17 王都出発とマジックバックの必要性
今日から学院は長期の休みに入った。約二ヶ月間である。ただ学院は閉鎖せずに開放している。三年生以上は専門に研究をしているからだ。
この二ヶ月は二年生の為にある。一年生では試験を全くしない。二年の最後にある。そのため親元から離れて交流も広がり、学園生活を方向の違うエンジョイの仕方をした者は落第の危機にある。貴族として落第してしまうと大変なことになる。その危機を乗り越える期間だ。
要は補修である。落第の危機のあるもの(テストの低成績者)を、上位下位貴族問わず勉強させる。ここに上位貴族が入ると、あと指を差されることになり、長男でも家を継げないことがある。それ以上に廃嫡もあるゆえに二年最後のテストは心して臨むまなければならないのだ。
幸いにして私はその難関を突破した。
長い休みを何をしようかと思い立ったのが領地観光だ。伯爵領へは、なんだか行きづらいし、領地経営に携わることはなさそうだ。なので新たにいただいた元準男爵領に行くことにした。領地名の変更も許可を取ってあるので、そのためでもある。準男爵領に私が領主として行くのは、日常が見えそうにないので旅行者を装っていくことにしたのだ。観光ならば、リリーも連れて行こうと思ったが、ジャズに止められた。
「何かあった時、リリーまで面倒を見きれない。俺ひとりでも心許ないのに。」
公爵家一同にも反対され、ジャズの知り合いの冒険者を護衛として雇うことになった。もちろん女性の冒険者もいる。そして全員貴族出身だ。学院も経験している。ジャズのように貴族の冒険者は結構いるらしい。かくしていても、仕草とかで貴族出身だとわかるらしい。面と向かって、
「お前は貴族だろう。」
そう言う人は居ないが、年が近かったりすると学院で顔を見たことがある。そうなると貴族出身者はすぐ知れ渡る。ジャズは全属性で有名だったので隠しようがなかった。隠すつもりもなかったらしいが。
「男爵家以下の次男坊以下は平民まっしぐらだ。隠したってしょうがないだろう。」
そのジャズの勧めで男性二人女性一人が集められた。同じパーティーかと思いきや、それぞれ別のパーティーだった。準備にいろいろ手間取ったが私とジャス、冒険者三名で出発となった。
ジャズは専用馬車で行きたかったが、私が定期馬車を利用したいと言い張った。
「伯爵令嬢が定期馬車なんか乗らない。きついぞ。」
「私は七歳まで平民の生活をしてました。そんなにヤワじゃない。」
にらみ合いの結果、私の勝利だ。
ジャス主導のもと必要用品を買い揃えたら、リュックはパンパンになった。冒険者仕様のコーディネートをして、ついでに冒険者登録もしてみた。冒険者カードを見てニタニタが止まらない。元日本人だから仕方がないよね。ちなみにジャスと一緒だったから絡まれなかった。ちょっと残念。
準備万端で出発だ。待ち合わせは定期馬車の乗り場だ。
前日は公爵家にお泊りしたので乗り場近くまで公爵家の馬車で行く。
「お嬢。その手に持っているものは何だ。」
「クッションです。おしりは大事です。」
ジャズはあきれ、あきらめ顔だ。見送りの面々は大笑いしている。目立たない場所で馬車を降り冒険者と合流だ。
冒険者の三人は私の身分は教えていないそうだ。
「だがな。あいつらも貴族の端くれだ。だいたい見当はついているだろう。とりあえず嬢ちゃん一人で、どうしてもゲルツン準男爵領に行かなきゃならない。その為、護衛を頼まれたことにしている。あそこに居るぞ。」
「おはようございます。」
ジャズに気が付き手を振られたのでご挨拶だ。でもってご紹介にあずかる。
「この大きい男はダンカンで、こっちの男がランディー。女性がリンダだ。」
「ヴィーです。長くなりますけどよろしくお願いします。」
「「よろしく。」」
「リンダよ。こちらこそ、よろしくお願いします。私は主にお嬢ちゃんについていればいいのかしら。」
「ああ。結構魔法は使えるから自分の身ぐらいは守れるだろう。ただ、実践は経験がないから、よろしく頼むぞ。」
「任せておけ。とりあえずジャズとリンダが嬢ちゃんで、俺たち2人が前に出るが、いいか。」
「そうしてくれ。ただ定期馬車だし、そっちの護衛もいるだろう。よほどのことがない限り大丈夫だろうが、いざとなったらお嬢を逃がすので、それだけは心してくれ。」
私は頭を下げると
「おー。任せとけ。」
心強いね。
ところで、
「ジャズ。この馬は?」
「俺の馬だ。いざとなったらこの馬で逃げる。」
詳しく聞くと、叔父様に押しつけられたらしい。
「あの一家は結構過保護だよな。大事にされているようで良かったな。」
私は顔を赤くしながら頷いた。ちょっと涙目になっちゃった。嬉しいんだもん。
