32 新年会と王女誕生
新年会の当日はてんやわんやだ。公爵家一家だけでなく、私やジャスとダンカンと妹、ランディーと夫人、リンダの支度も丸投げしてしまった。ジャスは実家から出席すると言って逃げた。ランディーの奥様は元伯爵夫人であり伯爵令嬢だったので慣れているようだ。
でもメイド長に
「今後は領地にて婦人として仕事をしていただきますので、早くこの国のしきたり等に慣れてください。」
ダンカンの妹には
「ダンカン様がご結婚するまでは、あなた様が婦人としての役割を担うことになります。ランディー様の奥様とご一緒に頑張ってください。」
二人して神妙な顔で、
「はい。」
返事をしていた。二人とも元貴族だし、覚悟はできているみたいでしっかりと答えていた。
私は、授与式には参加しない。叔父様が代理出席だ。なんせその後の新年会は王族のみ許される色のゴールドをちりばめたドレスだ。ティアラはフローラ様が一度も付けたことない父王から頂いたものだ。絹のドレスでとも思ったが、ゴールドに染められなかったのだ。前世では、カラフルな色に染められていたが、そう簡単ではないらしい。
支度にも時間がとられるので、私のお披露目は新年会でだ。ちょっと緊張している。新年会のファッションは無礼講だ。王族の色を使用しない限り、王妃様より目立っても文句は言われない。まあ暗黙のルールはあるようだが、今日の私にそのルールは適用しない。
私のドレスアップが終わった頃、ジャスが帰ってきた。公爵家一と緒に入場だから護衛は必要ないのだが、
「あんなところ長時間いられない。」
らしい。ダンカン、ランディー、リンダは新興貴族だから、笑顔で対応を求められる。それにダンカンとリンダは顔見知りもいるらしく、あちこちから声をかけられているらしい。ランディーは奥様と2人の世界に浸っているとか。新婚だからね。
ジャスは、ひとり手持ちぶさだったらしい。
授与式は第二王子と私。ジャス、ダンカン、ランディー、リンダが、人身売買事件解決に重大な役割を成した功績として発表された。第二王子は国王よりお褒めの言葉のみ。私の報酬は新年会で発表する。目録のみを公爵に渡された。すでに事件のことは周知済みの為、納得顔の貴族がほとんどだったそうだ。
しかし、リンダの実家が授与式の後、突撃して来たそうだ。なので、リンダはさっさと公爵家の控え室にこもったらしい。トドメにジャスが、
「リンダ・ネグリン準男爵はアールベアル公爵様が後見するナイシール伯爵に忠誠を誓っている。ネグリン準男爵に御用があるなら伯爵家を通すように。」
リンダの実家は何も言えず、顔を真っ赤にしてプルプル震えていたんだって。ジャスに笑いながら報告された。女性を道具としか見られないやつは嫌いだ。
「新年会でお嬢の王族が発表されたら手も足も出せなくなる。ザマーミロだよ。あははは。」
高笑いだ。
王城へは、公爵家の馬車に夫妻、長男様の三人。伯爵家の馬車に私とジャスだ。伯爵家の馬車はきちんと用意されていて、あとは家紋をつけるだけになっていた。家紋はあの小箱に入っていた絵を使うことにした。
あれから小箱の正しい開け方を習い、ワクワクしながら蓋を開けた。
箱の中は、絵と父様の手紙が入っていたのだ。
絵はフローラ様の父親が娘のために用意したみたいで、王室ゆかりの花を守るように剣が描かれている。多分、花がフローラ様で剣が父王様だと思う。政変の中、誕生した我が娘への愛情だと思うと、この絵以外考えられなかった。急いでこの絵を家紋風にして、なんとか間に合わせた。そんな馬車とゴールドのドレス、ティアラと、【私は王族よ】とかなり強調している。ちょっと恥ずかしい。
その馬車を御するのはあの定期馬車を扱っていた御者の彼だ。今や彼はナイシール伯爵邸に欠かせない一人だ。
父様の手紙には
「これを読んでいることは覚悟を決めたんだね。私は長く覚悟を決められなかったが、お前には苦労かけてしまった。空の上から見守っている。愛しているよ。」
涙ながらに読み、宝物になった。
いざ入場。
ほとんどの人がホールに居る。残るは侯爵家以上の人たちだ。
