環状を睨む番犬 — 始闘 —
潮の匂いが、夜の底に張りついていた。
照明が遠く滲む環状に、二つの影が溶けている。
約束の合図など要らなかった。
環状を流せば、必ず出会う。
流れの中で、牙と牙が噛み合う瞬間を。
北行きの外回り。
淡く灯るテールランプの列の中、
重たい排気音がブルの鼓膜を叩いた。
――来た。
青白い街灯に、R34の背が浮かぶ。
テールの赤がゆっくりと滲む。
まるで鉄の獣が夜の奥で息を潜めているようだった。
ブルはEG6のステアを小さく切った。
アクセルを煽る音が夜を裂く。
前を行くR34の重さが、空気を歪ませる。
力で抑え込むような直進の伸び。
車格も排気も、すべてが違う。
それでも、ブルの鼻先は離れない。
息を潜め、テールの揺れを読む。
R34が一瞬、踏み込む。
タービンの吸気が呻く音。
たちまち引き離される。
間合いが広がる。
ブルは息を吐き、吸気音を聞く。
肩の奥を緩めて、目を細めた。
——速いな。
金で買った牙も、噛みつけば獣だ。
だが離れはしない。
一つでも甘さを吐けば、食い込む。
湾岸を抜け、街の影が遠く滲む。
直線。
R34は重たい車体を活かして踏む。
ブルは後ろで爪を立てる。
EG6の軽さが夜風に溶ける。
タイトなレーンチェンジで、微かに差を詰める。
——ここからだ。
西行きに入る。
街灯が途切れ、トンネルの奥で重低音がこだまする。
ブルは息を止めた。
タコ足の焼けた匂いが鼻を刺す。
R34が一気に踏み直す。
空気が押し返す。
テールが遠のく。
EG6が吸い込まれそうになる。
ブルはギアを叩き落とした。
回転が吠える。
軽い車体が一瞬、影を纏って跳ねる。
——喰い殺す。
距離が戻る。
テールがまた滲む。
R34の運転席の影がバックミラー越しにこちらを睨んだ。
街の光が北浜に差し掛かる。
R34がラインを変える。
北浜のコーナーが口を開く。
潮風が吹き込む。
ブルはハンドルを固く握り直した。
まだ終わらない。
ここからだ。
夜の輪が、牙を刻む。
北浜のカーブに二つの影が吸い込まれる。
環状の奥で、鉄と血の音が鳴った。