でも定期馬車がおかしい。私は初めて王都から出るし定期馬車に乗ったことがないけど、何かおかしい。
まずジャスだ。いくら馬があるとは言え、初めから護衛対象の私をほっといて馬に乗って馬車に併走するか。
乗客だって夫婦とか里帰りの若者がいるけど、夫婦もおかしい。夫婦らしいんだけど馬車が揺れたりしても心配しない。普通は大丈夫かぐらい声をかけるだろうし、ちょっと肩を抱くとかするでしょう。夫婦仲が悪いのなら納得するが、仲良さそうにしている。
それに里帰りの若者もおかしい。里帰りなら里の話や過去の話で盛り上がりそうだが、そういう話が聞こえてこない。
それに定期馬車の護衛もチラチラ時々ちらちらと私を見てる。
「お嬢。どうしました。」
リンダに声をかけられた。ジャズのせいで私の呼び名はお嬢になってしまった。別にいいけどね。
「おかしい。」
「何がです。」
苦笑してる。
「リンダ、あなた知ってるわね。」
「いえ、直接は知りません。」
「直接は…。まさか……。」
私は、ピンときた。おもむろに大きな声で叫んだ。
「私の護衛要員は、手を挙げなさい。」
突然の問いかけに、馬車内でポカンとなったのはたった二人。
ほかの人は微妙に目をそらした。
「リンダ教えて。」
「私も詳細は知らされていません。ただ他にも護衛がつくとだけです。」
ジャスが言ってた過保護って、こういうことだった。
「だから言っただろう。伯爵令嬢は定期馬車なんて乗らないって。」
休憩中に定期馬車の護衛を問い詰めた。
「護衛依頼を失敗にするわよ。」
依頼者は冒険者のギルドマスターだった。知人でもなんでもない。顔さえ知らない。
もしかしたらと、馬車の御者にも迫った。そしたら定期馬車の大元から
「若いお嬢様が乗るから、そのお嬢様を最優先で保護しろ。」
公爵家の権力を使っての指令にしては、大げさすぎる。
「もしかして……。」
「そうだろうな。これで決定的だな。馬車に乗り混んでない影までいるぞ。お嬢、覚悟を決めた方が良いぞ。」
(でもでもこれじゃあ、定期馬車に乗る目的を果たせない。)
(・・・・。仕方ない。)
「はい、私に関わりのあるみなさんにお願いです。ゲルツン準男爵領の噂でもなんでもいいですので、情報を仕入れてきたください。そこの無関係なお二人も、何か知っていたら教えてください。お願いしますね。(ふん。)」
こき使ってやる。ジャズはあきれているし、リンダたちは、
「お嬢って何者?仕事が楽でいいけど。」
無関係の二人は馬車の隅で小さくなってしまった。
(ごめんなさいです。)
危なげなく何回か魔物を倒し今夜の宿宿泊地に着いた。王都に近いこともあり賑やからだ。馬車から降りて体を伸ばしていると、小さくなっていた二人が声をかけてきた。
「あの~。ご希望の情報じゃないと思うんだが。」
なんと私が乗っていたのは臨時馬車だった。一般の定期馬車は野営地でテントを張ることもあるのだが、この馬車は、野営することなく必ず町で泊まる余裕のある日程なんだと。馬車の乗りごこちも良かったらしい。
「こんな定期馬車に乗れて良かったです。ありがとうございました。明日もよろしくお願いします。」
お礼を言われてしまった。ますます私の目的から遠くなっている。
「お嬢。何がしたかったんだ。」
実はゲルツン準男爵領の状況を客観的に把握したかったのだ。良い噂、悪い噂とか王都からの交通状態とか、ゆくゆくは自分で納めなければならない領地だから、色々と準備しておきたかった。もう一つの伯爵領は王家がずっと管理して行くようだしね。
「お嬢って先を見据えてるんだな。けど貴族まっしぐらだな。」
「もう諦めてる。」
私の気持ちや計画を伝えた代わりに教えてくれた。護衛の三人は伯爵家に雇うかどうかの判断を、この旅ですることになっていた。本人たちには言ってないが、彼らも、そろそろ冒険者は引退したいらしい。
「お嬢との相性とかもあるから、護衛として雇ったんだ。多少戦える者でないと駄目だし、一応貴族出身だがヒモ付きはされていなからな。俺もあの三人は信用できると思っている。」
そのリンダを誘って買い物だ。まだお土産は買わないが、その地方の特産とか目が彷徨ってしまった。翌日の馬車の中、
「ジャス先生」
ぎょっとした顔のジャズに、
「マジックバッグ欲しいです。作りましょう。」
「お嬢。またけったいなことを、大騒ぎになるぞ。」
「でも、ほっし~いの。」
できれば容量無限、時間経過なし、重量軽減が良い。欲しいが、贅沢は言わない。せめて容量拡大が欲しい。お土産は買わなかったはずなのに、なぜか荷物が倍になってしまったのだ。同じ重さの荷物を持つなら両手いっぱいよりバッグ一つの方がいい。
「そんなに買い物するからだ。買い物も計画的にしろ。」
