第96話 真相(その参)
顔色が悪いと言われ、あれから私はレオンに店まで送ってもらった。
レオンはずっと心配してくれていたが、申し訳ないことに私はずっと上の空だった。
一度思い浮かんだ嫌な考えは、消そうとしても中々消えなかった。それは頭の中をグルグル回り、離れてくれない。
そんなことあり得ない、考え過ぎだと言う私がいる。
一方で、可能性はあると――そう思う私もいるのだ。
後者の考えを否定したくて、私はアレコレ考える。
考えれば考えるほど、その信憑性が高まってしまうのが皮肉だった。
やがて、私はある結論に達した。
信じたくないと目を背けていても仕方ない。真相はどこにあるのか、自らの手で明らかにしよう、と。
*
私が街を出てやって来たのは、東の森の中。
目印となる大きな樹の洞をくぐり、その地面の亀裂から地下洞窟に入る。
そこに広がっていたのは、相変わらず幻想的な光景だった。
アカリ草の光を受け、水晶茸がキラキラと煌めいている。
ここはマルグリットが教えてくれた秘密の場所だ。
私は洞窟の中を探った。
探しながら、心の中で必死に願う。
――どうか何も出てきませんように!
私の考えは、まだまだ仮説の域を出ない。
ただの私の思い過ごし……その可能性は十分あるのだ。
だから願い、祈る。
――どうか……あの子が犯人じゃありませんようにっ!!
しかし、その祈りはむなしく――私はある物を見つけてしまった。
洞窟内の岩と岩の隙間、その中に隠すようにして麻袋が押し込まれている。
私は恐る恐るその麻袋を開いた。そして、その中から出てきたのは……
「香炉……」
間違いない。『魅了の香』で使われていた、あの香炉である。
私はその場にへたり込んでしまう。
コレが何を意味するかなんて、考えなくても分かった。
その時、すぐ後ろから声がした。
「ジャンヌ」
温かい吐息が私の首筋にかかる。小さな手がするりと私の肩に回された。
彼女は座り込んでしまった私に抱き着き、全身の体重を預けてくる。
まるで子猫が飼い主に甘えるように、私の顔に頬ずりする彼女。
そして、彼女は私の手元の香炉を見て、ポツリと呟く。
「あ、それ。見つけちゃったんだ」
私は半身をひねって、自分に抱き着いている人物を見た。
ヘーゼル色の大きな瞳と目が合う。
「マルグリット……」
暗澹とした気持ちの私とは対照的に、その少女は弾んだ目をしていた。まるで、友達と他愛ないイタズラをしているような顔だ。
そんな彼女に私は聞く。
「君が『竜の仮面の魔導士』なんだね」
マルグリットの目が弓なりに細められる。
彼女は言った。
「うん。そうだよ」
*
マルグリットはいったん私から身を離すと、私の真正面へやって来た。
目の前にいるのは何の変哲もない小柄な少女だ。
竜の仮面も被っていないし、大人の体型も持ち合わせていない。
「その姿は変身薬で?どちらが本当のあなたなの?」
「それは仮面をかぶった方、大人のボクだよ。ご明察通り、この姿は偽りのモノ。変身薬を使って子供の姿をしているんだ」
その場でクルリとマルグリットが回る。まるで、私に自分の体を見せつけるように。
これは幻術ではないと、直感的に私は思った。人体の構造そのものが、子供のソレに変えられている。
やはり、本当の意味での変身薬をマルグリットは作製できるのだ。
「この子供の体はすごく気に入っているんだ。君に警戒されず、甘えられるし……ね!」
「いったい、何の目的で私に近づいたの?何の目的で街に混乱を――」
「アハッ。ボクに質問がいっぱいあるみたいだね」
無邪気な笑みを浮かべるマルグリット。
「もちろん、それには答えてあげる。でも先にボクに教えて?どうして、ボクが『竜の仮面の魔導士』だって分かったの?」
可愛らしく首をかしげるマルグリットに、私は淡々と答えた。
「騎士団の元団員が私を人質にとったと偽って、レオン様をおびき寄せた事件。あの事件が成立するには、私が行方不明という前提条件が必要だった。そしてあの時、私をココに連れ出したのはあなただよ」
「あぁ!そう言えば、そうだね!」
ポンとマルグリットは手のひらを打つ。
「あとは……」
「まだ、あるの?」
「……耳」
「耳?」
「私が……耳が弱いということ。それを知っているのは『竜の仮面の魔導士』で、あなたは知らないはずでしょう」
「ん?ん~……あっ!アレか。あの男の前でイチャついた時の話か!」
最初はよく分かっていない様子のマルグリットだったが、心当たりを思い出したのか、クスクスおかしそうに声を立てた。
私が言ったのは、マルグリットの誘拐事件解決後、レオンの執務室でのことである。「とても怖かった」と彼女は私に甘えてきたのだが……。
「そう言えば、相変わらず耳が弱いね~って息吹きかけたりしたっけ。それは『竜の仮面の魔導士』が知っていることで、子供のボクは知らない情報だったんだね。楽しくて、つい調子に乗っちゃったな。失敗、失敗」
自分が『竜の仮面の魔導士』だと露見しても、マルグリットには全く慌てたところがなかった。緊張感すらなく、平然としている。
その様子に私の方が戸惑いを隠せなかった。




