20 母様の実家の後始末とヴィアンカの決意
朝からアデリアがてきぱきと私の面倒をみている。すごく楽しそうだ。時々鼻歌まで出ている。その姿に私の心配も私の心も軽くなる。だって、今日はあんなことやこんなことや聞きたくない報告を受けなきゃいけないのだ。
昨夜、ジャスには、大方片付いているから問題はないと聞いているが、母様の実家だと思うとなんだかね。
ジャスとアデリアを伴って殿下の元へ向かう
「ヴィアンカ嬢。おはよう。疲れはないか。」
「おはようございます。おかげ様で何の問題もございません。(早く済ませましょう。)」
ここに来る途中、ジャズからボルトケ領主一族が、今回の事に深くかかわりがあると聞いている。最悪を聞く覚悟はできているはず。
殿下の説明は私の想像以上のことだった。
この領には大きな川が流れていて川の向こうは他国。そして下流に行けば海がある。海のある国は、川の向こうの国とは違う国だ。その海の町に攫った人達を船で連れて行き、売っていたらしい。奴隷として売るのは、あくまでも他国。船を操れる家族を人質にとって、無理やり働かせていた。人質は領主館に集められ、監視されながら無給で働かせられていた。
人を売った帰りに、塩を仕入れて領主が陰で売っていたんだとか。この国では、海がなく塩は他国からの輸入でまかなっている。価格も国が定めている。輸入にあたっても、個人や民間の取引は禁止されている。それを隠れて行っていた。密輸入だ。人を売って塩を安く仕入れて、働いた人には賃金を払わず儲けていた。お金はほとんど二人の領主で分けていた。なんてこっただわ。私がわなわなと怒りで震えていたら、
「大丈夫か。」
大丈夫?大丈夫じゃないけど。叔父夫婦許すまじ。
「大丈夫じゃないです。でも大丈夫です。ただ直接何考えているんだと文句を言いたいです。会えますか。」
「会わない方が良いと思うぞ。あいつらは貴族なら平民に何をしても許されると思っているフシがある。」
「それでも一言言ってやりたいです。」
私を牢に連れて行くのもはばかれると、前領主夫人(前領主は死亡)現領主夫妻、長男、長女を連れてくることになった。長女は学院で私を平民だと言ったあの女だ。魔法が使えないようにされ、芋づる式に縛られた四人が部屋に入ってきた途端、
「ヴィヴィアン?」
「違います。おばあ様。ヴィヴィアンの娘のヴィアンカです。」
私って母親似だったようだ。
「ヴィアンカ、この戒めを解かせなさい。今なら許してあげます。一族として認めてもよろしいわよ。」
なぜか長女が斜め上のことを喚いている。その上、
「ヴィアンカ。私はお前の叔父だぞ。一族の長に従え。」
「へえ~。ヴィアンカって言うんだ。よし、お前と結婚してやろう。それで今回のことは水に流してやる。」
長女だけでなく家族一同おかしい。ジャスなんて真っ赤な顔して怒っている。怒りすぎて言葉が出てこないらしい、ただひとり前領主夫人が
「お前がいなければ。ヴィヴィアンといい、お前といい、なぜ私の邪魔をする。お前がいなければ…。」
叫びながら私に向かってきた。とっさにジャズに庇われ、前領主夫人は殿下に束縛されている。護衛より動きが早い。
「私は、私は、あなた方と少しでも血がつながっていることが恥ずかしいです。自分のやった事が恥ずかしくないのですか。」
「私だって、あんたと血がつながっているなんて恥ずかしいわよ。」
長女も叫んでいる。だが、
「ヴィアンカ嬢。安心するといい。何かわからんが、その方の母上と現領主は血縁関係がないらしいぞ。」
前夫人以外ぽかんとしている。いや、もうひとり、領主館の家令も驚いていない。
「ハハハ。悪いね。私の鑑定は人にも使えてね。とっさに使っちゃってさ。それで現領主は、そこの男の子供だと出た。」
ここから領主一族の修羅場が始まった。
「母上、本当ですか。」
母親は答えない。
「おい家令。お前が私の父親か。」
家令も答えない。でもそう言われれば彼と現領主は似ている。特に雰囲気はそっくりだ。
「おばあ様は平民出身よね。おじい様の血を受け継いでないって、お兄様、私たちって平民だったの。いやよ。私は貴族よね。そうでしょう。お父様、お母様、おばあ様答えてよ。お母様が貴族だから、私も貴族よね。」
前領主夫人夫人と家令は無言だ。肯定しているようなものだ。
現領主夫人は、
「私は何も知りません。だまされたのです。」
保身に走ってる。長男も
「僕も知りませんでした。」
「私だって知りませんでした。」
長女もだ。
「領主の血が流れていなかったのは知らなかったのだろう。それは認めてやる。それだけはな。この後のことは、牢にて続けてくれ。家令も一緒に牢に入れておけ。」
