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第三話 ようこそ、ネワコンへ

(0/4)

 カチカチと、部屋の時計が音を立てる。今日も、毛布はベッドを占領中だ。

 タブレットの画面と、スマホの画面を並べて、バニラが咥えていたゲームカセットについて調べる。

 一人あそびというゲームが見つかることは、一度も無かった。

 このゲームは、一体なんなのだろうか。

 横目にケースを眺めると、銀色が光を照り返して、自分を見ろと強調している。

 結局、自分一人じゃ何もわからなかった。

「こうなったら、奥の手を使うか……」

 ぼくは、重たい体をベッドに放り投げた。そして、イヤホンとコンタクトをつける。アプリを起動したら、準備オーケー。川下りのように、流れに乗るだけだ。


(1/4)

 昨日ぶりのネワコン。今日も、大量の人間で溢れかえっている。この人間たち全員に、それぞれの人生があると考えると、とても感慨深い。

 ネワコンには、地図機能がある。どこまでも広がる空間は、太平洋よりも断然広い、と思う。

 だからこそ、地図で選択したエリアにワープできる機能が、運用開始三日後に追加されたらしい。

 まあ、その頃、ぼくは生まれてすらないんだけど。

 一◯個ほどのエリアの中から、お目当てのエリアを選択する。それだけの、単純なお仕事。

 すると、体の周りが、青緑色の弱い光に包まれる。バチバチと、電気のようなエフェクトが輝き、視界まで奪われる。

 青緑色の視界は、しだいに色素が薄まって、青白い景色へと進化を遂げる。いや、薄まってるから退化かもしれない。

 そんな視界から、眩い色が消えていく。ほんの少しだけ、ビリビリとしたエフェクトが残る。でもそれすら、流れ星のように、一瞬で消え去った。

 代わりに視界に映るのは、大量の人間。どのエリアでも、この景色は変わらない。変わるのは、映る建造物などだけだ。


(2/4)

 ネオンシティ。アメリカ、カナダの共同開発によって生まれた、初期から存在するエリア。大量のネオンが道を、建物を、空を照らしている。

 ネオンシティは、別名映画と賭博の街とも呼ばれている。

 ハリウッド映画、洋画、邦画、アニメ映画、世界中の映画が、何でも揃っている。シアターで鑑賞はもちろん、レンタル、売買も可能で、映画好きが引きこもるエリアと言われている。

 ぼくも、休日に何度かお世話になった。虹色に光るゲーミング電柱が出てくる映画とかは、今もなお人気だ。 あの映画が、二四年くらい前の作品だなんて。

 賭博の方は、年齢制限が掛かっているからぼくは使えない。でも、カジノとかパチンコがたくさん並んでいるのだろう。

 そんなネオンシティを、ただひたすらに歩く。

 カンカン、カンカン。さっきまで歩いていたアスファルトとは、返ってくる音が違う。ぼくの分身の表情も、変わっていたりするのかな。

 カンカン、カンカン。ネオンランプが大部分を占めるこの街からは、至る所でガラスからしてはいけない音がする。一応、仮想空間だから、怪我も破損もしないらしい。

 でも、流石に怖い。いつネオンランプが割れて、地の底に捨てられるかがわからないから。

 大量の人間につぶされてきた灯は、それでも輝いている。結局ぼくも、踏んづけているのだけど……。

 赤色のネオン。炎に包まれたかのように、ぼくの周りを照らす。まるで「闘え」と言っているようだ。

 青色のネオン。海に包まれたかのように、ぼくの周りを照らす。まるで「抗え」と言っているようだ。

 黄色のネオン。雷に包まれたかのように、ぼくの周りを照らす。まるで「進め」と言っているようだ。

 緑色のネオン。葉に包まれたかのように、ぼくの周りを照らす。まるで「行け」と言っているようだ。

 たくさんの色が、ぼくに色々語りかける。

「うるさい、うるさい、うるさい、うるさい!」

 ぼくは軽く叫びながら、全力で目的地へ走った。

 ネワコン内ではオープンチャットにしない限り、他人に声は聞こえないのでよかった。この機能が無かったら、ぼくは周囲の人間に白い目を向けられていただろう。

 フレンドチャットと言うものもあるが、ぼくには関係無い。


(3/4)

