環状を睨む番犬 — 砥石 —
町工場の奥、古びた蛍光灯の下。
古豪は、火の落ちかけた煙草をくゆらせていた。
速さの噂は、すべてここに流れ着く。
親鳥の伝説も、闘犬の始まりも。
そして、この先の結末も。
ブルには、昼も夜もなかった。
昼は工場を探した。
夜は腐った牙を折った。
走るたびに、EG6も、ブル自身も擦り減っていった。
疲弊するたび、焦りだけが残った。
仲間の一人が言った。
「……たまには、流そうぜ。昔みたいにさ。」
張り詰めた空気を、少しでも和らげようとしたのが伝わった。
ブルは頷いた。
その優しさが、痛かった。
市街地を流す夜風。
久々に心を空にしたはずの帰り道だった。
ふと、鼻先に獣の匂いが滲んだ気がした。
目をやると、街灯の奥に、古びた工場があった。
——ここか。
戸を開ける。
古い機械油の匂いが、胸の奥を叩く。
奥に、一台のCR-Xがいた。
低く構えた牙のようだった。
その横に、男が一人。
整備台に腰かけ、火の落ちた煙草を唇に挟んでいた。
振り返らない。
それで十分だった。
ブルは歩み寄り、ポケットからマッチを取り出した。
かすかに手が震えたが、火は静かに灯った。
火をつけると、古豪はわずかに目を伏せて笑った。
言葉はなかった。
何も言わなくても、すべて伝わった。
男の背に、幾つもの環状を渡った匂いが染みついていた。
ブルは分かった。
探していた砥石は、ここにあった。
——この男と、この場所で。
牙を研ぐのは車だけじゃない。
自分自身の奥にこびりついた焦りと苛立ちを、研ぎ澄ます。
潰れた鼻を、指で擦る。
——速さだけじゃねえ。
——総長の残した輪を、まだ腐らせない。
古豪は煙草の先を落とし、黙って頷いた。
環状の番犬が、また一つ、牙を砥いだ




