5 入寮前夜
そんな生活が約五年続いた。将来の希望が見えてきたんだけど……。
とんでもない話が飛び込んできた。
私が12歳ジャスが26歳になった時、学院へ行けと言われた。
貴族学校だ。それも寮に入るらしい。
有無も言えず、あれよあれよと準備がなされた。リリーとジャスは私の入学と同時に解雇。
ジャスはいい。婿入りが決まっているのだ。
でもリリーは?そしたらある商会が、文字書き計算もできて公爵家に五年勤めて貴族の知識もあるならぜひと雇ってくれたらしい。
一応、私と一緒に家庭教師ジャズに学んでいたから勉強もしたし、ダンスだって踊れる。
ただ2人と別れるのは寂しい。
「お嬢様。いつか私が勤める商会にお買い物に来てください。そしたら私自慢するんです。あの方が私がお仕えしていた方です、って。待ってます。」
「お嬢。もしかしたらどっかの夜会で顔を合わせかもな。そしたらダンス踊ってくれよ。申し込むから。」
メイド長のレイラさんは、
「何か困ったことがありましたら、遠慮せずにご連絡ください。お嬢様は公爵家のご令嬢ですからね。それをゆめゆめお忘れないようにお願いします。」
執事さんからは、
「そうです。 15歳あるいは学院のご卒業までは、当家の保護下にあります。公爵様もそう仰っておいでです。ここは、お嬢様のお父上のアレック様のご生家です。遠慮なく私やレイラにご連絡ください。」
料理長からは、遠慮がちに
「ピザは石窯で焼いた方が味が良い、あの石窯の使用許可をお願いしたい。」
「もちろん。」
「公爵様に、ご挨拶を致しかったのですが、無理そうですね。よろしくお伝えください。それと学費の費用等のことをお聞きしたいのですが、何かご存知ですか。」
色々と聞きたいことは山ほどある。でも執事さんもメイド長のレイラさんも
「それは旦那様から」
教えてくれなかった。
入寮の準備も終わっている。
平民の私としては、こんなの要らないと思うものも多い。でも、
「お嬢様は、公爵家の被後見人です。ご存じの方もいらっしゃいます。伯爵家令嬢に相応しいものをお持ちにならないといけません。ここで手を抜けば、侮られるのは当家です。素直に従って下さい。」
そう言い切るのは、メイド長のレイラさんだ。
でも、ドレスとかこんなにいるの?疑問はあれど、素直に従った。
寮は、ドレス等の洗濯もしてくれる。メイドが居なくても予約しておけば、着付けもしてくれる。もちろん有料だ。私は、洗濯以外お願いはしないつもり。
だから、ドレスも一人で脱ぎ着出来るデザインにしてもらった。これだけは我を通した。髪だって、一応編み込みもできる。メイドや侍女は要らない。
それでも、
「学院でもパーティーとかあるはずです。その時はお呼びください。」
メイド長のレイラさんに、うるさいくらいに言われた。
レイラさんは、私に対して年々過保護になって行ったような気がする。
上位貴族は、寮に入らず王都のタウンハウスから通う人がほとんどだ。中には、すすんで寮に入る人もいるらしい。その筆頭が王太子様の婚約者候補筆頭のさる公爵家令嬢だと教えてもらった。気を付けよう。
そんなこんなで、入寮の準備は恙なく終わった。結果、私の思いを他所に、伯爵家令嬢の出来上がりだ。
中身、私で良いの?
