表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『魔物を煮込むな! 外伝 ~規格外の天才料理人に振り回される人々のごちそう回想録~』  作者: にゃん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
18/19

宰相府の胃袋革命

王都の中心にそびえる宰相府。

朝から書類の山と怒号が飛び交う、王国で最も忙しい場所だ。


「次の決裁を!」


「南部街道の補修予算です!」


「こっちは港湾税の改定案!」


怒号と足音が飛び交う王国中枢。

それが、いつもの宰相府だった。



だが、この日の宰相府は――


いつもと様子が違った。


「……あれ? 今日、妙に仕事が進むな」


「徹夜明けなのに、頭が冴えてる……?」


「胃が軽い……? なんだこれ……?」


官僚たちがざわざわと騒ぎ始める。

その理由はただひとつ。

昨日、シグルド宰相が配った“団子”である。

シグルドは、書類を捌きながら満足げに頷いた。


「ふむ……やはり効果が出ているな。

 リゼットの料理は、官僚の作業効率を三割は上げる」


側近が驚愕の声を上げる。


「し、宰相様……三割というのは……」


「誇張ではない。むしろ控えめに言っている」


シグルドは、


昨日リゼットから受け取った団子の残りを


机の引き出しから取り出した。


「これを毎日食堂で提供できれば……


 王都の行政は、今より二倍は早く回るだろう」


「に、二倍……!」


側近は震えた。


「宰相様……まさか、あの娘を……」


「もちろんだ。週に三日は宰相府に来てもらう」


シグルドは当然のように言った。


「……ガイアスには、あとで“通達”しておこう」


側近は青ざめた。


「(また騎士団長と揉める……!)」




その頃、食堂では――


昨日の団子を食べた官僚たちが、


仕事の合間にひそひそと話していた。


「なぁ……昨日の団子、誰が作ったか知ってるか?」


「聞いたぞ。リゼットっていう若い料理人らしい」


「下町で噂の……あの綺麗な娘か?」


「そうそう。胸元がすごいって話の……」


年配の官僚が咳払いをした。


「そういう話は仕事が終わってからにしろ。」


「す、すみません。」



執務室へ戻る官僚たちの足取りは、いつもより軽かった。


「でもよ……あの団子、食べた瞬間に魔力が整ったんだよな」


「俺なんて、徹夜明けなのに書類がスラスラ読めたぞ」


「宰相様が気に入るのも分かるわ……」


官僚たちは、


“美人で料理が天才的な娘”


という情報を、半ば神話のように語り合っていた。



その頃、ガイアスは宰相府からの書状を読んで固まっていた。


『ベルシュタイン公爵家専属料理人リゼットを


 週三日、宰相府へ派遣されたし。


 ――宰相 シグルド』


「…………」


副官が恐る恐る声をかける。


「だ、団長……?」


「……断る」


「ですよね」


ガイアスは書状を握りつぶした。


「リゼットは……我が騎士団の士気の源だ。


 宰相府に渡してたまるか……!」


副官はため息をついた。


「団長……嫉妬が漏れてます」


「黙れ」


副官は苦笑した。


(図星なんだな。)




一方リゼットは、


胸元がふわりと揺れる軽装のまま、


市場で買った食材を抱えて歩いていた。



今日の収穫は、

月光キャベツ

火竜の涙

影根ニンジン

痺れアンコウの肝


「団長さん、これでまた美味しいの作れるわよ〜!」


ガイアスは、遠くからその姿を見つけて頭を抱えた。

(せめて胸元をかくすような上着を着てくれ)




その日の夕方。


宰相府の官僚たちは、

いつもより早く仕事を終えた。


「今日、仕事が早く終わったぞ……?」


「団子の効果、まだ続いてるのか……?」


「明日も食べたい……」


官僚たちは、完全にリゼットの料理の虜になっていた。


そしてシグルドは、

窓の外を見ながら静かに呟いた。

王都には今日も夕日が沈んでいく。


「……リゼット。」


ぽつりと呟く。


「君は人の胃袋だけではない。」


一拍置いて、静かに笑った。


「この国の巡りそのものを変える娘なのかもしれないな。」



その言葉は、


やがて王宮の奥深くにまで届くことになる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