15 誘拐事件
逃げ出した後どう走ったか、まったく記憶がない。ただただ二人から遠ざかりたかった。これがいけなかった。
突然体を束縛され大きな袋をかぶせられた。声も出さず気づいた時にはガタゴトと音がして馬車の中のようだった。痛い体を動かそうとしたらあちこちが痛かった。縛られた手で痛いところを触ってみたら、もっと痛かった。きっとあの後殴られたんだと思い至ったけど、殴られた記憶がない。
それが良いのか悪いのか分からないが、何人いるのか男なのか女なのか、顔をみていないから分からない。それにどこに向かうのか、あれからどのくらい時が経っているのかわからない。
ただ痛いので回復魔法をかけてみたら痛くなくなった。魔法は使えるようだ。ちょっと安心した。だから念のため全身にシールドをかけておいた。前世持ちと言われて焦ってしまったけ、どやっぱり二人には話そうと決めた。それより、この状況を打破しないと。いろいろな魔法を思い浮かべる。早くしないと王都に帰れなくなる。
一瞬それでもいいかと思ってしまった。ヴィアンカ嬢ではなく、孤児として冒険者で生きて行くのもいいかもと思ってしまったのだ。そうしようかと決心しようとしたとたん、ガタンと馬車が止まった。外では、カンカンと剣の音が聞こえてきた。
「お嬢、無事か。」
ジャスの声だ。助かった。
「ここ。」
袋から顔を出したらジャズのドアップだ。
「お嬢、ヨカッタ、ヨカッタ。」
ジャスに力いっぱい抱きしめられている。なんだかホッとして泣いてしまった。
「お嬢、済まなかった。護衛なのにこんな思いをさせて、護衛失格だ。でも良かった。良かった。」
なんかジャズも泣いている。ポンポンとジャズの背中を叩く。
ジャスのせいじゃない、私のせいだ。何も考えずに、あの場から逃げ出した私のせいだ。ジャズのせいじゃない。顔も頭も全身すっぽりコートに包まれてジャズに抱えられて外へ出れば、公爵家の兵以外にも近衛兵もいる。それに指揮をとっているのは第二王子だ。大事になっている。
「殿下。保護致しました。」
「ご苦労。では、早急に王都に戻るぞ。」
私の事件は公にならなかった。私の将来のために極秘で処理された。実行犯はゲルツン準男爵令息ジャスパーだった。逆恨みだ。私こそあの男の叔父を殺したいのに。
一家は平民に落ちた。実行犯は処刑になった。処分が異例の早さだった。
そして準男爵領は私が賠償金代わりいただくことになった。私が学生の内は、国から代官が派遣される。
以上の結果は、私には知らせられず、事後報告として伝えられた。意義は認められなかった。本当はあんな奴のいた領地なんか要らないのに。
ただ、気になることが一つできてしまった。
私の領地になった隣が、母様の実家の領地なんだよね。
私の誘拐は単なる私怨。私を害する権利があると主張したらしいが、そんな主張が通るはずもなく、まるっと無視されたようだ。家族は犯行に関わっていなかったが、魔法もすかえなくして、一族連座になった。息子を助けるため、私の悪口をあることないことを喚き、それが私への冤罪となったようだ。準男爵が冤罪で伯爵を陥れようとしたのだ、貴族社会では、軽くない罪だ。
ジャスパーの計画は穴だらけで、王都を出るのも実名を使い、すぐに追跡ができ、救出になったらしい。本人もまさか誘拐できるとは思わなかったようだが、運よく?悪く?私が一人でやつの前に飛び出したらしく、実行に移してしまったらしい。
これって私のせいかもと思っていると、
「君のせいじゃないよ。」
殿下が言ってくれた。
忘れることにしようと思ったが、なんとジャズが私の護衛から外れた。
「私はお嬢の護衛の為に学院に潜り込ませてもらったのに、まんまと誘拐されてしまったんだ。当たり前の処遇だよ。」
このことだけは我儘を通させてもらった。もともと私のせいだし、ジャズほど信頼できる人はいない。そのおかげでジャズは公爵家の執事教育と学院の教師補佐の上に騎士団の訓練にも参加することになった。ジャズの体が心配になったが、当の本人は、
「騎士団の訓練なんて希望しても参加なんてできない。今回のことでお嬢の護衛を軽く見ていた自分がいたことに気づいた。頑張りますので期待していてください。」
