18 我が領地がきな臭い
宿泊地に着いたら、普通の大きさに戻った二人の乗客にご挨拶された。
「お世話になりました。僕たちはここで降ります。楽しく楽な馬車の旅でした。ありがとうございます。」
「こちらこそ、有意義なお話をありがとうございます。すごくためになりました。」
冒険者ギルドのあの部屋のことだ。ジャズに頼んで見学に行こうと決めている。笑顔で挨拶して手を振って別れる。本当は定期馬車で、こんなふうに旅をしてみたかったのだ。ジャズでさえ、
「いろいろな人の話って、結構ためになるんだな。」
でも、
「それでも、伯爵家令嬢のすることじゃない。」
だって。
この街でもリンダを誘って買い物だ。これから先は町の規模も小さくなり物の種類も少なくなるらしい。そう商店のおばあちゃんが言ってた。
「だから、うちで買ってくれ。」
たくましい人は好きだ。日持ちのする果物を買った。馬車に積み上げてやる。(フン。)
翌日の馬車には、母子の乗客がいた。五歳ぐらいの女の子だ。互いに笑顔でご挨拶だ。
「「おはようございます。」」
「「よろしくお願いします。」」
お母さんの後ろに隠れているが、しっかり挨拶はできている。周りが大人ばっかりなので、人見知りをしているらしい。
教えてやりたい。こいつらは、丸っといないものとして無視してもいいのだと。でも、私には懐いてくれた、
「お姉ちゃん。あのね。おじいちゃんに会いに行くの。」
話しかけてくれる。
「子供には子供がわかるんだな。」
ジャズだ。一瞬解雇してやろうかと思ってしまった。リンダに小突かれていたから、いい気味だ。
女の子の話は、お母さんの実家のおじいちゃんが体調を崩しているのでお見舞いに行くらしい。
「おじいちゃんは会ったことがないの。」
生まれた時に顔を見に来てくれたらしいが、なんせ、ゼロ歳児だ。憶えていないのは当たり前だ。それ以後は、定期馬車の順路が遠回りになり、二日で行けるところが、五日ぐらいかかるようになってしまった。当然、足が遠のき
「親不孝をしてしまいました。」
お母さんは涙ぐんでる。でも、たまたまこの馬車が以前のルートを通るのを耳にして、なんとか乗ることができたと、お母さんはすごく喜んでいた。
「どうして変更になったの。」
「隣の領主様が定期馬車にもお金を取るようになってしまって、それを避けているのです。」
隣の領主?ジャスと顔を見合わせちゃったよ。
「でも、隣の領主様って変わりましたよね。」
ジャズが会話に参戦だ。
隣の領なのでよくわからないそうだ。
フン。役に立ってもらいましょう。ジャズが客もどきにひそひそ耳打ちしている。すぐに乗客一人分の席があいた。
夜には大体の様子が報告された。仕事が速くて大変結構。余は満足だ。
新しい領主は前領主の庶子で、前領主一族が通行料とか勝手に決めて、いまだに領主館に住み続けているらしい。
領主って私よね。
新しい領主とは代官のことだった。
その代官が前領主の庶子とは?
