9 ルーカス様の依頼とある騒動と第一回魔法授業
「いらっしゃい。従妹のヴィアンカ殿。挨拶するのは初めてだね。これから、よろしく。」
公爵様の長男ルーカス様の爽やかな笑顔だ。
私を待っていたのは、ルーカス様の他に、叔母様もいる。シャーロット様もいる。そして初めてお目にかかる女性がいる。
「彼女は僕の婚約者で侯爵家令嬢だよ。」
「よろしくお願いします。」
「ヴィアンカと申します。よろしくお願いします。」
先に挨拶されましたけど。
「君は王家預かりとは言え、領地持ちの伯爵だよ。僕らより上の立場なんだよ。」
まあ身分的にはそうかもだけど。
「そんなことより、僕を除け者にして、おいしいものを食べたらしいね。後で僕と彼女もいただいたんだけど、”これだ”と思ったんだよ。」
話が全く見えない。困惑してたら、
「ルーカス。ヴィアンカが困っていますよ。興奮してないで、きちんとお話ししなさい。」
奥様の指導が入った。
要約すると、もうすぐ長男様は彼女と結婚する。それで、結婚にあたり、彼女の持参金とルーカス様の資産で、何か事業をやろうと計画している。でも、今一決定打になるものが無かった。そんななか、私のパウンドケーキやらスフレを食べた。さらに長男はピザも食べている。
そこで思いついたのが軽食店、いわゆるカフェというやつだ。公爵夫妻に相談すると反対意見なし、むしろ大賛成。
すでに店舗の候補を見つけてあるらしく、早く具体的に動きたい。
ただ、レシピは登録済みで、結構お高めのレシピ料になっている。なので、名前だけでも私に経営に携わってもらい、レシピ料はゼロにしてほしい。その代わり売上の一部を私が貰う。
「売り上げの5パーセントなら、レシピ料を払っていただいた方が、そちらにとっては、将来的に良いのではないのですか。」
「うん。そうなんだけど、将来の投資だね。」
婚約者とのお店だし、次期公爵がオーナーだし、単発で終われない。つまり私に違うレシピができたらそれも扱わせて欲しいってことらしい。
私にとっては後ろ盾が強固になるし、少なくないお金も入る。それに経営がうまくいかなくても私に被害はない。
断って公爵家と仲が悪くなるよりいい。叔母様と上手くいきかけているし、承諾する。
ただ、最終結論はきちんとした契約書を見てからにお願いした。
「あなた、しっかりしているわ。人は信用しすぎず、持ちず持たれつがいいわよね。」
ルーカス様の婚約者様に褒められた。褒められたんだよね。
後日、きちんとした契約書が作られ、それにサインした。
その三か月後、カフェがオープンした。オープンした翌日、朝からクラスメイトが私に群がってきた。
「ヴィアンカ様。昨日アールベアル公爵家の嫡男様のカフェに行きました。そしたらマナークラブのお茶会でいただいたパウンドケーキがございましたの。美味しかったですわ。それにスフレとかふわふわのケーキ。夢のようでした。」
「私も行きました。」と次々とクラスメートが続き、私のアールベアル公爵家の縁続きがますます公になった。
公爵家との繋がりが公になったおかげで、さらにクラスに馴染めたようだ。ただゲルツン男爵家のジャスパー様だけには、相変わらず睨まれている。クラスメートも気が付いていて???状態だ。
ある日、ある男子が
「どうしてヴィアンカ様を睨みつけるんだ。不敬だぞ。」
「あいつのせいでうちは男爵に降爵されたんだ。あいつは本当は平民だ。貴族と偽ってここに居る。あいつの方が不敬だろう。」
父様とお母様を殺したあの男の関係者だ。聞きたくなくて家名とか教えてもらっていない。でも、これって逆恨みだ。
「そうですわ。伯爵家なんて名乗ってるけど、ヴィアンカの母親は平民です。私が証言します。」