前向きだった。頑張れジャス。
誘拐事件で前世持ちが棚上げになっていた。どう切り出したらよいかと迷っていた。でも全属性クラスの授業が一番いいだろうと、意を決して授業に参加した。
切り出す前に、
「前回の人を鑑定することに関してだが全属性以外では人を鑑定することはできなかった。国王には我々三人が人に鑑定を行うことは特例を除いて禁じる命が出たよ。良いな。」
「はい。」
特例とはきっと犯罪者に関してだ。
「ヴィアンカ嬢、ジャスティンの二人と私は国から制限がかかる。制限といっても国外に許可なく出てはいけない。緊急時は招集に応じること。この二つだ。大抵は私がいるので二人に召集がかかることはないと思うが覚悟はしていてくれ。」
これでますます平民になれなくなってしまった。ジャズは目が合うと頷いてくれた。
「私はお嬢の執事兼護衛ですよ。とことん付き合います。」
頼りになる。
「でも、殿下。無属性による人の鑑定は、出来ますよね。光属性もできますが。」
「それなんだが、無属性での鑑定は、出来ないこととする。実際、身体強化をしていなければ、出来ないからな。あくまでも、人の鑑定は、全属性の持ち主のみ可能だったとなる。改めて、発表はしないがな。ただ、一部の場所においては、実施することになる。が、これも公にはしない。光魔法は、不思議と怪我や病気以外のことは分からないことが判明した。」
一部の場所って、きっと、陛下がご臨席する場所だ。
「それでだ。次回の昇爵にジャスティンに準男爵を捧げ授けることになった。なんせ一つ準男爵位があいたのでな。」
領地はヴィアンカがもらったが、爵位はいらないと突っぱねて居た。でもジャスが継ぐのなら大歓迎だ。でも、
「殿下。準男爵の家名はどうなるんですか。」
「自分でつけていいぞ。あんな家名なんぞ名乗りたくないだろう。」
「しかし、私は、護衛として……。」
「ジャスティン。ヴィアンカ嬢が無事だった。その事実が大事なんだよ。それに、今後、爵位持ちになっていた方が、何かと有意義だ。わかるな。」
「はい。主の為、お受けします。」
爵位持ちになれば、私と王宮にも出入りできるってことだ。私にとっては願っても無いことだ。
良い話の後は、私の話をしなくては。
「あの……。」
言いかけた私に殿下が
「この前は急なことで驚いただけだ。あの後調べてみたら、前世もちは結構いるらしい。前世の記憶があったにしても、国としては何の制約はない。その知識を役立てるも本人の自由だそうだ。だいたいが前世はこうだったとなっても、表面だけの知識だそうだ。だからヴィアンカ嬢が気にする必要はない。ただ鑑定等の発想力は前世の賜物なんだと思うと納得してしまった。これからもその発想力を期待している。躊躇なく発言してくれ。」
「ありがとうございます。」
ありがたすぎて涙が出てきた。ジャズも頷いてくれている。
殿下とも親しくしていただいている。そこで、勇気を出して聞いてみた。
「殿下は、私がナイシール伯爵位を継いだことをご存じでしたけど、どうしてですか。」
「深い意味はない。その方の父上が伯爵だったことを知っていたが。公表されていなかったので、なぜだろうと思っていた。だが、そなたが継いでから、陛下は公になされた。それで、ちょっと興味があっただけだ。」
「そうですか。もう一つ、殿下は、鍵穴も鍵もない箱をご存じですか。」
「いや、知らんな。でも……。」
「でも、」
「誰かがもっていたような。小さい頃、見たような気がするのだが、思い出せない。悪いな。」
「いえ、ありがとうございます。」
殿下は持っていないけど、見たことがある。ってことは、やっぱり王族に近い品物のようだ。
図書館でも、どこを調べても、鍵穴のない箱のことは分からない。前世の記憶を取り出して、からくりの箱かと良く観察してみたが、隠し穴も、細工もない箱だった。
解明するまで大事に保管するしかない。
「父様、この箱って何ですか」
私の誘拐事件以降は何事もなく、私のやっちまったもなく、無難に過ごせて二年生が終わった。
あとは、最終試験だけだ。




