環状に鳴く、夜鳥 — 環状に羽ばたく夜鳥 —
蛇が咬んだ。
銀のS14が夜の輪を縫うように滑る。
テールが揺れては鋭く戻る。
ピヨのカプチーノは小さく羽ばたきながら、その背を追った。
排気が吠えるたび、蛇の影が伸び縮みする。
前を塞ぎ、右に振り、左に抜ける。
後ろへ回り込んでは、また鼻先を刺す。
軽いカプチーノは車列の隙間を縫った。
だが、蛇の滑りは異質だった。
鉄の塊が、まるで一枚の鱗のように環状を流れていく。
速い。
うまい。
走り出して間もないピヨでは勝てない。
思った。
ミラーに映る蛇の眼が笑う。
一瞬、ブレーキを踏もうとした足が震えた。
——金を用意して、走らせてもらえばいいか。
一瞬、頭を垂れそうになった。
だが、胸の奥で煙の匂いがした。
親鳥の声が、夜気に混じった。
「男が簡単に頭を下げんな。手ェつくな。プライドを持て。」
胸の奥で、小さな誇りが羽を打つ。
舌の奥で息を吸った。
——もう雛じゃない。
北浜のコーナーが迫った。
蛇がブレーキを滲ませる。
セオリー通りの減速。
カプチーノの鼻先に赤い光が滲む。
——踏むな。
ピヨの足はブレーキを踏まなかった。
小さな心臓が一つ脈を打つ。
ハンドルが夜の路面を撫でた。
タイヤが短く鳴いた。
蛇のテールが視界から外れる。
誇りとプライドで抜けたコーナーの先、
カプチーノは滑らかに羽ばたいた。
蛇の影が小さくなった。
置き去りにした。
ピヨは夜の空気を吸い込んだ。
車列の奥へ奥へ。
重いボディを持つ先輩たちのテールを抜ける。
追いつかれない。
群れの前へ。
環状の輪を、夜鳥が優雅に飛び回る。
速かった。
もう歴戦の猛者にも並ぶ。
羽ばたきの音が夜を切り裂く。
だが、その先に、赤い三角の光が滲んだ。
前方、事故車。
一般車の影。
路肩に膨らんだ鉄の残骸。
ブレーキを蹴る。
間に合わない。
小さなカプチーノ。
軽く、しなやかで、脆い翼。
鉄の影が目前で膨らんだ。
衝撃が、羽根をひしゃげる音を掻き消した。
ピヨの体は小さく、
鉄の箱を飛び出した。
夜の環状に、ちぎれた羽が舞った。
小さな夜鳥は、
鉄の輪の中で、静かに空へ放たれた。
——環状はまだ、小さな鳥を許さなかった。




