第44話 悪役令嬢への断罪
「今なんとおっしゃいましたか?」
「君との婚約を解消すると言ったんだ」
先ほどまで騒然としていたサマーパーティー会場は、サルファーの一言でざわめきに変わり、そして静かになった。
「サルファー・・・お前」
俺の聞き間違いでなければサルファーは今、全校生徒の目の前でフリュオリーネに婚約解消を宣言したのだ。
(((ゴクリ・・・ッ)))
予想外の展開に固唾を飲み込む生徒たち。
「婚約解消することの意味を、本当にお分かりでしょうか」
「承知の上だ。君にはもう我慢ができない」
フリュオリーネはあくまで毅然とした態度でサルファーに問いかけるが、サルファーも負けずに正面から彼女に向き合う。
「では、理由をお聞かせ願えますか」
「・・・今さらか。自分の胸に聞け」
「ハッキリと聞かなければ理由など分かりません」
「何度注意したにも関わらず、君がセレーネへの嫌がらせを続けたからだ」
「わたくしはやってません」
「取り巻きたちにやらせた」
「それはわたくしではなく、あの者達が勝手にやったこと」
「それと魔法団体戦でシャウプ先生に不当なルール変更をさせた」
「それも同じこと。私は何も存じ上げません」
「君は上級クラスの生徒たちの増長を野放しにした上、彼らの後ろ楯になった。その結果、学園の生徒達の間に分断が起きてしまった」
「でも、それをコントロールするのが為政者の役目」
「だが君は全くコントロールできていないではないか」
「それは・・・」
「僕の責任でもあるので全てを君に押し付けるつもりはないが、問題なのは僕と君とで意志疎通ができていないことだ。そんな君をこのまま妻に迎えても、今度は領地で同じような混乱が起きてしまう。僕はそれが怖いんだ。君と上手くやっていく自信が僕にはもうないんだよ」
サルファーの言葉に、人形のような白い顔を真っ青にさせたフリュオリーネが、ただただ呆然とたたずんでいる。
「君が王都の騎士学園に戻るのなら、君の取り巻きたちも一緒に連れて帰ってくれないか。もうこの学園に居てもらう必要もないだろうからな」
そんなサルファーの言葉に、フリュオリーネの取り巻きたちも顔を真っ青にして硬直している。
「誰でもいいから、今すぐシャウプ先生を拘束しろ! 校長とも相談するが、指導者として不適格だと王都の学園に突き返してやる!」
サルファーがそう命じると、生徒会役員たちが一斉に走り出した。
そしてもう一度大きなため息をつくと、サルファーは最後にフリュオリーネに告げた。
「これからはもう君と僕とは無関係だ。アウレウス公爵の派閥入りも白紙に戻すし、これでお別れだ」
サルファーはそれだけ言い残すと、踵を返してサマーパーティー会場を後にした。
そして一人取り残されたフリュオリーネは、その後ろ姿をただ呆然と見つめるしかなく、そんな一部始終を見せつけられた全校生徒たちもあまりの衝撃に唖然となり、会場は凍りついたように静まり返った。
それでもダンスを楽しもうとする剛の者はさすがにおらず、結局サマーパーティーはそのまま閉会となった。
◇
その翌日、夏休みの初日を迎えた俺たちは、それぞれの領地へ帰る友人たちとしばしの別れを告げていた。
「しかし昨日は本当にびっくりしたな」
「まさか一学期の最終日にあんな事件が起こるなんてな」
「ダーシュたち上級クラスの5人組は、昨日慌てて実家に帰っていったよ。上位貴族にとってはそれだけ大事件だったってことよね」
ダンとカイン、マールはまだ昨日の事件の衝撃が抜けきってない様子で、かくいう俺も本件に関しては何も考えがまとまらず、実家の両親や当主の考えを聞いてみるしかなかった。
「じゃあ落ち着いたらまた連絡するよ。それから自分の領地の冒険者ギルドへの登録は忘れずにしておけよ」
そう言い残して、ダンとカインは学園を後にした。
「じゃあ、俺たちも行くか」
