環状に鳴く、夜鳥 — 還る群れ —
峠を抜けた夜、ピヨの胸の奥で、微かな羽音が燻っていた。
まだ飛び足りない。
この翼は、ただの峠で終わらせるためのものじゃない。
輪に還るためのものだ。
数日後。
ピヨは夜のコンビニに仲間を呼び集めた。
あの頃と同じ場所。
ただ、そこに集まった影は、誰もが少しだけ背を伸ばしていた。
ローンで買ったロードスターのボディは、夜気を弾いて光っていた。
先輩から譲り受けたシルビアは、擦れた塗装を脱ぎ捨て、別の色で息をしていた。
親父から受け継いだアルトは、後部座席を剥がし、鉄だけの殻に変わっていた。
家族のクルマに、誰よりも軽やかな羽根を宿したかったのだろう。
「……剥がしただけで三十キロだ。」
アルトの主が、缶コーヒーの縁で笑った。
誰もが、あの夜のままじゃない。
プルタブが弾ける音が、夜の輪郭を少しだけ削った。
「……流すか。」
ピヨの声が落ちると、仲間の瞳が細く笑った。
止まっていた羽根が、ゆっくりと開いていく気がした。
夜の環状へ。
鉄の羽音がひとつ、またひとつと重なっていく。
先頭を行くのは、小さなカプチーノ。
背中には、まだ不格好な翼を抱えた仲間たちのテールランプが繋がった。
一周目。
列は遠慮がちに、輪の外側を撫でた。
二周目で、ロードスターが小さく鼻を出す。
アルトの排気が、思いのほか澄んだ声で夜を割った。
誰かが笑った。
シルビアがラインを変え、答えた。
ピヨの胸が熱くなる。
かつて孤独に追いかけたテール。
それが今、並んで走る。
誰の背中も怖くなかった。
誰の影も遠くなかった。
三周目。
カプチーノのアクセルが深く開く。
峠で覚えた羽ばたきが、環状に爪痕を刻む。
ギアが吸い込まれるたび、
小さな車体が夜を滑っていく。
背後でアルトが食らいつく。
軽い鉄殻が、わずかな路面のざらつきを噛むたびに、
ただの家の車じゃない意地を吐き出した。
誰も止まらない。
誰も離れない。
「まだ行ける。」
誰の声でもなかった。
誰の声でもあった。
鉄の群れが、夜の輪を繋ぐ。
まだ若く、まだ拙い羽音。
だが確かに、環状の奥へと続いていった。
街の光が遠ざかる。
ピヨの胸で、羽がもう一度広がる。
——もう雛じゃない。
——まだ飛べる。
群れが笑う。
夜風がそれを包む。
環状に、夜鳥の列が生まれた。
小さな羽根は、まだ夜を切り裂ける。
まだ高く、まだ遠く。
輪は止まらない。




