30 事件の結末と引っ越し
お茶会のあと塩のことで通達があった。この時は、別室で、陛下、王太子、第二王子、宰相、叔父様と私だ。
宰相も立ち会いのもと正式に契約がなされた。交易に関する条件は国が定める。交易はフローラル領の仕事として行うが、国が塩をすべて買い上げる。要は下請け会社みたいなものだ。国と国が契約した金額でフローラル領が買い付け、その1割を上乗せして国に売る。その後は国で各領地や商人に振り分けることにより流通を図る。また海水も取り放題になった。
アンビー地区の塩に関しては、出来たものを確認してから詳細を詰めることになった。
視察に行った王太子から、お褒めいただいた。
「あのリストが大いに役立った。」
攫われたものは何人か一緒に連れて帰ったようで、家族に面会させている。そのうえで、家に帰るか他領で働くかを決めさせるようだ。奴隷になったことで、生きづらいこともあるので、希望すれば仕事の斡旋もする。
かの国も最初は我が国民を奴隷として買っていた事を否定していたが、あらかじめリストにあった数人を発見していた。さらに、船着き場のある領主が関与していた事実を突きつけ、有利に交渉できたとのことだ。事件発覚からここまで一ヶ月足らずだ。陛下一同
「こんなことは早急に対処するに限る。」
ちなみに処刑されたのは学院長と二人の前領主の三人だ。前領主二人は全ての罪を背負って、
『全部あいつらのせいだ』
で終わった。他はすべて犯罪奴隷となった。処刑も考えられたが、『少しでも被害者の苦悩を知れ』と奴隷として売られた。そのお金は被害者のために使われることになった。唯一ゲルツン前領主の庶子である前代官は、王城にある前職場が買い取った。直接事件に関与したわけではないので、少額だが給金がでる。奴隷としてその部署の仕事をさせるらしい。奴隷では、破格の待遇だ。元同僚一同は
「これで仕事量が減る。」
「家に毎日帰れる。」
涙を流して喜んだという。彼はそれだけ優秀な文官だったのだ。彼も被害者の一人なんだろうとは思うけど、なんとか動きようはあったと思う。知っていて何もしてないのはアウトだよ。
この事件の発表は学院が新学期になって、五日後に王宮主催で開催する新年会で行うことになっている。学院関係で王都に赴く貴族は多いので、それに合わせているようだ。
新年会は貴族なら招待状なしで参加できる。ただし一家族二人だ。未成年は含まれない。未成年で参加が必要な人は王家から紹介状が送られる。例えば私。未成年だけど伯爵家を継いでいるし、一応事件解決の重要人の一人となっている。さらに、新たに爵位をいただくダンカンとかランディーとかリンダだ。
「ジャズは?」
と思わず呟いてしまったが、
「お嬢。また忘れたのか。俺はすでに爵位を持つ貴族だ。」
そうだった。
今年は王太子のご婚約と私の発表もあるので、各貴族家には参加を促す通達も出されている。その上で、余裕のない貴族家には空いている離宮を解放して宿泊可能とした。一つの離宮に何家族も押し込めるのだが、こんな機会は滅多にないと好評のようだ。王都にタウンハウスを持っている貴族は泊まれない。泊まれない家は、悔しがったそうだ。リーナ一家は、これを利用して参加すると言っている。もちろん、リーナも出席するそうだ。ちょっと恥ずかしいけど、親友には見届けて欲しい。
ダンカンもランディーも参加するため上京してきた。なんとダンカンは妹を、ランディーは恋人を連れていた。
ダンカンは知り合いの冒険者に依頼してフローラル領に連れてきてもらった。
ランディーは
「準男爵をいただくことになり、落ち着いたら迎えに行く。」
としたためたら、彼女が待ちきれず、自力でフローラル領に来たらしい。それにランディーが貴族になると国をまたいでの結婚で手続きが面倒くさい。現在ランディーは生家から除籍されて平民だ。彼女も除籍してもらって平民の冒険者としてやってきた。なのですぐに結婚。平民の結婚はただ周囲に報告をするだけだ。
「ランディー、結婚式をやろうよ。門出だよ。」
私の一言でフローラル領に帰る前に、改めて教会で結婚の誓いを行ない、簡単な披露宴を伯爵邸で行うことになった。忙しくなるのはメイド長だが、
「新しい人たちに勉強してもらうのにうってつけです。失敗しても問題ないですし。」
前向きだ。
もちろん公爵家一同参加だ。シャーロット様も旦那様と参加する。長男様は婚約者とだ。
伯爵家の料理長は公爵家の副料理長だった人だ。だが、当日は人数も多くなるので、公爵家の料理長を貸してもらえることになった。
「あれからいろいろとアレンジもしたり研究してきました。ご期待ください。」
頼もしい。そうそう伯爵邸には大小の石窯を作った。当然、ピザもメニューに入っている。
ランディー夫妻は幸せそうだった。
私の新学期前になんとか伯爵邸に引越ができ、寮も引き払った。リーナは「寂しくなるわ」
と言ってくれた。私も寂しい。
「お嬢様。フローラ様ご夫妻の肖像画はこちらでよろしいですか。」
玄関の正面に祖父母の肖像画が掛けられた。それだけで華やいだ感じになった。
「お嬢様。アレックス様とヴィヴィアン様の絵はどちらに?」
「二人の絵は私のプライベートリビングに飾って。」
母様の絵は、ボルトケの領主館に埃まみれだがあった。無いと思っていただけに嬉しくて泣いてしまった。その上、古参の者から
「おじい様が母様を忍んで度々ご覧になっていた。」
と教えてくれたのだ。さらに泣いたのはしょうがないよね。
こうして、引っ越しは無事に終わった。
けど、引っ越しの前に、伯爵邸の裏の設計図をジャスが完成させていた。私も楽しみにしていたのに、参加できなかった。
「お嬢。不満そうだな。でも、貴族の女性は、いざという時にしかあんなところには入らない。」
ジャスに、この言葉と共に裏の設計図の完成図を渡された。これを知るのは私、ジャス、レイラ、リンダとダンカンとランディーの七人だと言われた。完成した設計図は、フローラ様の肖像画の裏に戻しておいた。
あと一人、誰だ?ジャスは、ニタニタ笑うだけで教えてくれない。
教えろよ、私は当主だぞ。
使用人も整いつつある。何と、定期馬車の御者が我が家に駆けつけてきてくれた。
「そろそろ落ち着きたいと思っておりましたので、ジャス様にお願いして雇ってもらいました。よろしくお願いいたします。」
嬉しいな。
そして、もう一人。見たことがある人がいると思っていても、思い出せなかった使用人がいた。公爵家からかと思っていたが、思い出した。名も知らない者だった。前は認識の阻害魔法を使っていたのか、顔をハッキリ覚えていない。ある日、その者が食事をしている姿を目にした。その姿が名も知らない者の姿だった。
「ジャス。私を試した?」
「試したわけではない。でも、食事中の姿で思い出すなんて、さすがお嬢だ。」
どういう意味だ。オイ。
「奴も、お嬢の食事が忘れられなくて、今回の褒美にここへの紹介状をねだったらしいぞ。早速、仕事をしてもらったがな。」
「あの設計図の完成は、彼のおかげ?」
七人目が判明した。
そんなこんなで、引っ越し完了。
すぐに新学期と新年会だ。
いよいよ、私のことが発表される。
あと七話です。