ホールには入り口が四つある。下座にある扉は下位貴族。中程が中位貴族だ。今、私がいる入り口が侯爵以上。最後は上座すぎて見上げても見えない王族の扉だ。
すでに侯爵家は入場が終わり、アールベアル公爵家の順番になった。この時に公爵家筆頭のフェーリンゲ公爵様から声を掛けられた。キャサリン様のお父様だ。
「本日は私どもが先に入場致します。アールベアル公爵家の皆様とナイシール伯爵ヴィアンカ様は最後にご入場ください。」
「しかし、それでは。」
「本日のみです。やんごとなき姫君をないがしろにはできません。その代わりと言っては何ですが、我が家へのお茶会にご招待いたしますので、ぜひご出席ください。」
私たちの返事も聞かず、ご家族でさっさとドアの向こうに行ってしまった。
「彼の好意に感謝しよう。キャサリン様と王太子様の御婚約も公表される。王族には敬意を払っているというパフォーマンスだろう。全員が全員ご婚約を祝っているわけではないからな。」
キャサリン様は立派な王妃になると思うけどな。
公爵一家と私の入場だ。エスコートはギデオン様だ。
「大丈夫か。」
気遣ってくれる。叔父様ご夫婦、ルーカス様も暖かい。
「大丈夫です。ヴィアンカ、いきます。」
いざ出陣だ。
私が一番後ろから入場したら一瞬静まり返った。しばらくして上位貴族からは、
「やっぱり。」
「ゴールドがお似合いだこと。」
中位貴族からは肯定と否定が半々だ。
前に誰かが言っていた。
『情報をきちんと事実として結び付けられる者に価値がある』
発表がなくても、私の素性を推測できた貴族は、ほとんどが伯爵以上だ。
下位貴族はざわざわしているが、公爵家の被後見人だけでなく、伯爵の私を声高らかにして非難する者は居ない。いないけど、例の子爵家令嬢が私を睨んでいる。私は公爵家と一緒だから上座に陣取っている。
王族の入場までにご挨拶したい人がいる。周りに断りを入れてジャス、リンダを伴って下座へ赴く。
はじめにコンスティ伯爵家だ。令嬢のアーゼロッテ様とご挨拶した後、
「ヴィアンカ様。父をご紹介させてくださいませ。」
「初めてお目にかかります。アーゼロッテの父のコンスティ伯爵です。」
アーゼロッテ様のお父様は父様のいとこだ。
「はじめまして。フローラ様の一子、アレックスの長女ヴィアンカでございます。ご挨拶が遅れて申し訳ございませんが、今日よりよろしくお願いいたします。」
「こちらこそよろしくお願いいたします。ヴィアンカ様にはきちんと謝罪したいと思っておりました。」
「謝っていただくようなことがありましたでしょうか。」
「ご両親の事故のあと、公爵様やほかの方の思惑を考えてしまい、保護を躊躇してしまいました。父が生存しておりましたらすぐに動いたでしょう。きっと虹の向こうで私に向かってバカモンと怒鳴っていることでしょう。申し訳ございませんでした。」
「いいえ。私は叔父様に保護され、父のお墓にお父様の弟は優しい人でしたと報告できたことが嬉しいと思います。」
「それはよかった。」
「はい。ゆっくりとフローラ様のことをお聞きしたいですわ。」
「ではいずれ。」
あとはジャスのお兄様にご挨拶して、ダンカンとランディーと合流する。ジャスのお兄様は
「弟様には幼少期の頃からお世話になっております。これからも頼りにしております。」
「こんな愚弟ですので、ご自由にお使いください。」
だって。もちろん使ってますよ。ご心配なく。そばに来たダンカンとランディーたちと叔父夫婦のところに戻ろうとした。
したら、
「ヴィアンカ様。あなたはやっぱり平民生まれの平民育ちですのね。そのような非常識なドレスやティアラを纏い、私は元同じクラスの者として恥ずかしいですわ。」
キンキン声で非難してくるのは例の子爵家令嬢だ。名前覚えてないし覚える気もない。無視しよう。
「お待ちなさいよ。私が貴族としての心構えを教えて差し上げているのに、そんな態度はいかがでしょうか。」
ため息つきたいけど、我慢我慢。