入寮の前日、公爵様が訪ねてきた。
「いよいよ明日だな。お前には別宅へ押し込み、申し訳なかった。」
「いいえ。奥様と父様のことを思えば、ここにおいていただいて、平穏に過ごせましたこと感謝いたします。」
そうなんだよ。奥様は私のことはいないものとしたみたいで、いじめや嫌がらせは一切なかった。それだけでも助かったし、お子さんたちも私のことはそうなんだ、ぐらいで何の干渉もなく、本当に苦労なんてなかった。教育もしてもらえたし、何の文句なんてない。小遣いまでもらったしね。
「そう言ってもらえると助かる。いろいろ質問があると聞いた。実は私にもわからないこともある。わかることは全て話そう。それが学院での生活に役立つだろうからな。」
私は奥様が反対するのに私を保護してくれたことはどうしてとか。今までの生活費や学院の費用のこと。平民はいけない貴族学院にはどんな身分で通うのか。とか、学院を卒業したら私は平民になれるのか。などなど。
「正直に言おう。兄上が亡くなったと聞いた時はショックだった。決して仲の悪い兄弟ではなかったのでな。どうしているかも把握はしていた。突然の死でそれも子爵家ごときの次男坊にだ。とにかく兄上をと思ってしまいお前のことは後回しになってしまった。悪いことをした。」
「いいえ、両親のお墓のこと、感謝しかありません。」
「だが、お前は牢に入れられたが、手荒なこともされず、逆に世話をしてもらっていたようだ。後で聞けば決してたらなことはするな。便宜は測らなくてもいい。だが決して死なせるなと命があったと聞いた。誰がとは思ったが深く考えなかった。お前のことは妻のこともあったので、孤児院とか、どっか平民の養女にしようかと思っていたら、王命があった。」
「王命?」
「そうだ、お前の罪を不問にする代わりに、十五歳の成人まで公爵家で保護しろと。子爵家の息子は犯罪奴隷として鉱山へ。家は男爵に降格だ。いくら前公爵家当主の息子とは言え、兄上は自ら平民へと下った。その手続きも済んでいると聞いていた。その平民のために王が動いたのだ。現王と兄上は学院で同年で親しかったとは聞いている。それだけの理由ではありえん処遇だ。私も理由がわからない。今もわからない。さらに教育はしろと言われている。まさか貴族学校への入学を命令されるとわ思わなかった。」
「私の入学も王命ですか。」
「そうだ。口頭なので正式な王命ではないが、断れるはずがない。そこでお前の入寮を認めさせた。妻は無視を決め込んでいるが、どこで爆発するか分からないのでな。許せよ。これからは護衛もメイドもつかなくなり不便をかける。」
「いいえ、ご配慮感謝いたします。」
「で、お前の身分なんだが伯爵家令嬢だ。」
「伯爵家?」
「そうだ。私もつい最近まで知らなかったのだ。フローラ様はお前の祖母に当たる方だ。フローラ様はある伯爵家から当家へ嫁いできた。その際にナイシール伯爵位と領地を持参金としてお持ちになった。それは兄上に継承され、今はお前にある。」
「あの~。私のおばあ様なら、公爵様にも権利があるのではないのですか。」
「私と子供たちにはない。フローラ様は早世であられた。その後、父は後妻をめとり、私はその子供だ。フローラ様とは血は繋がっていない。フローラ様の直系はそなただけだ。なので兄上は当家とは縁が切れていたと思っていたようだが、伯爵位は兄上に引き継がれていた。フローラ様の領地や財産は父の再婚後、フローラ様のご実家の伯爵家が管理していた。現在は王家預かりとなっている。」
「王家預かり。」
「ああ。フローラ様は伯爵家の養女だ。そのせいもかもしれぬが、詳しい理由はわからん。フローラ様の伯爵領をお前に託そうと思っているのかもしれん。違うかもしれん。だが、フローラ様の個人財産はお前の物だ。学院の費用も軽く出せるはずだ。だが、これまでの費用も学院の費用も公爵家から出す。」
「でも、それでは。」
「いや。これは当家の体面だ。そなたはアレックス兄上とヴィヴィアン様の御子でフローラ様の相続人だ。表向きは私がそなたの後見人だ。だから費用は出させてくれ。あと学生生活の間、フローラ様の財産から一定額の金子が用意される。それで足りないようなことがあれば連絡してくれ。遠慮はするな。そなたのお金だ。大体理解したか。」
「はい。ただ五年後私がどうなるか分からないということですね。」
「そうなるな。陛下がどう考えておるのかによるな。」
「あと母様のご実家は?」
「ヴィヴィアン様の実家は男爵家だ。今は腹違いの弟が継いでいる。ヴィヴィアン様は正妻の唯一のお子だったのだが、妾の子が男子でな。母上も早くなくなり、その妾が幅を利かせていて、ヴィヴィアン様は肩身が狭かったようだ。兄上との駆け落ちで縁も切れたらしい。」
「私は、難しい立場なのですね。」
「今年は、王家の第二王子が入学する。当家の末っ子も三年生にいる。それとフローラ様とヴィヴィアン様のご実家のお子も学院に入る。関わらんことが利口だぞ。ただ、噂は鵜呑みにするな。」
「はい。わかりました。」
「明日は見送らぬ。達者でな。そうそうピザとか美味しかったぞ。妻も子供たちも好みらしい。」
この一言で両親や私のことを認めてくれた気がして、思わず涙が出てくるところだった。
私ってこの五年本当に幸運だったんだ。
でも王命って?まだ何かあるの。
それにしても、おばあ様のフローラ様って何者。
その夜は、私とジャス、リリーでの最後の晩餐だ。テーブルには、美味しそうな料理が並んでいる。私の好物ばかりだ。ピザ以来、親しくなった料理長が
「腕によりをかけて用意したから、堪能してくれ。」
思ったより、私はこの家に愛着を感じていたようだ。それは、公爵家に連なる人たちのおかげだった。
もう、戻ってこれないだろうが、悲しい苦しい思いでではなく、懐かしい思い出になることが嬉しいと思えた。
読んで頂いてありがとうございます。




