第45話 当主ダリウスの即断
俺たちが本家に到着してそれほど時間も経たないうちに、俺の両親を含めた主要な分家筋を集めた当主ダリウス。
そこで俺たちから聞いた騎士学園での騒動と、そのきっかけとなったサルファーのセレーネへの求婚についての真相を話し始めた。
それは俺が初めて聞く話も多く、簡単にまとめるとこんな感じだった。
去年の秋にサルファーから当主にセレーネを側室にほしいとの相談があったが、当主はすぐにそれを断った。
その後もたびたび同じ相談をされたので、ネオンだったら側室としてくれてやると勧めたそうだが、これはキッパリ断られたらしい。
最期にはサルファーはセレーネを正妻として迎えたいと口にしたらしく、当主は「バカなことは二度と言うな」と断固反対した。
「お父様! 私はサルファーの側室になるのなんか嫌です!」
そこでネオンが口を挟むと、
「どうせ嫁に行くんだから、伯爵家の側室なら最高じゃないか」
「セレン姉様が欲しいと言ってるんだから、姉様がサルファーに嫁げばいいじゃないの。とにかく私は嫌よ!」
「フェルーム家の面子にかけてセレーネだけは絶対にダメだ! どうせお前ら2人はそっくりなんだし、お前も髪を伸ばせばセレーネと区別がつかん!」
「酷い! よくも愛娘に対してそんな暴言を吐けるわね。お父様は自分の娘を物か何かと勘違いしているのよ! アゾートからも何とか言ってよっ!」
ここで話を俺にふるなよ。お前は鬼か!
・・・仕方ない、俺が当主に現実というものを教えてやるか。
「当主様、さすがにセレーネとネオンの区別は誰にでも付きますよ。て言うか絶世の美少女とラスカル野郎は似ても似つかな・・・ぐはっ!」
ネオンが俺の足の甲を渾身の力で踏み抜いたが、今回のはかなり痛かった。
「アゾート、お前がいつも言っているセレーネとネオンの見分け方の話は、何度聞いてもワシには分からん。そんなことよりサルファーのバカがフリュオリーネとの婚約を解消してしまったことの方が重大だ」
「いやまあその通りですが、話を脱線させたのは当主様の方で」
「そうだったか? とにかく一度サルファーのバカから話を聞く必要があるが、今後の方針はフェルーム家だけでは決められん。ボロンブラーク領の主要な貴族を集めて作戦を話し合わなければな」
もはや当主はサルファーを完全に呼び捨てのバカ扱いで、主君への敬意は全くもって感じられない。俺にはその気持ちが痛いほどよく分かるがな。
その後当主は、各分家の役割分担とフェルーム騎士団の配置をテキパキと指示していったが、俺たち3人は当主とともに領都ボロンブラークにトンボ帰りすることとなった。
それはそうと、当主は本当にセレーネとネオンの顔の区別がついてないのか?
自分の娘だろ?
◇
「なんか気持ちが悪くなってきたよ、うぷっ」
ネオンが吐きそうになっているが、俺もそうだ。というのも、あの話し合いの後すぐに隣の食堂の転移陣を使って、再びボロンブラークの冒険者ギルドに戻ってきたからだ。
「騎士団の移動にも転移陣が使えたらいいのにな」
数名の護衛騎士を引き連れた当主ダリウスが、あっという間に領都ボロンブラークまで移動できたことに感心していると、それが難しい理由を俺は説明した。
「転移陣で跳躍する場合、距離に応じて相当な魔力が必要になるんですよ。今回もその護衛騎士の分の魔力を俺達がまかなったので、魔力の枯渇と転移陣酔いで滅茶苦茶気持ち悪いですよ。うぷっ」
「・・・そうだな。騎士団全員分の魔力を賄うためには大量の魔石が必要になるが、金がかかりすぎて割にあわないからな。だがボロンブラーク領の味方貴族の城同士は臨時でもいいから転移陣を設置しておいた方がよさそうだな。もちろんサルファーの金で」
ひとまず俺たちだけは転移陣を使って移動してきたが、後続としてフェルーム騎士団のうち100騎が今日のうちにこちらに向けて進軍を開始する手はずだ。
ちなみにフェルーム騎士爵家は、先の内戦の報奨として男爵家に匹敵する広さの領地を獲得。兵力も現在総勢500人規模の騎士団を持つまでに至り、400を自領の守りに残している。
「あれ? アゾート。まだ実家に帰ってなかったの?」
