第94話 真相(その壱)
マルグリットの誘拐事件から一週間が経った。
その間、オルレア騎士団はセシリアやアランの逮捕と事情聴取、さらにはセシリアに洗脳された団員の治療と――大忙しだったようだ。
レオンがセシリアの下に潜入して、証拠はバッチリ押さえていたため、その後の捜査は概ね順調に進んでいるらしい。
そして、事件のあらましが大体分かったところで、私も騎士団本部に呼ばれたのだった。
参考人として取調室に連れて行かれるかと思ったが、私が通されたのはレオンの執務室だった。
しかも、そこには他の団員がおらず、私とレオンの二人きり。
――き、気まずい……。
マルグリットの誘拐事件の際、レオンにしがみついて大泣きしてしまった失態が頭の中をよぎって、私は俯きがちになる。
そんなこちらの心情を知ってか知らずか、レオンの方はいつもと変わりない様子だ。
主に、マルグリットがさらわれた件について私から当時の状況を聞いた後、レオンは捜査で分かったことを色々と教えてくれた。
『竜の仮面の魔導士』と手を組んで、団員を魅了し、洗脳したことをセシリアは認めた。以前に、団員が私とマリアを襲った件についても、やはり彼女の仕業だったと言う。
事件の動機を聞けば、私に対して強い劣等感と恨みを抱いていたことが一番の原因のようだ。
セシリアは実の両親から異母姉である私と比べ続けられて育ち、ずっと『おちこぼれ』扱いされてきた。
いくら努力しても認めてもらえず、報われなかった、とのこと。
――だから、どんな手段を使っても、あの人に勝ちたかった。勝って、私の方が優れているって認めてもらいたかった。認めて愛してもらいたかった……。
そう、セシリアは供述したという。
おそらく彼女が認められ、愛されたかった対象は、レオンや他の団員たちではない。彼女の両親だろう。
そう思うと、私は切なくなった。
何となく、私には彼女の心情が分かるのだ。
両親の愛情を得るために努力してきたセシリアと、自分を捨てた父親を見返そうと宮廷魔導士を目指していた私。
その根本は同じかもしれない。
レオンにセシリアの年齢を聞けば、十六歳ということだった。
まだ子供といって良い年齢だろう。そして、精神的にも彼女は幼い。
目先の欲に囚われ、『竜の仮面の魔導士』の甘言に乗せられて、自分のしでかしたことが、どのような結果を生むのか。そこまで考えられなかったのだ。
同情の余地はあると思う。
ただ、それを免罪符にするには、セシリアはやらかし過ぎた。
彼女によって、この街の騎士団そのものが瓦解しそうになったのだ。とうてい、許されることではない。
私も理性では、そう分かっているのだが……。
すると、レオンはさらにセシリアについて言及した。
「セシリアには、団員の洗脳事件以外にも新たな容疑が出てきたんだ」
「新たな……ですか?」
「ああ。彼女が潜伏先に使っていた屋敷から色々な証拠が出てきた。その中には、現在街で出回っている『魅了の香』に関連するものまであった」
レオンはセシリアの新たな容疑について、詳しく説明してくれた。
残された証拠から推察するに、どうやらセシリアは『竜の仮面の魔導士』に他人を洗脳する術を開発するように依頼したそうだ。
それで『竜の仮面の魔導士』が『魅了の香』を作製し、その効果を調べるためにオルレアの街にそれをバラ撒いた。『魅了の香』が実用に足ると分かると、セシリアもそれを使い始めた――という流れだ。
少なくとも、騎士団の捜査本部はそう推理していた。
「屋敷から押収した物的証拠の一つに、セシリアが魔導士に送ったと見られる手紙があった。洗脳の魔道具を作り、その効果を街で試すようにと、セシリアが指示したものだ。筆跡はまちがいなく、セシリアのものだった」
「そんな……。セシリアさんは騎士団だけではなく、街の事件にまで関与していたと?」
「そういうことになるぞ。だが……」
「なにか?」
「街で多発した『魅了の香』関連の事件については、セシリアは容疑を否認しているんだ」
自分はその件には全く関与していない。全て『竜の仮面の魔導士』独断での犯行だ――そうセシリアは訴えているらしい。
「騎士団の件は認めているのに、そちらは否認しているのですね」
「ああ。しかし、物的証拠もあるから彼女が嘘を吐いている――それが騎士団の見解だ。これ以上、罪が重くなるのを恐れたのだろう、と」
「……」
「ちなみに、セシリアの父親アランは全ての容疑を否認しているぞ。自分は何ら関係ない。全て娘が一人でやったこと、悪いのは娘だとね」
そうは言うものの、アランも一連の事件に関与していると、騎士団は考えているようだ。
アランは少し前に魔道具販売の事業を始めたが、それが上手くいっていなかった。多くの在庫と多額の負債を抱えていたという。
そんな彼の手元に、最近になって不自然にお金が集まっていたらしい。
『竜の仮面の魔導士』が『魅了の香』を街にバラまいたとき、香炉の見返りに金銭を手にしていたが、ソレがアランの手に渡ったと思われる。
さらに、ウィリアムが監禁されていたのはアランが借りている倉庫だ。
こういう背景からも、アランが今回の事件に全く関与していないとは考えにくい――そうレオンは話した。
「これから、セシリアとアランの余罪を厳しく問い詰めていくことになるだろう。これで一連の事件はひとまず収束すると思う。残念なのは、『竜の仮面の魔導士』の尻尾を掴めなかったことだが……」
「そうですね……」
レオンの話に私は頷いた。
彼が今話してくれた推測は、筋が通っていると思われる。
セシリアやアランは容疑を認めていないと言うが、物的証拠もある以上、言い逃れは難しいはずだ。
一連の事件は、セシリアとアラン、そして『竜の仮面の魔導士』の犯行。このうち主犯二人が逮捕されたことで、一応の解決となるだろう。
事件解決――喜ばしいことのはずだ。
にもかかわらず、私はどうにも引っ掛かりを感じていた。
何かが胸につっかかっている。
――どうしてだろう?私は何かを見落としているのだろうか?
そんな思いが頭の中に浮かんだ。