私の頭の中は、ぐるぐる回っている。
「ヴィアンカ嬢。大丈夫か?大丈夫じゃなさそうだな。今日はこれまでにするか。」
「大丈夫です。早く終わらせてしまいたいと思います。でないとずっと頭の中がぐるぐる回ってそうです。」
ジャスやアデリアが心配そうだ。
「今回の件は一応私が全権を任されているが、とりあえず問題のある代官を派遣したことをあやまらせてくれ。だが既にゲルツン領はその方の領地だ。これからが大変だろうがよろしく頼む。ボルトケ領だが、こうなっては唯一の相続人はヴィアンカ嬢のみだ。故に、ここもその方の領地となる。土地続きだから管理は難しくないだろう。」
「待ってください。母様は縁を切られていると聞いています。」
「それが調べたんだが、前領主からの除籍はされていない。」
これ以上の情報は私の頭がパンクしてしまう。察してくださった殿下に
「ゆっくり休んでくれ。」
労わられてしまった。
「ヴィアンカ様。領主館をご案内いたします」
部屋でボーっとしていたら、アデリアに気を使わせてしまった。ジャスたちも気分転換だとついてきた。領主館の雰囲気は良くない。良い領主とは言えなかったようだし、さらに現領主が捕まったのだ。それも人身売買でだ。遠回しにヒソヒソしている。
ただ年嵩の人たちは、
「ヴィヴィアン様の事は今でも覚えております。」
「ヴィヴィアン様がいらっしゃった頃は、楽しく働かせていただきました。」
などと声をかけてくれた。
それにアデリアが
「この花はヴィヴィアン様がお好きだったんです。」
「この木に登られて降りられなくなって、べそをかきながらお父上におろしてもらったんです。」
「この塔の上からの眺めがお好きで、特に夕日がお気に入りでした。」
とか、母様の思い出話を一生懸命教えてくれる。
殿下は、私にこの領を継げとおっしゃった。継ぐなら、いろいろと考えなくてはいけない。ゲルツン領とボルトケ領は、手を組み人の道に外れることを起こした。他領には疎まれるはずだ。領民が顔を上げて出身地を言えるようにしなければと思う。
もう、逃げるには遅すぎる。流されて、貴族になり、伯爵になり、領地持ちとなった。そして、母様の実家の相続も加わる。なら、腹をくくるしかない。
前を、向こう。
ジャズにダンカンたちへ、私に仕える覚悟があるか聞いてもらう。あるなら夕食後、領主の執務室に来てもらうことにした。ジャス、ダンカン、ランディー、リンダが四人そろって執務室に顔を出してくれて、ほっとした。
「私はきっちり覚悟を決めました。ゲルツン領とボルトケ領を統合してフローラル領と致します。そこで四人に確認です。こんな私に人生を預けてくれますか。」
「私はとうに覚悟はあります。改めて、よろしくお願いします。」
「ジャス。ありがとう。ダンカン、ランディー、リンダ。ここに居るということは、あなた方を頼りにしてよろしいのでしょうか。」
三人とも慎重に
「はい。」
と答えてくれた。
それならと改めて自己紹介をする。
父はナイシール伯爵で前アールベアル公爵の長男。母は、このボルトケ領の唯一の相続人。しかし、既に二人とも死亡している。
現在は、私がナイシール伯爵でナイシール領とゲルツン領の領主。さらにボルトケ領も相続することになる。現アールベアル公爵は叔父であり、後見人だ。
ジャスは、七歳の時から、家庭教師であり護衛だった。今は、頼りになる執事兼護衛だ。
「お嬢は、いろいろ複雑なんだろうとは思っていたが、まさか、ナイシール伯爵とはな。」
ダンカンは、察している。ランディとリンダは知らないらしい。
「私も、いろいろ思うことはありますが、今のところ真実はこれだけです。それでも、私を助けてくれますか。」
「「「はい。よろしくお願いいたします。」」」
頼りになる三人が仲間になった。
ヴィアンカの貴族としての人生は、ここから始まったのかもしれない。
* * * * *
「ダンカン、ナイシール伯爵のことについて、何か知っているのか?」
「いや、前に文官を目指していたので、主だった貴族を覚えたことがあってな。その時に、不思議な家だったので覚えていただけだ。」
「そうか。」
「ジャス、オレの思っている通りで良いのか。」
「わからん。正式な沙汰はない。ただ、公爵もお嬢も憶測だが、そうだろうと言っている。公になるのかならないのか、全くわからないんだ。」
「オレは、すごい方に仕えるんだな。」
「やめるか?」
「まさか。心して、仕えさせてもらうよ。」
「お嬢もオレも頼りにしてるぞ。」
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