第105話 魔導コア
1月8日(火) 晴れ
遺跡調査の最終日。
ジオエルビムの探索は、入り口のない中央塔とロックのかかった部屋を除き全て調査を終えていた。
その調査期間中のほとんどを、俺は最初の建物の最上階にある「管理室」に籠っていたが、ここには古代の端末や用途不明の遺物がいくつか設置されており、何となく管理室っぽいので俺が勝手にそう呼んでいるのだ。
それら遺物のうち古代の端末だけはちゃんと作動しており、ここ数日はずっとネオンと二人でこの端末とにらめっこしている。
「ネオンはどう思う?」
「この建物と中央塔はつながってると思う。たぶん地下の原子力施設で作られたエネルギーが中央塔の何かの装置に供給されていると考えた方がつじつまが合うよ」
「だよな。ただそのエネルギーをどうやって中央塔に運んでいるかは謎だけど」
古代文字が読めないため全てが推測の域を出ないのだが、たまに混じっている日本語の記載をヒントに俺たちは解読を進めていた。
そこへ魔法協会の調査員が管理室に入ってきた。
「ジルバリンク侯爵とアウレウス伯爵が到着しました。アゾートさん、ネオンさんは下の展望室までお越しください」
「もうそんな時間か、いくぞネオン」
監察局の人に後を任せて、俺たちは展望台に下りていった。
「監察局の皆さんもアウレウス伯爵がお待ちです。管理室の扉は我々が閉めておきますのでお急ぎください」
「わかった。あなた方もジルバリンク侯爵への応対があるんだから、すぐに来た方がいい」
「わかってます」
◇
「元気そうだな婿殿。調査の方は順調に進んでいるか」
「おかげさまで。実はこの展望室のさらに上階に管理室が見つかり、そこでジオエルビムの秘密を探る手掛かりを探しているところです」
「それは素晴らしい」
「キミはやはり魔法協会に入るべきだ。主任研究員のポストを今すぐ用意してやる」
「だから婿殿に余計なチョッカイを出さないでいただきたい」
一度ケンカを始めると長くなる二人を、俺は慌てて止める。
「そんなことより、遺物リストの確認をされた方がいいのでは」
「「うむ」」
遺物は魔法協会で厳重に管理されることとなっているが、協会がリストを改竄できないよう公文書として残しておくのがこの二人の今日の仕事だ。
俺は二人からの質問に答えながら、リストの確認が粛々と進められた。
◇
「あのガキ二人が毎日のようにこの遺物を調べているけど、まだ何の成果もあげられてないじゃないか。やはり実力もなくアウレウス伯爵に引き立てられただけだったみたいだな」
「ああ。よし、せっかくジルバリンク侯爵がいらしてるんだし、俺たちがここで成果を上げてアイツらに実力がないことを証明してやろうぜ」
「だがこの遺物はどうやって使うんだ? 表面に古代文字が書かれているが、お前読めるか?」
「いや読めない・・・でもこの文字の部分を押すと別の文字が浮かび上がって来た。一体どういう仕組みなんだろう」
「不思議な遺物だな、これ。でも適当に押して行けばそのうち俺たちの読める文字が表示されるかもしれないぞ」
◇
「これでようやく最後か。随分たくさんの遺物が発見されたみたいだが、婿殿はこれを全て調査していくつもりか」
「できればそうしたいのですが」
「だったら是非、我が魔法協会の主任研究員に」
「だから婿殿の勧誘は」
また二人が言い争いを始めようとした時、建物全体が大きく揺れた。
ゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・
「な、何事だ!」
騒然とする展望室。
窓の外を見た俺は、だがその光景に驚愕した。
「見てください伯爵。中央塔が光ってます」
「本当だ・・・なっ、何だこの膨大な魔力は!」
「おいキミ、魔力の増大と共に揺れがどんどん大きくなっているが、一体何が起きてるんだ」
二人の言う通り尋常ではない量の魔力の奔流が地表に向けて駆け上っているが、そこへ魔法協会の職員が展望室に飛び込んできた。
「ジルバリンク侯爵、緊急事態です! 管理室の遺物が勝手に動作を始めて、大きな警報音が鳴り響いています!」
「もしかするとこの揺れとも関係しているのかもしれん。今すぐそこへ案内しろ!」
部屋を飛び出した伯爵たちとともに、俺も管理室に向かって走り出した。
◇
部屋に入ると、窓から見えるジオエルビムの中央塔がさっきよりもさらに強く光り輝いており、地揺れによって周りの建物が少しずつ崩落していく。
「ジオエルビムが・・・古代魔法都市が崩壊していく・・・」