「子爵家令嬢。心遣いはありがたいですが、本日の装いは、アールベアル公爵夫人やいろいろの方々からのアドバイスにより決定いたしました。ですから非常識と思っておりません。それと私のことを平民といつもおっしゃいますけど訂正ください。私は前アールベアル公爵と前妻であるコンスティ伯爵家令嬢フローラ様の一子、アレックスを父として生を受けました。母も学院を卒業した貴族です。このことは当家から正式な抗議をさせていただきます。」
「アールベアル公爵家からも抗議をさせていただく。現当主の兄を侮辱されたのだからな。ヴィアンカ、もうすぐ国王一家がご入場なさる。迎えに来た。」 ギデオン様がスマートにエスコートしてくださり、その場を離脱する。
陛下の発表を聞いて驚け。本当になんであんなに突っかかってくるんだろう。
「あの方は子爵家令嬢でしょう。そもそも伯爵であるヴィアンカ様にあんな物言いをするなんて。あの方ほど貴族としての常識がありませんよね。」
「私、偶然にもあの方の近くにおりましたの。そしたら学院でも第二王子を誘惑していて周りも騙されているんだ。その証拠に学院の先生であるジャスティン様を堂々と侍らせている。きっと巷で流行っている『ヒロインと悪役令嬢』にあやかっているのよ、って言ってました。」
ダンカンの妹とランディー夫人の話を聞いて、なるほど。
巷で流行っている物語は、平民として育った女の子が実は貴族(男爵家の庶子)と判明し、父親に引き取られ、紆余曲折の末、王子とゴールイン。めでたしめでたし。と
魅了のスキル持ちがスキルを使い放題で、男女問わず自分の味方につけて、王子とのゴールイン間際に、禁断のスキルが発覚して処刑される。王子を助けるため翻弄した王子の婚約者を称える物語。
この二パターンがある。でも私ってどの立ち位置かしら?
後ろのほうではまだ例の子爵家令嬢が騒いでいる。ほとんどの人が相手にしていないが、ごく少数、鵜呑みにしている者がいる。ため息が出そうだが、
「相槌を打っている者の名前と家名は把握しています。まとめて抗議文を送っておきます。」
「ジャスティン。家にも教えてくれよ。」
「ギデオン様、もちろんです。ついでに私の男爵家としても抗議文を送りますよ。」
二人して黒い微笑みだ。
それより、巷で人気の小説を読んでみたい。後で絶対に購入しよう。でも前世で同じような物語があったけど、私の他にも転生者や前世持ちがいるのかも。ちょっと興味がある。
「ヴィアンカ。下の方が騒がしかったが、大丈夫か。」
「はい。叔父様。いつもの方が妄想を語っていらっしゃっただけです。ねえ。」
ダンカンとランディーに同意を求めるが、ランディー夫妻がいない。ダンカンに聞けば
「ランディー夫妻はお嬢の発表の後、あの女がどうなるか、しっかり観察してくる。と楽しそうに戻ったぞ。」
「それは、是非詳しくお聞きしないとですね。」
叔父様や叔母様、シャーロット様までそんなことをおっしゃる。私も興味はある。楽しみだ。
いよいよ、国王一家のお出ましだ。
「第二王子ジョルジョ殿下ご入場です。」
第二王子から始まり王太子様。しんがりはもちろん国王夫妻だ。その間中、誰もが頭を下げご挨拶の体制だ。国王の合図で直れだ。
「今年も無事、新年の会を迎えられたことはうれしいことだ。皆に感謝する。また今年は嬉しい報告をいくつか発表できることとなった。まずここ数年子供を中心に人さらいが活発化していたが、王子たちを先頭にナイシール伯爵の協力のもと解決することが出来た。この度の叙爵はその功績のものが多い。国を統べる者として、国民が憂いなく生活できるようこれからも努力してまいる。皆の者も貴族としてその責任を果たしてほしい。」
ここで、ざわざわとささやきが聞こえる。ほとんどが肯定の言葉だ。
「次に王太子の婚約が決まった。フェーリンゲ公爵家令嬢キャサリン嬢だ。これより一年後に婚儀を行う。」
王太子とキャサリン嬢は二人して幸せそうに挨拶している。キャサリン様のカーテシーは、たいそう美しかった。
「さらにもう一つ発表がある。ナイシール伯爵ヴィアンカ嬢こちらに。」
国王からの呼び出しに一歩前に出る。周りの人はなんの発表か理解してるようで道を開けてくれる。下位貴族に行くほどざわざわが大きくなっている。例の子爵家令嬢の声だろう。
