6 いよいよ、学院生活だ
入学式が無事に終わった。
誰も知り合いはいない。
私の父兄なんて居ないと思っていたら、公爵様が父兄席に座っているのが見えた。周りの貴族に挨拶されている。どうしているのかと眺めていたら、目が合ってしまった。頭を軽く下げたら頷いてくれた。なんだかうれしい。
そうそう確か次男様が二学年上に居るんだった。私からはかからないようにするけどね。
今日は入学式だけ。皆さん親が来ているからだって。地方の下位貴族は、王都に居る兄や姉が参列しているけど、誰もいない人も多い。もちろんお金がもったいないから。貴族ってすべてが裕福とは限らないもの。
私は図書館に直行。今日から利用できるんだ。だからナイシール伯爵家とかフローラ様のご実家のコンスティ伯爵家とか、母様のご実家のボルトケ男爵家のことを調べたかったんだ。
フローラ様のご実家は、最近フローラ様の甥御様が継いでいる。フローラ様のお兄様は既に他界してらっしゃる。ここまでは公爵様にお聞きしていたから分かっている。系図を見てもフローラ様は、当然伯爵家の養子になっている。いるんだけどフローラ様だけ生家が載っていない。ただ”養子”とだけだ。
他の家では養子は生家○○とか何らかの釈明があるのに、フローラ様のみない。ただフローラ様は公爵家へ嫁ぐ際にナイシール伯爵家を持参金として継いでいる。伯爵位を持参金にできるのだから貴族のはずだ。でも、伯爵家が養子に持参金として伯爵位を持たせるなんてありえないと思うんだけど。
それに驚いたことにフローラ様の叔母様にあたる方が王家の側室として嫁いでいた。
ナイシール伯爵家は、謎だらけだ。初代は王族の末席にいた方だ。臣下に下って王都近くの領地を賜って酪農を発展させた。そのほとんどを王宮におろしている。当時なら納得するが、現在もほとんどの収入が王宮から。それに初代から三代ほどで血族が絶え、王家に返上している。
それ以降、王族から領主を出して、返上を繰り返している。
それでも領地の運営は国から代官が遣わされ運営されている。
そして現在は王家預かりとなっていて領主の名は空欄。
私の存在以前の資料だけだからだけど、父様やフローラ様の存在はどう考えてもおかしい。フローラ様が伯爵を継いだのなら明記するだろうし、まして夫は高位の公爵家当主だ。隠す必要がない。それにフローラ様以外は末席とは言え王族の方々だ。なぜフローラ様が伯爵家を継いだのか。フローラ様の死後、父様が継いでいるのに、公爵家ではなく王家預かりとなっているのか。
それを発表しなかったのはどうして?
まさか?
芽生えてしまった自分勝手の妄想だ。そんなことは絶対にないと思いつつ謎だらけだ。
お母様のご実家はごくごく平凡な男爵家のようだ。
母様が父様と駆け落ちしてから、愛人を後妻に迎え、母様の異母弟を嫡男として当主にした。そう公爵様に聞いてたけど、おかしい。
確かに、異母弟のことは系図に載っているが、後妻の存在は明記されていない。おじい様の妻は母様の母一人だけだ。どうして?
