表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/56

環状を睨む番犬 — 始闘 —



潮の匂いが、夜の底に張りついていた。


照明が遠く滲む環状に、二つの影が溶けている。

約束の合図など要らなかった。


環状を流せば、必ず出会う。

流れの中で、牙と牙が噛み合う瞬間を。


北行きの外回り。

淡く灯るテールランプの列の中、

重たい排気音がブルの鼓膜を叩いた。


――来た。


青白い街灯に、R34の背が浮かぶ。


テールの赤がゆっくりと滲む。

まるで鉄の獣が夜の奥で息を潜めているようだった。


ブルはEG6のステアを小さく切った。

アクセルを煽る音が夜を裂く。


前を行くR34の重さが、空気を歪ませる。

力で抑え込むような直進の伸び。


車格も排気も、すべてが違う。


それでも、ブルの鼻先は離れない。

息を潜め、テールの揺れを読む。


R34が一瞬、踏み込む。

タービンの吸気が呻く音。


たちまち引き離される。

間合いが広がる。


ブルは息を吐き、吸気音を聞く。

肩の奥を緩めて、目を細めた。


——速いな。


金で買った牙も、噛みつけば獣だ。

だが離れはしない。


一つでも甘さを吐けば、食い込む。


湾岸を抜け、街の影が遠く滲む。


直線。


R34は重たい車体を活かして踏む。

ブルは後ろで爪を立てる。


EG6の軽さが夜風に溶ける。

タイトなレーンチェンジで、微かに差を詰める。


——ここからだ。


西行きに入る。

街灯が途切れ、トンネルの奥で重低音がこだまする。


ブルは息を止めた。


タコ足の焼けた匂いが鼻を刺す。

R34が一気に踏み直す。

空気が押し返す。

テールが遠のく。


EG6が吸い込まれそうになる。

ブルはギアを叩き落とした。


回転が吠える。


軽い車体が一瞬、影を纏って跳ねる。


——喰い殺す。


距離が戻る。

テールがまた滲む。


R34の運転席の影がバックミラー越しにこちらを睨んだ。


街の光が北浜に差し掛かる。

R34がラインを変える。


北浜のコーナーが口を開く。


潮風が吹き込む。

ブルはハンドルを固く握り直した。


まだ終わらない。


ここからだ。


夜の輪が、牙を刻む。


北浜のカーブに二つの影が吸い込まれる。

環状の奥で、鉄と血の音が鳴った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