学園に残るマールに別れを告げて、俺はセレーネとネオンと共に街の繁華街へと歩き出した。
◇
「私たちは3人だけだし、荷物もあまりないからギルドの転移陣で実家に帰ろっか」
実家までなら大した魔力も必要ないし、セレーネの提案に乗った俺たち。
早速いつものギルドに行って転移陣の使用申請を出していると、酒場のテーブルの方から俺たちを呼ぶ声がした。
「ようアゾート。久しぶりだな」
「サー少佐!」
最近ギルドに来る時間がなかったので、少佐を含めてギルドの冒険者たちに会うのは久しぶりだった。
「そういえば少佐にお願いしたいことがあったんですよ」
「俺にお願いだと? 何だ言ってみろ」
「この夏休み中だけでいいので、うちの騎士団を鍛えてやってほしいんです」
「お前んちの騎士団を? 冒険者の俺がどうして?」
騎士団と冒険者とでは得意とする戦闘技術がまるで違うし、少佐は自分に何を期待されているのかわからずポカンとしている。
だが俺は、少佐の耳元でこっそり教えた。
「あまり性能はよくありませんが、小銃を200丁ほど用意します。これで新たに銃装騎兵隊を結成しようと思うんですが、少佐にその指導をお願いしたいのです。もちろん米軍のノウハウで」
「まさか・・・」
「もしご了承いただけるなら、詳しく説明したいので一度うちの領地に来てもらって、実際にモノを見てほしいのです。もちろん報酬も弾みますがいかがですか?」
「この剣と魔法の世界に銃とは面白い。妻にも相談するから少し考えさせてくれ」
それから、少佐に俺の領地の場所と連絡手段を伝えて、俺たち3人は自領の冒険者ギルドに転移した。
◇
「あらまあ、セレーネお嬢様お帰りなさい。お二人もご一緒なのねえ」
「え? 食堂のおばちゃん?」
俺たちが転移したのは、当主や俺の両親など領主一族が仕事をするシティーホールの隣にある食堂だった。
この食堂、冒険者ギルドだったんだ・・・。
「フェルームの町は小さいからね。ギルドの支部もこんなものなのよ」
と、セレーネが教えてくれた。
「せっかくなので今のうちにギルド登録しておきましょうよ」
俺たちは既にボロンブラークのギルドで冒険者証を発行してもらっているので、この支部では利用者リストに名前を載せて、ここの設備を使えるようにするだけ。
だから手続きも簡単に終わった。
そして隣のシティーホールに足を運ぶと、当主がたまたま在室していたので帰省の挨拶をとっとと済ませておくことにした。
「随分早いな。学園の休みは今日からじゃなかったのか」
セレーネとネオンの父親であるフェルーム家当主のダリウスは、あまりに早い帰省に驚きながらも娘たちの顔が見れて嬉しそうだった。
「ギルドの転移陣を使って帰ってきたのよ」
「転移陣かなるほど。だったら疲れてはないとは思うがゆっくりして行ってくれ。それで学園はどうだった?」
応接室のソファーに腰掛けた俺たちは、メイドが用意してくれた紅茶とケーキを楽しみながら学園でのできごとを話した。
もっとも、普段は無口キャラを通しているネオンがここぞとばかりにしゃべり倒したため、俺とセレーネは隣で「そうそう」と相槌を打つだけの簡単な仕事だったが。
しかし話が2年魔法団体戦になると当主も眉間にしわを寄せて、昨日のサマーパーティーの件まで報告を終えると、顔色を変えた当主がソファーから立ち上がった。
「・・・とんでもないことになったな」
俺も今後の方針が聞きたかったので、続く当主の言葉を待った。
「早く知らせてくれて本当に助かった。すぐに分家筋を全員集めて今後の方針を固めなければならん。お前たちは先に帰って家で待機していてくれ」
「分かったわ、お父様」
「ようやくこの領地も落ち着いて来たのに、何てバカなことをしてくれたんだサルファー・・・あのバカ殿が!」
口にしてはならない一言が当主の言葉に混じっていた気はしたが、俺も大人なのでここは聞き流しておこう。