あいつに賛同したのは、母様の実家のボルトケ男爵家のリサーナ様だ。今まで無関心を貫いてきた人なのにどうして。
「ヴィアンカ嬢の母上が平民なんて何の根拠がある。」
「彼女の母は、お父様の異母姉です。ご結婚する時に、我が家との縁を相続放棄と共に手放してます。なので平民です。」
そこで担任登場。
「うるさいぞ。教室の外まで聞こえてきた。何を騒いでいる。」
ある真面目な生徒が、これこれしかじか。
「ヴィアンカ嬢。君の反論は。」
「ありません。」
「何も言わなければ、自分を守れないぞ。」
「何を言っても、人は信じたいことだけを信じます。男爵家令息がいい例です。ご自分で調べることなく、親しい人の言うことを鵜呑みしていらっしゃいます。男爵家令嬢は私のことを従姉妹だと認めながら、後見人として名乗り出ることをしなかった家の方です。私は両親が亡くなった後、父の弟御夫妻に引き取られ、本当に感謝しております。もし何か思うことがある方は、アールベアル公爵家にお尋ねください。男爵家との関わり事件とか、母様とご実家との関係とか、私のこととかお答えしていただけると思います。調べればすぐ分かることですし。」
「ということだ。実は担任として、私も調べたことがある。その結果、ヴィアンカ嬢に何ら責はないということだ。それ以上でも、それ以下でもない。もうすぐ授業が始まる、用意をするように。」
奇妙な雰囲気のまま一日が始まった。
このことはすぐに全校に広まってしまった。
「ここ、いいかな。」
次男様だ。
「はい。」
「今日は朝から大変だったみたいだね。大丈夫?」
「はい。いずれ何らかの陰口やらを言われると、公爵様から聞いてておりましたので。」
「父上から。それなら僕は従兄として君を助けていいよね。」
「お気遣いは嬉しいのですが、これは、私の問題です。」
「いや、これは公爵家の問題だよ。君はうちの被後見人だ。そして現公爵の兄の娘で、ナイシール伯爵家を継いだ人だ。君の母上との結婚で、公爵家の相続は放棄したが、ナイシール伯爵家は既に伯父上が継いでいた。いくら平民街で死亡しようと、当時、ある子爵家の次男が賭けレースで、伯爵家当主夫妻を轢き殺したことは事実だよ。母上さえ激怒していたよ。それに君の母上は――」
『ギデオン様』
「やめないよ。君の母上のご実家だって、現当主は愛人の子だ。前当主は再婚していない。前当主の嫡子は一人だけでのはずだ。君の母上だ。それなのに、アレックス伯父上との結婚に便乗して、相続権を取り上げた。男爵家だから何も起こらなかったが、伯爵家以上だったら、社交にも出られないスキャンダルだよ。それを棚に上げて、君が平民だとか信じられないよ。君は生まれながらに伯爵家令嬢なんだよ。」
ランチルームはギデオン様の独壇場だ。誰も何も言わない。時が止まったようだ。
「いつもあまり喋らない男が、よくしゃべるね。」
第二王子だ
「殿下のお耳汚しを失礼いたしました。しかしながら、家族一同にヴィアンカ嬢は奥ゆかしいから、学園内で何かあった場合は代わりに弁護するよう言及されております。今がその時と思っております。」
「そのようだな。私からも一言。公爵家令息ギデオン殿は一切嘘は言っていないぞ。それは私が保証する。」
この騒動の後、ボルトケ男爵家とゲルツン男爵家は準男爵に各下げ。二人とも一年生の途中にもかかわらず、Cクラスへと移っていった。
ゲルツン男爵家ジャスパーはジャスに名前が似ていたから、すぐに覚えたんだけど、覚えなきゃ良かった。
こうして私はさらに有名人になってしまった。五年、”目立たず隅で”の目標は入学から半年で挫折した。
それでも何とか二年生になった。私は二年生もBクラスだ。あの騒動があったのでAクラスとの話もあったが、お断りした。一年間でBクラスの皆ともある程度打ち解けていたし、今更Aクラスへ移って、グループのできている人の輪に一人で突撃する勇気も気概もなかったからだ。
