第107話 クエストクリア
セレーネの用意した椅子に座った重鎮二人。そのアウレウス伯爵から語られたジオエルビムの状況は以下のようなものだった。
・倒壊した建物は多数に上ったものの中央塔や最初の建物に問題はなく、クレイドルの森ダンジョンとの行き来も可能。
・リストに登録された遺物62点のうち、倒壊した建物に巻き込まれたものが28点。残り34点のうち、例の調査員たちが勝手に触った遺物が他にも4点あり、何らかの障害が生じている可能性が否定できない。
・遺物以外にも建物の倒壊により失われた歴史的遺産も数多く、王国魔法協会調査員の愚行については監察局も重く受け止めている。
「今回の件は、我々協会側に全面的な責任がある。改めてここにお詫びしたい」
ジルバリンク侯爵が俺に頭を下げた。
「頭をお上げください。それより遺物は今後どういう取扱いになるのですか」
「倒壊した建物を除去し、28点の遺物を掘り起こしていく作業に入る。また無事だった34点の遺物については、魔法協会ではなく監察局が管理することになった。我々の信用は今回の件で完全に失墜したのでな」
「監察局が管理するとなると遺物の調査は誰が行うのですか。監察局は魔法の研究を行う組織ではないですよね」
「監察局から遺物を借り受ける形で、魔法協会が調査を行うことになる」
「なるほど」
「さっそくだが婿殿。リストとは別に格納庫に保管されているクレーン車、グライダー、小型トラックをそれぞれ一つずつ持って行くがよい。まずはこれらを調査して、もし動かすことができればそれを婿殿のものにしてもよいぞ」
「本当ですか! ではさっそく」
「それから今回のキミの活躍に対し、王国から報奨が出るであろう」
「国からの報奨って、クエスト報酬ですか?」
「それとは別だ。クエスト報酬はあくまで魔法障壁の突破方法の解明に対するものであって、王国から与えられるのは古代魔法都市ジオエルビムの発見と祭壇の使用方法の解明。それに身を呈して中央塔の暴走を阻止したことに対してだ」
「そんなことも評価してもらえるんだ」
「当たり前だ! 考古学上の近年まれにみる功績だし、魔法協会からも追加で報奨を用意させていただく。正式には後日渡すことになるが、非常勤特別研究員の待遇と魔法協会が所有している遺物のうち好きなものを一つ進呈しよう」
「遺物は嬉しいですが、非常勤特別研究員になるのはちょっと・・・」
アウレウス伯爵がまた文句を言いそうなので断ろうと思ったが、
「伯爵がうるさいので、常勤ではなく非常勤のポストにさせていただいた」
「はあ・・・」
「何だ、嬉しくないのか? これでキミは魔法協会所有の遺物だけでなく今回発見した遺物の全てを調査研究することができるのだぞ」
「・・・それ本当ですか?」
「ああ。他の者には触らせないので、いつでも好きな時に協会に来るといい。それから冒険者ギルドに出していたクエストもキミたちがクリアだから、クリア報酬を忘れずに受け取りたまえ」
「クリア報酬!」
夏休み明けからずっと取り組んでいたクエストが、今ようやく終わった。
当初はランクCだったこのクエストは、どんな冒険者パーティーも攻略することがてきず、攻略不可能という噂まで立って、ランクAまで急上昇。
そしていざクリアーしてみれば、古代魔法都市ジオエルビムの発見にまで繋がった。
途中、ソルレート伯爵との管理戦争というサブクエストまで挟んだこのクエストは、冒険者ギルドの基準では図れないほど難易度が高かったのではないだろうか。
俺の冒険者ランクもきっと上昇するはず。
「研究者気質のキミには興味がないと思うが、これも一応報告しておく」
「何でしょうか」
「中央塔の暴走を引き起こした3人は全員解雇した。魔法協会の信用を傷つけた上に莫大な損害を与えたため、彼らの実家に対しても相応の賠償金を請求させてもらった。領地を売り払ってもとても払える金額ではないがな」
「その3人がどうなろうと1ミリも興味ありませんが、彼らのご両親が災難でしたね」
「それから魔法協会の他の職員に対しても再発防止の指導を徹底して行う。それと協会のどの研究者もキミの古代魔法の知識の足下にも及ばないので、キミに指導員として」
「うおっほん!」
「伯爵がうるさいので話はここまでにするが、キミも魔法協会の一員になったのだからジオエルビムへの立ち入りは今後自由だ」
「その報酬が一番デカい!」
こうして今回のクエストは大団円を迎えたわけだが、謎のまま残ってしまった事もある。
それはジオエルビムがいつの時代の遺跡でどのような文明を持つ人たちが築いたものなのか。そして彼らはどんな魔導技術を持っていたのか、まだ解明されていない。
俺が最後に見た人体実験の記憶も、もしかすると魔導コアに残された古代文明の記憶なのかもしれない。
