環状に鳴く、夜鳥 — 返しの羽音 —
環状を降りた夜の一角。
薄暗い路肩で、仲間のロードスターが止まっていた。
アルトとシルビアが隣に寄せている。
ドアを開け放ったまま、ロードスターの主の頬が赤く腫れていた。
「何があった。」
ピヨが声をかけると、仲間は視線を落とした。
数日前。
外環の深夜。
コンビニを出たロードスターの後ろに、滲むような影が張り付いた。
ミラーに、蛇のように揺れる銀のテールが映った。
銀のS14。
後ろに喰いつくと、左右に蛇行を繰り返した。
少しでも突き放そうとすれば、鼻先を刺してくる。
ラインを潰し、無理に間を割り、すれすれで並びかける。
何度か譲ろうとした。
だがS14は抜かずに、また後ろに戻ってくる。
吐き捨てるような排気がテールを叩く。
ブローオフが嘲笑う。
ロードスターは痺れを切らし、アクセルを踏んだ。
だが一瞬で横を割られた。
鋭い鼻先がかすめ、ロードスターの前に滑り込む。
——急ブレーキ。
踏み込んだ足を一瞬で奪われ、ブレーキを蹴り込むしかなかった。
タイヤが短く泣いた。
路肩に寄せられた。
S14はゆっくり止まり、ドアが開く。
外環を降りた小さな空き地で、背の高い影が現れた。
顔もわからないうちに、胸ぐらを掴まれる。
「邪魔なんだよ。」
吐き捨てる声と同時に、拳が頬を割った。
ロードスターの主は一発で地面に崩れた。
夜の冷たいアスファルトに頬をつけたまま、
聞こえたのはしゃがれた声だった。
「勝手に環状、流してんじゃねえよ。
金用意しろ。わかるな?」
殴った男は笑わなかった。
笑いの代わりに、ロードスターの鍵を蹴り飛ばした。
テールランプが夜気を裂いて遠ざかった。
残ったのは冷えたロードスターと、拳の熱だけだった。
数夜後。
環状を流す群れの最後尾に、ピヨのカプチーノがいた。
前にはアルトとシルビア。
その奥に、頬を腫らしたロードスター。
遠い合流に、一台の影が滲んだ。
蛇のように、細長く揺れる銀のライン。
「……いたな。」
ピヨの声が夜気に沈んだ。
仲間の視線が鏡越しに集まる。
ロードスターの拳がわずかに震えた。
銀のS14が輪に上がってきた。
ブローオフが息を咬み、テールがまた不規則に揺れる。
アルトが小さくラインを譲った。
シルビアが咬みつこうとしたが、銀の鼻先がじわりと噛んだ。
ロードスターの前に滑り込み、テールに滲むブレーキランプ。
まただ。
ロードスターは並びかけるが、すぐに引き裂かれる。
ピヨはブレーキを一つだけ踏んだ。
鏡の奥で、銀の牙が睨んでいた。
「……次は、俺だ。」
カプチーノの小さな羽が、闇で小さく震えた。
銀のS14が、蛇のようにピヨのテールを舐める。
ブローオフが低く笑う。
ピヨはハンドルを切った。
群れが散る。
一つ残った小さな羽が、環状の夜を裂きに行く。
返す。
爪痕を、夜の奥に刻む。
蛇と羽音が、夜の輪を深く潜った。




