第115話 ネオンの縁談
放課後、魔法訓練棟に集まって、俺たちは新しく増えた属性魔法の練習を始める。
シュミット先生から借りた教本を属性ごとに並べて、呪文、魔法陣、発動イメージなどを一つ一つ確認していく。
「俺とネオンは雷属性魔法だ。基本3魔法はこれだな」
雷属性初級魔法 サンダー
雷属性中級魔法 サンダーストーム
雷属性上級魔法 エレクトロンバースト
当然、真の詠唱呪文は未取得だ。
「またアゾートと全く同じだね」
「はいはい」
「マールはこの3つの練習だな」
風属性初級魔法 ウインド
風属性中級魔法 ウインドカッター
風属性上級魔法 トルネードクラッシュ
「ちゃんとした攻撃魔法を使うの、これが初めてだよ」
「だな。光属性魔法は基本的に癒しの魔法だし、パルスレーザーはマールだけの固有魔法だからな」
「フリュには説明不要かも知れないが、土属性の基本魔法はこの3つ。この中でメテオだけは俺も高速詠唱ができないんだ。それ以外の詠唱呪文は俺が教えるよ」
土属性初級魔法 ウォール
土属性中級魔法 ゴーレム
土属性上級魔法 メテオ
「よろしくお願いいたします、アゾート様」
「セレーネは何か属性が増えたか?」
「私は水属性が増えてた。魔力は350だって」
「やっぱりフリュオリーネさんが一番強いのね。魔力が400だったし」
「マールさん、この魔力値は魔法を発動した時の単純な出力強度を示していて、マナ蓄積量など他の能力は測定できません。それに完全詠唱による魔力効率の増大や、ナトリウム爆発やスーパーキャビティーなど本来の使い方と異なるやり方で魔法の破壊力を飛躍的に増すことができるので、魔力値だけでは実戦の強さが判定できないのです。今言えることはセレーネさんの火力が圧倒的ということだけですね」
「くっ・・・私は水属性を極めて火力だけの女を卒業するからっ!」
「ということでセレーネの覚える基本3魔法はこんな感じ。もちろん日本語の詠唱呪文は不明だ」
水属性初級魔法 ウォーター、ブリザード
水属性中級魔法 アイスジャベリン
水属性上級魔法 タイダルウェーブ
「アゾートと連携して戦うなら、ナトリウム爆発が使えるウォーターが有効よね」
「それと汎用性が高く騎士団御用達魔法と言われるアイスジャベリンもおすすめだ」
◇
寮の自室へ戻ってきた俺は、風呂に入りながらこれから何をやろうか考えていた。
冒険者ギルドに行って王国魔法協会からのクエスト報酬も受け取ったし、俺の冒険者ランクも一つ上がってCになった。
ここからは心機一転、ジオエルビムに戻って遺物調査を再開してもいいし、フィッシャー領の地下神殿の謎を解くのも魅力的だ。
そんなことを考えていると、部屋の方でネオンが誰と話している声が聞こえた。
気になって風呂からあがると、そこにはネオンの母親のエリーネの姿があった。
「こんな時間にどうしたんですか?」
俺が尋ねるとエリーネが、
「ネオンに縁談を持って来たんだけど、話を聞いてくれないのよ。アゾートからも説得して」
「えっ! ネオンに縁談?」
「そうなの。セレーネの相手を探そうといくつかの家に打診していたら、ある家からセレーネではなくネオンをという話になって。ダリウスもビックリして何かの間違いではないか何度も確認したんだけど、先方の希望は本当にネオンだったのよ」
「へえ・・・物好きな人もいたもんですね」
「本当よね。でもネオンはこんな感じだし、先方にはネオンの意向を伝えてお断りしたんだけど、顔合わせだけでもいいからと断りきれなくて」
「でもどうしてそこまでしてネオンを・・・まさか謀略的な何かが!」
「それはないわ。ネオンも中身はともかく、見た目だけはセレーネと区別がつかないし、相手はボロンブラーク伯爵家と懇意にしているフィッシャー辺境伯家だから」
「フィッシャー辺境伯!」
何かと因縁深い名前が出てきたが、ここはあの地下神殿のある領地でもあるし、一度は亡命しようとしていた先だ。
俺は何か引っかかるものがあって、ネオンに縁談を勧めた。
「ネオン、話だけでも聞いてみたらどうだ」
「嫌だよ」
「何で?」
「私はアゾートのお嫁さんになるって決まってるんだから、そんな浮気みたいなことできるわけないじゃん」
「俺にはセレーネがいるし、お前とは結婚できないぞ」
「でもお父様が決めた婚約者は今は私だよ。それが貴族の結婚だし、セレン姉様とだって元はお父様が決めたことでしょ」
「うぐっ・・・でもその理屈で行くとフィッシャー辺境伯との顔合わせもダリウスの指示なんだから、出ておかないと筋が通らない」
「うっ・・・でも出たとしてもどうせ私は断るんだし、結局時間の無駄でしょ。それに私はふしだらな女だから相手もきっと嫌がるよ」
「何でお前がふしだらなんだ?」
「だって結婚前の女子が一年近くも男子と同棲生活を送ってるんだよ。ふしだらじゃん」
「ちょっと待て! その男子ってまさか俺のことを言っているのか? 俺がネオンなんかに手を出すわけがないじゃないかっ!」
「そんなの辺境伯には分からないよ。私とアゾートは家族でも何でもないんだし、傷物になった私はもう誰とも結婚できないからアゾート責任をとってよ」