そこで白い服の男たちが話していた被験体という言葉と、それ以外にも何か重要なことを聞いたような気がする。
ついでに言えば、フィッシャー騎士爵領の旧領都バートリーの地下に発見された古代魔法文明の神殿とフェルーム家のご先祖様との関係や、ネオンがタイムスリップしたという証言も未だ謎として残っている。
あとはそう・・・俺の前世の記憶の欠損。
話が終わると、アウレウス伯爵は多忙のようで、すぐに王都に帰還した。一方のジルバリンク侯爵はうちの両親と話があるらしく、もうしばらくここに居るらしい。
重鎮がいなくなった部屋で、俺とセレーネは二人きりになった。
「そういえばセレーネが看病してくれるなんて珍しいな。いつもならネオンかフリュが居そうなものだけど」
「それはね、私とフリュさんが相談して役割分担を決めたのよ。明日、生徒会長選の投票があるでしょ。フリュさんがその準備をしてくれることになったから、代わりに私がアゾートの看病をすることになったの」
「セレーネが候補者なのに、フリュに任せっきりで大丈夫なの?」
「フリュさんが大丈夫だって言ってたし、ここは彼女に甘えましょう。本当はネオンもここに残るってワガママ言ってたけど、フリュさんが力ずくで学園に連れて行ってくれたわ。お義母さまは「ウチの庭園を凍らせないで!」ってフリュさんに文句を言ってたのは笑ったけど」
「えええっ! まさかフリュがネオンを倒したの? ・・・何か嫌だなそれ」
二人してネオンを簡単に倒すのはやめて欲しい。
だってネオンと同じ実力の俺は、二人に全く歯が立たないって証明されているのと同じだから。
「でもセレーネとフリュって、いつからそんなに仲良くなったんだ?」
「確かに私たちの間にはこれまで色んなことがあったけど、アゾートが遺物の研究に没頭している間にじっくり話し合ったの」
「そっか、仲直りしたんだ。・・・よし、俺も明日から学校に行くか。生徒会長選の投票もあるしな」
「本当に大丈夫なのアゾート・・・あなたの面倒はしばらく私が看てあげるから、あまり無理しないでね」
◇
翌日の放課後、1、2年生全員による生徒会長を決める投票が予定通り行われた。
講堂の壇上には候補者であるセレーネとニコラが並んで立っており、彼女の後ろには俺とフリュが側近として控えている。
最期のお願いをした後、俺たちの前に設置された投票箱に全校生徒が順に投票用紙を入れていき、その後生徒会スタッフによる開票作業が行われた。
不正の無いよう、自分の名前と候補者の名前の両方が記載された投票用紙を双方の候補者が確認しながら集計した結果、僅差でニコラが勝利した。
・・・選挙はやはりカネだった。
あるいは、突如持ち上がったアイドル学園構想のせいかも知れない。
いずれにせよ、選挙戦での俺たちの負けが確定した。
だが本当の闘いはここからだ。
そう、俺とフリュがセレーネの隣に立つと3人で勝利宣言を行ったのだ。
当然講堂はどよめきに包まれ、あの討論会で質問に立ったシュトレイマン派貴族令嬢が疑問の声をあげた。
「全く意味がわかりませんわ。あなたたちは今の選挙結果を見ていなかったのですか。選挙に勝ったのはニコラ様なのに、どうしてあなたたちが勝利宣言を行うのかしら。さあニコラ様、早く勝利宣言を!」
だが彼女の言葉に勝利したはずのニコラは全く反応を示さない。ただそこに立っているだけでセレーネたちへの抗議すら行わなかったのだ。
代わりにフリュがその疑問に答える。
「ではわたくしからお答えします。実はここにいるニコラさんは、冬休み期間中に生徒会長の資格を喪失されました」
「え?」
「この冬休み、メルクリウス男爵家とソルレート伯爵家の間で管理戦争があったのはご存じの方もいらっしゃると思いますが、ヴェニアル子爵の裁判がまだ終わっておらずその結果は王国裁判所から公表されていません」
「管理戦争がもう結着を・・・まさか!」
「はい。この生徒会長選にも影響するためわたくしから報告させていただきますが、結果はメルクリウス男爵家の勝利で、ソルレート伯爵は爵位と領地を没収されニコラさんは平民の身分に落ちました。つまり生徒会長選立候補者の中でなお資格を有するのはセレーネさんただ一人。よってセレーネさんが勝利したことをここに宣言するものです」
「そんなバカな・・・」
フリュの言葉に場内は騒然としたままで、いきなりソルレート伯爵家が爵位を失ったと言われても、すぐに信じられるものではない。
だが生徒たちのざわめきを無視して、セレーネによる就任の挨拶が始まった。
「今回半数近くのご支持をいただき、生徒会長に就任することになったセレーネ・フェルームです。まずは公約どおりに、この学園に風紀委員会を設置して上位貴族による下級貴族への不当な命令を厳しく取り締まることと致します」
よし、ここから一気に畳みかけて、このボロンブラーク騎士学園を手中に収めるぞ!




