表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/56

環状を睨む番犬 — 砥石 —


町工場の奥、古びた蛍光灯の下。

古豪は、火の落ちかけた煙草をくゆらせていた。

速さの噂は、すべてここに流れ着く。

親鳥の伝説も、闘犬の始まりも。

そして、この先の結末も。


ブルには、昼も夜もなかった。

昼は工場を探した。

夜は腐った牙を折った。

走るたびに、EG6も、ブル自身も擦り減っていった。

疲弊するたび、焦りだけが残った。


仲間の一人が言った。

「……たまには、流そうぜ。昔みたいにさ。」

張り詰めた空気を、少しでも和らげようとしたのが伝わった。

ブルは頷いた。

その優しさが、痛かった。


市街地を流す夜風。

久々に心を空にしたはずの帰り道だった。

ふと、鼻先に獣の匂いが滲んだ気がした。


目をやると、街灯の奥に、古びた工場があった。


——ここか。


戸を開ける。

古い機械油の匂いが、胸の奥を叩く。

奥に、一台のCR-Xがいた。

低く構えた牙のようだった。


その横に、男が一人。

整備台に腰かけ、火の落ちた煙草を唇に挟んでいた。

振り返らない。

それで十分だった。


ブルは歩み寄り、ポケットからマッチを取り出した。

かすかに手が震えたが、火は静かに灯った。

火をつけると、古豪はわずかに目を伏せて笑った。


言葉はなかった。

何も言わなくても、すべて伝わった。

男の背に、幾つもの環状を渡った匂いが染みついていた。


ブルは分かった。

探していた砥石は、ここにあった。


——この男と、この場所で。

牙を研ぐのは車だけじゃない。

自分自身の奥にこびりついた焦りと苛立ちを、研ぎ澄ます。


潰れた鼻を、指で擦る。


——速さだけじゃねえ。

——総長の残した輪を、まだ腐らせない。


古豪は煙草の先を落とし、黙って頷いた。


環状の番犬が、また一つ、牙を砥いだ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