第43話 運命のサマーパーティー
今日で学校も終わり、明日から長い夏休みに入る。
俺たちは解放感に浸りつつ互いの夏休みの予定をワイワイ話しながら、生徒会主催のサマーパーティー会場へと向かっていた。
「夏休みは実家からダンジョン巡りをしようと思うんだけと、お前たちも一緒にどうだ」
ダンがみんなをクエストに誘うと、
「面白そうだね。行こう行こう」
やはりみんな乗り気で、自領の冒険者ギルドを通して互いに連絡を取り合い、転移陣を使って直接ダンジョンに集合してはどうかという話になった。
俺もそろそろ別の古代文明遺跡の探索をしたいと思っていたが、中間テストから後もセレーネ絡みで色んな事が有りすぎてギルドに顔を出す時間すらなかった。
「私は実家に帰らず、学園にいようと思うの」
と、マール。彼女には色々複雑な事情があるので俺もその方がいいと思った。
「なら、俺も学校にたまに顔を見せるよ。ウチの実家はここから近いから」
当たり前だがフェルーム騎士爵領はボロンブラーク伯爵家の支配エリア内にあり、しかもこの学園のある領都の比較的近くに領地があるのだ。
「それなら、私がアゾートの家に遊びに行ってもいいかな?」
「ああ構わないぞ。ネオンやセレーネもいるしな」
「やった!」
「お前たちは夏休みどうするんだ?」
俺は、騎士クラスに編入した上位貴族の5人にも予定を聞いてみた。
「俺たちは領地で色々と仕事があるんだよ。夏休みぐらい勘弁してほしいよな、なあアレン」
ダーシュがウンザリとした顔でアレンに同意を求めた。
「そうだな、伯爵家は色々大変なんだよ」
「私はそんなのないし、お姉様と一緒にクエストでもしようと考えていたの。都合がつけばご一緒できるかも」
ユーリがそういうと、アネットとパーラも一緒に行こうか迷っているようだ。
ついでにこの女子3人はこの際、ダンジョン部に入部してしまってはどうだろうか。
いずれにせよ、夏休みは引き続きこのメンバーで楽しく過ごせそうだ。なんかすごく楽しみになってきたぞ。
あ、そうだ。古代遺跡には必ずマールを連れて行くことを忘れないようにしないと。
◇
さてサマーパーティー会場についた俺たちだったが、既にたくさんの生徒で賑わっている。
卒業パーティーとは違い制服のまま参加する者もいれば、綺麗なサマードレスを着て参加する令嬢もいる。
俺たちの仲間の中では、ユーリ、アネット、パーラの3人がドレスで着飾っているが、この辺りはさすが元上級クラスのご令嬢たち。
「まずは踊りましょう!」
俺はダンスが苦手なのだが、ユーリに無理やり連れて行かれて、会場の隅っこの方で踊り始める。
ネオンは自分の親衛隊に囲まれているが、おそらく踊る順番で揉めているのだろう。放っておいたほうが良さそうだな。
カインはアネットと、ダンはパーラとそれぞれダンスを踊り始めたが、カインとアネットのダンスがめちゃめちゃ上手かった。
「カインは何をやらせてもすごいな。ほんとあいつ何者なんだろう」
「だよな」
「次は私とは踊ろうよ」
アレンとのダンスが終わったマールが俺を誘いに来たが、彼女の背中越しに遠くの方で令嬢たちに取り囲まれているセレーネの姿が目に入った。
「悪いマール。ちょっと用事ができた」
マールに一言断ると、俺はセレーネの元に駆けつけた。
「何をしているんだお前たちは」
俺がセレーネと令嬢たちの間に割って入る。
「別に何もしていませんわ。お話をしていただけです」
いつもの様に、のらりくらりとはぐらかす。
「お話ね・・・どうせ言葉の暴力でも振るってたんだろ、お前ら」
「うふふ。言葉は残りませんので何の証拠もございませんわね」
「ちっ、まあいい。セレーネあっちに行こうぜ」
俺がセレーネの手を引いて仲間の所に連れて行こうとすると、ここが引き際とわきまえた令嬢たちは、それ以上何も言わずに手を引く。
最早お決まりのパターン。様式美だ。
というのも俺が1年上級クラスを崩壊に導いたという悪名は既に学園中に轟いており、面と向かって俺に戦いを挑んでくる中上級貴族はもうこの学園にはいなかった。
ただ一人を除いて。
案の定、いつもはここで終りのはずが今日は全校生徒が集まるサマーパーティだからか、フリュオリーネ本人がこちらに気づいてしまった。
まずいな。面倒な奴が来やがった。
「アゾート! あなたそこで何をしているのです!」
怒気を含んだ物言いで俺に近づいてくるフリュオリーネ。俺はため息を一つ吐くと、
「いつもの通り、お前の取り巻きどもからセレーネを救いだしている所だ。もういい加減、無駄なことをするのはやめろよ」
