24 動き出したアレク地区
とにかく時間がない。
この長期休暇中に公爵家のシャーロック夫様が婚姻するのだ。もちろん私は式に呼ばれている。あと10日ほどで出発しないと間に合わなくなる。
クレープも心配だが、あれは、私の手を離れているので、料理長に任せておけば大丈夫。
でも、私を家族だと迎い入れてくれたシャーロット様の結婚式だ。どうしても、出席したい。
なのでダンカンとランディーにがんばってもらわない。
「ダンカンきちんとした作業工程がなくて大変でしょうが、ランディと試行錯誤しながら頑張ってほしいわ。それに年寄りは機織りとかやったことがあるかもだから人材の発掘にも力を入れてちょうだい。」
「糸までは何とかなりますよ。機織り機もあるんだし、機織り機は職人に作らせます。実物があるのに作れないなんて、職人じゃないでしょう。」
「そうね。そっちは任すわ。将来的に糸も染めたいの。こっちは意欲のある女性でも見つけて任せてみて。もちろん男性でもいいわよ。」
「分かりました。それで布の初お披露目はいつでしょう。それに合わせてスケジュールを組みますよ。」
「私のデビュータントね。いつになるか未定だけど、多分第二王子と一緒になるかしら。そうなると一年後かな?まだ、ハッキリしていないの。予定が立たなくて申し訳ないわ。」
話に聞くと、王家と公爵家が私のデビュータントのお披露目を取り合っているらしい。王家は王家の公爵家は公爵家の思惑もあり、本人は蚊帳の外だ。言われたことをやるだけならなんとかなると思っている。これが一から企画しろとか、できる気がしない。でも、出来るようにならないといけないのよね。
とりあえず絹関係は領主館を使うことにている。特産品にしようと思うので、布ができる出来上がるまでできるだけ一目に付かない方がいい。
「ダンカンには、私の学生の間は権利をできるだけ委任します。ダンカンが判断して私への事後報告で結構よ。ただしランディーとレオには一応ダンカンの見守りというか、私に事後報告が必要かどうかとか、ダンカンに意見できるようにしたいの。ダンカンを信用してないというわけじゃないわよ。」
「分っています。つい慣れで、自己判断が甘くなるのを防いでくれるのは、ありがたいです。」
「ジャズに相談なんだけど。」
「なんですか。怖いですね。」
「今ジャズは公爵家で執事の仕事を教わっているでしょう。執事じゃなくて私の専門の従者というか、秘書と言うか、私と一緒にフローラル領のことと王都の伯爵邸のこととか、側近みたいに動いて欲しいかな。なんて思ったりして。私一人じゃ荷が重いのよ。私の不在中は代理かしらね。」
「俺はダンカンと違って領地経営の知識はないぞ。知識のあるものを雇ったほうがいいんじゃないか。」
「でもね。あなたは私が七歳の時からそばにいてくれたのよ。あなた以上の人はいないの。一緒に学んでほしいのよ。」
「そこまで言うなら頑張るか。それに従者なら護衛も兼ねられるしな。」
「ありがとう。心強いわ。それでリンダにはできれば爵位を受けて欲しいの。私の勝手で申し訳ないんだけど、爵位があれば夜間に一緒に出席できるでしょう。夜会ではしばらくはジャズが私のパートナーで、侍女がリンダね。」
「いや、お嬢のエスコートはギデオン様なんだと思うぞ。それか第二王子かだ。」
「ならジャスがリンダをエスコートしてね。でもどうかしら。」
「私も考えました。私はまだ実家から離席していないのです。何かの拍子に実家が私を思い出し、無理難題を押し付けられるなら爵位をいただいて、独立した方があの家から自由になれると考えました。今後ヴィアンカ様に仕えるならその方が良いとも思っております。」
「ありがとう私は貴族ではあるけど、平民として生まれ七歳まで生きてきました。だから伯爵位をいただいても信頼できる人は少ないのです。あなたたちには期待しています。」