「・・・さては貴様、男装して学園に通っていたのはそれが目的だったのかっ!」
「ふっふっふ、今頃になってようやく我が大戦略に気がつくとは、衰えたなアゾート君」
「マジかよ! ・・・ふ、不覚」
俺がガックリ項垂れていると、エリーネが大きなため息を一つ吐いた。
「アゾートがちゃんとしてることは私もダリウスも分かってるし、責任を取れなんて言わないわよ。それより先方の顔もあるし顔合わせだけでも出てくれないかしら」
「えええ・・・」
どうしても首を縦に振らないネオンに俺は、
「なあネオン、俺にいい考えがあるんだが聞いてくれるか」
「政略結婚にいい話なんかないと思うけど、一応は聞いてあげる」
「この話、何かおかしいと思わないか。だってフィッシャー辺境伯領であの地下神殿を発見したお前に、このタイミングでわざわざコンタクトを取ってくるんだぞ」
「そう言えば確かに・・・」
「だろ。ひょっとしたら地下神殿に関するヒントが得られるかもしれないし、虎穴に入らずんば虎子を得ず。折角の機会だ、フィッシャー辺境伯家との間にパイプを作っておけ」
「それもそうだね・・・わかった顔合わせには出てあげる。でもアゾートの頼みを聞いてあげたんだし、これは貸しだからね」
◇
そして週末になり、ネオンがちゃんと顔合わせに出席するかを見届けるためを、俺も一緒について行った。
今回はフィッシャー辺境伯の強い希望ということもあり、場所はフェルーム城だ。
俺は今のフェルーム城に行くのが実は初めてで、第二次ボロンブラーク内戦と管理戦争を戦い抜いたフェルーム家は、その度に領地を拡大してボロンブラーク伯爵家との間で頻繁に領地の交換を行っていた。
結果、夏休み前まで長年住んでいたスカイアープ渓谷北側のフェルーム騎子爵領を引き払う代わりに東隣の旧サラース領を獲得。
一族郎党がようやくサラース城に移転したと思ったら、まさかのソルレート伯爵との管理戦争に突入。
これにも勝利し、ヴェニアル領の中南部エリアをボロンブラーク伯爵支配エリアに編入したため、改めて伯爵の配下の当主たち全員を交えて領地再編を行った。
その結果、フェルーム子爵家はボロンブラーク支配エリアの東端にある旧アラモネア領とサラース領の東半分、それに旧ヴェニアル領の南端1/6と港湾都市メディウスを手に入れることとなった。
領地的には俺のメルクリウス領のお隣さんになったわけだが、領都はアラモネア改め領都フェルームとなり、城は改築中で分家たちもまだ引っ越しの途中なのだ。
◇
俺はネオンに城の案内をしてもらい、その後顔合わせ会が始まるまでダリウスの執務室で時間を潰すことにした。
「どうだアゾート、この新フェルーム城は」
「城も大きくて立派ですが、領地も広いですよね。平野面積だけでうちの三倍はあるし」
「お前のところは山ばかりで城塞都市が二つもあるし、領地というより拠点っぽいよな。その点ウチは港湾都市メディウスを手に入れたし旧ヴェニアルの半分をサルファーにくれてやったが、いい買い物をしたと思っとる」
「羨ましいですね、港湾都市メディウス。俺も狙ってたんですが、位置的には飛び地になってさすがに欲しいとは言えませんでした。船は輸送力が断然違いますし、海賊さえなんとかすれば莫大な交易収入が手に入りますよ」
「わかってるじゃないかアゾートは。お前は王都への街道を抑えたし、ウチは大きな港町を手に入れた。陸運と海運を連携して、一丁大儲けしてやろうぜ」
「くっくっく、いいですねそれ。またアイディアを考えて来ますので、近いうちにいつもの当主連中や分家たちを集めて作戦会議でもやりましょう」
そこへエリーネがダリウスを呼びに来た。
「フィッシャー辺境伯がお見えになりました。下の応接の間にいらしてください」
「わかった、行くぞネオン。それとアゾートお前も来い」
「え? 俺はネオンをここに連れてきただけで、顔合わせには出ませんよ」
「それは分かっているが、フィッシャー辺境伯に挨拶ぐらいはしといた方がいいだろう」
「確かに俺はまだ辺境伯に会ったことがなかった。よし行くぞネオン」
「やっぱり気が進まないなぁ。顔合わせはやめようよアゾート」
「ここまで来てそれはないだろ。お前の地下神殿のためだし我慢しろ」
「チェッ・・・仕方ないな」
嫌がるネオンを説得して、3階にある特別応接室に入った俺たち。
中にはすでにフィッシャー辺境伯が待っており、俺たちを見るとソファーから立ってこちらに歩いてきた。
フィッシャー辺境伯の隣にはネオンの縁談の相手である辺境伯家の三男がいたのだが、
「え、カイン?」
そう、そこに居たのは俺たちの仲間のカイン・バートリーだった。
「よう、昨日ぶりだな」
「どうしてお前がここに・・・」
「今まで黙っていて悪かった。事情があってボロンブラーク騎士学園に通っていたんだが、俺の本当の名前はカイン・フィッシャー」
「お前、フィッシャー辺境伯家の人間だったのかよ・・・」
辺境伯、つまり侯爵と同格の爵位を持つ上級貴族の御曹司がカインの正体だった。




