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第96話 真相(その参)

 顔色が悪いと言われ、あれから私はレオンに(うち)まで送ってもらった。

 レオンはずっと心配してくれていたが、申し訳ないことに私はずっと上の空だった。


 一度思い浮かんだ嫌な考えは、消そうとしても中々消えなかった。それは頭の中をグルグル回り、離れてくれない。

 そんなことあり得ない、考え過ぎだと言う私がいる。

 一方で、可能性はあると――そう思う私もいるのだ。


 後者の考えを否定したくて、私はアレコレ考える。

 考えれば考えるほど、その信憑性が高まってしまうのが皮肉だった。



 やがて、私はある結論に達した。

 信じたくないと目を背けていても仕方ない。真相はどこにあるのか、自らの手で明らかにしよう、と。



 私が街を出てやって来たのは、東の森の中。

 目印となる大きな樹の(うろ)をくぐり、その地面の亀裂から地下洞窟に入る。

 そこに広がっていたのは、相変わらず幻想的な光景だった。


 アカリ草の光を受け、水晶茸がキラキラと煌めいている。

 ここはマルグリットが教えてくれた秘密の場所だ。


 私は洞窟の中を探った。

 探しながら、心の中で必死に願う。


――どうか何も出てきませんように!


 私の考えは、まだまだ仮説の域を出ない。

 ただの私の思い過ごし……その可能性は十分あるのだ。

 だから願い、祈る。

 

――どうか……()()()が犯人じゃありませんようにっ!!



 しかし、その祈りはむなしく――私はある物を見つけてしまった。

 洞窟内の岩と岩の隙間、その中に隠すようにして麻袋が押し込まれている。

 私は恐る恐るその麻袋を開いた。そして、その中から出てきたのは……


「香炉……」


 間違いない。『魅了の香』で使われていた、あの香炉である。


 私はその場にへたり込んでしまう。

 コレが何を意味するかなんて、考えなくても分かった。




 その時、すぐ後ろから声がした。


「ジャンヌ」


 温かい吐息が私の首筋にかかる。小さな手がするりと私の肩に回された。

 ()()は座り込んでしまった私に抱き着き、全身の体重を預けてくる。

 まるで子猫が飼い主に甘えるように、私の顔に頬ずりする()()


 そして、()()は私の手元の香炉を見て、ポツリと呟く。


「あ、それ。見つけちゃったんだ」


 私は半身をひねって、自分に抱き着いている人物を見た。

 ヘーゼル色の大きな瞳と目が合う。


「マルグリット……」


 暗澹(あんたん)とした気持ちの私とは対照的に、その少女は弾んだ目をしていた。まるで、友達と他愛ないイタズラをしているような顔だ。


 そんな彼女に私は聞く。


「君が『竜の仮面の魔導士』なんだね」


 マルグリットの目が弓なりに細められる。

 彼女は言った。


「うん。そうだよ」



 マルグリットはいったん私から身を離すと、私の真正面へやって来た。

 目の前にいるのは何の変哲もない小柄な少女だ。

 竜の仮面も被っていないし、大人の体型も持ち合わせていない。


「その姿は変身薬で?どちらが本当のあなたなの?」

「それは仮面をかぶった方、大人のボクだよ。ご明察通り、この姿は偽りのモノ。変身薬を使って子供の姿をしているんだ」


 その場でクルリとマルグリットが回る。まるで、私に自分の体を見せつけるように。

 これは幻術ではないと、直感的に私は思った。人体の構造そのものが、子供のソレに変えられている。

 やはり、本当の意味での変身薬をマルグリットは作製できるのだ。


「この子供の体はすごく気に入っているんだ。君に警戒されず、甘えられるし……ね!」

「いったい、何の目的で私に近づいたの?何の目的で街に混乱を――」

「アハッ。ボクに質問がいっぱいあるみたいだね」


 無邪気な笑みを浮かべるマルグリット。


「もちろん、それには答えてあげる。でも先にボクに教えて?どうして、ボクが『竜の仮面の魔導士』だって分かったの?」


 可愛らしく首をかしげるマルグリットに、私は淡々と答えた。


「騎士団の元団員が私を人質にとったと偽って、レオン様をおびき寄せた事件。あの事件が成立するには、私が行方不明という前提条件が必要だった。そしてあの時、私を()()に連れ出したのはあなただよ」

「あぁ!そう言えば、そうだね!」


 ポンとマルグリットは手のひらを打つ。


「あとは……」

「まだ、あるの?」

「……耳」

「耳?」

「私が……耳が弱いということ。それを知っているのは『竜の仮面の魔導士』で、あなたは知らないはずでしょう」

「ん?ん~……あっ!アレか。()()()の前でイチャついた時の話か!」


 最初はよく分かっていない様子のマルグリットだったが、心当たりを思い出したのか、クスクスおかしそうに声を立てた。

 私が言ったのは、マルグリットの誘拐事件解決後、レオンの執務室でのことである。「とても怖かった」と彼女は私に甘えてきたのだが……。


「そう言えば、()()()()()耳が弱いね~って息吹きかけたりしたっけ。それは『竜の仮面の魔導士』が知っていることで、子供のボクは知らない情報だったんだね。楽しくて、つい調子に乗っちゃったな。失敗、失敗」


 自分が『竜の仮面の魔導士』だと露見(ろけん)しても、マルグリットには全く慌てたところがなかった。緊張感すらなく、平然としている。


 その様子に私の方が戸惑いを隠せなかった。




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