第109話 エピローグ
不正貴族が一掃されて拍手喝さいの講堂に、セレーネの声が響き渡る。
「さて順番が逆になりましたが、これより新生徒会のメンバーを発表します」
そう言えば俺も何かの役職につくらしいが、まだ聞いてなかった。やはりセレーネを補佐する副会長辺りだろうか。
生徒会長 セレーネ・フェルーム
副会長 アネット・マーロー
パーラ・ウェストランド
書記 サーシャ・ヴェッセル
会計 マール・ポアソン
顧問 フリュオリーネ・メルクリウス
プロデューサー アゾート・メルクリウス
・・・え?
プロデューサーって何?
意味が分からず混乱している俺をよそに、新生徒会メンバーが続々と壇上に現れると会場から歓声が沸き起こった。
「うおおおおっ! 本物のアイドルユニット来たああっ!」
「オタサーのマール姫かわいい!」
「くっころ女騎士、アネット様~!」
「くたばれアゾート」
「パーラお嬢様~、サーシャ委員長~、二人で僕を叱りつけて~」
「やはり我らが月の女神セレーネ様が最高だな」
「いやおや美人過ぎる生徒会顧問フリュオリーネ様だろ」
「邪魔だなアゾートは」
「全員にフラれろアゾート」
所々で俺へのヘイト発言が混ざっているのはおそらくモテない同盟の奴らの掛け声だろうが、それを除けばこの生徒会の人気は凄い。
その中でも意外だったのが、フリュの人気が高いことだ。
以前なら恐れ多くて声をかけるのも憚られるほど遠い存在だったが、素材としてはセレーネに勝るとも劣らない超絶美少女だし、最近はかなり表情豊かになって来たからきっと再評価されたのだろう。
それとこれは俺も気づかなかったが、アネットが「くっころ女騎士キャラ」で人気だったのも意外だった。
彼女はパーラと同じ子爵令嬢でありながら性格は正反対で、サッパリした性格と騎士然とした物言い、そして美しさより強さを追求するストロングスタイル。
言われてみれば確かに女騎士様である。
そんな対照的なパーラとアネットが副会長を務めることになったのは、おそらく派閥のバランスを考えてのことだろう。
そんな新生徒会にあって一人だけ余計な奴が混じっている。ていうかなぜ俺の隣でコイツが堂々と手を振ってるんだ。
「おいニコラ、お前は負けたんだからもう家に帰っていいぞ」
ふてぶてしくもニコラはいつの間にか俺とセレーネの間に割り込んでしれっと仲間に加わっていやがった。
「ニコラ~! 偉いぞ~ よくぞアイドルユニットを完成させた~!」
しかもニコラがこの生徒会を組織したのと勘違いしている生徒もいるし、モテない同盟からのヘイトを集める俺より高評価なのが納得できない。
「のうアゾートよ」
「何だよニコラ」
「僕もこの学園に残って、生徒会メンバーとともに学園生活を送りたいのじゃが」
「学園に残りたい? そんなのてめえの好きにしろ。ていうかお前は生徒会メンバーじゃないし、今すぐ壇上から降りろ」
「いやそうではなく、僕は平民になってしまったので学園を追い出されるんだ」
「あ、そうか。じゃあ学園から出て行け」
「嫌だ! 少し前までは学園など1ミリも好きではなかったが、今は違う。せっかくアイドル学園になったのにこの学園から出ていくのが嫌なのだ!」
「アホか! ここはアイドル学園ではなく騎士学園だ。そしてお前は平民だから貴族学校であるこの学園をやめるのは当然。簡単な三段論法だ。QED」
「そこをアゾートの力で何とかしてほしいのだ! 僕はまだこの学園をやめたくない。僕をこの学園に残してくれ!」
「・・・だから何でそれを俺に頼む」
「フリュオリーネ様も平民なのにアゾートが後見人になってこの学園に残しているからに決まっておろうが!」
「それはフリュが優秀でその実力が勿体ないと思ったからで、お前はバカで全然勿体なくないからいらん」
「そんなことはない! 聞こえぬか、この観衆が僕を求めている声を」
観衆の声?
