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第75話 誕生日プレゼント(前編)

 『眠り姫』の店のオーナーや従業員を取り調べるうちに、例の香炉――『魅了の香』の入手先が判明した。


 私たちの予測通り、それを渡したのは竜の仮面をかぶった魔導士風の人物だったという。

 『眠り姫』の店を開店した当初、経営が上手くいかず、頭を抱えていたオーナーにその魔導士は悪魔のように(ささや)いてきたのだ。


 この香を使えば、いくらでも女から金を引き出せる、と。

 オーナーは、その甘言にまんまと乗ってしまった。



 ただし、『魅了の香』の事件はこれで終わりではなかった。


 なんとコレと似たような事件が街で立て続けに起こり始めたのである。

 腹に一物抱えた者に『竜の仮面の魔導士』が『魅了の香』を渡し、大問題へと発展する。そのようなコトが繰り返されていた。



 『竜の仮面の魔導士』の目的は何なのか。

 かの魔導士は『魅了の香』と引き換えに金銭を要求していたことから、金目的の犯行という見方もあるらしい。


――というような話を、私はウィリアムから聞いていた。



 さて。そんな一連の騒動のおかげで、現在騎士団は大忙しらしい。

 また、『眠り姫』の店では、女性を魅了して洗脳する魔法だったが、続発する事件の中には、男性を魅了するものも多々あった。


 ウィリアムにその話を聞いて、私はハッとする。


「それって、摘発(てきはつ)に行った団員さんが魅了されるっていう可能性も……」

「その通りなんです」


 私の指摘に、ウィリアムは疲れた顔で言った。


「調査に行く団員には、予防用の解毒剤を飲んでおくよう指示していたのですが、それをきちんと守っていなかった者たちが魅了されてしまって……」


 ミイラとりがミイラになるといった具合で、結構大変だったらしい。


「今は解毒剤を飲むこと、または『そよ風の守り』の魔法を使うことを徹底しています」

「『そよ風の守り』……ああ、なるほど」


 私はポンと手のひらを打った。

 一連の事件で問題になっている魅了の魔法は、香りを媒介にして作用するものだ。だから、『そよ風の守り』で外からの空気を遮断すれば問題ないのだろう。


「レオン様の提案なんですよ」


 そうウィリアムが、どこか誇らしげに言った。

 妙案だと、私は頷く。


「まぁ、当のレオン様本人は『そよ風の守り』がなくても、例の魅了の魔法は効かないようですが」

「えっ、そうなんですか?」

「実は……ちょっとしたハプニングで、押収した例の香炉が発動してしまうことがあったんです」


 ウィリアムの話では、偶発的にその事件は起こったらしい。

 押収した香炉から『魅了の香』がたちまち部屋中に広まり、その場にいた男性団員が白魔導士のマリアに魅了されてしまう――という緊急事態が起こった。

 ただ、その中でもレオン一人は平然としていて、冷静にコトの対処に当たったのだと言う。


「おそらく、洗脳や幻術といった人の精神に作用する魔法に対して、レオン様の耐性が常人よりも遥かに高いのでしょう」

「……」


 私は押し黙った。本当に、レオンは人間だろうかと疑いたくなる。

 魔力保有量の大きい人間ほど、魔法耐性が高い傾向にあるのは事実だが、いやはや……そこまでとは。


 『酔竜の果実』では、まるで催眠にかかったような状態になったレオンだが、アレは魔法ではない。そもそも『酔竜の果実』は一般人にとってはただの嗜好品で、催眠効果なんてないのだ。

 アレはおそらく、レオン個人の体質の問題だろう。


 とにもかくにも、改めてレオンがいかに人間離れしているか、分かるエピソードだった。



 とうとう新しい調合室が完成し、私はシモンと共に真新しい設備を検分していた。

 環境が整ったことに加え、今は魔法薬調合に熟達した腕を持つシモンもいる。

 これで生産力は向上し、モルダー薬種屋にも、より多くの商品を(おろ)せるはずだ。


 さっそく、シモンとこの調合室で作製する魔法薬について予定を話していると、「ちょっと良いですか?」とニナが手招きしてきた。


「どうしました?」

「実はルネさんがいらっしゃっていて、ジャンヌさんに用があると……」

「えっ」


 一体何の用だろうか。また、あの『魅了の香』に関連した事だろうか。


「シモンさん、すみませんが少し席を外します」


 私はシモンに軽く断ると、彼は無言のまま頷いた。



 ニナが案内したのか、ルネは店の裏庭のベンチに腰を掛けていた。


「すみません。お忙しいところ」


 彼はぺこりと頭を下げる。


「また、『魅了の香』のことで何かありましたか?」

「いいえ、そうじゃないんです」

「それじゃあ、『竜の仮面の魔導士』のことでしょうか?」

「いや、そうでもなく……」


 なんだか歯切れの悪い言い方をするルネ。そんな彼に対して、ニナが「はっきり言った方がいいですよ」と背中を押す。

 その改まった様子に、私は何を言われるのかと少し緊張した。


 コホン――とルネは咳払いをし、こう切り出した。


「実はもうすぐレオン様のお誕生日なんです」

「……は?」


 何かまた事件が起こったのかと思ったら、レオンの誕生日?

 私は肩透かしを食らった気分になる。


「あ~、えっと……それはおめでたいです……ね?」


 とりあえず、そうとだけ言ってみた。


「誕生日パーティーなどは本人の希望で(もよお)したりしないのですが……」

「はぁ」

「ただ、せっかくのお祝いですし。日頃の感謝を込めて、私たち団員一同で何か贈り物をしようということになりまして」

「皆さん、上司想いですね」


 一見、ルネなどはレオンに迷惑をかけられているばかりかと思っていたが、レオンはちゃんと部下に慕われているようだ。

 しかし、ソレと私に何の関係があるのだろうか。


 そう考えたところで、「あっ」と私は思いついた。


「私もお金をカンパすれば良いですか?」


 これまで私もレオンには世話になっている。特に、ピエトロ商会の一件では感謝してもしきれないような恩を受けた。

 

 まぁ、迷惑もかけられているんだけれど……。

『酔竜の果実』の件や、酔っぱらって無体を働かれたことが自然と思い出される。


 それでも、レオンの誕生日を祝いたい気持ちは私にもあった。喜んでお金をカンパしようと考えたのだが、なぜかルネは微妙な顔をしていた。


「あの……差し出がましいお願いだとは思うのですが……ジャンヌさんがレオン様に()()()()プレゼントをしてくれないでしょうか?」

「え……個人的に?」

「はい!その方が絶対、ぜっっっったいレオン様は喜びますし」

「……」


 喜ぶかどうか問われれば、確かにレオンは喜んでくれるだろう。

 しかし、それは不用意に、レオンに対して気を持たせる行動ではないか?あまり思わせぶりなことはしたくないのだが……。


 そう思って、私は二の足を踏んでいると――


「そう、深く考え込むことないですよ」


 ニナが力説する。


「レオン様には色々と助けていただきましたし、友人に誕生日プレゼントをあげるくらい普通ですよ」

「それはそうですけど……」


 妙に乗り気なルネとニナに気圧されつつ、私は何とも返事ができなかった。




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