「でも、お嬢丸投げはダメだぞ。」
ジャズに丸投げ禁止をされてしまった。残念。絶対ほかの人の方が私より優秀だと思うんだけど。
アレク地区では、すでにランディが準備万端にしておいてくれた。私の到着に合わせ翌日から働いてくれる人も集合している。すでに仕事をしている人たちもいる。
みんなを前にご挨拶だ。
「私はナイシール伯爵のヴィアンカです。現在のこちらの領主を国王陛下より拝領しています。さらに隣のボルトケ領も相続することになりました。公式な発表はまだですが、二領を合併してフローラル領と改名します。またゲルツン領をアレク地区。ボルトケ領をアンビー地区と名付けます。前領主は既に承知していると思いますが、人身売買の事件に関与していた事により、王都へ連行されています。それ以前に領主一族と偽証した罪もあります。私は現領主として、そのような状況を作り出した事を皆に詫びたいと思います。そして今後、領内を皆の住みやすい土地にしたいと切に思います。また事件のために、今後この領は風当たりが強くなるでしょう。その不名誉を払拭できるよう力を合わせて頑張りましょう。」
皆、知っていることとは言え、言葉にされると、改めてその重要性が理解できたらしい。
ただ、中には事件に関与していなかった前領主の一族もいるらしく、
「そんな、一方的に改名なんて・・・。」
「では、あなたは、顔を上げて『出身地は、ゲルツンだ』と言えますか?」
「それは……。」
「真面の心を持った人なら、言えないでしょう。もしかしたら、あなたの子や孫が犠牲になっていたかもしれないのですよ。」
ジャスやダンカンが、私の強い口調に驚いている。
「改名に納得のいかない方は、領外への移動を認めます。前領主を懐かしむ人は、フローラル領に、必要ありません。」
誰も何も言わない。私は、話を進める。
「ここに居るダンカン・アギーレをフローラル領の新しい代官として、アレク地区の副代官としてランディー・モランを任命致します。この2人を中心に新しい産業を頑張ってください。新しい産業として今まで害虫であったこの繭を使用します。」
疑心暗鬼の顔ばかりだ仕方がないね。
「代官のダンカンと副代官のランディーに従ってください。」
すでにランディー指導で各部署に分かれている。
○孤児院とスラムの子供達は繭の綿を取る係だ。その時に穴のあいた繭は別にする
○綿の取れた繭をお湯に煮詰める(大人)
○煮詰めた繭を糸にする。大人で暑さに耐性のある人
○糸を乾かす。糸が絡まないよう要注意。風魔法とか水魔法の使える人
○機織り機を使える人。他に布を織る方法を知っている人
○穴のあいた繭は、手間はかかるが、短くなった糸をつなぎ合わせ糸にする。B級品
○機織り機の製造
○綿のゴミを取り、きれいにする。水洗い又は水魔法
○綿は布団やクッションにするため、裁縫をする人
今後は各担当で効率的な作業を考えてもらうことにする。作業する前に試験的に織った布を見せ手触りを確かめてもらった。繭の数も少なくほんの小さな布だが、絹の肌触りには皆感動していた。あとはランディーに任せることにする。ただ繭は羽化させてしまうと糸が極端に短くなるので注意しておく。一日で布のことは目立ちがついた。ダンカンもそうだが、ランディーも優秀だ。
その後ランディに相談された。何って、ランディの結婚だ。そもそもランディーが母国を捨てた理由が、痴情のもつれだった。
彼女とは幼馴染。といっても主家のお嬢様。護衛として傍にいた。
当然ながらお嬢様に婚約話の話が持ち上がる。そこで互いに自分の恋心を知る。ばか正直に両家に思いを告げると、会うことを禁止された。禁止されると燃え上がるのが恋心だ。何とか連絡をとり、手に手を取って駆け落ちとなるが、協力してくれた友人が裏切る。駆け落ちは未遂に終わり、ランディーはボコボコにされ実家から籍を抜かれ、我が国へぽいされた。何度祖国へ戻ろうとしても、入国できず。お嬢様は泣く泣く嫁に行ったらしい。
