第48話 出陣
この世界の暦は1年を12月(星の名前)、1月を4週間(神の名前)、1週間を7日(火水風土雷光闇)としている。
正確に表記するとやたら長くて分かりにくいので、暦を数字に置き換え日本風に表記してみた。
これでここからの戦いの経過が分かりやすくなるだろう。
◇
8月4日(土)晴れ
サルファー派閥連合騎士団(通称、サルファー軍)は、フォスファー派閥連合騎士団(通称、フォスファー軍)をスカイアープ渓谷に誘い出してこれを叩くべく、進軍を開始した。
まずは我が軍の陣容を見てみよう。
ボロンブラーク伯爵騎士団 1000(サルファー直轄)
フェルーム騎士団 500
ワイブル騎士団 100
ゴダード子爵騎士団 500
アラモス騎士爵 100
リバモア騎士爵 100
モジリーニ男爵騎士団 500
ルノール騎士爵 100
ボッチチ騎士爵 100
伯爵1、子爵1、男爵1、騎士爵6、総勢3000の兵力である。
一方フォスファー軍は総勢2500(伯爵1、子爵1、男爵2、騎士爵6)にアウレウス騎士団3000を加えた総勢5500の陣容で、我が軍の約2倍の戦力だ。
次に今回の戦場となるボロンブラーク伯爵家支配エリアを見てみる。
東西に長いこの支配エリアはアージェント王国南西端に位置しており、西側と南側は全て海、北側は山岳地帯となっている。
つまり王国内の他領へ行くには海路か支配エリア東端にある要塞プロメテウス城を通過しなければならず、この要塞のおかげでボロンブラーク伯爵支配エリアは他領から攻められにくい天然の要害として平和を享受してきた。
そんなボロンブラーク伯爵家支配エリアには伯爵家直轄領の他に臣下17貴族家の領地が存在しており、2年前の内戦の結果大規模な領地替えが行われ、エリア西側にサルファー派貴族家の、エリア東側にフォスファー派貴族家の領地が並んでいる。
それぞれの位置関係が分かりやすいように支配エリアを南北に3分割(N1~3)、東西に7分割(E1~7)して大まかな位置を表現してみると、騎士学園のある領都ブロンブラークは支配エリア西端に位置しており座標は(N2E7)となる。
領都の東側は南にゴダード子爵領(N3E5)、北にモジリーニ男爵領(N1E5)が隣接しており、この二つの領地の間にはスカイアープ渓谷(N2E5~6)が横たわっている。
このスカイアープ渓谷も天然の要害となっており、領都への直線最短ルートとして通商ルートに利用されているものの、所々道幅が狭くなっていて大軍の進軍には不向きとなっている。
よって大軍を領都ボロンブラークまで進軍させるには、南のゴダード子爵領か北のモジリーニ男爵領を突破する必要がある。
よって今回の作戦は、このどちらかの領地への侵入を許す前にスカイアープ渓谷東側平原(N2E4)で敵を迎え撃つことにある。
なおモジリーニ男爵領の東側、今回の戦場に選ばれた平原のすぐ近くに、俺たちフェルーム騎士爵家の領地(N1E4)がある。
そしてフェルーム領よりも東側はフォスファー派の貴族たちの領地となっており、俺たちフェルーム騎士団にはサルファー派貴族たちを守る役割が元々求められている。
その代わりとして、騎士爵家にしては広大な領地と強靭な騎士団を持つことが俺たちフェルーム家には許されていた。
そんなフェルーム騎士団が放った斥候が、フォスファー派各騎士団がアウレウス騎士団と合流すべく進軍を開始したことを察知した。
◇
「アゾート、サラース男爵に吠え面をかかせて来い」
「了解だ」
サルファー軍主力1400も既にボロンブラーク城を出発し、ここフェルーム領の南東に位置する決戦の地に到達するまであと3日となった。