その光景に俺は愕然としてしまったが、管理室ではサイレンが鳴り響き、今まで動作しなかった用途不明の遺物たちも光を放って起動している。
一体何が起きたんだ。
部屋の中を見渡していると、さっき俺たちを呼びに来た魔法協会の調査員が部屋からこっそり逃げ出そうとしている。
アイツら俺がいない間に、勝手に端末を使ったな。
「アウレウス伯爵、あの調査員を捕まえてください。この地揺れは彼らが端末を勝手に操作して引き起こした可能性があります」
「なんだと! そこにいる監察局員、早くそいつを捕まえろ!」
「はっ!」
結局、監察局員に捕らえられたのは3人で、「俺たちが悪いわけじゃない。そこのガキどもがやらかしたのを修復していただけだ」と喚き散らしていたが、誰もその言葉を信じない。
「なぜ勝手に遺物に触れたんだ!」
アウレウス伯爵が激怒し、彼らはシドロモドロの言い訳を続ける。
俺も怒りに震えていたが、今はこいつ等に構っている場合ではなくこの地揺れを止めなければならない。
端末の画面を見ると何かのプログラムが作動しており、それを終了させようとウインドウをタッチしても何の応答もない。
別のウインドウには入力エラーと思しき記号が表示されており、それにタッチしたところ別のウインドウが開いて何かのリストが表示された。
「ヘルプ画面に飛んだか?」
そのリストは古代文字で書かれていて読めないが、下の方にスクロールダウンしていくと日本語で【魔導コア起動/停止】と書かれた文字を見つけた。
「やっぱりあった!」
俺はそのリストを選択して、表示された説明文を読む。
魔導コアとは俺たちが中央塔と呼んでいるあの高い塔のことで、膨大な魔力を生み出す発電所のようなものらしい。
その起動や停止がこの端末から行えるようだが、今起きている現象は魔導コアの出力が急上昇して過負荷状態になっているみたいだ。
もちろんこの端末から出力を下げる操作はできるが、説明文によると沈静化するまで時間を要するらしく、緊急停止を行う場合は魔導コアに入って中の設備を直接操作する必要があるらしい。
窓の外を見ると、朽ちた果てた高層ビル群が少しずつ崩落している。
それと同時に、中に残された遺物たちも永遠に失われていく。
「緊急停止させよう!」
俺は端末の説明文をざっと読むと、管理室の奥にある転移装置へと駆け寄った。
「7属性全ての魔力が必要なので、誰か一緒に来てくれ」
俺がそう言うと、転移陣の上にみんなが次々と押し寄せて来た。
セレーネ、ネオン、マール、フリュ、ダン、パーラ、アネットの8人で転移陣が一杯になり、他のパーティーメンバーは不安そうな目でこちらを見ている。
「魔獣がいるわけでもないし心配するな。じゃあ行くぞ!」
転移装置のスイッチを押すと、転移陣に闇属性の魔力が満たされる。
心配そうに見つめるネオン親衛隊やアウレウス伯爵たち監察局員、調査員を叱りつけるジルバリンク侯爵の姿がボンヤリと薄くなると、目の前から消えた。
◇
そこは薄暗い空間だった。
半球形のドーム状の部屋の中央には細い円柱が床から突き出しており、その上部に白く輝くオーブが取り付けられている。
「あのオーブで魔導コアの制御を行う」
そう言って転移陣から一歩踏み出した途端、強烈な頭痛と吐き気が俺を襲った。
「・・・く、苦しい。目が回る」
見ると、他のみんなも苦しそうに藻掻いている。
「これは魔力酔いです。皆様、マジックシールドを多重展開っ!」
フリュが大声で叫ぶ。
【無属性初級魔法・マジックシールド】
全員が一斉にマジックシールドを発動させて多重バリアーのような状態にしたことで、床から沸き上がるような魔力の奔流が遮られた。
「ふう、助かった・・・」
俺が一息つくと、パーラの背中をさすっていたアネットが言った。
「もう大丈夫よパーラ。強力な魔力を浴びたせいで急性魔法中毒になっただけだから。ほら平民がマジックポーションを飲んだ時になるアレよ」
「そう言うことでしたのね。ありがとうアネット」
ようやく立ち上がって礼を言うパーラを見て、俺は銃装騎兵隊に申し訳ない気持ちになった。
彼らは全員魔力を持たない一般人であり、そんな彼らにマジックポーションを飲ませて強制的に魔力を体内に取り込ませて銃を発射させていた。
つまりこんなに気分の悪い状態の中でいつも戦わせていた訳で、連戦になると分かった時の嫌そうなサー少佐の顔を思い出してしまった。
・・・みんなの給料を上げてやらないといけないな。
「よし、今から魔導コアを緊急停止させるぞ!」




