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第97話 真相(その四)

「じゃあ、次はジャンヌの番だね。ボクに聞きたいことっ!どうしてボクが君に近づいたか――だっけ?」

「ええ」

「最初はね、ちょっとした好奇心だったんだ。亡くなった知り合いに雰囲気が似ていたからっていう、それだけの理由。でも、まさかここまで君を好きになるなんて、ボクも予想外だったよ」

「私のことが好き……?」


 私が眉をひそめると、心外だと言わんばかりにマルグリットは眉を下げた。


「ボクが君を好きってこと、そこは疑わないでよ!」

「私に好意があるのに、セシリアさんと手を組んだの?」

「あっ!それで誤解されているのか!あのね、ボクはあの女には再三言っていたんだよ。ジャンヌには()()手を出すなって!それなのに、あのバカ女ときたら……」


 やれやれと、マルグリットは肩をすくめる。


「終いにはボクが『竜の仮面の魔導士』だと気付かず、手下を使って子供姿のボクを誘拐する始末だったからね」

「セシリアさんは、マルグリットと『竜の仮面の魔導士』が同一人物だと知らなかったの?あの誘拐事件はあなたの意図じゃなかったと?」

「そうだよぉ。あの女が勝手にやったこと。でも、ボクも君がどう動くか興味があったからさ。大人しく捕まっておいたの。ヤバくなれば、転移魔法で逃げれば良いだけの話だしね。でも、おかげで良いものが見れた」


 うっとりとマルグリットは私の方を見つめてきた。


「まさか君が命の危険をかえりみず、ボクを助けにきてくれるなんて。惚れ直すって、こういうことを言うんだね!すごく、すごく嬉しかった!」


 目の前のマルグリットの言動から、彼女がセシリアをよく思っていないことが伺えた。そんなマルグリットがどうしてセシリアに手を貸したのか……。

 そう考えたとき、私の中である可能性が浮かび上がった。


「もしかして、マルグリット。あなた、セシリアさんを()めた……?」


 その言葉を聞いて、マルグリットはパッと顔を輝かす。


「すごいよ、ジャンヌ!そこまで分かるんだ!」


 やはりか……私は唇を噛む。


 今、セシリアには大きく二つの容疑がかかっている。

 街に『魅了の香』を流布(るふ)させた件と、それを使って騎士団を混乱に陥れた件だ。


 騎士団の見解は次の通りだ。

 セシリアが『竜の仮面の魔導士』に洗脳のための魔道具作製を依頼。そうしてできたのが例の『魅了の香』だ。

 その効果を確かめるために、セシリアは魔導士に『魅了の香』を街にバラ撒くよう指示し、その後騎士団の団員たちにソレを使用した――と。


「……セシリアさん自身は、街に『魅了の香』を流したことについて関与を否定しているみたい。けれども、騎士団の方はそれを信じていない。彼女が嘘を吐いていると思っている」

「へぇ」

「でも…ソレについては本当に、セシリアさんは関係ないんじゃないの?」

「うん、その通りだよ」


 あっさりとマルグリットは認めた。


「つまり、関係のない罪までセシリアさんに着せようとしたわけね?でも、彼女があなたに指示したと言う直筆の手紙とか……物的証拠があるみたいだけれど」

「あぁ、アレね」


 ポンと、マルグリットは手のひらを打つ。


「そんなの本人に書かせたよ。あの女が他者を洗脳できたのは、そもそもボクの力。どうして、自分自身は操られないなんて思うんだろうね」

「……なるほど。あなたは、セシリアさんを操って手紙を書かせたんだね。ねぇ、まさか、今回の一連の犯行もあなたが彼女を操ってやらせたの……?」

「あ、それは違うよ。そこはあの女の自由意志。ボクはその背中をちょっと押してあげただけ」

「……」

「本当だよ?あの女は君が憎くて仕方なかったみたい。ボクが手を貸さなくても、君の評判を落とそうとサカキ魔法薬店の商品にイタズラしようとしたり、()()()を君から奪ってやろうとしたり、色々画策していたんだから」


 だから、ボクが手を貸さなくても、そのうち何かやらかしていたよ?

 そう、のたまうマルグリット。


「騎士団は彼女の父親――アランの関与も疑っているけれど。もしかして、それも……」

「うん。そう疑われるようにボクが仕向けた」

「ねぇ。セシリアさんの件もだけれど、どうしてそんなことをしたの?」


 私は尋ねる。

 すると、マルグリットは当然の顔をしてこう言った。


「それはもちろん、君のためだよ」

「えっ…?」


 思いもよらぬマルグリットの言葉に、私は目を瞬かせる。


「セシリアは君を陥れようと画策していたし、アランは君を悩ませる存在だった。君を(わずら)わせる、その両方をいっぺんに失くしてやろうって――そう思ったんだよ」

「そんな……」

「本当はさ。頃合いを見て、ボクがあいつ等の悪事を暴露。用意した証拠が(おおやけ)になるようにするつもりだったんだ。それでアイツらは逮捕!君の前から厄介者がいなくなって、ハッピーエンド――のはずなんだけれど」


 そこまで言って、マルグリットは顔をしかめた。


()()()のせいで予定が狂っちゃったんだよね。まさか洗脳が効かないなんて、ちょっと予想外だったよ」

「あの男って……レオン様のこと?」


 私の問いに、マルグリットは鼻白んだ様子で言う。


「本当に目障りな奴。クローヴィス家の出身で、おまけに()()()()なんて最悪最低。()()()がセシリアに骨抜きにされて、君が幻滅する――そういうシナリオを思い描いていたんだけれどなぁ。中々現実はうまくいかないね」


 マルグリットの言葉からは、レオンへの憎悪の念が感じられた。

 どうして彼女はレオンを憎むのか、それに()()()()って――?

 私は訳が分からなくなる。


「どうしてレオン様を憎むの?そもそも、どうしてこの(オルレア)を混乱させようとするの?」


 私の問いにマルグリットは答える。


「ちょっとした意趣返しだよ」

「意趣返し?」

「クローヴィス家が()()()にやったことに比べれば、本当に小さな復讐さ。ボクとしては、これくらいの退屈しのぎ、甘んじて受けてもらいたいね」

「何を言って……」

「だからね」


 私の言葉を遮ると共に、マルグリットはグッと距離を詰めてきた。

 彼女は私の手を取ると、チュッとそこに唇を落とす。


「大好きな君が()()()のものになるなんて絶対にイヤ。そんなことになったら、ボクは()()()()()()()()()()分からないよ?」

「えっ……」

「そこのところ、よく肝に(めい)じておいてね?」


 にっこりと可愛らしい笑顔を向けるマルグリット。

 そのとき、一陣の風が吹きぬけた。私は思わず、目をつむる。


 目を開けたとき、マルグリットの姿はどこにも見当たらなかった。


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