敵主力が合流するまでまだ少し時間があり、分散している敵兵力をできるだけ削っておいた方がいい。そう判断した当主ダリウスは、フェルーム領の東に隣接しているサラース男爵領への先制攻撃を決断。
その先陣を切るという大役を、俺が率いる銃装騎兵隊が担うことになった。
「サラース男爵騎士団を前方に確認。約300の兵力で南下中。スキュー男爵領へ進軍している模様」
どうやらフォスファー軍は、スキュー領で全軍を集結させスカイアープ渓谷の南側に位置するゴダード子爵領を突破するルートを選択したようだ。
「よし、敵をこの林道におびき寄せて銃装騎兵隊の射撃により殲滅する。俺とセレーネで敵を分断し、その半数を足止めしておくので、ネオンは親衛隊とともに残り半数を林道に誘導してくれ」
「「了解」」
俺とセレーネは敵中央に爆裂魔法を放り込むため、敵騎士団に向けて馬を走らせた。
ところで俺とセレーネは速さを重視した戦い方に特化しており、他の騎士たちが装備しているような重い盾や鎧は身に着けていない。
それどころか動きやすく丈夫な騎士学園の制服を着用しているが、これは魔力保有者がその魔力の大きさに応じて得られる防御力を持っているためで、自分の防御力を超える強力な攻撃を受けない限り、いかなる攻撃もはじき返してしまう。
そんな制服の二人が馬を並べて平原を疾走する。
空は青く澄みわたり、風も心地いい。
これがデートなら最高なのだが、今からここは文字通り灼熱の戦場に変わる。
「いくぞセレーネ。合図と同時にデッカイのを頼む」
俺は鞍に掛けてあった魔術具を手に取ると、そこに魔力を込めて作動させた。
【軍用魔術具・アンチ魔法防御シールド】
学園で展開されている魔法防御シールドは、騎士団の防御用魔術具としても普通に使用されている。
それを無効化するのが今俺が使ったこの魔術具であり、敵に魔法攻撃を敢行する直前に使用するのがセオリーだ。
この魔術具によって自分たちのバリアーが突然消滅したサラース騎士団は、当然俺たちの接近に気づいてしまう。
「敵が気づいた。セレーネ撃て!」
【焼き尽くせ、無限の炎を、万物を悉く爆砕せよ:火属性上級魔法エクスプロージョン】
敵騎士団の真ん中あたりにエクスプロージョンが炸裂。
巨大な爆炎が発生して、騎士たちの一部を無残に吹き飛ばした。
「よし敵が散開したぞ。その一部がこちらに向かってくる」
範囲魔法で全滅するのを避けるため、間隔を空けてこちらに向かってくる敵騎士団。スペースを上手く使って小賢しい。
【永遠の安住地:土属性初級魔法ウォール】
俺は馬を走らせながら、土魔法ウォールで土の壁を次々と作っていく。障害物を適当に散らばらせて敵の動きを鈍らせるためだ。
これで時間稼ぎをしつつ、敵の目をこちらに引き付けておく。
「セレン姉様の攻撃が始まった。僕たちはなるべく目立つように、無様に逃げよう」
私は敵騎士団の正面にわざと姿を現し、ファイアー2発を放って彼らを挑発した。
そしてまんまと私に気づいた敵が、猛然とこちらに向かってくる。
「みんな、逃げろ!」
私の親衛隊のみんなが「キャーキャー」悲鳴を上げながら、馬を走らせる。
その全員が騎士学園の制服を着ているから、悪者に襲われている令嬢感が出ていて悪くない。
みんなの芝居が功を奏したのか、調子に乗った敵騎士団が猛烈な勢いで私たちを追いかけてくる。
こうして敵をうまく林道に誘い込めた私たちは、銃装騎兵隊の潜むエリアを通り抜けて、そのまま林道を走り去る。
一方、私たちを追って一列で林道を駆ける騎士団の側面に、林に潜んでいた銃装騎兵隊が突然姿を見せた。
「撃てっ!」
サー少佐の命令を合図に100発の銃声が林に鳴り響き、サラース騎士団の騎士たちが次々と落馬していく。
「敵襲! やつら林の中に隠れていた。生き残っている者は、すぐに林から脱出するんだ!」
