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第四話 都市伝説の世界

第四話 都市伝説の世界

(0/6)

――

 今は今。ひとりぼっちの科学者ありけり。

 野山に混じりてアイデア出しつつ、よろずの事に使いけり。

 名をば、矢作(やさく)のインフォメーションとなん言いける。

 そのアイデアの中に、もと光る閃きなん一筋ありける。

 嬉しがりて部屋に籠り、パソコンの画面光りたり。

 それを見れば、不思議なゲームなるもの、いと美しく爆誕。

 名をば、『一人あそび』となん言いける。

 科学者、めんどくさいので、『ひとあそ』となん呼びにけり。

 皆、『ひとあそ』って呼ぶべし!

――


「……は?」

 意味のわからない言葉が、つらつらと並べられた。

 ぼくは、無意識に、喉から声が漏れていた。


(1/6)

「今のはね、ネワコンの『掲示板』に貼られていたものなんだって。矢作のインフォメーションっていう人が、ゲームを作っただけの話らしいよ」

 佳織姉さんは、今にもため息を吐きそうな表情をしている。このゲームの作者の変人っぷりに、呆れているのかもしれない。

「でもね、そのゲームは開発中止になって、矢作のインフォメーションさんも、行方不明なんだって」

 開発、中止? でも、まさに今、ぼくの右ポケットには、『それ』がある。噂を残して消えた、一人あそびという名のゲームが、眠そうにしながら、体を折りたたんでいる。

「そ、そーなんだ。ありがとー、姉さん」

 想定外の強すぎるエピソードに、思考が回らない。錆びついた歯車のように、ギチギチギチギチとしている。言葉が生まれたとしても、舌が動いてくれない。

「はーい。あ、それとね、ひとあその開発中止理由も、わかっていないんだって。不思議だよねー」

 佳織姉さんが、小首をかしげる。その姿は、大学生の女性というよりも、高校生の少女みたいで、かわいらしかった。もちろん、普段の姉さんも、かわいらしいけど。

「それって、単なる噂でしょ?」

 これが問題である。ひとあその掲示板なんて、フェイクニュースで溢れていることだ。

 ユーザー全員が使用可能で、匿名機能つき。しかも、基本的にはなんでも書ける。結果的に、真実と、虚実が混ざる、混沌の街と化しているのだ。

 掲示板のフェイクニュ―スで、ネワコン内の混乱が起きたこともあった。

「まあ、そうね。でも、目撃情報が結構多いのよ。古文みたいに書かれていたから、色々な人が気になって、読んだんだって」

 所詮は都市伝説だ。ただ単に、競争で負けて、売れなかったゲームの一つかもしれないし......。

「わかったよ、姉さん。じゃあぼく、行きたいとこあるから、今日は行くね。本当に、ありがとう」

 ぼくの周りを、青緑色の光がまた包む。弾ける雷の奥に、姉さんが手を振っているのが見えた。

 バチバチ、バチバチ。ぼくは、視界が暗くなるまで手を振っていた。


(2/6)

 目を開けると、とんでもなく長い廊下にいる。

 足元のコンクリートは、ツルツルとしていて、床を覗き込むと、ぼくの瞳が現れる。

 光なんか無い、真っ黒な瞳。死んだ魚みたいな目。そこに、僅かにぼくが映る。

 毎回思う。なんでこのエリアは、コンクリートが鏡みたいになってるのだろう。

 そんなことを考えつつ、目の前の、金色に近い栗色の扉を見る。右手を、銀色に輝くドアノブに置く。親指、人差し指、中指、薬指、小指。ゆっくりと、ドアノブを包み込んでいく。ドアノブは、横に伸びていてガチャリと開けるタイプだ。

 右手に力を入れ、ドアノブを下に押す。

 ガチャリ。

 静かな音色は虚空を切り取り、大きな扉がぼくを迎え入れた。いつもの景色だ。ぼくを守ってくれるエリア。

 自分のプライベートスペースが保存される、タワーマンション街エリア。

 ドアの合奏が、今日も鳴り響いていた。


(3/6)

