3 お墓詣りと公爵様
「少し歩きますが、大丈夫ですか。」
馬車を使いたいが、奥様に伝わらないように歩きにしましょう。
「はい。」
父様と母様に早く会いたい。三十分程でとある立派な寺院に着いた。
「ここですか。」
「はい。公爵家の墓は領地にあります。アレックス様は公爵家より独立していらっしゃったので、ヴィヴィアン様のご実家ゆかりのこの寺院に埋葬致しました。」
お墓は貴族の墓のある区域にあった。隣同士で他の墓よりちょっと小さいけど、きちんとしたものだった。まだ会ったことのない叔父様に感謝した。詳しい話はしてもらえないが、何かなんとなくいろいろと絡み合っているのだろうと予測していた。あと八年、目立たず静かにしていようと思う。
「父様、母様。ヴィアンカは元気で生きています。叔父様のおかげです。これからも頑張っていきます。見守ってください。なぜか前世の記憶を突然思い出しました。不思議です。前世より父様と母様の思い出をいっぱい思い出したかったのに、残念です。また来ます。」
両親のお墓参りをしたことで少し余裕が出てきた。
ヴィアンカは初めて歩く貴族街に驚き、キョロキョロと忙しく首を動かしていた。口はポカンと開けっ放しになってしまった。挙句、
「口は閉じてください。」
注意を受けた。口はしっかりと閉じた。
公爵邸に着くと注意も忘れ、目を見張り口は大きく開け放たれた。すごいお屋敷だろうとは思っていた。いたのだが……。初めての時は夜でそれどころではなかったし見えなかった。なので全貌がわからなかった。今日は、両親のお墓のことで、周りを見る余裕はなかった。
メイド長に促され手を引かれ、やっと歩きだす。
目立たないように別宅に戻る。
戻っても驚きは消えず、メイド長が退出したのも気が付かなかった。
「私はなんてところに来てしまったの。父様、なんで教えてくれなかったの。」
どんな立ち位置なのか。何をしていいのか。ダメなのか。前世の記憶がある分、頭がぐるぐると混乱する
私は公爵家のメイド長です。一応女性ではナンバー2の地位にいます。ナンバー1はもちろん奥様です。ですが奥様が不在でもなにも困りません。ですが、私がいなければ邸内は回らないと自負しております。
もともと母もこの位置におりました。二代で公爵家に仕えております。母は先代の奥様フローラ様と共にナイシール伯爵家から同行いたしました。私も同行の中にいたしました。ですので、どうしても情がフローラ様のお子様であるアレックス様に偏ってしまいます。
幸い先代の後妻様は優しいお方で、現公爵様をお産みしてもアレックス様をないがしろにすることはありませんでした。アレックスさまが男爵家令嬢と御結婚するときも、ご自分のお子様がアレックス様の元婚約者とご結婚するときも、いつもただ黙っていらっしゃいました。今は亡きお方なのでどんなお心持だったのかわかりません。すべては先代様が差配なさっていたので口出しできなかったのかとも思います。
それにしてもアレックス様のお嬢様は良い。
「お嬢様はどうでしたか。」
執事です。屋敷に着いた途端これです。いささかぶしつけな質問ですが、お嬢様への他人の評価は気になるところです。そこは突っ込まないことにしました。
「それより昨夜はどうしてお風呂の使いかたを、お教えしなかったのですか。灯かりも付けられなかったようです。おかわいそうに。」
「えっ魔法が使えるので知っているかと思いました。もしかしてあのまま……。申し訳なかったですね。それでとうでした。お嬢様は?」
質問には質問です。
「執事さんは、どう思いますか」
「危ういですね。特に奥様が。悪い方ではないのですがアレックス様の元婚約者ということでヴィアンカ様には一物あるようです。」
「そうですね。特にあの侍女が関わると大変ですね。」
侍女とは奥様にご実家からついて来たメイドです。私の引退後は自分が長になるつもりの方で、敵意をむき出しにしています。その結果メイドの間では派閥のようなものができてしまい正直困っています。
すぐに引退してヴィアンカお嬢様の専従になってもよいのですが、あの女では邸内がとんでもないことになるのは明白です。もう少し頑張ろうと思っています。
「お嬢様のことになると冷静な奥様が感情的になりますから、思案処ですね。それでどうでした。」
どうしても聞きたい用です。致し方ないので
「さすがアレックス様のお子様です。」
的確にきっぱり言い切りました。
翌朝食事を持って来てくれたのはメイド長さんでした。十日に一度と言っていたはずです。顔に出ていたのでしょう。
「今日の予定ですが、午後になったら公爵様がいらっしゃいます。そのおつもりでお願い致します。」
「わかりました。」
午前中に下働きとメイドさん数名が現れ無言で掃除をして行った。掃除場所は玄関と小さい応接室とそれに続く廊下だ。すごく綺麗になった。
でも他の部屋は掃除していない。ここは公爵様の所有だけど、現在住んでいるのはヴィアンカ一人だ。人をおもてなしするにもこれでは失礼だと昼まで掃除をした。