報告が上がっておらず、名前も違うし、ゲルツン領出身で優秀だったので、代官に任命したらしい。誰だよ任命したの。
王都にも報告したようで、母子が降りる町に正式な調査依頼書とその権限の行使書が届けられた。私的な手紙もあり一言、
「自分の領地だ。思う存分やりなさい。」
これは困った。だって、領民のことも考えないとなんない。あまり派手にやっちゃって、あとあと領地経営に困ることになっても困る。まあ従者も含め全員をこき使う許可もあったので、さっそく動いてもらっている。
ゲルツン準男爵領に入る前には大体把握できたようだし、私は報告待ちだ。でも領地経営なんて面倒くさいな。
王都を出発して八日後にゲルツン準男爵領に入った。入る際に偉そうな男が出てきて通行料を要求された。従者が
「これは定期馬車です。定期馬車には通行料の支払い義務はありません。」
「馬車にはないが、人にはかかる。」
一人銀貨五枚だ。ぼったくられた。でもここでもめても仕方ないので、払ってやりましたよ。
「行ってきます。」
直後にまたもや乗客一人分の席があいた。あいつらを監視するらしい。
目的地の馬車乗り場でジャズが従者にお金を渡していた。チップかと思ったが、同僚とか酒場で情報の収集を依頼したらしい。従者も通行料をとらえているので快く了承してくれた。通行料は私が払ったんだけどね。
今夜の宿だが、思い切って一軒家を借りることにした。この調子だと長期になるかもだしね。家を借りるなら商業ギルドか冒険者ギルドだが、隠れ蓑としてダンカンの名で借りることにした。そしてダンカンたち三人には引き続き私の護衛を依頼している。前領主一族とは嫌な因縁がわんさかあるので、私がここに居ることが分かれば、最悪殺されそうだからね。
「今度お嬢に手を出してみろ、絶対に許さねえ。次は絶対守ってみせる。」
ジャズが何気に燃えている。こうなってはダンカン達に事情を説明した方が良いとなり、軽く話した。
私の両親が前領主の息子に賭けレースでひき殺され、罪として降爵されたが、それを根に持って誘拐されたりして、一族は平民に落とされたけど、まだ逆恨みされている。
三人口を揃えて
「軽くねぇだろう。」
なんとなく借家は秘密基地のような存在になってしまった。一日の終わりに、従者まで集まって、情報の共有だ。馬車の護衛たちまで集まってくる。そしてみんな泊まっていく。
「食事がおいしくって、他では食えない。」
らしい。食事は私が作ってます。
馬車の護衛たちとダンカンとランディーは冒険者として活動しながら、従者は同僚や乗客から、いないはずの護衛たちは独自の操作方法で、私はジャスとリンダと街を散策しながら、耳をそばだてている。でも、この街って領都のはずなのに活気がない。八百屋には少ない種類の野菜しかないし、買い物も楽しくない。これもみんな前領主のせいだ。許しまじ。
領都に入って三日後には大体の情報が揃った。王都にも代官のことは報告された。現代官を推薦したのは、前領主と親しかったある貴族。代官は一度は断ったそうだが、こんな田舎誰もやり手がいない。結局、上からの庄で赴任してきたらしい。
赴任してきたら自分を息子と認めなかった男が、我が物顔で部下に指示を出していく。曰く
「表面上は我が家を罰せねばならなかったので、仕方なく庶子の息子を領主にさせただけ。現在も我が一族は領主であり、今までと変わらない。ゆえに我の命を聞け。」
代官がいくら
「それは違う。」
と言っても、前領主の言葉を鵜呑みにして、代官はお飾りになってしまった。始末が悪いのは責任を代官に押し付けられる。いざとなれば逃げられると思っているようだ。通行料も前領主が、平民になってから搾取しだしたもので、大半が前領主家族の懐に入っている。
さてどうしようか。
罪状はいくつもある。だが、言い逃れされても嫌だ。
「私を襲ってくれないかしらね。」
「お嬢が囮になるのはダメだ。」
過保護のジャスが反対する。
「でも一発アウトよね。」
平民が貴族を、それも伯爵で領主を襲撃するのだ言い逃れはできない。
「なら俺がお嬢の使いとしてかき回してくるか。それなら俺を狙うはずだ。一応俺も貴族だからな。」
確かにジャスも貴族だ。ちょっと忘れてた。