 どんな発展地区でも、郊外はある。その郊外は、大体が田舎じみている。ぼくが住む区もその例だろう。東京二三区の端くれ、都会の顔をした田舎。

 というか、中央区とか新宿区とかが発展しすぎなんだよ。

 そんなことはどうでもいい。大事なのは、ネオンシティにだって郊外が存在することだ。しかも、ネオンシティは、カルデラの中にある街がイメージだったらしく、全方位に山がある。

「はぁ。はぁ」

 いつかの下校時みたく、息がかなり切れている。でも、現実の体は疲れていないだろうし、筋肉痛もないのだから、不思議だ。

「はぁ。はぁ」

 ある程度山を上ると、踏みしめていた地面が雪化粧をした。

 ザクザク、ザクザク。右足を出すと右足の、左足を出すと左足の足跡が、白い地面に残される。

 雪がみんなに好かれるが、よくわかるな。歩いている音も、残る足跡も、ふわふわした香りも、とても楽しく心地が良い。

「着いたぁ」

 ぜぇぜぇと、肩で息をする。普段から、もっと運動をした方がいいのかもしれないと、ぼくの体が悲鳴をあげていた。

 でも、この人なら、ひとあその謎を解いてくれるかもしれない。

 ぼくは、目の前の木製の家を見る。おとぎ話に出てきそうな、こじんまりとした、でも存在感溢れる家。サンタクロースか何かが、今にも飛び出してきそうだ。

 そんな家にくっつく焦げ茶色の扉に、軽めの力でノックをする。ただのリズムでは無い。家主に言われた、独特のリズムだ。

 ドンドドンドンドドンドンドン。

 しばらくすると、扉が勢いよく開いた。

「蓮香くん! いらっしゃい」

 雪にも負けないほんわかとした香りが、開いた扉からふわりと流れてきた。この人が、ぼくと話せる数少ない人の一人。

 幼馴染の、佳織(かおり)姉さんだ。


(4/4)

「こんな高い所まで来るなんて、どうかしたの?」

 そう言いつつ、彼女はホットココアをくれた。ホットココアは、雪と同じくらい真っ白の、ゆらゆらした煙を立てている。実際の温度は、雪とは真逆の関係だけど。

「ありがとう」

 ぼくは、素直に感謝を述べ、ココアを口に入れる。温かなココアは、疲弊した体の隅々までいきわたり、体を芯から温める。

「いえいえ。蓮香くんだって、疲れたでしょ?」

 優しい彼女の声。その声は、ぼくをやんわりと包み込んだ。

 明るい茶色の髪。ボブより少し長い、所謂ロブは、編み込みがされており、姉さんの存在を輝かせている。

 透き通るほどの色白さに、整った顔立ちは、まるで女神だ。優美でかわいらしく、少し、昔の面影が残っている。

 瘦せ型の体は、クリーム色のワンピースに包まれていて、甘いマカロンのように愛おしい。

「ねえ、佳織姉さん。『一人あそび』って言うゲーム、知ってたりする?」

 姉さんは、昔からゲームが得意だ。とにかく器用で、色々なジャンルのゲームを遊び尽くしていた。

「あー。『ひとあそ』のことね。『都市伝説』だよ?」

 実に疑い深い言葉が出てきた。と、都市伝説?

「都市伝説って何?」

 心地よかった雪が、黒色に染まる。温かなココアは、洪水のようにどんどん揺れる。

 ぼくの質問に、姉さんが小さく口を開く。輝く赤色の唇に、ぼくの顔が映っているようだ。

「教えてあげるね」

 そう言うと姉さんは、優しさに溢れた声を紡いでいった。








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