第108話 学園の支配者
風紀委員会設立。
セレーネのその言葉に上位貴族から激しいブーイングが巻き起こった。
「一方的にそんな宣言をされても、受け入れることなど到底できません。そもそもメルクリウス男爵家が勝利した証拠がどこにあるのでしょうか」
「王国裁判所に直接お問い合わせいただければ、個別に対応いただけるそうです」
毅然としたセレーネの態度に、ソルレート派の上級貴族たちはどうやらそれが本当らしいとざわめき始めた。
それでも子爵令嬢は、
「仮にソルレート伯爵が爵位を失ったとして、それでもセレーネ様が選挙に負けた事実に変わりはございません。この結果を重く受け止め選挙に勝利したニコラ様の公約を取り入れるべきだと存じます」
「そうだそうだ! この騎士学園をアイドル学園にするべきだ!」
モテない同盟が子爵令嬢に同調の声を上げる。
「うるさいですわね! アイドル学園ではなく懲罰委員会を作るのです!」
「そうだそうだ! 9人のアイドルユニットによる懲罰委員会を早く作れっ!」
「だからアイドルユニットではなく、下級貴族を取り締まる懲罰委員会を」
「いいぞーっ! 早く美少女懲罰委員会を結成して、この俺を厳しく取り締まってくれーーーっ!」
「むきーっ! アイドルなど一切関係ごさいませんっ!」
同じニコラ支持者なのに子爵令嬢とモテない同盟の間にはかなりの隔たりがある。
しかし俺がマールに教えたアイドルという概念が、まさかここまで急速に学園に広がるとは思いもしなかった。
だが勝負はここから。一気に片を付けてやる!
俺は一歩前に出ると、風紀委員会のメンバーを発表した。
「お待たせしました。これより風紀委員会のメンバーを発表します。なんと12名の美少女によるアイドルユニットです!」
「何っ! 12名の美少女アイドルユニットだとっ!」
「ニコラの公約より、3名も多い!」
俺の発言に一気にヒートアップする男子生徒達。
「それでは紹介しましょう、風紀委員会はこの人たちです。カーラ、アン、エミリー、ローラ、ミミー、メアリー、ケイト、シェリー、サーラ、ノーラ、セシル、ナンシー、壇上へどうぞ!」
見事な隊列を組んで壇上へ上がる風紀委員会の美少女たちの登場に、講堂内の男子生徒は大興奮で彼女たちに拍手を送っていた。
だがそれとは対照的にモテない同盟だけは絶望の表情で壇上を見つめている。
そして俺は、
「では早速、彼女達に不正貴族どもを取り締まって貰いましょう」
「え?」
「これから読み上げる生徒は不正貴族。ではフリュオリーネさん発表をお願いします」
「承知いたしました」
そしてフリュが読み上げたのは、パーラを除くシュトレイマン派の上位貴族全員と大半の中立派上位貴族の名前だった。
罪状は生徒会選挙における贈収賄と下位貴族への強要。金銭授受の証拠は全て揃っているし、強要については記名式の投票の用紙が動かぬ証拠となるため反論の余地がない。
子爵令嬢はここでようやく、この選挙自体が自分たちを嵌める壮大な罠だったことに気づいた。
「ニコラ様が資格喪失したことを知っていながら、あえて選挙を実施したのは投票用紙を回収するため。この卑怯者がっ!」
「卑怯とはとんだ言いがかりを。生徒会長選挙の実施主体は生徒会であり、副会長を辞したこのわたくしがどうこうする資格などございません。裁判所からの正式な公表がまだなので生徒会にその事実を申し入れなかっただけですが、それが何か?」
「ギリッ・・・そもそも賄賂を贈って何が悪いのです。貴族社交界ではこんなの常識ですし、ことさら騒ぎ立てて処分するなどやりすぎではございませんこと?」
「あらそうかしら? 貴族の常識を語られるのなら権力者が邪魔な貴族に適当な罪状を突きつけて処分することなど日常茶飯事。ですのでわたくしは貴族らしくあなた方に罪状を突きつけただけのこと。ちゃんと証拠も揃えて差し上げたのですから、諦めがついて良かったのではないかしら?」
「うぐっ・・・・ですが生徒会長は選挙の結果によって決めるのが学園のルール。そしてわたくしたちは勝利したのですから、あなた方はルール通りに選挙結果に従いなさい!」
「そもそも貴方たちは大きな勘違いをしています。貴族同士の争いは武力行使をも辞さない命がけのもの。ですが学園は学びの舎であり命のやり取りを許さないため選挙という形式をとっているだけのこと。ですが社交界の縮図たる学園の根底にあるのは権力闘争であり、弁論でなく武力なのです。そしてニコラさんのご実家であるソルレート伯爵家を我がメルクリウス男爵家が滅ぼしたのですから、わたくしたちがこの学園を支配するのは当然のこと。それでも文句のある方はこのわたくしと武力で語り合いましょう」
「そんな無茶苦茶な・・・」
壇上から全校生徒を睥睨しつつ、何を言われても3倍返しで反論するフリュはまさに氷の女王の風格全開だった。
愛用の扇子で口元を隠し、冷たい瞳で鋭く睨みながらシュトレイマン派の上位貴族を片っ端から論破していく。
ただの貴族がいくら束になろうとも、最初からフリュの敵ではなかったのだ。
確かにフリュの主張は言い過ぎの部分もあると思うが、貴族同士の争いが最終的に武力勝負になってしまうのは俺も散々経験済み。
だから折角の機会なので、邪魔な貴族はここで一掃しておきたい。
だってアージェント王国は中世封建主義国家であって、日本のような現代民主主義国家ではないのだから。
そして、新生徒会長に就任したセレーネの最初の命令が下された。
「風紀委員会は、そこの不正貴族どもを全て捕らえよ!」
「了解しました!」
慌てて講堂から逃げ出そうとする上位貴族令嬢たちと、捕まえてもらえることに期待を膨らませる上位貴族令息たち。
しかし次の瞬間、場の空気は一変する。
逃げ出そうとする令嬢たちに向けて、風紀委員は威嚇射撃を行ったのだ。
パン! パパパパッ! パン!
実弾による威嚇射撃により、木っ端微塵に砕け散る講堂の窓ガラス。
令嬢たちは恐怖でその場に腰を抜かし、身を寄せ合ってガタガタ震えている。
そして壇上から飛び降りた親衛隊は、何が起こったのか理解できていない令息たちに飛びかかると、次々と彼らを拘束していった。
ロープで縛り上げられた令息たちの姿を見て、令嬢たちも抵抗するのを諦め親衛隊のお縄についた。
「不正貴族どもの身柄を確保っ!」
「よろしい、では収容所に連行なさい!」
「はっ!」
セレーネの命令で上位貴族たちを収容所送りにしているネオン親衛隊・・・もとい風紀委員会を見て俺は思った。
いつもやりすぎなんだよ、セレーネ!
俺が事前に聞いていたのは、威嚇射撃で上位貴族を脅して在学中は二度と俺たちに逆らわないようにその場で誓約書を書かせること。
でも目の前に広がる光景は、プライドの塊のような上位貴族がまるで家畜のように縄につながれ、下級貴族の拍手喝さいの中、貴族の矜持をズタズタにされながら講堂から連れ出される姿だった。
そう今のネオン親衛隊は、風紀委員会というよりどこかの第三帝国親衛隊だ。
ていうか収容所なんかこの学園にねえだろっ!