敵騎士団の指揮官が、初弾で生き残った騎士に指示を出す。
「馬を撃つな! 狙いを騎士に定めて一人残らず撃ち殺せ! 絶対に生きて返してはならん!」
銃装騎兵隊はこの戦いの行方を左右する秘匿兵器であり、スカイアープ平原の決戦までは絶対にその存在を知られたくない。
それゆえサー少佐は、騎兵隊の隊員たちに冷酷な命令を下さざるを得なかった。
林の外に何とか逃げ出せた敵騎士たちも、銃装騎兵隊の執拗な追走を受けて最後には壊滅した。
「歩兵は一人もおらず、騎士ばかり120人か。初戦の遊撃戦にしては上出来だ。作戦成功の狼煙を上げてここを撤退するぞ!」
「作戦が成功したみたいだ。俺たちも撤退するぞ」
「わかった」
【永遠の安住地:土属性初級魔法ウォール】
俺は障害物を敵進路に多数作り出し、もたつく敵騎士団に向けてもう一発セレーネにエクスプロージョンをお見舞いしてもらった。
こうしてうまく敵を振り切った俺たちは、銃装騎兵隊には合流せずにそのまま東に向けて走り続けた。
そう、俺たちの本当の狙いは北部エリアに展開する敵騎士団にプレッシャーを与えること。そしてスキュー男爵領に集結しつつある敵兵力を北に引き寄せるための陽動作戦だ。
上手くひっかかってくれればいいのだが、果たして・・・。
◇
「姫様。サルファー軍が北部エリアに侵攻を開始し、散発的ですが戦闘が開始された模様です」
ボロンブラーク伯爵支配エリアの東端にある要塞プロメテウス城(N2E1)を出発したわたくしたちは、ゴダード男爵領に向けて兵を進めていた。
そして到着まであと3日の距離まで来た時、支配エリア全体に放っていた斥候からついに戦端が開かれたとの報が届いたのだ。
「どうしますか、姫様」
確認を求めてきたのは、アウレウス騎士団を率いる司令官ザッパー男爵だ。
父、アウレウス伯爵の腹心で、父から任された兵数3000の騎士団を今回統率する。
私は彼の軍師として、自分の意見を述べる。
「進路はこのまま、まずは友軍との合流を優先します。明日アラモネア子爵領(N1E2)を出発した騎士団と、二日目にはサラース男爵領(N1E3)の騎士団と合流し、三日目にスキュー男爵領(N3E3)に到達する予定に変更はありません。ただし状況によりどのルートを選択するかは、別途判断いたします」
「了解しました」
さて、我が軍の陣容を確認してみよう。
アウレウス伯爵騎士団 3000(ザッパー男爵)
ボロンブラーク伯爵騎士団 300(フォスファー直轄)
アラモネア子爵騎士団 700
スキュー男爵騎士団 700
サラース男爵騎士団 700
子爵1、男爵2、騎士爵6に我が騎士団を加えた、総勢5400の兵力である
フォスファー直轄の騎士団は直臣の騎士団を入れても兵数300であり、戦力としてはあまり当てにはできない。
お父様の騎士団が主力なのは仕方ないとして、あとは3家の中級貴族の騎士団総勢2100がどの程度機能するかだが、自領の守備も固めなければならないため、騎士の一部は参加できない可能性もある。
ボロンブラーク領内のお家騒動なのだから彼ら中級貴族が主体的に動く必要があるのだけれど、本当に大丈夫かしら。
しかし、北が騒がしい。
北ルートを通過するには、最初にフェルーム騎士爵領を攻略する必要がある。それを突破してもその背後にはモジリーニ男爵領が控えている。
ゴダード子爵領に比べてどちらも領都が小さく、防備も比較的薄いため攻めやすいのだが、やはりフェルーム騎士団が不気味で北ルートは選ばなかった。
その北エリアで散発的な戦闘か・・・。
どのぐらいの規模の兵力が展開されていたのか、とにかく情報がほしい。
明日、アラモネア騎士団に合流した時、何か情報が得られればいいのだが。