それとは別に、おじい様がご健在だったら会ってみたかった気がする。
フローラ様のご実家もお母様のご実家も代替わりしている。
フローラ様のご実家のコンスティ伯爵家の現当主の令嬢が同じ学年だと公爵様は言っていた。
コンスティ伯爵家令嬢アーゼロッテ様だ。アーゼロッテ様はAクラス。別で良かった。
母様のご実家のボルトケ男爵家令嬢リサーナ様は同じクラスだ。残念。
私は三年間関わらないように目立たないように隅にいよう。
隅にいようと思ってましたが、そう問屋が卸さなかった。
一年生はAクラス伯爵以上。
Bクラスは主に子爵家や爵男爵家中心。
Cクラス準男爵家以下のクラス分けとなっている。
私はBクラス。伯爵家ではあるが、貴族でさえ「???」となる伯爵家のため人数の関係でBクラスとなった。他にも三名ほど伯爵家の人がいる。この人たちは新たに伯爵になった家の人で元々子爵家で貴族だ。横の繋がりはある。私だけ、この人誰?状態であるけれど、身分的にはBクラスで筆頭のようだ。
ため息しか出ない。
自己紹介も簡単に『ナイシール伯爵家のヴィアンカです』で終わらせた。
ほかの人は『○○家に連なるもの』とか『宰相家の分家です。』とか『魔法は任せろ。』とか『喧嘩は負けない。』とかアピールがすごい。
その中で一人に
『俺は元子爵家だ。罪をなすり付けられ、今は男爵家だが絶対に伯爵以上になる。家族を陥れたやつを許さない。』
何か自分勝手な思いを長々と語っていた。
最後は先生に
「今は自己紹介をしろと言ったのだ。私怨を語れとは言っていない。名前を名乗って席に座れ。」
先生が彼を諌めつつ、ちらっと私を見たのには気がつかなかった。
彼の名は、ゲルツン子爵家令息ジャスパー。ジャスにているから覚えた。
覚えたんだけど、後々、後悔した。
「二年間担任になる。アンリだ。知っていると思うが、一年間は一般教養だ。二年は、魔法の一般教養と軽い実技だ。使えない属性のこともきちんと学ぶことになる。実技はさすがに自身の属性だ。一年時は試験を行わない。二年の最後に行う。だから二年間は、一般教養の補習はしない。ただし、実技の補修はあるぞ。」
皆、おとなしく聞いている。
「三年生は広く浅く各専門分野を学ぶ。二年終了時の成績によって受けられるクラスが違ってくる。ABCの評価で授業の難度が違ってくる。ABCの評価は人数に関係なく実力さえあれば全員Aということもある。しかし、C評価が一人だけということもある。二年間は自己責任において努力すること。テストはないが質問はいつでも受けるからな。」
試験が無いから、自分の不得意分野がわかりづらい。自分でしっかり把握しないと。
「四年五年生は自分の選択した分野をより専門に学ぶことになる。だから三年の間に自分の将来を見据えてよく考えるように。今日のクラス単位での話はこれで終わりだ。あとはクラブだとか同好会とかの勧誘が待っている。流されるなよぉー。では終了。」
流されてしまった。
クラスを一歩出たとたん上級生につかまった。
「わが○○部へ」「いえ、✕✕同好会へ」勧誘がすごい。
そして校舎の外へ出る間にも、あれやこれやの勧誘チラシをいやおうなしに渡され、両手で抱えることになった。
これはもう図書館に行けないと諦め寮へ戻ろうとしても、そこでも勧誘の人人人。こんなに生徒がいるのっていうくらいだ。
寮に帰った時には抱えきれないほどの量になった。寮の入り口でほっとしたのもつかの間、寮の上級生たちが待ち構えていた。こっちこっちと手招きしている。
後ろにいた名前も憶えていない令嬢と目が合う。彼女は諦めたようだ。
「公爵令嬢がいらっしゃいます。王太子殿下の婚約者候補の筆頭です。」
教えてくれた。もう無視はできない。
ご挨拶ができないので大量のチラシをテーブルに積み上げ
「初めてお目にかかりますナイシール伯爵家ヴィアンカでございます。」
名前を憶えていない令嬢も続く
「初めてお目にかかりますセザール子爵家次女のカロリーナでございます。」
「私はフェーリンゲ公爵家長女のキャサリンよ。よろしくね。それにしても凄い量ね。疲れたでしょう。お茶をどうぞ。」
素直に頂きます。美味しいです。
私たちが落ち着いたところで
「寮にまで、押しかけてしまって、ごめんなさい。これが私たちのクラブのチラシと活動報告よ。ご覧いただけるかしら。」
素直に受け取って一応目を通す。
子爵家のカロリーナ嬢が何か言いたそうにそわそわし出した。
