節穴たちの懺悔
リゼットがマーサに連れられて馬車の陰へ消えた後、魂が抜けたような男たちが数名、不自然な沈黙の中で佇んでいた。
護衛のカイルは、未だに止まらない鼻血を袖で拭いながら、力なく地面に腰を下ろした。
「……なあ、ルーク」
「なんだよ、カイル」
「俺たち、今まで何を見てたんだろうな」
ルークは愛剣を鞘に戻すことすら忘れ、リゼットがさきほどまで立っていた場所を呆然と見つめている。
「『ちょっとガタイがいい女の子』……だよな? 飯をいっぱい食うし、力が強いから、胸板が厚いんだろうなって……。ザックの旦那も『着太りするタイプだから気にするな』って言ってたし……」
「着太りどころの騒ぎじゃねえだろ!!」
カイルが叫んだ。
「あのさらしが弾けた瞬間、俺、一瞬だけ『爆発魔法』でも食らったのかと思ったぞ。視界の半分が白くて、あとの半分が……その、桃色だった」
商隊の若い荷運び人も、震える手で十字を切っている。
「俺……リゼットさんに『もっとしっかり食えよ、細いと重い荷物持てないぞ』なんてアドバイスしちまった……。あの服の下に、あんな……あんな、国家予算級の宝が隠されてたなんて……」
男たちの脳裏には、先刻の光景が焼き付いて離れない。
さらしという呪縛から解き放たれた瞬間、初夏の日差しを浴びて躍動した「それ」は、彼らの想像を遥かに絶する質量と、弾力、そして神々しさを備えていた。
「思い返せば、予兆はあったんだ」
ルークがうわ言のように呟く。
「たまにリゼットちゃんが伸びをした時、制服のボタンが悲鳴を上げてただろ? 俺、あれはリゼットちゃんがパンをこねすぎて背筋が発達したんだと思ってた」
「俺もだ。鉈を振るたびに制服がパツパツになるのを見て、『いい筋肉してるな』なんて感心してた自分を殴りたい……。あれは筋肉じゃなくて、溢れ出す生命力だったんだ……」
その時、馬車の陰から着替えを終えたリゼットが、マーサに背中を押されて現れた。
南方の『海女の潜り着』――。
それはリゼットの豊かな肉体を一切締め付けることなく、しかし皮膚の一部のように完璧にフィットしていた。
「見てください! これ、すっごく動きやすいんです! 全然苦しくない!」
無邪気に駆け寄ってくるリゼット。しかし、男たちは一斉に、示し合わせたかのように「サッ」と視線を真上に逸らした。
「お、おう……よかったな、リゼットちゃん(空が青いな……)」
「あ、ああ……似合ってるぞ(あの雲、カニの形に見えるな……)」
「? みんな、どうしたんですか? 顔が真っ赤ですよ?」
首を傾げるリゼットの胸元が、その動きに合わせて豊かに揺れる。
男たちは悲鳴を上げたい衝動を必死に抑え、互いの肩を叩き合った。
「「俺たちの旅は、これからが本当の試練だ……」」
リゼットという「野生」を前にして、自分たちの理性を守り通せるか。
商隊の男たちに、カニの魔物よりも恐ろしい「試練」が突きつけられた瞬間であった。
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