第102話 古代都市遺跡の威容
さっきのゴーレムに先導させ、俺は魔法障壁の中に入って行った。
魔法の渦に入ると、どこか遠くに転移されていく浮遊感を感じたが、渦を抜けると先ほどと似たような石室に出て来た。
部屋の構造や雰囲気は他の遺跡とあまり変わらないが、こちらの石室には祭壇の代わりにコンピューター端末が設置されていた。
「ここなら端末を祭壇に偽装する必要がないということか」
端末はまだ生きており、突然スリープモードから立ち上がると、先ほどの祭壇と同じパスワードを入力する画面が表示された。
「こちらからでも魔法障壁の行き先をコントロールできるらしい」
俺が端末の確認をしていると、魔法障壁から続々と人が入ってくる。
61名全員の転移が完了すると、石室が人で一杯になり、満員電車かと思うほどギュウギュウ詰めになった。
この石室から早くみんなを出した方がよさそうだな。
「ではみなさん、これからダンジョン攻略に出発します。危険ですのでゴーレムの後に列を作って進みます。前に飛び出したり遅れたりしないよう注意して下さい。それと遺物には勝手に手を触れないようお願いします。特にそこにある端末には絶対に触らないでください。下手すると二度と帰れなくなりますので」
俺は注意事項を事細かく説明すると、ゴーレムに先頭を歩かせ、その後ろを列を作ってぞろぞろと歩き出した。
そんな謎の集団を率いる俺は、ダンジョン探索というより観光旅行のツアーガイドをしている気分になって来た。
とほほ・・・。
後ろを振り返るとせっかくのダンジョン探索の気分が台無しになるので、なるべく前だけを向いて歩くことにした。
さてダンジョン探索に集中しよう。
石室の外は長い廊下になっており、床や壁が未知の人工素材でできている。
天井には等間隔で小さな照明が灯っており、弱い光が足下を照らしている。
前世の日本とは建築様式が異なるものの、この遺跡を作った当時の人々もかなり高度な文明を築いていたようで、その未来的でエキゾチックな雰囲気が俺の冒険心を刺激する。
しかもこの遺跡の凄いところは、何千年前かも分からない遥か大昔から絶えず照明が灯り続け、廊下を照らし出していたようなのだ。
魔力なのか電力なのかはよく分からないが、相当な技術力を持った文明である。
廊下をどんどん進んでいく。
途中、廊下の両側にはいくつもの扉が設置されていたが、そのどれもが固くロックがされていて中には入れなかった。
ただし廊下の突き当たりには大きな扉が開けっ放しにされており、ゴーレムに先導させてその扉を抜けると、そこは何もない大きな部屋になっていた。
だが正面が壁一面のガラス窓になっていて、そこから見える外の景色にクランメンバー全員から驚きの声が上がった。
「何だこれはっ! 外に巨大な街がある!」
そう。窓の外には遠い昔に滅んだのであろう、古代魔法文明の大都市があったのだ。
薄暗い地下の空洞に忽然と姿を現した古代都市の遺跡群。
その中央には巨大な塔が魔力の淡い光を放っており、周りの建物をうっすらと浮かび上がらせている。
その幻想的な光景に思わず息を飲む。
「我々がいるこの部屋もこの古代都市に建ち並ぶビルの一つだと思われますが、かなりの高層階にあるみたいなので、ここから下に降りて街の様子を見に行きましょう」
おそらくここは展望室か何かで、いくつかある扉を開いて行くと、その一つから下へ降りる階段が見つかった。
未だ騒然としている60人を引き連れた俺は、ゴーレムに先導させてゆっくり階段を下りていく。
一番下まで降りて階段室から外に出ると、今度は天井の高い大きな部屋に辿り着いた。
どうやら格納庫らしい。
部屋の中には古代の機械らしきものがズラリと並んでいて実に興味がそそられるが、ここを調べ出したら俺は夢中になってしまうだろうし、一度外に出て街の様子を確かめたい。
さて出口はどこかと辺りを見渡すと、階段室のすぐ右手に大きな金属の扉が見えた。
「何だ、あの扉は・・・」
これまで見たものとは様子の違うその厳重な扉は、中央に大きなマークが描かれていて、それがとても恐い雰囲気を醸し出している。