「子爵家令嬢カロリーナ様、ここは学院内です。なので直答の許可はいらないわ。特にこの時期は、まどろっこしいとをしていたら勧誘にならないし。質問ならいくらでもどうぞ。」
「ありがとうございます。この活動報告書を読みますと、多岐に渡り活動していらっしゃるようですが、クラブの目標は何なのでしょうか。」
「無いわ。」
「「ェッ。」」
「私たちのクラブは会員がやりたいことをやるためのものよ。やってみたいと思っても、それが自分に合っているかわからないでしょ。だからやってみるだけ。それに興味を持った方が参加しているわ。まあ体験版ってことね。一応マナークラブになっているから、月1回のお茶会やら、ダンス会等の催しはするわ。でも、それ以外の企画は自由参加ね。テスト前は勉強会もあるけど、参加は強制ではありませんことよ。」
「会員はどのくらいいらっしゃるのですか。また、何らかの義務とかはありますか。」
「そうね。今は百名ぐらいかしら。名前だけって方も結構いらっしゃるわ。義務なんて全くないわよ。一部の方は社交へ出る予行練習みたいに考えてらっしゃる方もいるわ。男性の方も20名ぐらいかしらね。ただ上位貴族の方はあまりいらっしゃらないわ。」
「無知でお恥ずかしいのですが、学院では必ず課外クラブに入らなければならないのでしょうか。兼部とかもあり得るのでしょうか。」
「ナイシール伯爵家のヴィアンカ様は、どこか希望のクラブがおありですの。でも安心して。必ずしも入る必要はないわ。でもほとんどの方がどこかへ籍を置いているわ。中には三つも四つも入会している方もいるみたい。でも4・5年生は一つに絞られる方がほとんどね。」
月1回のみの活動は魅力だ。でも彼女は王太子妃候補筆頭だ。できれば避けたい。でも将来、本当に伯爵家を継ぐのであれば社交は大事だ。知識のない私にはもってこいのクラブだ。
待って、今、私、伯爵家を継ぐって思ったわよね。なんで、そんなこと思ったの。
そんなことを思っていたら、迷ってると思われたらしく、
「迷っていると思うから、今すぐのお返事は結構よ。よく考えてくださいね。では、ごきげんよう。」
慌てて立ち上がり
「ご配慮ありがとうございます。」
「ありがとうございます。」
2人してご挨拶する。
公爵家令嬢の去ったあとはチラシの山が残されている。チラシの仕分けをしだしたら、隣でも子爵家令嬢が仕分けしだした。同じチラシがいっぱい。一枚だけお取り置き。あとに残ったのは30枚ぐらい。さらに絶対入らないクラブのチラシもポイ。だって
筋肉を鍛えて己を高みに。何なのこれ絶対いや。
今以上美しく。要は化粧クラブだ。これもいや。
外国語クラブとかもある。他国の言語って大切だと思うけど、私ペラペラなのよ。転生チートなんだか、どんなことを読み書きオッケーなの。
人間の言語のみだけど。動物の言葉はわからないのよ。まあ当たり前か。
自慢したいけどしないよ。目立ちたくないもの。黙々と処理していたら
「ナイシール伯爵家令嬢ヴィアンカ様。改めて、私はセザール子爵家次女カロリーナでございます。二年間よろしくお願いします。」
改めてご挨拶された。慌てて
「ナイシール伯爵家のヴィアンカです。こちらこそよろしくお願いします。」
そこから
「どうするんですか。」
「公爵令嬢直々ですから断るのは」
とか。小さい小声で会話する。だって向こうで公爵令嬢が違う人を勧誘している。
「私たちだけじゃないようですよ。」
「そうですね。そうですけど。」
とかお喋りしながら、私はついつい勧誘チラシで折り紙をしてしまった。折鶴・風船・船とかピアノ・飛行機など、いろいろ折ってしまった。飛行機なんて飛ばしてしまった。するとなぜかまわりがポカーンと静まりかえっている。
「しまった。」
と思っても、後の祭りだ。
「伯爵家令嬢、この紙は空を跳びましたよね。」
ここにいる人で最上位の人の質問だ。
いいえ、勘違いです。そう言い切ろうとするが、子爵家令嬢が飛行機を拾って飛ばしてしまい、ごまかしができない。
「え~と。あの~。たまたま考えなしに折っていましたら、こうなりました。私にもわかりません。」
そうたまたまよ。
とりあえず、皆が飛行機に夢中なのをいいことにそっとフィードアウトだ。ああ、やっちゃったよ。たまたまで通すしかない。そう何を言われようと偶然の賜物だ。飛行機以外は回収してある。すっとぼけるしかない。
翌日、ドキドキしながらクラスに向かった。
読んで頂いてありがとうございます。