「何ですかその言い方は! そもそもあなた言葉使いがなってません。どうしてあなたはいつも上級貴族への態度が悪いのです。下級貴族なら礼節をわきまえなさい!」
「わきまえてほしければ、もうセレーネに構うな。等価交換だ」
「等価交換って、貴族のくせになぜ商人みたいなことを。大体そういう交渉を上級貴族に持ちかけてくる時点で、あなたは貴族らしくないというのです。そしてその態度が王国の秩序を乱すのだということを、いい加減に理解なさい!」
「貴族らしくって・・・何だよそれ」
この女だけは、俺が何を言っても全く話が通じない。
できることなら一生関わりたくないが、サルファーと結婚したら伯爵夫人となり、俺はこいつに仕えなければならない。
だからここで引くしかない俺は、
「はいはい、申し訳ございませんでした。以後気をつけます、フリュオリーネ様」
俺は仕方なくフリュオリーネに謝罪をしたが、周りを見ると何か様子がおかしい。
「しまった・・・」
中間テスト以降、フリュオリーネとのやり取りも半ば様式美のようになっていたが、いつもは校舎裏など人目につかない場所でやり合っているのに対し、今日は全校生徒のいる前でケンカをしてしまった。
気がつくと、騎士クラスと上級クラスの生徒たちがお互いに険悪な雰囲気になっていて、あちらこちらで言い争いを始めている。
俺たちのケンカが全校生徒に飛び火したのだ。まずいことになったな。
「おいフリュオリーネ。お前、副会長なんだから何とかしろよ」
「だから言葉使いがなってません! わたくしを呼び捨てにするのも、いい加減お止めなさい!」
「ちっ! 今はそんなこと言っている場合じゃないのに・・・では会場をお鎮め下さい、フリュオリーネ様」
「何をやってるんだ、お前たちはっ!」
だがそこにすごい剣幕のサルファーが現れた。
◇
僕は生徒会長としてサマーパーティー開幕の挨拶を終え、フリュオリーネとダンスを1曲踊った。
その後は準備を頑張ってくれたスタッフを労うためにステージ裏に下がっていたが、しばらくして会場に戻ると何やら騒動が起きていた。
「一体どうしたんだ?」
生徒会役員の一人に尋ねると、
「会場のあちらこちらで、上級クラスと騎士クラスの生徒で言い争いを始めたんです」
僕は慌てて会場に見渡すと、先ほどとはガラリと空気が変わっていて会場全体が殺伐とした雰囲気になっていた。
なんでこんなことに・・・。
僕は生徒会役員を全員集めて、すぐに騒動を鎮めるよう指示を出そうとした。
「あれ? フリュオリーネがいない」
「・・・それが、事の発端が副会長と例のアゾートとの言い争いなのです」
「またあの二人か」
騒動を鎮めるべき立場の生徒会副会長が、この騒動の原因だったとは。
僕は頭が痛くなった。
アゾートも態度は悪いが、セレーネを守り抜いている実績を考えれば致し方ない部分もある。
問題はフリュオリーネだ。
いつもは沈着冷静で的確な判断を下せるフリュオリーネが、セレーネのこととなると感情を抑えられなくなる。
「僕は副会長を見てくる。お前たちは騒動を抑えておいてくれ」
「わかりました」
フリュオリーネはすぐに見つかった。
そばにはアゾートがおり、その背中にはセレーネがかばわれていた。
またか・・・。
僕はいい加減ガマンの限界になり、思わず大声を張り上げてしまった。
「何をやってるんだ、お前たちはっ!」
僕に気づいた3人がこちらを振り返る。
「いつものとおり、セレーネをかくまっているだけですよ」
アゾートの後ろに隠れているセレーネが、コクりと頷く。
「フリュオリーネ。君はなぜそんなにセレーネのことを執拗に攻撃するんだ。そろそろ本心を聞かせてもらえないか」
いつも適当にはぐらかされて、なかなか本当の気持ちを聞けていない。
でも僕は本音で話し合いたいし、きっとどこかで折り合えるに違いない。
「だから何度も申し上げておりますが、わたくし、セレーネ様をどうこうしようという考えはございません」
だが僕の気持ちは伝わらず、今日もフリュオリーネはまともに答えるつもりがないようだ。
「どうしても本心を教えてもらえないのか」
「だから本心を何度も申し上げております」
「・・・これ以上は話し合いで解決できないと言うことだな」
「わたくしの言い分を聞いていただけないとおっしゃるのなら、そういうことになります」
「はあぁ・・・」
やはり今日もダメだったか。
彼女と関係を修復しようにも、僕の力ではもうどうすることもできないみたいだ。
そして僕はあきらめてしまった。
「そうか残念だ。もう僕は君と上手くやっていく自信がなくなったよ。君との婚約を解消したい」
「・・・え?」
サルファーのその言葉に、フリュオリーネは大きく目を見開いて呆然とした。




