー男爵は平然といた顔で、
「汚いも何も、護衛騎士は私の身体の一部であり、決闘にそれを使って何が悪い」
「はあ? そんなの聞いてないし」
だがサルファーやダリウスが文句を言うそぶりを見せてないし、どうやらこの世界と俺では一騎打ちの定義が異なるようだ。
ていうか俺には護衛騎士なんか一人もいないし、だったら親衛隊のいるネオンに決闘を任せればよかったわ。
だがそうも言ってられないし、俺は動きを加速して矢を避けることにした。
【無属性固有魔法・超高速知覚解放】
周囲の景色がスローモーション化し、真っすぐ射かけられた矢の動きがハッキリ見える。
俺はダンスのステップを踏むように全ての矢を紙一重でかわすと、護衛騎士の列に突入して超高速の剣技で片っ端からなぎ倒していった。
「速いっ!」
男爵の護衛騎士をすべて始末した俺は、今度はスキュー男爵に向けて剣を叩きつける。
だが男爵の物理防御力が勝ったため、俺の剣が通らなかった。
これはつまり、俺の物理攻撃力では男爵のマジックバリアーを貫けない。つまり剣での戦闘は男爵に対しては無効ということ。
【水属性中級魔法アイスジャベリン】
一方、自分の護衛騎士が全滅しても心を乱さず魔法の詠唱を終えた男爵の頭上に、何本もの氷柱が姿を現した。
「アイスジャベリン!」
これは鋭利な氷柱を高速で敵にぶつける騎士団御用達の攻撃魔法で、俺はすぐに男爵から距離をとったが間に合わず至近距離からそれを食らってしまった。
「グッ!」
全ての氷柱が同時に殺到したためファイアーで応戦したが間に合わず、とっさに出した右腕に氷柱が刺さってしまったのだ。
かなり出血が酷く右手の剣が地面に落ちる。
俺は剣を拾わず背中に背負った魔法の杖を左手に掴んで、男爵からいったん距離をとることにした。
「よく1本だけで防ぎ切ったな。誉めてやろう」
悪い笑みを浮かべながら俺に向かってそう言った男爵は、再びアイスジャベリンの詠唱を始めた。
◇
その後戦いは互いに距離を取っての魔法の撃ち合いとなった。
次々に発射されるアイスジャベリン弾を俺のファイアーで撃ち落とし、俺の高速プラズマ弾はスキュー男爵が展開した水の弾幕に完全に遮断される。
「アホ貴族だと舐めていた訳じゃないが、やはり男爵家当主は伊達じゃないな」
当たり前だが魔力は俺よりもスキュー男爵の方が強く、このまま戦っても魔力に劣る俺がジリ貧。
それを理解しているスキュー男爵は、かなり強気に出ている。
それが証拠に、男爵の頭上にはどえらい数のアイスジャベリンが浮かんでおり、それを一斉に発射しやがった。
【水属性中級魔法アイスジャベリン】
アイスジャベリンによる飽和攻撃で俺を串刺しにするつもりらしく、だが俺はそれを高速プラズマ弾ではじき返す。
【焼き尽くせ】 【焼き尽くせ】 【焼き尽くせ】
ファイヤー三連斉射でアイスジャベリンを撃ち落とすが、発射と同時に男爵はこちらに走り出して俺との間合いを一気に詰めて来た。
ここで勝負をつける気だな・・・。
だが・・・今だっ!
【永遠の安住地:土属性初級魔法ウォール】
俺はただ漠然と魔法の撃ち合いに応じていた訳ではない。
アイスジャベリンを避けたり中級魔法フレアーで蒸発させたりずに、あえて初級魔法ファイアーで撃ち落としていたのは氷を溶かして水にするためだ。
結果、中央広場の石畳にはあちらこちらに水たまりができているし、俺と男爵の間にはたった今できたばかりのひと際大きな水たまりがある。
そこに男爵が足を踏み入れた瞬間、俺は土魔法ウォールを放ったのだ。
もちろん出現したのは土なんかではなく、毎度おなじみアルカリ金属の皆様だ。
すぐに水との反応がはじまり、俺は全力でその場から逃げた。
「な、なんだこれは・・・うぎゃああああっ!」
爆発的な化学反応によってあっと言う間にスキュー男爵のマジックバリアーが消し飛び、物理防御を失った彼の全身に降り注ぐアルカリ腐食液。
アルカリ金属の沼が次々とスパークを始め、発生した水素が爆発して周囲に衝撃波を放った。
慌てて消火活動に入ったフォスファー軍のおかげでますます激しく燃え上がる化学の炎。
そんな地獄からなんとか這いずり出してきたスキュー男爵は全身大やけどで瀕死の重傷。誰がどう見ても戦闘を継続できるような状態ではなく、初戦はサルファー軍の勝利が確定した。
俺のこの勝利に、周囲の観衆は何が起こったのか全く理解できずただポカンとした表情を浮かべており、ひとりネオンだけが顔を真っ青にしてドン引きしていた。
◇
「・・・やはりアゾートの魔法だったのね」
この戦いの一部始終を見ていたわたくしは、スカイアープ平原でフェルーム偽装部隊が逃走ルートに仕掛けた謎の大爆発の正体がこの魔法であることを確信した。
アゾートが発動したのは、何の変哲もない土魔法ウォール。
土塁を作ったり騎士団の妨害に使われるだけのこの初級魔法を、まさか攻撃の切り札に使うなんて。
しかも土が盛り上がったようには見えず、代わりに現れたのは白銀の金属だった。それも一瞬で、あっという間に燃え上がって爆発したように見えた。
アゾートの魔法の使い方はやはり異質。
少なくとも彼の発想は、この時代の知識をはるかに超越した所にある。
余ほどの天才なのか、あるいは誰も知らない古代魔法文明の隠された知識を持っているのか。
わたくしはずっと彼が我がアージェント王国を崩壊に導く可能性ばかりを考えていたが、彼の知識はとても有用で殺してしまうには惜しい存在。
うまく利用できれば我が王国のためになるし、ブロマイン帝国に対して軍事的優位に立てるかも知れない。
少なくともあの帝国にだけには絶対に渡せない。
この戦争が終わったら、お父様に相談してみた方がよさそうね。
◇
「フリュオリーネよ、何をボーッとしている。そなたの出番ではないか」
ふと気が付くとフォスファーが隣にいて、わたくしに声をかけていた。
そうだった。次はわたくしが戦う番ね。
今だ燃え盛る炎を避ける形で、少し離れた場所にゆっくりと現れたセレーネ。
白銀の長い髪に赤い瞳を持つこの少女は、ボロンブラーク騎士学園ではわたくしのライバルと目されていた。
「・・・そうですね。では行ってまいります」
わたくしはそう告げると、彼女に向かって歩き出した。