もちろん俺も初めて見るマークだが、人の心に恐怖心を植え付けるというか、バイオハザード的な危なさを感じる。
・・・いや、あの重厚な扉は鉛の隔壁か。
まさかとは思うが、ここは警戒に越したことはないだろう。
「皆さん、あの扉は大変危険なので絶対に開けてはいけません。下手をすると死にます」
「何故キミにそんなことがわかるのだ」
ジルバリンク侯爵が俺に尋ねる。
「それは・・・ぼ、冒険者の勘です。でも俺の勘が当たっていれば、中に入った人は鼻血や下血をして死んだり、最悪の場合、二度とこの遺跡に立ち入ることができないほど汚染されます。あの扉はそういう死のトラップです」
「勘といいながら、随分と具体的な話をするんだなキミは」
胡散臭い目で俺を睨む侯爵。
俺も確信はないが、これ以上言っても誰も理解できないだろうし警告だけはしておく。
格納庫のような部屋を奥まで進むと脇に小さな扉があり、そこを開けると外に出ることができた。
◇
眼前に広がる古代都市遺跡。
冷たく静謐な空気に満たされた地下空洞に、朽ち果てた高層ビル群が立ち並んでいる。
そして街の中心には、高くそびえ立つ塔が淡い光を放っている。
そんな古代都市遺跡を呆然と見つめるセレーネに俺は声をかける。
「凄いよなセレーネ。こんな高度な文明がかつてこの星にあったなんてな」
「そうね。真ん中の塔なんか、王都アージェントにあるどの建物よりも大きいね」
「ああ。それにウチの王国とは文明が異なるからか、建築様式というか街並みの雰囲気がまるで違うよな」
「・・・ねえアゾート。あの真ん中の塔に行ってみようよ」
そう言うと、突然セレーネが塔の方に走り出した。
「ちょっと待ってくれ! ゴーレムに先に行かせないと危ないぞ!」
俺は慌ててセレーネを追いかけたが、いつも慎重なセレーネが今日はどこかおかしいことに不安を感じた。
◇
みんなから随分離れてしまった俺たち。
ゴーレムを遥か後方に置き去りにしたところでようやくセレーネが立ち止まると、俺の方を振り返った。
そして真剣な顔で、真っすぐに俺を見つめて言った。
【私がアゾートに伝えたかったことを今から言うね】
「え、今から?」
【アゾートとの関係が壊れるのが怖くて、ずっと言えなかったことだけど】
「関係が壊れる?」
【戦争が終わって、そしてこの遺跡を見て、言うなら今しかないと思ったの】
「ちょっと待てセレーネ。今話している言葉ってまさか・・・」
【そうこれは日本語。そして私もアゾートと同じ転生者だったの】
「セレーネが転生者・・・」
みんなが俺たちに駆け寄って来たため、セレーネとの会話を聞かれないよう俺も日本語で話すことにする。
【セレーネはなぜ今ごろになって、自分が転生者であることが分かったんだ】
【フィッシャー領の地下神殿で赤いオーブに触れた時よ。あの時、火属性魔法の呪文と一緒に前世の記憶が頭の中に流れ込んできて、全てを思い出したの】
【あの地下神殿のオーブか。もしかしてノイズのようなものが聞こえなかったか?】
【ええ聞こえたわ。ZAZAZAって。それより私も転生者だったことをどう思う?】
【ちょっと頭が混乱してる。でもこれがセレーネの言いたかったことだったのか】
【そう・・・アゾートがどんな反応をするのか分からなくて、距離を置かれたらどうしようって心配になって、言うのが恐かったの】
【そんなこと全然心配する必要ないのに】
【だって私、アゾートの役に立ってないもの。ネオンみたいに何か作れるわけでもないし、マールみたいに遺跡調査ができるわけでもないし、フリュオリーネさんみたいに長年連れ添った妻のように振る舞うこともできないもの。私っていつも留守番で火力しか取り柄のないポンコツだし、そんな私が同じ転生者だとアゾートも嫌かなと思って・・・】
【そんなこと気にしてたのかよ。俺がセレーネと同じなんてメッチャうれしいし、セレーネを拒絶するなんて絶対にありえないから】
【よかった・・・こんな私を受け入れてくれてうれしい。あ、何かみんな変な目で私たちを見てるし、後でゆっくり話しましょうね】
【わかった。また後で】
それだけ言うと、セレーネはみんなの中に戻って行った。




