22 フローラル領の始動
今日も、殿下との会談だ
五人で参加する。
「おはよう。その顔つきは覚悟は決まったのかな。」
「おはようございます。はい。ただお願いがございます。ゲルツン領とボルトケ領を合わせてフローラル領と改名致したく、お取次ぎをお願いしたいのです。それと共に、ゲルツン領とボルトケ領の改名も考えております。」
「いいよ。だが構想はあるんだろうね。」
昨夜の決定事項を説明する。代官にはダンカンを、ゲルツン領の副代官としてランディーを。ボルトケ領は一族の中から選出すること。また、人身売買に携わった船乗りたちの身柄の確保とその有効活用案をプレゼンした。
「ほう。なかなか考えているな。。だが彼らが裏切るとは考えないのか。」
「裏切るというより彼らには罰として罪を償ってもらいます。勝手に離職することはできません。さらに人質となっていた家族にも、引き続き屋敷で雇います。こちらも勝手に離職することはできません。」
「なるほど、いろいろ考えているね。ただ塩の交易は国家間の話だ。うまくいくとは限らないぞ。」
「その時は…。」
「君は塩の精製方法を知っているのか?」
「大まかです。質は悪くなりますが、安価な塩は国民の生活を豊かにするはずです。」
「あははは。定期船の運行をして、客や荷物を運んだあとは、塩か海水を積んで戻ってくるか。面白いな。それに、船による国内流通か。物流が活発化するな。」
「培った過程は褒められたものではありませんが、せっかくのノウハウを無駄にするのはいかがなものかと。あとは国にお任せいたします。」
「理解した。ゲルツン領はどうする。」
「あそこは今のところ考え付きません。地域性も考えて探してみます。」
「君なら面白いことを考えつきそうだ。」
「これも優秀な側近たちのおかげです。」
「そのようだな。羨ましい。私は明日王都に戻る。王都から一緒に来たレイナードは引き続き調査のため置いていく。君はどうする。」
「私はゲルツン領に戻ります。こちらの領は母の生まれた土地です。母の子と言うことで、私に従ってくれる人もいます。あちらはゼロからのスタートなので、少しでも地ならしをしたいと思います。」
殿下は早くに出発するそうで、見送りは不要と言われた。私たちもゲルツン領に明日へ出発するとアデリアに伝えた。伝えたのだが、プリプリと怒っている。
「ヴィアンカ様。イエ、領主様の馬車なのに白い繭がいっぱい張り付いているのです。来る時はありませんでしたので、きっとくっついてきたのでしょう。今掃除させていますが、明日までに間に合うかどうかわかりません。白い綿みたいなのがなかなかきれいに取れないのです。」
白い繭を見せてもらった。なんと、なんと、蚕さんの繭だ。これだ。
馬車に張り付いていたのは20個ぐらいの繭だ。捨ててしまったというので、すべて拾ってきてもらった。
「これって何ですか。振るとカタカタ音がしますけど。」
「ある蝶のさなぎよ。でも、これで新しい布ができるの。」
アデリアによると、この虫はゲルツン領にしかいないらしい。いつもこの時期になると、あちこちの建物の角や木々にところかまわず繭を作り羽化するらしい。掃除するのが大変な害虫なんだとこぼしていた。
私が興奮しているのに周りの者は冷めている
「これがどうなるんだ。説明してくれないとわからないぞ。」
これも見よう見まねで繭から絹糸を作る。
たしか~、繭を覆っている綿をとって~。熱い湯に繭をつけて~。糸がほぐれてきたらくるくる糸を巻き取って~。だったかな?たしか蚕っておしりから?口から?細い糸を出して、自分を包み込んで繭にして、自分は繭の中でさなぎになって、羽化するのを待つんだったはず。
だから、糸のほぐれた先を見つければ長い一本の糸になったはずだ。とりあえず実行。できてしまった。できた糸は真っ白だ引っ張ってもなかなか切れない。大成功だ。四人、いえ私も含め、あんぐりと口があいてしまった。
これまた転生チートだ。
「ランディー、これを特産物にします。すぐにゲルツン領の冒険者ギルドと商業ギルドに採取のクエストを出してください。」
「すぐにゲルツン領に向かいます。」
「それと人手が必要です。孤児院の子供たちでもできる仕事があります。後、怪我で冒険者を引退した方とかも集めておいてください。」
ランディーを見送ってから、
「リンダ。布ってどうやって織るの。」
「機織り機だろう、いやでしょうね。」
「機織り機欲しいんだけど、どっかに落ちてないかしら。」
「お触れでも出してみますか。」
まだ正式にフローラル領になってないし、ボルトケ領主としても継いでいない。おおっぴらにできない。そこで館の人達だけに機織り機を見たことがないか聞いてみた。意外なところから情報があった。それは人身売買をさせられた男の妻だ。
ある時、売買の代金が足りなかったらしく現地で文句を言ったら、これでも持って行けと渡されたのが機織り機だったようだ。しぶしぶ男は帰ってきたが、案の定ひどく殴られ、しばらく動けなくなったらしい。その機織り機だが誰も引き取り手がなく、その時の手間賃だと支給されたらしい。そのまま男の家でほこりをかぶっていた。やったと思ったが、機織り機を使えるものがいなかった。ゲルツン領の課題となった
私はボルトケ領の主だった一族を全員集めた。
私のことは古参の使用人たちから話が広まったらしく、誰もが従ってくれた。それは人身売買に加わっていた者もだ。
「私は前領主の長女ヴィヴィアンの一子ヴィアンカです。先ほど私は第二王子殿下よりボルトケ家の血を継ぐ正当な跡継ぎと認められました。正式な発表はまだですが、国王陛下よりこの地を賜ります。そこで、ゲルツン領とボルトケ領を併合してフローラル領と致します。そして、ここに居るダンカン・アギーレをフローラル領の代官といたします。」