俺は耳をすませて観衆の声を拾っていく。するとセレーネたちへの声援に混ざって妙な声援も混じっている。
「ニコラっ! ニコラっ! ニコラっ!」
・・・・・
俺を見るニコラのドヤ顔が、この上なくうざい。こういう面倒くさい輩の相手は、
「おい、サルファー! お前がニコラの後見人になってくれないか」
舞台の袖で退任の挨拶をするため控えているサルファーを見つけた俺は、ニコラの後見人になるようお願いしてみたところ、
「嫌だね。この僕に敬意の欠片もないお前の言うことなど聞く義理はない。まあセレーネのことを諦めると言うのなら聞いてやらんこともないがな」
サルファー自身が面倒くさい輩であり、似た者同志をくっつけるのはどうやら無理のようだ。そしてドヤ顔のニコラは今度は観衆を味方につけて俺を責め立ててきた。
「みんな僕の話を聞いてほしい! アゾートは、フリュオリーネ様が可愛い女の子だから後援人になってあげて、僕は男だから後援人になってくれないんだ。そんなアゾートのことをみんなどう思う?」
「アゾートの女ったらしめ!」
「くたばれアゾート!」
「フラれろ」
「もげろ」
ニコラの奴、自分の支持者を味方につけやがった!
それに対し、俺の味方であるはずのフリュは自分が引き合いに出されて反論できずにオロオロしてる。
コイツがこんな知将だったとは思わなかった・・・無念。
「仕方がないからお前の身元も俺が引き受けてやる。だが1年! この学園にいる1年間だけだぞ。その間にちゃんと他の就職口を探すんだ、いいな」
「ふむ・・・まあそれでもよかろう。では1年間よろしく頼むぞ、主殿」
「くそっ! ホント憎たらしいなお前。しかし何でニコラなんかにメルクリウス姓を名乗らせなきゃいけないんだよ、畜生・・・」
「いや流石にメルクリウス姓など名乗りたくない。僕はそんな趣味を持っておらんのでな」
「そんな趣味って、何だよそれ?」
「僕が好きなのは美少女アイドル。男とそういう関係になるなど虫唾が走る。それともそなたはこの僕と結婚したいのか?」
「おえええっ! 気持ち悪いこと言うなよ。ていうか後見人になるなら同じ姓を名乗らせないと意味がないじゃないか。でないと貴族社交界で活動できないし」
「平民落ちした貴族は社交界には戻らん。だから姓など名乗る必要はない」
「でもフリュは・・・」
「フリュオリーネ様はそなたの求婚に応じたから、メルクリウス姓を名乗っておられるだけだ」
「求婚? いや、してないけど」
「そなた、皆の前で堂々と求婚しておったではないか」
「え?」
「ほれ、冬休み前の生徒会選挙の演説会で言うておったろ。俺は伯爵からフリュの後見人となるよう直接依頼され、フリュの貴族の身分はいずれこの俺が取り戻すことになっているとな」
「確かにそう言ったが、それのどこが求婚なんだ」
「平民女性を貴族にする方法は二つ。妻にするか養女にするかのどちらかじゃ。そしてそなたがフリュオリーネ様を養女にすることはありえないので、妻に迎えると宣言したことになる」
「妻に迎える・・・俺がフリュを・・・」
この瞬間、俺は全てを理解した。
俺は以前から事あるごとにフリュにプロポーズしていた。それも何度も何度も。
そしてその意味を知っている周囲の大人たちが、いつも俺に生暖かい目を向けてきたのも全てはこれが理由だったのだ。
しかも俺はこともあろうに全校生徒の前でフリュにプロポーズをしてしまい、だから上位貴族令嬢たちが黄色い悲鳴をあげておかしな反応を見せていたんだ。
アウレウス伯爵が俺のことを婿殿と呼ぶ理由も、何もかも辻褄がついた。
うわ・・・メッチャ恥ずかしい。
俺は顔が熱くなって、逃げるように舞台裏に下がった。
ようやくあの時フリュが顔を真っ赤にして恥ずかしがっていた気持ちが理解できた。
「うわああああああっ!」
舞台裏で一人頭を抱えて叫ぶ俺。
一方会場では、フリュが俺のプロポーズを受け入れた事実を知った下級貴族の男子生徒たちが、派閥を問わず俺にブーイングの嵐を浴びせかけていた。