怒られた。
「でも、暇だし考えてみるか。」
始まった馬車の中の移動教室だ。ジャズは空間魔法で空間を少しの時間広げられる。魔力が少なく長時間維持できないが、空間を広げられることは実証済みだ。ならどうしたら維持できるのか。ジャズはバック内の空間を広げるように魔法を使う。私もやってみた。できたのだが、やはり長時間の維持ができない。問題は魔力を使い続けることだ。休憩になっても、私とジャズは考え込んでいたら、護衛達から心配されてしまった。
「何か問題か。」
「そうではない。空間を拡張するにはどうすればいいのかわからないんだ。」
「あー、ギルドにある拡張部屋か。」
はっ、そんなの聞いていない。ジャスを睨めば、
「そういや各ギルドには空間が広くなり時間停止がある部屋があったな。」
ジャス先生、それそれですよ。ある程度のベテラン冒険者は、一度はその部屋に入ったことがあるらしい。それぞれにその部屋のことを聞いてみると、一同揃って
「そういうもんだと思ったから、疑問にも思わんかった。」
次の宿までにその部屋のことを、何でもいいから思い出せと、宿題を出す。
あとは重さだ。無重力になるのが一番なのだが、どうやって。
「うん、わからない。」
風魔法で浮かす。これも一般的なのは魔力が発動していなければならない。袋の中でやってみたら、上下左右から風が起こり竜巻状態になってしまった。でも、ジャスが
「なるほど。風魔法をこうやって使うと竜巻風になるのか。威力はないが俺にもできそうだ。」
トルネードと名付けた。ジャズに新しく使える魔法ができた。怪我の功名という。嬉しそうだ。
休憩が終わっても、
「あーじゃない。こーじゃない。そうでもない。」
騒いでいたら昨日より、少し大きくなった二人の乗客が、
「冒険者ギルドのあの部屋って、壁から魔力を感じた気がする。」
と教えてくれた。空間ではなく周りから攻めるんだ。
「付与魔法だな。」
「付与魔法?やったことがない。」
「うん教えてないし。」
付与魔法はどんなものにでもかかるらしい。人にもだ。そのため戦争以外では他人に付与することは禁止されている。
なんでも、昔、国王との謁見の時、武器は持ち込めないので、付与魔法で最大限己を強くして暗殺を謀ったやつがいたそうだ。国王の暗殺は成功してしまったらしい。付与魔法はすぐに消えてしまったため、犯人は捕まり処刑された。だが、そんなことは何回も起こったら大変だ、とかで付与魔法は許可された者しか使用できなくなったとか。
「だから、鑑定での……。」
「あの人たちも、いろいろ大変なんだな。」
許可された者とは武器を扱う者。武器にいろいろ付与しているらしい。
でも無属性の身体強化とかも一種の付与魔法では?
自分に付与するのは許可なしで使える。これは魔力が続かないから。それに魔力や体力の関係で、強化できる付与は精々が二種類ぐらいしかできない。ただ、他人にかける場合は、かける側とかけられる側の相性とかで、強さや時間が変わるらしい。周りの者が、制御できない状態になったこともあったらしく、禁止になった。何種類も付与が可能になるのは危険だし、掛けられた方の体も負担が大きく、とんでもないことになるらしい。
とんでもないこと?
「お嬢。考えない方がいいぞ。」
素直に、従った。
今でも、隠れて付与してもらい格上の魔物とかに臨む冒険者もいるらしいが、大多数が発覚し罪になる。罪といっても一回目は社会奉仕。二回目は罰金。三回目は冒険者ランクが一番下になる。さらに四回目は罰金と一生ランクが上がらない。五回目は魔法が普段使えなくなる。使えなくなるのと国の下っ端として武器に付与させられるらしい。イッショウだよ。それも、安月給でだ。
「付与魔法は三年で教えることになっている。マジックバッグの件も学院長に許可を取ってやる。今は諦めろ。」
不満げな私に、
「そもそもこの馬車は、お嬢の専用みたいなもんだ。この馬車だけで充分だろう。」
そうかもしれないが、マジックバッグが早く欲しかったのだ。
「お嬢の三年次の目標設定はマジックバッグ作成になるな。」
「できなかったら留年。」
「いや、作成できなくても、それまでのレポート作成で大丈夫だ。でもお嬢たちは、三年時の課題はクリアしてるから留年の心配はないぞ。」
「???」
「あの発見が三年時の課題クリアとみなされている。」
「やったね。」
これで心おきなくマジックバッグに集中できる頑張ろう。
ジャスが、殿下とか王族に関係する言葉を使えなくて、会話に苦労している。
公爵家とかの単語も使えないからね。私は、叔父様で済むから呑気だよ。
でも、ゲルツン準男爵領もマジックバッグもまだ遠い。
読んで頂いてありがとうございます。




