表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/56

環状を睨む番犬 — 対峙 —



決起集会の夜から、一週間後。


環状を賭ける闘いの火蓋が切られることが決まった。


別れ際、ブルは男のマシンを目で追った。

重たい排気が深夜の輪を押し裂く。

闇の中に、尾灯が滲む。


その後ろ姿を見た瞬間、ブルは小さく息を呑んだ。



——R34……GTR。



男が乗り込んだのは、かつてのグランドシビックではなかった。


小回りの利く牙で攻めていたはずの走り屋が、

欲望を肥やし、金で速さを買った。


群れを率いるには、牙より威圧を選んだのか。


潮風の中で、ブルは鼻を擦った。

嗤いはしなかった。


心の奥で、火が音を立てた。

——だからこそ、俺はEG6で喰らう。



総長がそうだったように。


環状で一度だけ牙を光らせた親鳥がそうだったように。


金で買った重たい速さを、

すり抜けと牙で叩き潰す。


その夜から、ブルに昼夜の境目はなくなった。


眠っても走りの夢を見た。

起きては工具を握り、ハーネスを巻き直し、

古豪の工場で吸気を詰め、燃調を追い込んだ。


「重たい相手にゃ、全部をバランスで勝つしかねぇ。」


古豪は短く言ったきり、煙草を指で弾いて火を消した。

足を煮詰め、タワーバーを見直し、

ウェイトを落とし、吸気を研ぎ、回転数を嗅ぎ分けた。


夜の環状で、何度もすり抜けを試した。


流れに潜り込み、タイトに絞り、

ラインを消し、影を滑らせた。


――噛みつく瞬間だけでいい。


重い獣の横腹に、牙を立てる。

ブルの鼻先にはいつも潮と鉄の匂いがあった。


ハンドルを握る指先が、遠いあの夜と繋がっていた。


親鳥の背。

総長の背。


——同じ背で走る。


そうして、一週間が過ぎた。

約束の夜。


環状はいつも通りに灯りを落とし、

鉄の匂いを孕んで待っている。


牙を剥くために、ただ静かに。

ブルは、EG6のドアを静かに閉めた。


——喰い殺す。


夜がまた、輪を描く。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