それも運命かと思い彼女が幸せならそれでいい。と思えるようになった。
最近、彼女が子なしのため実家に返されたと風の噂を耳にした。なら今度こそ共に生きていけるのではないかと期待した。何とか連絡を取れないかと考えていたら、例の私の影の護衛の一人が協力してくれたらしい。今回の事件のため他国の状況を調査するついでに、手紙を届けてきてもらった。影も目くらましの仕事があった方が都合が良かったらしい。影が調査に入った国は海にある街の国でランディーの祖国はその手前の国だった。両国とも川沿いの国でランディーの祖国も関与しているのか調査もあったらしい。一石二鳥だった。ランディーの祖国は関与していなかったようだ。
返信もランディに届けられたらしく許されるならおそばにいたいとあったとか。いろいろ詳しく尋ねてツッコミたいがぐっと我慢した。で、ランディーも彼女のため爵位を受けることを決めた。
ただ問題になるのがどうやって彼女を連れてくるか。申し訳ないが今ランディーにアレク地区を離れられるのは困る。ランディーもそれは承知で、絹の件が一段落ついたら休みをもらいたいとの希望だ。早く会いたい恋人だろうが、ランディーに甘えることにした。
「お嬢、気にしなくていい。今までのことを思えば、後しばらくのことなど些細な時間だ。それに、ここが二人の出発点になるんだ。将来のためにもきちんと地盤を固めないと。」
頑張れランディー。彼女のため。領地のため。私のために。
さらにアレク地区からも侍女やメイド候補を3人ほど王都へ連れて行くための人選もある。ただ両地区ともランディの将来の奥さんとレオの奥さんが管理しやすい人を選んでほしいので今のところアレク地区は現状で、大幅な入れ替えはしない。もちろん事件に関与してない人だけだ。
王都へ連れて行く女性は決まった。どこからか話を聞いたのか遠い地域からも応募があった。その者たちは前領主の影響を受けていて、面接場が尋問場となってしまった。だって、出てくるわ、出てくるわ。
「私どもは領主様と婚姻にしていただきまして。」
「我が家は領主様の分家でございまして。」
「領主様のご子息様に娘たちが憧れておりまして。」
そういう紹介状や口上を述べる人たちに辟易していた私たちだった。ひとりだけ、嬉々として
「うんうん。それは詳しくお聞きしたい。こちらへどうぞ。」
別室が用意され、きびきびと誘導しているメイナードがいた。
もちろん面接にはメイナードにも加わってもらい、なんとか三人に絞った。年齢は15歳前後としていたが、ひとり25歳で出戻り夫人がいた。
彼女は子供を売られた今回の被害者だった。それも売った張本人は夫だった。子供はまた作ればいいと、目先のお金に目がくらみ自分子もほかの子もさらった実行犯だった。表では子供を心配するふりをして、裏では非業な犯行に手を染めていたそうだ。しかも知らなかったのは妻だけで、家中のものはほぼ察していた。
「私は夫も婚家も許せません。あの子がどうしているかと思うと…。でも領主様が仇を打って頂きました。私はその恩をお返ししたいと存じます。」
彼女を雇うことに迷いはあったが、まとめ役として雇うことに決めた。それにアデリアと顔みしりで人物は保証された。もちろん生家は関与していないし婚家は全員束縛した。
絹糸は順調に生産されている。私は一日に一回と決め、全ての部署を回っている。もっと周りたいがランディに任せた以上、一日一回の巡回で我慢している。
アレク地区の事業の見通しは経った。
後はダンカンとランディーに任せればいい。
明日は、いよいよ王都に戻る日だ。




