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第55話 ヒモ男

 師匠(せんせい)(うち)で居候生活を始めて数日が経った。


 もちろん母は、急に現れた得体の知れぬ男――しかも、その格好は奇天烈だ――に不信感を(あら)わにした。だが、彼がサカキ魔法薬店を開くための資金を譲ってくれた人物だと知ると、その態度はコロリと変わる。さらに、師匠(せんせい)の人柄が分かって、今では歓迎ムードになっていた。

 オルレア騎士団では、虫の居所が悪かったのか何なのか、あのような不遜(ふそん)な態度をとっていた師匠(せんせい)だが、本来は人当たりの良い人物なのである。


 師匠(せんせい)という居候を加えつつ、私は平穏に日々を過ごしていた。

 そんなある日、珍しい組み合わせの人物が店を訪れたのだ。



 やって来たのは、オルレア騎士団の黒魔導士ウィリアムと白魔導士マリアである。聞けば、二人は一緒に来たわけではなく、(うち)へ立ち寄る道中に偶然居合わせたらしい。

 ウィリアムは元々、騎士団に納品する魔法薬について話し合う予定だったが、マリアはプライベートでの来店である。

 いつの間にか、マリアは(うち)の常連客になっていて、化粧水や保湿液などを頻繁に買ってくれていた。


 さて、私がウィリアムと商談しようとしたところ、ひょこりと師匠(せんせい)が店に顔を出した。


「ジャンヌ~」

「……今、仕事中なんですが」


 露骨に嫌な顔をする私だが、それくらいでめげるような男ではない。

 師匠(せんせい)は甘えた声で話しかけてきた。余談だが、いい年した男に猫なで声を出されても、気持ち悪いだけである。


「お小遣いをおくれ」


 そう言って、手を出す。


「またですか」


 私はため息を吐いた。


 師匠(せんせい)はこうして、私にお金をせびりにくる。もっとも昔、彼が私に譲ってくれたお金に比べれば、その金額は微々たるものだ。

 宿代に困るくらい師匠(せんせい)は現在、金欠らしい。だから、彼が居候を始めた当初、全額を今すぐ返すのは無理だが、幾らかあの時のお金を返したい――私はそう申し出た。

 しかし……、


「あの時の金はおぬしにやったものだ」


 師匠(せんせい)は頑として受け取ろうとはしなかった。

 一方で、こうして小遣いをせびってくる。

 師匠(せんせい)の中で、一度あげたものを返してもらうのは良しとせず、小遣いをねだるのは問題ないらしい。よく分からない理屈だった。


 私は財布を取り出して、銀貨を何枚か師匠(せんせい)に握らせる。彼は生粋(きっすい)の酒飲みだから、この小遣いも飲み代に消えるのだろう。


「飲みすぎないで下さいよ」

「うむ。分かった」


 そう言って、師匠(せんせい)はうきうきと店の外に出て行った。

 やっと、邪魔者がいなくなり、私はウィリアムに謝罪する。


「すみません。お待たせしてしまって」

「いいえ。えっと……、それは良いのですが……」


 ウィリアムは心配そうにこちらを伺ってくる。私はどうして彼がそんな顔をするのか、よく分からなかった。

 すると……。


「信じられない」


 マリアが眉間にしわをよせて言った。


「レオン様じゃなくて、あんなヒモ男を選ぶとか趣味が悪すぎる」

「え?ヒモ……って、もしかして師匠(せんせい)のこと?」

「それ以外に誰がいるのよ」

「いや……師匠(せんせい)はヒモ男というわけじゃなく……」


 私がそう言うと、


「まさか、自覚がないの?」


 マリアはギョッとしたように、目を見開いていた。

 一方、ウィリアムもボソリと呟く。


「しっかり者の女性がダメ男に引っ掛かりやすいというのは本当だったんだな」


 もはや、どこから訂正すれば良いか分からず、私は困り果てた。



 ウィリアムから折り入って話したいことがある、そう言われてレオンは首を傾げた。彼とは互いに魔法を教え合うくらい友好的な関係で、こうして改まった態度をとられるのは珍しい。

 いったい何事かと思い、レオンは早速ウィリアムと話をした。


「プライベートなことなので、言おうかどうか迷ったのですが……」


 ウィリアムは言い辛そうにしつつ、先日彼が目にしたサカキ魔法薬店での光景を話した。

 『竜の仮面の魔導士』の嫌疑がかかっていた男が、まるでヒモのようにジャンヌに金をせびっていたこと。そして、それをジャンヌが許していたこと。


「サミュエルという男の容疑は、まだ完全には晴れていません。不法にオルレアの街へ入った可能性も十分考えられますから。そんな男を、ジャンヌさんがその……完全に信じて、面倒を見ているようなので。心配になりまして」

「……」

「もちろん、杞憂(きゆう)の可能性もあります!ジャンヌさんはとてもしっかりした方だから、大丈夫だと思うのですが……でも、賢くて真面目な女性がダメな男に引っ掛かるというのも、たまに耳にする話ですし……」


 レオンは無言のまま、ウィリアムの話を聞いていた。

 その目の奥は暗く、瞳孔が開いている。


 先日のサミュエルの様子が、レオンの頭の中に思い出された。

 サミュエルは最初、素直に取り調べに応じていたが、レオンがクローヴィス侯爵家の子息であることが分かると、途端に態度を硬化させた。

 貴族を嫌う平民が少なからずいることはレオンも知っている。サミュエルもその(たぐい)かもしれなかった。


 レオンへの嫌がらせなのか、サミュエルはことさらジャンヌと()()()()であることを匂わせていた。

 ただ、ジャンヌ自身が、サミュエルとは男女の仲ではない(むね)を口にしていたので、レオンはそれを信じることにしたのだ。

 しかし、ウィリアムの話を聞いて、レオンの中でまた疑念が()く。


 レオンとしては、ジャンヌの言葉を信じたい。そう思うのに、嫌な考えが後から後から頭の中に浮かんできた。

 そしてそれは、現在ジャンヌとサミュエルはひとつ屋根の下にいる――という事実により拍車がかかる。

 レオンの頭の中では、もはや思春期男子並みの想像力が働いていた。


 とにもかくにも、サミュエルが例の『竜の仮面の魔導士』であるかどうか、これをハッキリさせなければならない。

 レオンはそう決意した。




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