ギルドの掲示板の前でマールがクエストを探していたところ、ちょうど当主と戻ってきた俺たちと鉢合わせになった。
「いや、一度は実家に帰ったんだが、緊急の用事でまたこっちに戻ってきたんだ。俺たちは当分、学園にいることになると思う」
「そ、そうなの・・・。でそちらの方々は?」
「フェルーム家当主ダリウスとその護衛騎士のみなさんです」
「ええっ! い、いつもお世話になってます。学園でご一緒させていただいている、マール・ポアソンです」
慌ててお辞儀をするマールに当主はいい笑顔で挨拶を返した。
「ダリウス・フェルームです。我々は急いでいるのでこれで失礼するが、落ち着いたら一度領地に遊びにくるといい」
「はい!」
◇
俺たちは当主たちと共に学園に戻り、そこでサルファーをつかまえてボロンブラーク城へと移動した。
城の会議室で当主から問い詰められたサルファーは徐々に元気をなくしていき、自分の短慮に思い至ったようだ。
だが済んでしまったことは仕方がないので、今後の方針について話し合うことになった。
その数日後には、領内の主要な貴族家当主とその騎士団がボロンブラーク城に集結。各家の当主たちが連日連夜話し合った末に、アージェント王国内で親交の深い貴族家への根回しや情報収集を行うため、みんなバタバタと動き出した。
◇
大人たちが忙しそうにしている中、暇になった俺が冒険者ギルドに顔を出すと酒場で仲間たちとたむろっていたサー少佐が俺に話しかけて来た。
「アゾート。お前の依頼を受けることにしたよ」
「本当ですか! じゃあ今からお願いします」
早速サー少佐を連れてフェルーム領に向かおうと転移陣の使用手続きのために受付に向かったのだが、ネオンの周りを見知った女子生徒が取り囲んでいた。
「ネオン、そいつらはまさか・・・」
そう、そこには夏休みで実家に帰ったはずのネオン親衛隊が全員勢ぞろいしていたのだ。
「僕たちの一大事ということで、急ぎ駆けつけてくれたネオン親衛隊の皆さんです」
「見りゃわかるよそんなの! それよりみんな実家に帰らなかったのか?」
聞くとメンバーの何人かは俺たちと同じボロンブラーク領の騎士爵家の子弟で、ボロンブラーク城に集結した他家の騎士団の一員として、学園に進軍してきたそうだ。
それで他の親衛隊メンバーにも声をかけたら、転移陣を使ってこうして全員集まったらしい。両親の許可も得ているようなので心配しなくていいそうだ。
「夏休みに大切な娘さんたちを預かるんだから、怪我をさせないようにちゃんと面倒を見るんだぞ、ネオン」
「はーい」
フェルーム領の食堂に転移した俺たちは、サー少佐を紹介するため俺の両親が待つ隣のシティーホールに向かった。
「こちらは今度新設する銃装騎兵隊の指導をお願いすることにした、サー少佐です」
「ワルトファールスターク・バルトーカ・モホロビチッチと申します。以後お見知りおきを」
そう言えば、そんな長い名前だったな。
「失礼ですが、外国の貴族の方でしょうか」
俺の父のロエルが、握手をしながら少佐に聞いた。メチャクチャ長い名前だし、普通はそう思うよな。
「いえ、このあたりの村出身の平民です」
「そ、そうですか・・・。それでどのような訓練を指導いただけるのでしょうか」
父が俺に「本当に大丈夫か?」と不安そうな顔を向けているが、
「俺が考えたこの新兵器は少し運用が難しいんだよ。だけど冒険者ギルドで知り合ったこの少佐のスキルがあれば最強の騎士団が誕生するはず」
フワッとした説明だが、嘘はついていない。
「お前が言うのなら間違いないか。それではよろしく頼む」
当主の叔父である俺の父上の許可を得て、サー少佐がウチの騎士団の指導員に正式に着任した。
俺たちはその足で早速駐屯地に向かうと、そこには当主の命を受けて集まっていた100人の騎士たちが、それぞれ銃を手にして俺たちの到着を待っていた。
当主ダリウスから譲り受けた俺の精鋭部隊。
実に壮観である。
もちろんサー少佐も、目を丸くして驚いていた。
「これが銃装騎兵隊か・・・まさかこの異世界で本物の銃を持った軍隊お目にかかるとは思わなかった。実に壮観だ!」




