環状を睨む番犬 — 対峙 —
決起集会の夜から、一週間後。
環状を賭ける闘いの火蓋が切られることが決まった。
別れ際、ブルは男のマシンを目で追った。
重たい排気が深夜の輪を押し裂く。
闇の中に、尾灯が滲む。
その後ろ姿を見た瞬間、ブルは小さく息を呑んだ。
——R34……GTR。
男が乗り込んだのは、かつてのグランドシビックではなかった。
小回りの利く牙で攻めていたはずの走り屋が、
欲望を肥やし、金で速さを買った。
群れを率いるには、牙より威圧を選んだのか。
潮風の中で、ブルは鼻を擦った。
嗤いはしなかった。
心の奥で、火が音を立てた。
——だからこそ、俺はEG6で喰らう。
総長がそうだったように。
環状で一度だけ牙を光らせた親鳥がそうだったように。
金で買った重たい速さを、
すり抜けと牙で叩き潰す。
その夜から、ブルに昼夜の境目はなくなった。
眠っても走りの夢を見た。
起きては工具を握り、ハーネスを巻き直し、
古豪の工場で吸気を詰め、燃調を追い込んだ。
「重たい相手にゃ、全部をバランスで勝つしかねぇ。」
古豪は短く言ったきり、煙草を指で弾いて火を消した。
足を煮詰め、タワーバーを見直し、
ウェイトを落とし、吸気を研ぎ、回転数を嗅ぎ分けた。
夜の環状で、何度もすり抜けを試した。
流れに潜り込み、タイトに絞り、
ラインを消し、影を滑らせた。
――噛みつく瞬間だけでいい。
重い獣の横腹に、牙を立てる。
ブルの鼻先にはいつも潮と鉄の匂いがあった。
ハンドルを握る指先が、遠いあの夜と繋がっていた。
親鳥の背。
総長の背。
——同じ背で走る。
そうして、一週間が過ぎた。
約束の夜。
環状はいつも通りに灯りを落とし、
鉄の匂いを孕んで待っている。
牙を剥くために、ただ静かに。
ブルは、EG6のドアを静かに閉めた。
——喰い殺す。
夜がまた、輪を描く。