 タワーマンション街エリア、通称タワマンエリア。自分のプライベートスペースの部屋があり、のんびり休むことも、買ったものを保管できる。好きに使いほうだいだ。

 もちろん、友達を呼ぶこともできる。この機能は、まだ使ったことがないけど……、使うことも無いか。

 そんなことを思いつつ、玄関で靴を脱ぐ。投げられた黒いスニーカーは、適当に揃えるだけしておいた。

「さてと、やりますか」

 ぼくは、軽く伸びをした。それから、ポケットでくつろいでいた、眠れる獅子を取り出す。

 銀色の箱は、挑発するかの如くぼくを照らす。「都市伝説にビビッて、プレイできないんじゃねえか?」と、煽っているようにも感じられる。

「やってあげるよ」

 誰もいない部屋で、ぼくの宣言だけが飛び交った。意思疎通できない相手に何しているんだかとも思ったが、気にしないでおこう。

 一瞬で、ぼくの孤独な宣言は、部屋を切り分ける白い壁に捕まってしまった。天井のLEDライトは静かに輝き、ひとあその存在感をさらに増させている。

 それ以外は、ベッドとタンスしか無い。そのタンスにも、財布しか入っていないけど。


(4/6)

 飾り気の無いベッドを、毛布は我が顔で占領している。そんな毛布を押し潰すようにそのベッドに寝転がり、眠れる獅子を解放する。ようは、箱を開けただけだけど。

「おー」

 銀色の箱に描かれていたカセットとは、全く別物のゲーム機が付属されていて、思わず声が漏れてしまった。

 かの有名な、青、白、黒色を基調としたケースの消しゴム。そんな大きさの、黒基調の機械に張り巡らされたLEDが、七色に輝いている。

 その中央には、円いボタンがあり、静かに電源マークを灯している。その白色は、特に目立っていた。

 その一面には、細長い穴が開いている。

 かの有名な、Mと書かれた赤い帽子を被った配管工事人のおじさん。彼が出てくるゲームを開発した会社が、二〇二五年六月五日に発売したゲーム機に対応したカセットの、半分サイズに似た大きさだ。あのゲーム機、たしかお父さんが持っていたな……、懐かしい。

 そんなゲーム機と、カセットを箱から取り外す。

 部屋には、ピリピリとした緊張感という名の、雷鳴が鳴り響いている。

 でも、ワクワクとした高揚感という名の、マカロンの甘いが大人っぽい、ふわふわサクサクした香りでも満たされている。

 マカロンは、ぼくが好きなだけだけど。

「よし」

 ぼくは一言、自分に活を入れた。未知の何かを、判明させるために。

 口を大きく開いて、肺に大量の空気を流し込む。肺の中で、酸素と二酸化炭素が、あり得ないほど交換されているだろう。

 ゲーム機の穴に、カセットを丁寧に差し込む。高価なステンドガラスを扱うように、とにかく、丁寧に。

 カセットが、完全に機械に飲み込まれた。輝いていた七色は、一瞬、青緑色に輝いた。そして、電源ボタンに、青緑色が集まった。

「ごくり」

 声に出していない音が、声みたいに聞こえた。息を吞むぼくを、ゲーム機とカセットは、余裕そうに眺めている。

「よし、行くぞ」

 ぼくは、割れ物を扱うように、ボタンを押した。

 カチ。

 静寂で、なんにも無い部屋に、ボタンが押された音だけが、空間を切り裂くように響いた。

 ゲーム機のライトが、青緑色に輝く。その光は、ぼくの周囲を包み込む……、なんてことはせず、部屋全体を照らし尽くした。

 白色の壁も、青緑色になり、視界がどんどん奪われていく。

 いつもは闇に閉ざされているのに、今日は光に閉ざされた。


(5/6)

 眩い輝きは、どんどん消えていく。視界には、見慣れた景色が広がっていた。

 静寂に包まれる部屋。

 ベッドの上では、ぐちゃぐちゃな毛布が仮眠をとっている。まるで、「疲れたから寝るぜ」と言っているようだ。

 窓の外は、真っ黒に染まっている。さっきまで降っていたシャワーは、もう止まっていた。


(6/6)

 現れた景色は、見慣れた自分の部屋だった……。


 

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