それに、親友になったリーナはAクラスにいないしね。
授業は一般教養を一年でみっちりやり、二年生からは魔法の実技が入る。実技クラスだけは、各属性クラスとなる。
わたしは全属性クラスだ。共に学ぶのは第二王子のみだ。
全属性って珍しいのだろうか。質問すれば、ほとんど王族かその血を受け継ぐ者らしい。ただ十年くらい前に一人だけ男爵家から出たことがあり、隠し子かと話題になった。調査も入ったらしいが、王族とは無関係になったとか。これってジャズのことだ。ジャスも大変だったんだ。
私は過去に、公爵家に降嫁している王女が居るので調査などなかった。
「ヴィアンカ嬢。これからもよろしく。」
「こちらこそ、よろしくお願いします。」
先生のくる前に第二王子にご挨拶だ。二人で軽く体を動かしていると先生が来た。全属性を教えられる教師はいないので、先生は週単位で変わる。担任は多分、王子がいるためだと思うが、学院一魔力量が多い学院長だ。
この学院長に聞けば、フローラ様のことがわかるかもしれない。でも、聞けない……よね。機会があれば、聞いてみよう。
「殿下、ヴィアンカ嬢。私が一年間魔法実技の全属性のクラスの担任となる。学院長と呼んでくれて良い。早速、始めよう。」
まず基本属性であるいる火風土水光魔法を発動させられた。これは得意な属性を特定するためらしい。王子も私はなんら苦労なく発動させられた。
「二人とも苦手な属性はないようですね。では、無属性の魔法は発動できますか。」
無属性はどちらかといえば防御に重きを置いた魔法だ。例えば身体強化とかシールドの魔法だ。それにジャズに真っ先に教えてもらった臭いを防ぐ魔法もそれだ。シールドは町へ行く際に必要だと覚えさせられた。王子もシールドは難なくできた。
次に空間魔法だが、二人ともできなかった。
ただ人の動きを止めるストップはできたのだが、二人の魔法は精神を左右する精神魔法で空間魔法ではないと言われてしまった。
説明されたが理解できなかった。でも、きっと暗示みたいなものなんだと理解した。この魔法は言語を理解していなければかけることができないし、絶対に使ってはいけない魔法らしい。
精神魔法は、心を操る魔法だ。
それとは別に、空間魔法による行動の抑制ができる魔法は使用可能だ。空間魔法のストップは、対象者や対象物の周りの時間を一時的に止める魔法だ。空間魔法の基準中の基本だが、ものすごく難しいと言われた。
なので、空間魔法は全属性には行っていない。
そして現在、空間魔法を使える者はいない。
「二人ともスムーズに魔法を発動していますし、問題はないでしょう。しかし光魔法だけは、もう少し練習が必要です。次回からは、しばらく光魔法のクラスで授業を受けるように。あとは、初級魔法でいいですので、魔力量の調整と効率を考えて練習するように。むやみやたらに全力でぶっ放すだけでは、練習になりませ。んいいですね。」
「はい。」
第1回の魔法の実技は結構ハードだった。
どの属性も初級魔法なので難しいことではないが、魔力調整が疲れの原因のようだ
「殿下はまだ余力がありそうですね。」
「そんなことはない。ただの虚勢だよ。立場上弱みは見せられないからね。」
「大変なんですね。私にはそんな余裕もありません。体力もつけないとならないそうです。」
「それは大変だ。がんばれ。」
こうして、一回目の魔法の実技の時間は終わった。
精神魔法とか空間魔法とか、知らない魔法がいっぱいありそうだ。
それにマジックバックを作ってみたいのだ。元日本人なら憧れるのは当然だよね。マジックバックには、空間魔法が必須だと思う。頑張らねば。
読んで頂いてありがとうございます。