「やっぱりお咎めをうけるのよ。当然よ。」
あなたの声、上段の国王にも聞こえてるよ。国王の指図か、第二王子が私のエスコート役なのか、上段から手を差し出す。私は叔父様にエスコートされていたけど、第二王子へと渡される。
「これにはもしかして・・・。」
「第二王子もご婚約。」
「全属性同士でお似合い。」
上位貴族の間にも憶測が広がっている。エスコートされた私は国王夫妻の隣に立つ。恥ずかしい。だってよく見えるのよ。私に注がれる顔、顔、顔。後ずさりしたい気持ちを抑え、とりあえずご挨拶。でも顔は上げたまま。王族は頭を下げてはいけない。こんな時は前世の皇室の皆さんの笑顔を参考にして乗り切る。でもお手ふりはしないよ。
「皆も知っていると思うが、ヴィアンカ嬢は前アールベアル公爵の長男アレックスである前ナイシール伯爵の唯一の子である。ヴィアンカ嬢はすでに伯爵位を継いでいるが、アレックス殿は私の従兄弟にあたる。」
この一言でざわついていた会場がたちまち静かになる。
一息ついた国王の言に、
「やはり。」
上位の貴族ほど受け入れやすいようだ。下座の方で
「嘘よ。そんなはずないわ。」
と、なりふり構わず叫んでいる女がいる。
「嘘ではない。アレックス殿の母は、当時の王の側妃であるコンスティ伯爵令嬢の子だ。そうだなコンスティ伯爵よ。」
「はい。相違ございません。」
「あの政変の折、残念なことに王族は割れてしまった。それを危惧した当時の王が、生まれたての子を逃がすため側妃の実家であるコンスティ伯爵家に預けた。その子が前アールベアル公爵夫人であるフローラ様だ。もし、王族が恥ずべきことになった場合、アールベアル公爵とコンスティ伯爵が陣頭に立ち、フローラ様を擁立し国を立て直すことが、秘密裏に計画されていた。幸いなことに最悪の事態は免れたためフローラ様はそのまま伯爵令嬢としてお育ちになり、アールベアル公爵家嫡男とご成婚された。本来女性には、王位継承はよほどのことがない限り与えられない。しかし、フローラ様を王族と認め、王族の証を下賜してある。今はヴィアンカ嬢の手元にあり、開けることもできた。それによりナイシール伯爵ヴィアンカ嬢を王族の一員と認め、王女の名を与える。」
一瞬の静寂のち歓声と拍手が鳴り響く。国王はそれを手で制し、
「彼女はこの度の人さらいの事件解決に重要な役割を担ってくれた。さらに彼女の家臣であるジャスティン・ファンタナ男爵、ダンカン・アギーレ準男爵、ランディ・モラン準男爵、リンダ・ネグリン準男爵、この四人の力も事件解決に大きいものだった。その功績によりナイシール伯爵にはゲルツン領とボルトケ領を与え侯爵に叙す。そして二領は統合され、新たにフローラル侯爵領となる。ヴィアンカ嬢は王位継承権を持ちながら侯爵となる。これは決定である。」
更なる歓声が上がる。
「そんな、うそよ。絶対うそよ。みんなあの女に騙されているのよ。」
奇声をあげる女がひとり。すぐにつまみ出されていたけど。
私は静まるのを待ってご挨拶だけど、何を言っていいか分からないし、今は何を言っても皆に響かないだろうと思う。だから、今の私にできる最上級の カーテシーをする。もちろん会場ひとりひとりと目を合わせるように、ゆっくりゆっくりだ。叔父様、叔母様、私を知っている人は、手をたたきながらうんうんと頷いてくれる。リーナなんて泣いている。モントール子爵家令息は拳を振り上げている。
一角に、飛行紙を持った集団が目に入ってきた。ちょっと力が抜けた。きっと、良い笑顔を送れたと思う。
父様、母様、フローラ様。私はフローラ様の孫として、父様と母様の子としてこれから生きて参ります。頼もしい仲間と共に、精一杯生きて参ります。見守っていてくださいませ。
こうして平民として生まれ平民として生きて行くつもりだった一人の女性は貴族として生まれ貴族と生きて行く星のもとフローラル領を発展させていく。
新たなる、フローラル侯爵ヴィアンカの誕生である。
だが、ヴィアンカには、一つの目標がある。達成することなく、学院生活は終われない。
あと五話です。