ダンカンは旧家名を復活させた。
「そんなこと許しません。」
ドアをバーンと開けて入ってきた集団に
「どなたですか?」
私の問いに、後ろに控えていたアデリアが、ボソッとささやく。
「前領主の後妻の連れ子です。ヴィヴィアン様を一番いじめた者です。」
アデリアのことに気がついたのか、
「この館に関係ない者がいるようですね。早く出て行きなさい。」
「この者は新領主となられるヴィヴィアン様の侍女です。それよりなぜそなたは命令を下しているのだ。この場で命令を出せるのは領主のみだ。あまつさえ挨拶もない。無礼だぞ。」
さすがダンカン。貴族モードだ。
「私は領主の姉です。このような侮辱は許しません。この者達を牢に入れておきなさい。」
顔を真っ赤にしながらの命令は、誰も動こうとしない。
「前領主は人身売買の容疑で先に牢に入っている。この者たちも組織に加担しているようだ。全員牢にお連れしろ。」
さっさと動いたのは大半が殿下が置いていった兵士だ。領主館の兵士は半分が動けていない。仲間かも。
「今、代官の命に従わなかった兵の者たちも牢に入れておきなさい。仲間かどうか調べます。あとはレイナード殿よろしくお願いいたします。手が足りなければ我が領の兵をお使いください。」
レイナードは殿下から調査を進めるようにと命を受けた騎士団の人だ。これで人身売買の件は国に任せてしまえる。
それにしても、母様の母様、おばあさまの生家の話が出ない。そっとアデリア聞いたら、主に今度のことで実行犯にされていたものたちだそうだ。部屋の隅に固まっている。一応、私の血の繋がった一族だけど、
「人身売買の問題は、国王陛下を悩ます案件になっていました。それほどのことをゲルツン領とボルトケ領は犯したのです。二領主の主だったものは国によって裁かれます。人質の有無に関わらず、加担したものは罰を受けます。おばあ様の生家とは言え罪は免れません。」
全員、神妙な顔で聞いている。
「ただ一部の者はすでに罰が決まっています。奴隷とする者達を船で他国へ運んだ者たちです。その者たちは国あるいは私の元で罪を償ってもらいます。詳しいことは今は申せませんが、覚悟はしておいてください。逃げたい者は逃げてもいいですよ。でもその場合、恩赦なく斬首となるでしょう。」
「そんなのおかしいだろう。この者たちは家族を人質に取られてたんだ。それを斬首なんて・・・。」
「あの人は前領主の年の離れた弟のお子様です。母親が平民です。弟様はその方と家族となるために平民になり、幸せに亡くなったそうです。」
アデリアだ。すごい情報力だ。
「私にも口も耳も目もあります。容易なことです。」
ささやかれた。
悪そうな人ではないし一応、私とは血を繋がっている。今回の事件には関与していなそうだ。よし。
「逃げればです。逃げなければいいだけです。あなた名前は。」
「あ、申し遅れました。レオと申します。」
「あなたにお願いがあります。ここに居るダンカンは新領地の代官になります。ゲルツン領の副代官も決まっています。あなたにボルトケ領の副代官をお願いしたいのです。いかがでしょうか。」
「はあ、急に言われましても。」
「とりあえず仮です。問題がある場合と、あなた以上の方がいましたら辞めてもらいます。逆に私に不満があった場合には、やめてもらって結構です。」
それでも渋っていたら
「レオやってくれ。」「お前だったら出来る。」「俺たちも協力する。」
周りの声に押されて承諾してくれた。
「この領のトップも決まりました。ただフローラル領は人身売買の根拠地としてマイナスからの出発になります。不名誉な名を払拭できるよう努力いたします。皆さんも襟を正してお願いします。しばらくは現状のまま生活してください。そこの角にいる者たちも家に戻って結構です。処遇が決まるまで船の手入れや川に漁に行っても構いません。」
「ビアンカ様、口上をお許しください。」
「ヴィヴィアン様の母上のお兄様です。」
教えてくれたのは、もちろんアデリアだ。その男に頷くと
「私どもは人質を取られていたとは言え、人の道に外れたことを致しました。どんな罪でも受ける所存です。ですので逃げることはいたしません。また、あんな中で私どもにできることは限られたことでした。これは売られていった者たちのリストです。可能な限り聞き取り、控えてまいりました。お納めください。」
驚いているとレオがリストを差し出してきた。
パラパラとめくると簡単にだが、○○領○○村の誰それ(何歳)、とか××孤児院出身女二人とか書いてある。ところどころのメモに、『証言によれば魔力の多かったものが王都へ連れて行かれたらしい』とあった。一年で数人だ。ある貴族の元へともある。ある貴族の名はわからないが、魔力のある者だけが、仲間だった者達から離されて王都へ売られて行ったようだ。漠然的に裏のボスがいるとは思っていたが、王都の貴族と確信した。
そのリストは書き写され、原本をレイナードに託した。コピーは今後に生かそう。でも一年で約50人で五年でその数、約250人が奴隷として売られていた。それも、段々人数が増えている。ため息しか出ない。
「あなたたちの心情は慮ることはありますが、私の一存ではどうすることもできない重要案件になっています。腐らずに日々過ごしてください。このリストは必ず活用させてもらいます。」
「ハハ。よろしくお願いいたします。」
母様の叔父様は、素直に罰を受けるようだ。良かった。
とりあえず、二つの領の方針が決定した。一安心だ。
明日は、ゲルツン領に出発だ。
読んで頂いてありがとうございます。