お客様にお茶もお菓子も無いけど仕方ないよね。
昼食を持ってきたメイドさんが、なぜかクスクス笑っている。何かしたのかしらと思いながら完食。メイドさんはさっさと退出していった。。
いつ来るかわからない公爵様に失礼があってはならない。鏡で身繕いをするために浴室に行く。ため息が出た。メイドさんが笑うはずだわ。
掃除でとんでもないことになっていた。恥ずかしい。顔をあらって綺麗になった髪も見苦しくないよう結直した。けど、ドレスだけはすぐに汚れが取れない。洗って干してあるもう一着のドレスを取りに行こうと1階に駆け下りると公爵様とぱったり。
「Oh my God」
私こんな言葉知らないはず。
ここはアールベアル公爵様別宅の応接室だ。広いソファーに公爵様らしき男の人がドンと座り執事さんがそばに控えている。私は執事さんに促されて部屋に入った。けど、何をしていいかわからず、ウロウロもできず、ただドアの前でじっとしていた。
「座りなさい。」
執事さんが私を男の人の前の椅子に座らせる。
「アールベアル公爵ジョージ様です。」
男の人を紹介された。挨拶しないとと焦って勢いよく立ち上がり
「私はヴィアンカです。この度は私の不始末や両親のお墓なことなど、お礼申し上げます。ありがとうございます。」
やっと挨拶ができた。
「ほう、いくつだ。」
「七歳です。」
なにやら考えている
「年の割に賢いな。では、自分の状況は分かるか。」
「私の両親は馬車の事故で亡くなり、その原因である男爵様の息子を魔法で攻撃したことは罪にならず、今はお父様のご兄弟の公爵様の保護下にあるということですか。」
「そうだ七歳なのによく理解している。なら、全て話そう本館ではなく別宅にいるのは妻の公爵夫人を慮ってだ。妻はもともと兄上の婚約者だった。だが兄上はその方の母と駆け落ちした。その後、私は彼女と結婚し家を継いだ。ここまではよいか。」
「はい。」
「妻は良妻賢母だ。だが兄夫婦のことになると感情的になることがある。なので妻の目につくことはやめてもらいたい。成人までは面倒を見る。」
「歓迎されていないっていうことですね。わかりました。でも、住むのはどこかの孤児院でもかまわないのですが。」
「それはできん。お前は公爵家に縁のある子女で成人するまでは我が家で保護することで罪がなくなった。成人後は好きにすれば良い。ただ教育だけはさせてもらう。」
「わかりました。よろしくお願いします。」
「あとは何かあれば執事とメイド長に言うように。それともう少し身綺麗にしろ。ではな。」
「……すみません。気をつけます。」
恥ずかしい。恥ずかしくて真っ赤になってしまった。公爵は一人で本館へ帰って行った。
執事さんが聞いてくる。
「お嬢様ドレスはお持ちですか。何かご希望はありますか。」
「ドレスは着ているものとあと二着です。ただドレスといっても平民の普段着です。あと厚かましいお願いなのですが、料理がしたいです。あの~、お料理がまずいとかではなくて。成人後、何もできないようでは生きていけないと思いまして。できれば裁縫とかも自分でできるようにしたいと思っています。」
「なるほど公爵様にお話してみますので、しばらくはこのままですがご辛抱ください。」
嬉しい言葉と共に執事さんは帰っていった。
今日の予定は終わった。新しい予定はこの服を洗わないと。でも父様が公爵家で母様が男爵家出身でさらに駆け落ちなんて知らなかった。だから二人とも礼儀作法に厳しかったのかと納得する。そして私は父様と母様の子供だ。二人に恥を欠かすことはできない。色々頑張ろうと決意する。
「旦那様。」
「執事か。あの子はどうだ。」
「はい多少は動揺したかと思います。が、七歳の年や環境の変化を考えれば、かなり冷静なのではと思います。」
「そうだな。さすがに兄の子だ。礼儀作法や言葉遣いも問題ない。それゆえ妻や子供達には会わせられないな。気をつけてくれ。」
「はい。それとドレスなのですが、もっていないそうです。あと厨房が欲しいとおっしゃっています。」
「持っていない。あー、考えればそうか。早急に普段着を何着か用意しろ。あと厨房はどうしてだ。」
「成人後に一人で生きて行くためにだそうです。裁縫や平民がしていることも学びたいそうです。」
「なるほどな。先が考えられるのだな。幸いなことに妻と子供は10日後に領地に行くことになっている。それに合わせて工事してやれ。あと平民のメイドや下働きがいればあの子につけてやれ。」
「お言葉ですが、新しく雇ってもよろしいですか。新しい者ならば別宅でも文句も言わずに働いてくれると思います。」
「それで良い。」
「それでは御前失礼いたします。」
ドアを隔てて2人はほとんど同時にため息が出た。あと八年ある。平穏なはずがない。これからどうなる。
「王よ、どうして。」
聞くに聞けない。
読んで頂いてありがとうございます。