「お嬢。忘れてただろう。」
「ハハハ。はい、ごめんなさい。」
ジャズに差し出されたのはキレイなレターセット。一番下には第二王子の書名と御印が押してある。念のため渡されていたらしい。使うことがないのが良かったが、でも、これにどんな文章を書けばいいのか分からない。正直に
「どう書いたらいいのかわかりません。」
みんなズッコケたけど、平民生まれの平民育ちだよ。貴族らしい生活を送ったのは入学してからだよ。だから他の貴族と同じようにしろって無理でしょう。
「一緒に考えてください。」
その前に、私の事情をつまびらかにする。その上で、ダンカン、ランディー、リンダに協力を仰ぐ。きちんと説明しないと卑怯だから、事実だけを伝える。
「いろいろあって、ここの領主です。」
でも、だいたいは察していたようだ。驚くことなく、
「「「今更だ。」」」
三人とも、協力してくれるようだ。心強い。
レターセットの文言は、ダンカンが素晴らしかった。貴族特有の回りくどい言い回しとか、言うことを聞けよ。圧がひしひしと伝わる、丁寧で穏便な文章が便箋に踊っていた。貴族院を卒業間近でまで送っていたとは言え、驚くほどだ。ランディーとリンダも驚いている。ジャズは納得している。当のダンカンは苦笑いで無言を通している。
明日ジャスとダンカンで代官屋敷に行くことになった。その後は私の存在を隠すため、二人して別行動だ。
「ランディー、リンダ。くれぐれもお嬢を頼む。」
一番過保護なのはジャスだと思う。
翌日ジャスとダンカンは、ジャスの馬とどっからか調達してきた馬に乗って出陣して行った。私はランディー、リンダと買い出しだ。本日、市が立っているらしい。ジャスたちは心配だが、ちょっと楽しみにしている。
なんせ、名も知れない人達が代わる代わる家に立ち寄るのだ。それも夕食時に。いっぱい作ったはずの夕食が足りないこともあった。私が料理担当だからちょっと気が抜けないのよ。それに今夜はジャズやダンカンのためにも美味しい料理を作ってあげたいのだ。
市場は活気のない街にしては、人がいっぱいいた。めぼしい野菜やら珍しい野菜やらをあっちこっちとフラフラしながら買っていく。上機嫌で物色していると、何気にリンダとランディーの警戒心が強くなっていく。私も、注意して気配を探ってみた。なるほど、ちらちらと私たちを気にしている者がいる。
「お嬢、早く帰った方が良さそうだ。」
急いで野菜や果物を買ってお金を払う。ついでに、
「おばちゃん。なんだか若い人が少ないけど、どうして?」
「そうかい。いつもこんなもんだよ。」
お釣りを渡された時に
「気をつけな。今、若いもんがいつの間にかいなくなっていることがあるから。」
小声で注意され、さらにつけられた。
家を教えるわけにはいかない。冒険者ギルドへ立ち寄り、用はないがフロアをうろうろする。タイミングよく、家を借りた時の受付嬢が声をかけてきた。
「あなたたち、ちょっといい。」
「はーい。」
受付嬢の元へ。
「実はね。あの家のコンロだけど、調子が悪かったみたいで、新しいコンロが届いたのよ。持って行ってくれる。」
コンロのあるのは裏の倉庫だ。裏に回って受け取る。さらに受付嬢からありがたい言葉が、
「重いから裏から出て行っていいわよ。」
裏には、つけていたやついなかったらしく、無事に借家へ帰ってこれた。
お茶をいただきながら、先程のことを推測する。
まず若い者がいなくなる。そして突き付けられた事実。リンダとランディーは渋い顔で
「さらわれているのか。」
「さらってどうするの。」
「奴隷にするとか。」
奴隷って合法?犯罪奴隷は合法だが、非合法な奴隷がいるのは確実。奴隷たちは足がつかないように、他国に売られるらしい。この国にも非合法の奴隷はかなりいるらしい。いったん奴隷になってしまうと、なかなか、這い上がるのは難しく、取り締まろうにも隣国との関係で根絶やしできていない。我が国もどっかに大掛かりな組織があるのは分かっているが、捜査は進んでいない。
「もしかして、この領が関わっているの。」
「お嬢。あの後すぐに影の尾行がついた。じきにわかるだろう。心配するのはそれからだ。」
読んで頂いてありがとうございます。




